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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
139/171

模擬戦……?

 翌朝。朝食の後に今日の予定を決める。

 ビエリアルのレベルが上がって、もう少しで〈かしこさ〉の数値が転職前の状態に追い付く。

 スキルLvの恩恵で転職前よりも回復力が高いのは知っていたけど、本人の安全面を考えるとどうしてもHPやMPが低いうちは踏み出す勇気がなかった。

「一度、二一階層をチェックしてみるか……」

「迷宮都市の二一階層よりも強そうニャ!」

 一六階層を進んで順番に探索を進めて行きたいが、目的の大半がレベル上げだ。

 家族の顔を見るとやっと楽しめる階層にワクワクが隠せていない。少し不安そうな顔をしているのはクラリー班の五人。彼女たちは結局炭鉱の町にいて二一階層に抱くイメージが逃げ帰った時から更新されていない。〈黒い角〉の所持数で俺たちが二一階層で暴れていた事は予想できても心配なのだろう。


 二一階層ロビー。

 毎日エヴァールボがメンテナンスをしてくれているからガラス装備の状態はいいようだ。

「五分で戻ってこなかったら、みんな死んだと思ってくれ」

 ミーちゃんたちが絶句した。俺たちと行動を共にした事があるため実力はある程度知っている。

 そして俺はこの手の冗談は言わない。

「実は二一階層からは急にモンスターの強さが跳ね上がるんだ」

 俺たちは別に鉱石を集めに来たわけじゃない。装備もガラス装備があれば充分だ。でも、二一階層以降を歩ける方がレベルの上がりが早い。

「氷狼は何体で行きますか?」

「そうだな……。最初だから一〇体で行こう」

 犬の国の『迷宮化』規模の戦力だ。昨日五個だけだが〈人形の心〉を追加できた。

 もし、ここで回収できなくなっても大丈夫だろう。

「わかりました」

 少女たちは狼ちゃんを見慣れていたけど、初めて見る氷狼には二歩下がった。

 一〇体も並ぶと壮観だ。また一回り大きくなったかな?

「大岩さんは――銀鉱石で行こう」

「金鉱石があと五個ありますよ?」

「んじゃ金鉱石で行こうか……」

 クラリーから金鉱石をもらって食べさせる。


 二一階層。

[岩石ゴリラ]、[岩(つぼみ)]、[岩提灯(ちょうちん)]、[岩オニギリ]、[火達磨]

 岩石ゴリラは岩を両手で持ち上げているゴリラだ。投擲して来るんだろうな……。

 岩蕾は赤い花びらに白い斑点が付いていて、膨らんで(しぼ)むたびに紫色の息を吐き出している。毒だな……。岩成分が見えないから、蕾の中に岩があるんだろう。

 岩提灯は江戸時代の提灯のようだ。棒の先に石の燈籠(とうろう)が付いている。うっすら火の光が見えているから燃えているのだろう。誰も持っていないのに浮いている。石の燈籠がないバージョンもいるが、そっちは棒の先に火があって、火の玉と間違えていないだろうか?

 岩オニギリは石のご飯で出来ている三角形のオニギリだ。転がって移動をしているが、よくわからん。

 なるほど。火達磨は二一階層のモンスターだったから、鋼を溶かせたけど、ガラスは無理だったんだな……。

 火のモンスターだけで同時に二種類もいる。

「リズ魔法【台風】ニャ!」

 そのフレーズを気に入ったのかな?

