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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
137/171

俺たちの三〇分の苦労が、わずか二秒!

 岩スライムをテイムした後。

「お昼にしよう。きっとアンジェのことだ、俺たちの分は誰かの宝箱に入れてくれているだろう」

 調べるとリズの宝箱の中に入っていた。

 俺の宝箱は行き来のため、キーリアのは植物が入っているため、ウーリーのはテイムモンスターの宿舎のため、アイーリスのは亀たちが入っているため、時間停止が解除されている。

「アンジェも私を選ぶとは見る目があるニャ~」

 なぜか選ばれてご満悦なリズ……。しっぽがフリフリ動いている。

 まるで『どう? この人望』って主張している気がした。

 人選の理由は墓場まで持っていこう。


 リズの宝箱からテーブルと椅子を出して準備する。

「食事の前に植物にスキルを使ってきますので、先に食べててください」

「私も用事を……」

 キーリアとウーリーがそれぞれ宝箱に入っていく。

「魔法使いをテイムしてくれたおかげで、バラバラにニャっていても魔石に魔力を補充できて楽だニャ」

 各色をテイムした結果、特にいらないかなとも思ったが、エヴァールボは武器のメンテナンス(鍛冶)で火を使うので魔法使い(火)、ミーナは〈踊り子〉のオルゴールの風魔石の補充に魔法使い(風)、アンジェは料理に使う水のために魔法使い(水)と意外と需要があった。

 今さらだけど魔法使い(土)をキーリアに移動したかったりする。


 お昼のスープを一口飲んだアイーリスが絶賛。

「さすがアンジェさんにゃん! (ぬる)めになっているにゃん!」

 どうやら一度加熱した後にわざわざ冷ましてくれたようだ。

「ニャ! 私にはそんな事をしてくれた事がないニャ……」

「いつもリズのは先に()いで、温度が下がるように工夫はしてくれていたぞ?」

「確かにニャ……」

「他にもリアラとナイラのは肉多めにしていたりと、お昼のスープは結構気を遣っているようだぞ……。これ以上負担をかけるな……」

 今は少女たちも一緒だから、三〇人規模の食事を用意しているはずだ。これが迷宮都市なら下準備を子供たちに手伝わせる事もできただろうが、ここにはいない。

 朝と夜は自分たちで食べたい物を好きなだけ取って食べるセルフサービス方式を採用していたりするが、お昼はいつもみんな共通の野菜スープが中心になっている。

「……はいニャ」

 ノータイムで器から飲んでいるアイーリスが気になるのか、チラチラッと見ながら、大人しく『ふーふー』しながら飲んでいる。

 猫舌が頑張って対抗している姿はとても微笑ましい。

「食べた事がない肉が入ってるぞ……?」

 肉の縁の部分が少しジャリジャリ食感のある肉だ。

 砂抜きが足りなかったシジミを思い出す。

「きっと一六階層の〈石オークの肉〉ニャ」

「そんなのいたか?」

 ミーちゃんの蘇生で頭がいっぱいだったな……。

「いたニャ。そう言えばご主人様は迷宮都市の『迷宮化』の予兆をどうやって判断したニャ?」

「え? 〈オークの肉〉の味で……。なるほど。さすがリズだ。目の付け所が違うな!」

 あとでクラリー班に確認だ。


 キーリアとウーリーが戻ってきてスープを飲み終わると探索を開始する。

 この昼休みの間に俺の期待通りの状況になったようだ。

 一四階層の初物は[石風鈴]

[石ザル]、[岩スライム]、[石サクランボ]、[石人形]、[石風鈴]

 天井から円周一メートル、高さ二メートル程度の石の風鈴が垂れ下がっている。風のない迷宮内で……風鈴?

