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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第7章 宝石商を始めます。(仮)
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新魔法って変な構えだな……

「気になったんだが、夜営地ってそもそも離す必要があったのか?」

 俺の家族は俺以外はみんな女だ。

 夜営地に厳つい男がいたなら理由はわかるけど、俺はこの世界の猛者冒険者に比べるとひょろっとしていて頼りない印象しかない。テイムモンスターの大半は宝箱の中にいたから、周りに嫌がられるケースは少ないと思う。

「えっ? 何を急に……」

 モズラがすぐに反応した。

 エヴァールボが俺の言いたい事を察して確認する。

「つまり、我々に知られたくない後ろ暗い事があの馬車の中にあったのではないか……と?」

「あぁ、端的に言えばそういう事だ。緊急連絡『リアラ宝箱』。リアラとナイラちょっと来てくれ」

 緊急連絡だけだと内部に声を届け、緊急連絡『全員』とすると全員の宝箱から声がスピーカーになって発せられ、一つに絞りたい時は名指しをするように設定をした。

 なお、迷宮都市『アスガディア』の迷宮にいるノルターニの宝箱と炭鉱の町のリオーニスの宝箱は緊急連絡『全員』から除外してある。

「ケーレルは状況が変化したら、逐一報告してくれ」

「わかりました。残り――八〇ですが、殲滅速度が落ち始めました」


「呼びましたか?」

 リアラとナイラが大箱君から出てきた。

「ケーレルを連れて蜂たちのターゲットにならないように裏側に回ってくれ。詳しい話は移動しながらケーレルに……」

 リアラたちの宝箱は夜営地に置いてきたので、連絡手段にはケーレルの宝箱を利用してもらう。

 三人が走り出す。

「さてと、鬼が出るか蛇が出るか……」

「何ですかそれ?」

 モズラの知らない言葉らしい。

「何でもない。気にしないでくれ」


 三人が移動を開始して二分後。

 大箱君からケーレルの声が聞こえる。

『残り――七五でボスが動き出しました』

「緊急連絡『ケーレル宝箱』わかった。様子を見るために少しだけ近づく……」

 モンスターがこちらに流れて、迷惑をかけないように細心の注意を払う。

 俺たちが目撃したのは、馬車を背にして戦う四人の男女。

 もう全面を守る事は諦めたのか、馬を設置する前方のみに絞っている。殲滅速度が減っているものの、モンスターの数が減少していたのは三人が横に並んで真ん中にいる男が槍で一体ずつ突いて倒しているからだ。

 左右の二人が牽制。残り一人が後ろで三人に薬を使っている。

 地面にはすでに二〇近い人が倒れていた。


 この状況でボスの登場か……。マズイな。

「本当に助けなくてもよろしいのですか?」

 モズラが薬を準備していつでも参戦できる態勢を整えた。

「向こうが望んだ事だ。残念だが今の俺たちには何もできない」

「あとで文句を言われてもいいから助けたいニャ!」

「助けてしまうと、今度は俺たちが無法者の()()と同じになる」

 リズは悔しそうに唇を噛む。

 俺たちが助けなければ、あの四人の運命も……。

「今回は我慢してくれ」

 モズラは宝箱に薬を戻す。


『殺した馬をこちら側に輸送していますが、どうしますか?』

 言われて気が付いた。さっき見た木に繋がれていた馬がいない。

「緊急連絡『ケーレル宝箱』見失わないように追ってくれ」

 蜂は餌を巣に持ち帰る習性がある。

 ケーレルを含むあの三人ならどこへだって追えるだろう。

 それにしても馬を丸ごと輸送できるのか……。人間なら楽々運ばれるな。


 蜂の集団が少し割れて、ボスが現れた。

 体長は通常の蜂の二倍。羽音も他より耳障りだ。聞くだけで身震いをしたくなる。

 巨大な針の付いたお尻をクイッと動かすと、残っていた四人に蜂一〇体が同時に針で攻撃した。

 針は馬車に使っている木を簡単に破壊する。避けると馬車が、受けると人が……。

 魔法で射撃するのが一番安全な策のはずだが、すでに〈魔法使い〉は生きていない。

 左右の二人は針を受けるが、すぐに状態異常が解除される。中央の男が槍で叩き、突きを繰り返し二体を倒す。あの男は本当に優秀だ。もっとレベルといい装備があれば単独で無双が出来ていただろう。


 ボスは今の一回で槍の男を仕留めるべき相手と見定めたようだ。

 槍は柄が長いから近接武器というよりも中距離武器に該当する。近づかれると戦い難い。

 左右には蜂を五体ずつ。中央の槍の男にはボスが単身で攻撃を仕掛ける。

 ボスを槍で突いて牽制。終わるとすぐに馬車の下に潜り込んだ。

 馬車の下であれば簡単には蜂も動けまい。ただ男の得物が悪い。同じことに気が付いたのか、近くで倒れていた者の剣を借りて持ち替えた。

 いい判断だけど、モンスターの残りの数が多すぎる。

 さっきまで槍の男の左右で牽制していた二人、薬を使っていた一人は蜂に刺されて負けてしまった。きっと解毒の薬が切れたのだろう。俺の視界で捉えられる生者は馬車の下にいる男ただ一人。 

 よく見るとあの男、首輪をしている。奴隷だったのか!