 リズの手からどんどん風が吹き出し、反時計回りに巨大な渦を作り上げていく。

 アイーリスには吸い込まれないように宝箱を背負わせて床に体育座りをさせている。それでも浮き上がるようなら他の手を考えるつもりだったが、どうやら大丈夫なようだ。

 リズが魔法を放ち終えても、風の勢いは収まる事はなく、そのまま台風は続く。


 俺は火達磨用に魔石を投げた。

 それを見たエヴァールボがすぐに溜め息を吐く。

「火を吸収させないといけないのに、風魔法を吸収してますけど……」

 四個目を投げようとして、魔石の投入タイミングを間違えていた事に気が付いた。

 投げた魔石は放物線を描いて台風の中へ……。

 風を吸収したが、魔石はさらに吸収しようとするようだ。その結果許容量をオーバーして、爆発という形で破裂する。

 三回音が響いたから、俺が投げた魔石は全部火達磨とは無縁のタイミングで無駄に終わった。

 爆発の影響で風の流れは乱れ始めたが、さすがリズの台風……。

「これでは氷狼でも近づけませんね……」

 っとのんきに構えていると、台風の中から岩石が飛んできた。

「岩石ゴリラすげぇーな……」

 パンダ様が〈鉛竹槍〉で斜め斬りで粉砕する。

 バッティングフォームを崩してまで防いでくれた。

「パンダ様、ありがとう」

 贅沢を言えば、綺麗に弾き返せる素材ならカウンターになったのに……。

「反撃をするため、大岩さんに行ってもらうべきか悩むな……」

 台風の中でも大岩さんなら動ける気がするが、初見でする行為なのか……。

 リズは取り合えず宝箱の中に避難している。


「もうすぐ台風が消えます」

 フローラの呼びかけでみんなに緊張が走った。

 一分ちょっと続いた台風。果たして、何体が生き残っているか……。

 提灯以外は全員吹き飛ばされずに耐えていた。

 さすが二一階層。

 提灯は飛んでいたため、破壊できたようだ。

 俺はスオレたちに魔石を渡して火達磨に向かって投げさせた。

 ここでもやっぱり()()に無効化できる。

「フローラ、蕾に浄化だ!」

「はい!」

 氷狼はゴリラと二対一で対峙。


「妖精魔法【旋風】にゃん!」

 オニギリを内部から風で破壊。ご飯つぶという名の石つぶてが飛んでくる。

「アイーリスのせいなのか、オニギリの攻撃なのか、判断ができない……」

 ジーッとアイーリスの方を見ると、丁度、静かに宝箱に逃げ込むところだった。『箱入りリズ』スタイルで顔だけ出して反省しているようだ。

「では、掃討戦に行きましょう」

 アンジェ、コーシェル、アキリーナのトリオが出発するタイミングで掃討戦を開始。

 実質オニギリしか残っていない。

 そのオニギリもガラス装備の前では為す術なし!


「あれ? 思ったよりも簡単だったな……」

「迷宮都市の二一階層で一日過ごしてますからね……。それに土モンスターは風魔法に弱いので、リズさんの台風でHPが大幅に削れていたのでしょう」

 逆に言うと、弱点の中級三段合成で生き残る強敵なのか……。

 フローラは浄化で活躍できる階層は好きらしい。饒舌で嬉しそうだ。


 クラリーには、すぐに少女たちを呼びに行かせる。

「戦い方は参考にはならないと思うけど、最低でもミニたちを全部クラスアップさせるぞ!」

 俺たちの今の目標は少女たちのテイムモンスターを役に立つレベルまで底上げすること。

「連戦すると魔石の減りが早そうだな……」

 一戦目で八個も使ってしまった。

「それでは石柱君の槍の登場ですね!」

 ウーリーが嬉しそうだ。前回の火達磨戦では鋼の槍が全部溶けたらしいからな……。

「頼むぞ」


「魔石一〇〇個よりもガラス鉱石一個の方が高いって気が付いてないですよね?」

 エヴァールボの苦情が耳に届いた。

 ガラス鉱石がたくさん余ってるからつい……。

「ダメだった?」

「いいですよ。火達磨戦を想定して全部をガラス製にしたんですから……。それじゃなかったら貫通している間にどんどん柄が燃えて短くなります」

 俺とウーリーは顔を見合わせる。

 こんな意味不明な武器を作った真意はそれだったのか! 二人で納得。

「石柱君の槍が成功したら、今度は全部ガラスの矢を作りますかね」

「どうしてだ?」

「少女たちじゃ槍は投げられませんから……。それに必ず魔石が手元にあるとは限りませんので……」

 本当にエヴァールボはよく考えている……。


 そのあとはリズの台風。

 石柱君の投擲。

 フローラの浄化。

 氷狼二体でゴリラ一体を討伐。

 オニギリの微塵斬り。

 と流れ作業で戦いを行っていく。


 毎回戦っている人が同じ過ぎて、今日の探索は午前中だけで終了にする。少女たちはオニギリしか倒していないのに、一六階層とは比べ物にならないレベルアップをし、テイムモンスターたちはきちんとクラスアップを遂げた。

 モズラは今回の探索で〈錬金術師〉の中級職〈創製術士〉の切符を掴んだ。



 迷宮から出るとウーリーが声をかけてくる。

「町の入口の方が騒がしいです」

 事件の可能性があるため、衛兵も出動しているようだ。入口を開ける人が三人しかいなく、少し開いたスペースにパンダ様が指を入れ片手でヒョイッと扉を引いて手伝っていた。

 騒ぎになっていたのは、どうやらコーシェルが呼んだ貧民街の子供たちの到着のせいだ。テイムモンスターを大量に輸送したため馬車が五台。

 子供たちは二〇人かな……?

 弓の子と二刀流の子はいるけど、軍師君はいない。居残り組なのか?

