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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
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自分たちの判断を信じろ!

「クラリー、疑問だったんだけど、金鉱石ってどうやって取ったんだ? もう一〇部屋ぐらい回ってるけど、一個も出てないし、昨日の探索でも金鉱石は出たって聞いてないぞ?」

 クラリーが思わず笑った。

「私たち家族じゃ難しいですね」

「なるほど。三分経たないと、出ないってことか……」

 俺たちはモズラのレベル上げのついでに一部屋二分程度で鉱石を集めている。

 鉱石はすぐに必要というわけではなく、どうせいくつあってもエヴァールボの鍛冶スキル上げに使う。

 そんなエヴァールボはとうとう念願の鍛冶場を宝箱の中に手に入れた。

 スオレとリオーニスの共同作業で一時間。材料は子供たちが持ってきた〈ハムスターの歯〉と〈魔石〉だ。

 鍛冶を開始すると宝箱の口から黒い煙が出てきて、とても可哀想……。何だか火を吹いたドラゴンみたいな印象。

 内部と外部の空気を交換してくれているから、俺たちが宝箱の中で寝ても酸欠しないで済んでいるんだけど……。


 俺が一六階層でエヴァールボの宝箱に同情していると、ケーレルが大箱君から顔を出した。

「旦那様……」

「どうだった?」

「少し問題が起きそうです……」

 急いで残りのモンスターを片付けて、みんなでケーレルの話を聞く。

「……わかった。無視していいぞ。もう戻ってこい」

「えっ? いいんですか?」

「あぁ。俺たちが町を守っても意味がない。俺たちが動くという事は子供たちが無能である事の証明になってしまうんだ」

 みんなが息を飲むのがわかった。

 俺たちはすでに相手の情報を掴んだ。

 さて、迷宮探索にしか目を向けていない子供たちはどう動く……?


 うーん。調べたい事があるな……。

 二度目の後悔。

 やっぱり迷宮都市に宝箱を設置しておけば良かった。

「ノルターニ、すまないけど迷宮都市まで宝箱を抱えて飛んでくれ。急ぎ確かめたい事がある。着いたら二一階層だ」

「わかりました」

 人気のないところまで移動するためにペコペコに乗って行くようだ。〈脱出アイテム〉を使って離脱した。

「ここで嬉しいお知らせをします!」

 ウーリーが沈んだ空気を戻そうと宣言する。

「なんだ?」

「この子は何でしょうか?」

 手に小さなテイムモンスターを持っていた。

「えっ? ミニ宝箱……? 何で?」

 ウーリーの宝箱から一、二、三、……合計八体も?

「今日の二一階層の探索を終えると、宝箱の中にミニ宝箱が生まれていたんですよ」

 カンガルーがポケットの中で子育てするように、宝箱は宝箱の中で子育てしていた?

 だから、宝箱に仕舞っていたテイムモンスターに経験値が入ったのか!

「そして今回生まれた宝箱は、モズラさんが二体、フローラさん、リアラさん、スオレ、リオーニス、ケーレル、ノルターニです」

「なんだそれ――何か共通点があるのか……?」

「夫婦になっていて、宝箱の中に子育てするテイムモンスターが入っていないと妊娠して子育てするのではないでしょうか?」

 なるほど。アンジェのはテイムモンスターが入っていなかったけど、夫婦にしていなかったから生まれていないのか……。


「あれ? でも、宝箱に宝箱が入ってる事になるよな?」

 親子だからか? 宝箱はウーリーの宝箱から出てきたぞ?

