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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
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茶番劇

 ビエリアルの前には三〇秒おきに十字架のエフェクトが出ている。

 一つはミーちゃんを蘇生した人用。もう一つはテイムモンスター用。一分の再使用時間を待てなくて二つ? 三つ? いやいや四つ同時に上げている。

 俺たち家族にはもう見慣れた光景。そう、スキル上げの鬼がまた現れた。

 キーリアは今日も暇を見つけてはミントの畑で大忙しだ。宝箱菜園様々。

〈農婦〉の植物成長促進スキルは三時間間隔でしか使っても効果がないらしいが、スキルを使うと一日分の成長を一〇分で行えるらしい。こちらもよくある早送り再生のように植物が一気に大きくなっていく。

 今はギリギリでキーリアの植物の成長速度の方が勝っているため大丈夫だが、もしこれがひっくり返る日が来たら薬の使用制限がかかるだろう。


 ビエリアルが中級職になってわかった事は中級回復魔法を使用した回数は蓄積されていたということ。

 一回使ってレベルアップ。一回使ってレベルアップ。

 ビエリアルの中級回復魔法はすでにスキルLvが四。リズもモズラも慌てて中級魔法(スキル)を使用している。


 午後から時間が出来たので、みんなで炭鉱の町の迷宮探索へ。

 迷宮前に全面黒の大きな箱が出来たので、入場のたびに迷宮都市から来た衛兵が五人係で扉を開けていた。

 きっと壁が出来た一番の被害者は彼らだ。

 テイムモンスターさえ持っていれば、楽ができたのに……。

 この衛兵たち、今日まで会ったことがなかったけど、どこにいたんだろう。

「んーーーーーー!」

 っとアイーリスが一人で扉を開けようと頑張るが……。

 開かなかった。

 もともと猫族は後衛職なので、筋力はそこまで高くない。

 オブジェの横で嬉しそうに同じポーズをとって充分に注目を浴びたのに、これ以上目立って欲しくなかったので、一安心。

 ただ……。

 少し歩いて絶対に外には声が聞こえないところまで来ると耳打ちをしてくる……。

「本当はあの扉開けられるにゃん」

 えっ?

「パパの顔が『開かないでくれ』って願ってたから開けなかったにゃん」

 アイーリスが左肩に目配せすると、肩に座っている妖精が人差し指をクルクル回す。風の渦が発生してアイーリスの腕に巻き付いた。

「きっとこれならパパを持ち上げられるにゃん」

 単なるズルじゃねーか!

 これぞ、他力本願。


「一四、一五階層のモンスターを確認して、冒険者ギルドに攻略方法を公開しようと思う」

 俺たちは前回の探索で、一三階層の〈人形の心〉をドロップさせるところまで進んだが、子供たちの食糧事情から、探索を途中で切り上げた。

 冒険者ギルドには一三階層以降は危険とアナウンスが流れており、特に鉛鉱石は重すぎて需要が少ないため、探索は行われていないようだ。


 ミーちゃんの〈鋼の軽装鎧〉は火達磨の火炎で溶けたが、〈ガラスの長剣〉は普通に溶けずに残っていた。

 公開する目的には、鋼装備では戦えないモンスターが溢れ出してしまった場合に、ガラス装備の集団を増やす意味でもある。

「『迷宮化』をしたために迷宮都市よりも難易度が高いですからね……」

 フローラが即座に賛成した。

 他の者も特に異論はないようだ。


 一一階層からしゃべりながら進んでいく。

[石アップル]、[石蜘蛛]、[石ザル]、[石クラゲ]、[岩スライム]

 コーシェルは宝箱を経由して昼前にもう一度戻ってきていた。現在宝箱はペコペコに背負わせて二体で仲良く帰宅中だとか……。そういう移動方法もありなんだ……。

 人が乗っていない方が軽いもんね……。決してコーシェルが重いと言いたいわけではない。

「お前たちは少女たちが一緒でも容赦なく、モンスターを片付けていくのな……」

 氷狼や合成魔法を使ってはいないが、普通にモンスターの取り合いだ。

 テイムモンスターは必要ないと言わんばかりに宝箱以外は誰も出ていない。

「すまないんだけど、少女たちにも戦闘経験を積ませないか?」

 さすが一六階層でレベル上げをしたというだけあって、レベルだけならもう二二を超えている。

 犬の国のギラーフ並みのレベルだ。

 しかし、とても同格とは思えない。

「いえ、あの……私たちはドロップ拾い係でもいいですよ」

 そんなんじゃガラス装備が泣くぞ……。下積み期間が短すぎてガラス装備の入手難易度がわかっていないんだ……。

 どうせずっとガラス鉱石がドロップする一六階層でしか戦闘してないんだろ?