「コーシェル――聞いていいか? どうして怪我人ばかりなんだ……?」

 子供たちの八割近くが包帯をしている。

「骨折者や重傷者を中心に選んでおきました」

 あぁ、そうか。ビエリアルの回復が目当てだ。

 迷宮都市にいた頃は子供たちに無料診療所を開いていたから、その日のうちに治っていたけど、向こうはそんなことになっていたのか……。

 ビエリアルがさっそく子供たちに駆け寄り順番に回復させていく。

 往復で三日かけても、ビエリアルに回復してもらう方が治りが早い。


 弓の子が集団の中から俺の姿を見つけてビエリアルと入れ違いで走ってきた。

「入場料を貸してくれませんか?」

「足りなかったのかよ……」

 俺は騒ぎを聞き付けてやってきた長に話して、入場料の免除をお願いする。

「そんなガキ共の入場料を免除するぐらいなら、俺たちの給料を上げてくれや!」

 俺のせいで仕事が重労働になった迷宮都市の衛兵が我慢の限界を迎えたようだ。

「あの人たち態度が悪いですし、この子供たちに代わりに警備を頼みましょうか?」

 俺は衛兵を無視して長に大きな声で話しかける。

「こんな子供に警備ができるわけがないだろ!」

 いい感じに沸騰してきたな。ビエリアルが魔法をかけたとは言え、見た目は子供で包帯の怪我人だ。

「町を守るなら、強い方がいいですよね?」

 俺のこの『強い』という言葉が引き金になり、入口広場で子供たちと迷宮都市の衛兵との模擬戦が行われる事になった。


 黒い壁を開けるために残っていた衛兵が急いで呼ばれる。こういう事には興味のないアキリーナにゴーレム先生を預けて扉の開閉を任せた。

「俺たちが勝ったら、テイムモンスターをもらうぞ」

「それで大丈夫です。もしそちらが負けたら、契約終了という事で、穏便に迷宮都市に帰ってもらえますか?」

「フン! いいだろう」

 長と住民が見守る中、口約束とは言え、大勢が耳にした。

 負けるとは思っていない衛兵たちは嬉しそうだ。

「勝手に話を進めてすみません」

「町の警備は強い方が良いが……。大丈夫なのか?」

 長が不安になって子供たちを見渡す。

「大丈夫じゃないですか?」


 九回勝負。

 先に五勝した方が勝ち。

 武器は鉄装備を使用。

 殺したら負け。骨折までは有効。


 子供たちは前衛陣の中で、くじ引きをする。

 なぜ強い順に九人を選んでくれなかったのか……。

 負けたら俺の立場がないんだぞ……。


 毎日毎日モンスター相手に朝から晩まで死闘を繰り返してきた子供たちに、のうのうと衛兵をしてきた大人が勝てるわけもなく……。

 あっさり五勝先取。

 秒殺過ぎて、コメントがない。

 クラリーのお母さんが長の隣にいた俺に声をかけてくる。

「こんなに強い子供たちに警備をさせていいのかい?」

 実力があるなら何事にも縛られることなく自由な生活をしていた方がずっといい。わざわざ力ある者を雇い縛り付けるためにはそれ相応の資金がいる。

「一番の実力者はメンバーに選ばれず、馬車の横で一人鉛製の重たい刀でトレーニングしてますけどね……」

 絶対に選ばれると思っていたから安心してたのに、くじ引きでハズレを引いた時はさすがに焦った。

 彼の振っている〈無刃刀〉はエヴァールボの宝箱に保管されていたはずだけど、コーシェルが迷宮都市に行った時にでも置いてきたのかな?


 衛兵たちはテンプレ好きなのか、負けて文句を言うと、一人離れていた二刀流の男の子に斬りかかった。

 何でこの人たち衛兵を首にならないんだろう。

 治安がいいのは衛兵のおかげじゃなくて、法のおかげだったんだな……。

「ここへ来る日の朝に一一階層の一部屋を一人で片付けたらしいですよ……。本当に馬鹿ですよね? 衛兵を殺さないように()()()ハズレくじを引かせたのに……。あー、無駄になっちゃった……」

 俺たちと別れた二日後ぐらい? 一人で一部屋って化け物かよ!

 二刀流が模擬戦のメンバーに選ばれなかったのは弓の子が仕組んだ事だったようだ。

 衛兵の鉄の剣を鉛の刀で受けて、腰に差していた短刀で右の二の腕をボキッと折った。さらに追撃で左太股に鉛の刀を食らわす。

 あいつ――容赦ないな。戦闘狂になったのか……。

「まさかと思うけど、怪我人が多かったのって……」

「彼と模擬戦を行ったからですよ。手加減って言葉を知らないようで、困りましたね」

 子供たちの中にとんでもない怪物が眠っていたようだ。将来青田みたいに〈殺人鬼〉になったらどうしよう。そうなったら俺たちが責任を持って討伐隊を編成しなくては……。

 二人目は脇腹を、三人目は左右の腕を。四人目、五人目は襲うのをやめ、三人を連れて町から逃げていった。他の衛兵たちも後に続く……。


 二刀流の子は何事もなかったように鉛の刀を振るトレーニングに戻った。第一印象が怖すぎる。

「彼も警備に参加するのかね?」

 長の視線の先には二刀流の子。

「その予定ですが――何か問題はありますか?」

 問題だらけのようにも思えるが……。

「いや、あれだけ強いと早死にしなければいいなと思いましてね……」

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