 主人の命令でここに来ていたようだ。主人の命に逆らう行為になりかねないから、助太刀を拒否してこんな無謀な戦いを……。

 蜂の体格だけなら馬車の下のスペースに潜り込めるが、蜂であるが故に、飛ばなくてはいけない事情がそれを邪魔している。


『巣の位置がわかりました』

 ケーレルの探知機があれば近づいただけで、探さなくてもいいから楽だな。

「緊急連絡『ケーレル宝箱』リアラとナイラはそのまま待機。ヤバそうなら暴れていいぞ。ケーレルは一旦こちらに来てくれ」

 蜂の攻撃で馬車がどんどん破壊され、車輪が二つなくなる。馬車の右側が完全に地面に落ち、片側が下がったために、片側が上がった。

「もう逃げ場がなくなったな……」

 馬車が斜めになった事で、今まで確認できていなかった荷台の中が少しだけ見えるようになる。

 大量の〈毒針〉か……。


「巣の状態はどんな感じだった?」

「巣は崖の中腹にあり、上が燃えて消し炭に、下には戦闘をした形跡がありました。馬車は全部で三台あったようです」

 崖の中腹、上が燃えて消し炭……?

「もしかして巣はあっちの方角になかったか?」

 俺は朝食前にリズと行った森の先を指差した。

「そうです」

 モンスターが出た引き金は俺たちだが、俺たちが攻撃を仕掛けた時にはすでに槍の男の仲間が戦いを挑んだ後だったわけか……。


「〈毒針〉って――やっぱり()()に使われるのか?」

 困った時のモズラ様。

「そうですね。さすがに公にはなっていませんが、使えると思います。遺体には針で刺した傷あとが残る可能性はありますが、職業は〈人殺し〉にはなりませんので……」

 ずっと状況を傍観していたアキリーナが結論を言う。

「今回は見殺しで正解だったと思います。もし彼らを助けていれば入荷した〈毒針〉でより多くの者が亡くなっていました。あの槍の男は主人の命令を逆手にとって、死に場所を選ぶことに成功したんです」

 奴隷は主人の命令に絶対服従だ。人殺しは命令できないかもしれないが、人殺しにならない命令ならできるはず。

 どうしてこんな不備とも言える罠を残したんだよ……。

「あの人たちは悪い人たちだったニャ……?」

「恐らくは……」

 もし彼らが蜂の駆除を目的とする部隊なら俺たちの加勢を拒否する理由がない。プライドで戦って駆除に失敗する方が後々被害が拡大するからだ。

「〈猛毒針〉とか量産されたら、怖すぎるな……」

「〈猛毒針〉を錬金できる人はいないと思います」

 モズラはメイン素材以外が足りない場合でも錬金術が行える。残りの素材を聞いたことがないんだな。

「なら、助かった……」


「戦闘が終了したようです。蜂が引き上げる前に、ここで少し数を減らしておきたいです」

 モンスターの動きに集中していたケーレルから指示が飛ぶ。

 道で夜営していたとは言っても、左右は森だ。

「わかった。行くぞ! 火は禁止だ。ビエリアルは宝箱の中で一〇秒間隔で俺たちの状態をチェックしてくれ」

 時間がおしいため、コクッと頷いたのだけ見届けて走り出す。

 ボスは俺たちの姿を確認すると、後方に下がって様子を見るようだ。


 リズは忠告通り火魔法を温存して、風魔法を中心に戦闘を行っている。

 蜂たちのレベルは七程度で状態異常〈毒〉を中心に能力が出来上がっているため、針にさえ注意すれば俺たちの敵じゃない。

 見えないようにするのはまだだが、コーシェルは飛ぶ斬撃を使えるようになったようだ。

 縦にスパッと斬っている。

「何だか蜂たちが逃げていくぞ?」

 さっきまで全方位を囲まれていたのに、崖の方角の蜂七体を殿(しんがり)のように残しているだけで、あとはスッといなくなった。

「ジャイアントを守る陣形で巣に戻っていくようです」

「悪用されないように〈毒針〉を可能な限り回収しておいてくれ」

「三四本落ちているはずです。馬車の周辺もお願いします」

 ケーレルは俺たちが倒した数を把握していたようだ。

 アンジェから夜営地撤収作業が終わった報告が来たので、合流してもらいこちらの()()作業もお願いした。


 ケーレルの宝箱に移動すると、崖の下側。

 盾に使ったとおぼしき破片の傍らに落ちている車輪が、そこに馬車があった事を寂しげに物語っている。

「巣の中にモンスターはいるのか?」

「成体が一七体。幼虫が三一体。ジャイアントが三体です」

 あれ? 蜂って一つの巣に女王蜂が一体じゃないの?

 ジャイアント=女王蜂って発想が違ったのか?

 まぁいい。どうせ全滅させるなら関係ないか……。


「好きに燃やしていいぞ」

 巣の下で何かを焚いた形跡があるから、煙を吸わせて眠らせる手段とかあったのかな?

「任せるニャ! こんな時の新魔法ニャ!」

 こんな時ってどんな時だよ! いきなり新魔法使うな!

 右手を左手で覆い、右手の人差し指だけを巣に向けている。

 新魔法って変な構えだな……。

 指先から赤い細いラインが伸びた。

 えっ? お嬢さんそれってレーザーってやつじゃないですか?

 存在するかどうかは知らないけど、光魔法に目覚めちゃった?


 みんなで赤いライン(レーザー)を呆然と追う。

 レーザーが巣に触れるとその部分から発火と消火を何度も繰り返し、下から上にゆっくりと縦に分断した。

「思ったようにいかなかったニャ……」

 がっくり肩を落とす。

 いやいやいやいや、こちらサイドは驚きでいっぱいですよ。目指しているポイントがわからない。

 レーザーを撃てて満足しないのは全世界できっとお前だけだ!


「本当はアイーリスの旋風みたいに内側からドカーンッと……。うーん。難しいニャ……」

 なるほど。リズの中では、あのラインに()のエネルギーを流して放射していただけなのか。

 火光線(ひこうせん)は一つの完成形のはずだけど……。

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