「念のため風魔法はなしで行こう……」

 妖精さんが『あの人、私の姿が見えているのに、存在意義を否定してない?』みたいな抗議の視線を向けてくる。

 妖精の怒りで風が起こり、風鈴が揺れた。

 チリリーンチリリーン♪

 音を聴いて、みんな戦いながらも周囲を警戒する。

「……何も起きないニャ?」

「今までの感じから言って、絶対に何かあると思うんだけど……」

 特に理解できないまま、天井にぶら下がっているだけで、一切攻撃をしてこない風鈴を最後に残しながら、モンスターの数が少ない事をいいことにサクサク進む。

 五部屋ほど進んだ辺りでアイーリスはお昼寝タイムに入り宝箱へ。


 風魔法を使って風鈴の音色がなっても状態異常になっている気がしない。実際に鑑定で見てもなっていない。

「……ご主人様」

「なんだ……?」

「あの風鈴の意味が全くわからないニャ……。逆に奇妙だニャ」

「それは俺も思ってた」

 二人で天井を見上げて話し合う。

 三分待っても何も起こらない。

「いくら考えてもわからん……」

 ウーリーも見上げて話に参加する。

「倒せば鉱石を落としますからモンスターなのは確定なんですが、不思議ですよね?」

 俺には鑑定があるから最初からモンスターなのはわかっていた。

「強くもない。きちんと鉛鉱石を残す。攻撃をしてこない」

 ボーナスステージなのか?

「時間がかかりそうなら菜園に行ってきてもいいですか?」

「あぁ、いいぞ。五分ぐらい時間をくれ」


 キーリアはさっそく宝箱の中に入ろうとすると……。

「入れません……」

 三人同時にキーリアの方を向く。

「えっ? そんな事、今まであったか?」

「……まさか風鈴の特殊効果で、この部屋に閉じ込められたかニャ?」

「ちょっとその風鈴を倒さないで隣の部屋に移動してみるぞ?」

「はいニャ」

 俺が隣の部屋に行こうとすると、見えない何かに阻まれた。出れない。

「閉じ込めで正解っぽいな……」

 ここまで来るのに、全部のモンスターを綺麗に倒しながら移動してきた俺たちには絶対に引っ掛からないトラップ……。

「こんなの倒せばいいだけニャ」

 モヤモヤが晴れてスッキリしたリズが中級火魔法で天井と接続している糸を燃やし、風鈴を床に落として割った。

「無事宝箱に入れるようになりました」

「なるほど。倒すまで出られないのか……」

 俺たちは〈魔法使い〉がいるから遠距離攻撃があるけど、なければ難易度が跳ね上がる。

「次の部屋に行ったら、キーリアは風鈴がなる前なら宝箱に入れるかチェックしてみてくれ」

「わかりました」

 結果は風鈴がなる前なら普通に外部に移動ができた。


「んじゃもう一つ実験をするか……」

 風鈴を一体だけ残してウーリーだけで〈脱出アイテム〉を使ってみる。

 作動するまで一分かかるので暇だ。

「もし入口に飛んだら、二一階層にでも宝箱を置いて、戻ってこいよ」

「わかりました」

 最低限の温情なのか〈脱出アイテム〉は使用できた。


 風鈴を倒すと、すぐに俺の大箱君からウーリーが顔を出す。

「戻りました。大箱君の部屋への移動も出来なかったので、このモンスターを使うと誰かを閉じ込める事が出来るかもしれませんね……」

 脱出条件が術者の破壊なら、爆弾サボテン並みに扱いが難しい。それに迷宮全体ではなく一室だ。


〈脱出アイテム〉を持ってない、遠距離攻撃手段がないパーティーは飢え死に確定か……?

 違う意味で危険なモンスターだ。


 解析が終わったので、一五階層へ。

 一五階層の初物は[石チーズ]

[岩スライム]、[石サクランボ]、[石人形]、[石風鈴]、[石チーズ]