「そう、そこ何ですよね……」

 ウーリーも疑問に思っていたらしい。

「もしかしてギラーフ用の宝箱って他の宝箱に入りませんか?」

 モズラがスッと前に出す。

「ギラーフ用のって他のと何か違うのか?」

「中に何も物を入れてないんです」

 試してみたけど、残念ながら入らなかった。

「それなら()()で何も入っていなければ入るんじゃないですか?」

 一度ギラーフ用の宝箱と夫婦を切って試すと入る。

 宝箱界で復縁する時は半月待たないと結べない意味不明な規則があった。


 俺がリズの宝箱の中にアイーリスの宝箱を入れようと試した時は宝箱の中に人形が入っていた。

 だから入らなかったのか……。

 袋に袋が入らないようにそういう物かと思い込んでいたな。

 夫婦の方は連結したままでは行き先に矛盾が生じるから入れる事ができないのだろう。

 徐々に宝箱の謎が解明されてきたな。

「現状では宝箱をこれ以上増やす予定はない。妊娠は停止にしておいてくれ」

「少女たちにプレゼントしなくていいんですか?」

「宝箱があると便利なのはわかるけど、余計な面倒事を増やすことになりかねない」

「わかりました」

 そのうちミニ宝箱の里親を考えるか……。


 モズラのレベルを一三まで上げて、探索を終わらせた。

 飛ぶと炭鉱の町から迷宮都市まで三時間で着くようだ。

 さすがに直線距離だと早いが、初の長時間のフライトでグッタリしている。

「ありがとう。宝箱は二一階層(ここ)に置いて、家で休んでてくれ」

 俺はコートを着て、迷宮都市の子供たちに気が付かれないように行動する。


 夜中。クラリーの実家三階。

 ケーレルの懸念が現実になり、厄介事が舞い込んできた。

 カンカンカンカーンッと、緊急事態を報せる音が町に響く。

「いよいよか……。ケーレル、敵の位置はわかるか?」

「はい、捕捉できています」

「そうか、わかった。コーシェルはビエリアルを護衛して、怪我人を探してくれ。決して余計な事はするなよ。子供たちに任せるんだ」

「心配しなくても大丈夫ですよ」

 コーシェルたちが部屋を出ていくと、すぐに少女たちが部屋の外から声をかけてくる。

「起きていますか?」

 たった今コーシェルたちが出ていったのを見ているんだから形式的な呼びかけだろう。

「起きてる。開けていいぞ」

 俺たちは二〇畳ぐらいの部屋に胡座(あぐら)で座っている。


 少女たちが部屋に入ってくると、正座してミーちゃんが代表で話しかけてきた。

「緊急事態です。どうしたらいいですか?」

「それは自分たちで考えろ。俺たちは明日にでもここを離れるかもしれないんだ。もう君たちは力のない貧民街の子供たちじゃない」

 不安そうにクラリーの方を見るが、クラリーも彼女たちの成長のために無言で力強く頷く。

「今回だけは、怪我人の面倒を見る。あとは自分たちの判断を信じろ!」

「はい!」

 少女たちは一礼して出ていった。


 足音が遠ざかったのを確認するとエヴァールボがプッと笑う。

「結局『自分たちの判断を信じろ!』って背中を押すんですね……」

「リアラたちに初めて〈オークの肉〉を取りに行かせた日を思い出すな……。正直に言うと不安で仕方ない」

「そうだったんですか?」

「そわそわ落ち着きがなかったニャ! 今みたいだニャ……」


C地点(リアラさんの宝箱)付近に人が接近中。数は二です」

「ちょっと見てくる」

「旦那様だけズルくないですか?」

「クラリーに見せたら絶対に助太刀に行くだろ? みんなでお互いを見張っていろよ!」

 俺は大箱君から入ってリアラの宝箱へ。

『箱入りリズ』スタイル。


 宝箱は暗くなってから見つかりにくいポイントに置いて回った。今回はそのうちのC地点。

 迷宮都市へ行く出入口のちょうど対角線側。迷宮付近にある元衛兵たちの詰所地点。

 俺は夜目が利くため、暗闇でもハッキリ見える。

 不審者は二人であっていたようだ……。

 一人は詰所の扉を開けようとして苦戦している。

 その間にもう一人が周辺をキョロキョロ見渡して、人が来ないかチェックをしていた。

 ごめんな。錠を破壊して鉛鉱石で作った輪を付けておいたんだよ……。

 扉からの侵入を諦めて、今度は窓から入る事にしたらしい。最初から窓にしなかったのは割った時に音が出るからだろう。


 窓に手をかけた男の左肩に弓矢が刺さる。

 相変わらずの腕前。三〇メートルは離れているのに、的に当ててきた。

 まだ子供たちの詰所の準備が進んでいないため、仮住まいは町の中央にある宿屋のはずだが、よく詰所の守備に弓の子を送ったな……。

「クソッ! もう駆け付けてきたのか」

 もう一人の男が武器を構えて、周囲を警戒するが、残念だ。向いてる向きが違う。

 左足のふくらはぎとお尻に一本ずつ矢が刺さった。

 夜の弓矢ってどこから飛んで来ているのかわからなくて怖いな。

 男二人は仲良く〈マヒ〉の状態異常で倒れた。

 きちんと矢じりに毒を塗っていたようだ。末恐ろしい。


 俺は一度家に戻る。

「C地点はあっさり弓の子が制圧したぞ」

「コーシェルさんから連絡があって、門番さんが刺されたとかで、クラリーさんが走って行っちゃいました」

「何のために、みんなに見張らせてたんだよ……」

「そう言うと思いまして、クラリーさんには武器を没収した上で、アキリーナさんを監視役で付けました」

 ケーレルが申し訳なさそうに言った。

「なら、いいか……」

 融通が利かない(アキリーナ)が一緒なら大丈夫だろう。

「メインのA地点(モズラさんの宝箱)に一〇名と、注意を引き付けている間のD地点(クラリーさんの宝箱)に四名とどちらを見ますか?」

「D地点って確か長の家の近くだろ?」

 いきなり王手に出たか。

「D地点の命運が俺たちの今後を左右しそうだな……」

 俺はD地点を目指す。

 顔を出すとすぐに理解した。

 ここは見る(心配する)必要がない。

 二刀流の子がゴーレムと一緒に守っている。

 囲んでいる男たちも二刀流の子を視認して、攻めあぐねていた。


 一度大箱君を経由する。

「D地点は二刀流だった。A地点に行ってくる」

 昼間の感じから言って、みんなも夜襲を仕掛けている四人組に同情しているようだ。

 A地点。丘への道。

 普段あまり人の出入りが多くないため警備が手薄と読んでいた。入口が二ヶ所でどちらから攻めたいか聞かれたらやっぱりこちらからだよな……。


 少女たちもここに集結したようだが、九人がバラバラに行動する勇気まではなかったようだ。

「これは迷宮都市に送って心身ともに鍛えてもらうしかないな……」

 一〇パーティーぐらいあるなら余裕で少女たちを別々の班にできるだろ。軍師君なら言わなくてもそれぐらいできるな。

 ミーちゃんが長剣で鉄の斧を受けようとしたが、ガラス装備って鉄装備を豆腐のように斬れるんだよ……。

 もしかしたらエヴァールボの作品だからかもしれないけど……。

 斧が上半分からスパッとなくなって、お互いビックリして止まった。

「対人戦はまだ早すぎたな……。止まっている今がチャンスだろ。ほら行け」

 心の中で念じた。ペコペコゴー!

 すると、俺の気持ちが届いたのか、横から鉄の鎧に右足でキック。男はサッカーボールのように転がっていった。

 対人戦は無力化できるなら無力化を一番に考えた方がいいんだ。

 青田みたいに人を殺して精神崩壊しない奴の方が珍しい。

 ミーちゃんは武器を取り上げて、岩スライム(ノーマル)を男の上に乗せて一息()いた。

 本当は戦闘の最中に気を抜いちゃいけないんだが、今回は防衛戦に参加している人数が多いからな……。

「ご苦労様」


 子供たちは鉄の武器で手や足に傷をつけて、動けないようにしていくだけだ。

 二刀流の子がみんなをビエリアル(病院)送りにしても嫌われていなかったのは、対人戦を想定した特訓が必要だと判断しているからだな。

 俺が知らなかっただけで迷宮内で絡まれていたのか?


 そこからはあっという間だった。

 俺は家に戻る。

「ケーレルどうだ?」

「探知機に反応している敵は全て片付いたようです」

「わかった。俺は長の家に行ってくる。先に寝てていいぞ」

 こんな時でもキーリアは宝箱菜園へ。モズラは壁にもたれて創製術をしていた。お前ら本当にマイペースだな……。

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