 五〇センチサイズのネズミが一メートルサイズのナチュラルチーズに二体群がっている。

 ネズミもでかければ、チーズもでかい……。

 ネズミばかりに目が向くがこのモンスター。メインはチーズ側だ。

 凄い速度でチーズが減っていき……。

 モンスター名が[石ネズミ]に変わる。

 一体が二体になるゴブリンライダーと同じパターンか。

「ジュルリ……」

 俺のパーティーには猫がいた。

「それを食べたらリズと縁を切ろうかな」

「ニャ!」

 正直ネズミは太って鈍足だったため弱い。

 二体でレベルを半分ずつにしているのか、レベルが七と八だ。

 ちなみにドロップはレベルの高い八の方を倒すと出る。

「これなら一五階層は脅威じゃないな……」

「あのチーズを食べてみたいニャ……」

「開幕一〇秒で食べ尽くされるアレか?」

 一応モンスター扱いなのに、一度も倒せていない石チーズ。

 俺以外はあれがモンスターだとはわかっていないと思う。


 チーズを残すために鑑定を使って初めてわかった事は、あのチーズは経験値で出来ている。

 チーズを食べている最中にネズミのレベルがどんどん上がり、食べ終わると七と八になるという仕組み。

「石柱君に指示を出して、開幕で槍を投げて、チーズを残す努力をしてくれ」

「わかりました」

 一体だけ倒して、残りのチーズをもう一体が独占するとレベルが三と一二と片寄る……。

 一二のネズミは普通に動けるので、下手に片方を倒してしまうとモンスターが強くなる事がわかった。

「これはチーズを残したボーナスが期待できるな!」

「ちょっと楽しくなってきたニャ!」

 ネズミの一体は必ずチーズの裏側にいる。見えているネズミを倒してから、裏側のネズミごとチーズを倒すと何もドロップしない。

「速度重視で移動して、チーズを防衛できないと、戦闘終了までキープできないな……」

 思っていた以上にチーズ残しの難易度が高い。


 それから三〇分。ボス部屋を発見してもチーズ残しだけは成功しなかった。

「諦めるか……」

 俺たちでチーズ残しができないなら、他のパーティーでは絶対に不可能だ。

「あと一回。あと一回だけチャンスが欲しいニャ……」

「なら、こっそりリアラを呼んでこい」

 氷結魔法があればできる気がする。


 到着したリアラに事情を説明すると呆れられた。

「何をしているのかと思えば……」

 でも、文句を言いながらも、リアラは俺たちに職人芸を見せつける。

 前の部屋から魔力を練り上げ、先頭で部屋に入ると、チーズを囲むだけの氷壁を被せた。

 あれはご飯にハエが寄らないようにする蝿帳(はえちょう)だ!

「すげぇー」

 ネズミは上からの氷にビックリしていたようだが、あっさり後ろに飛んで避ける。

 ネズミを倒すことが目的じゃないから、それで充分。

「俺たちの三〇分の苦労が、わずか二秒!」

「あとは確実に倒すだけニャ!」 

 キーリアもどうなるかは知りたいようだったが、これでやっと終われると安堵の吐息。


 他のモンスターを倒し終え、チーズ残しに成功した。

「さてと、このまま倒していいのか?」

「あと一分半で三分が経つニャ!」

 どうせなら時間変化を見ることにする。

「気のせいかな……」

 二分を経過した辺りから青い線がチーズに出始めた。熟成されて、青カビが発生?

 チーズは時間経過でブルーチーズに変化……?

 鼻を塞いで文句を言う。

「なんだか臭いニャ……」

 せっかく頑張ったのに、報酬はブルーチーズの香り……。

「せっかくだから一口だけ食べてみないか?」

「遠慮するニャ……」

 俺も正直……。


 ウーリーの後ろからレベル九のミニ岩スライムたちが飛び出してきた。さっき妊娠してもう生まれたらしい。

「食べていいか? って聞いてますけど……」

「いいぞ……」

「ゴー!」

 さすがスライム種、子沢山だ。八体でムシャムシャブルーチーズを食べてレベルをどんどん上げていく。

 寝るとレベルが上がるメイドもいれば、食べる事で経験値になるモンスターもいるんだな……。

 食べ終わるとミニ岩スライムたちはレベルが一二になった。

 熟成されて、チーズの総経験値が増えたようだ……。


 帰宅後、解析した内容をすぐに冒険者ギルドで公開した。

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