「クラリー、指揮を任せる。いつもの一四人で戦っていいぞ」

「それでは私はお昼でも作ってますね」

 アンジェは手が空いたためマイペースに後方で料理を始めた。

 いい匂いが迷宮の部屋を支配する。緊張感が全くない。

「それって事前に作れないのか?」

 未だに現地で料理をしていたが、宝箱の登場で迷宮の探索方法がかなり変わった。調理器具を持ち込んでまでここで料理を作るメリットがわからない。

「できますけど……。いい匂いで食欲が刺激されませんか?」

 気が付いていなかったんじゃなくて、そっちの狙いだったのか……。

「それに時間が停止しているとは言っても、作れる時間があるなら、その場で作りたいですね。今度、時間がない時に提供する用を作って宝箱に入れておきます」

 アンジェにはアンジェの考え方があったのに、余計な口出しをしてしまったな。


 少女たちが戦っている中、後ろでは暇人たちが二〇人ほど時間の潰し方に悩んでいる。

「コーシェル、何か少女たちにアドバイスとかはないのか?」

「自己流ですからね……。剣の振り方なら逆に習いたいぐらいです」

 それを習うためにギラーフは修行中なのか……。

「進行方向とは違う部屋で戦闘訓練をしてきます」

「んじゃ私は逆の部屋で中級魔法を無駄撃ちしてくるニャ……」

 まとまりが本当にない……。

 フローラが同情するような目を向けてきた。

「参りましたね……」

「ごめん。人数を減らして一四階層と一五階層を見てくるから、その間に他の人は一六階層に行っててくれ……。少女たちの指揮はクラリー。家族の指揮はフローラに任せる。一七階層に進んでてもいいぞ」

「わかりました」

 一六階層でも暇だろうが、このままじゃ何もしないで歩いて終わる人が多数でる。

 戦力が大きすぎるというのも困りものだ……。


 一四階層と一五階層の探索組は、俺、リズ、アイーリス、キーリア、ウーリー。

 テイムモンスターを出せば戦えるだろう。無理なら宝箱で援軍を呼べばいい。

 石柱君を右手で掲げて宣言する。

「ガラスの槍! 初お披露目ですよ!」

「あ、ウーリーは石柱君禁止ね」

「そんな……」

 床に手を付くほどのショックだったようだ。

 ガックリ項垂れている。

「ウーリーさんが涙を流しているにゃん。一戦だけ槍を使う機会をあげて欲しいにゃん」

「アイーリスちゃん……」

 二人でわざとらしく目をウルウルさせて見てくる。

 リズも楽しそうだと判断したのか、横に並んで参加した。

「まだ続きそうなら一度菜園に行ってきますけど……」

『終わったら呼んでくださいね』っと言った感じでキーリアが茶番劇をバッサリ切り捨てる。

 迷宮探索のせいでミントの収穫量が減れば、それはビエリアルのスキル上げに繋がり、回り回って家族の危険に直結。

「いや、すぐ終わる。一戦だけでいいなら石柱君を使用してもいいぞ」

「ありがとうございます」

 本当に嬉しそうだ……。


 石柱君がガラスの槍を投げると、今まではモンスターに刺さって止まっていたのに、普通に二体を貫通してそのまま飛んでいく。

 これが鋼からガラスに変更した威力の違いか……。恐ろしいな。

「使いどころが難しくなりました……」

 ウーリーも同じ事に気が付いたか……。

 迷宮内しか想定していなければ、槍が落ちる位置は壁の位置でいいけど、外で使って貫通されると、極端な話どこまでも飛んでいく。パンダ様のホームランと一緒だ。

 その上、ガラス鉱石が余っていたからだろう。ご丁寧に()の部分もガラスにしたせいで全部が透明だ。これでは『なくしてください』と言っているようなもの……。

「課題が早く見つかって良かったです」

 前向きだな……。

 俺なんて、ホームランボールを拾うのを諦めてたぞ……。


 次の団体戦から石柱君を封印。

 一二階層。

[石蜘蛛]、[石ザル]、[石クラゲ]、[岩スライム]、[石サクランボ]

「ダブルか。これの倒し方も公開必須だよな……」

「ダブルって何にゃん?」

「このサクランボの片方だけを破壊すると、すぐに再生しちゃうんだよ」

「なら、同時に倒せばいいにゃん! 妖精魔法【旋風】かける二にゃん」

『かける二』って言っちゃった!

 妖精が左右の手で一つずつカマイタチよりも小さい風を二つ同時に作って発射。

 サクランボの実を内部から破壊して、見事初見で倒す。

「負けられないニャ! リズ魔法【台風】」

 雑!

 中級の風魔法三段合成。

 あれ? でも、これって確か……。

 アイーリスは魔法の発生ポイントの近くにいなかったのに、体重が軽すぎて台風の中心に引き寄せられて宙に浮いて叫ぶ。

「吸い込まれるにゃ~~~~~~~~ん」

 空中で器用に平泳ぎをしている。

 怪我をされても困るので、急いで手を握った。

「助かったにゃん……」

 お前ら……、真面目に戦えよ!


 キーリアとウーリーはアイーリスが飛ばされるのを目撃したのは二回目なのか、溜め息を吐いている。

 お前らも意外と振り回されているんだな……。ごめん。

「ママの今日の魚は抜きにゃん!」

「そんニャ~」

 今度はリズが床に手を付いた。

 ウーリーがこちらをチラッと見てくるので、アゴで『さっき助けられたんだから参加してこい』っと指示を出した。

 二人で目をウルウルさせてアイーリスに許しを乞う。

「次やったら許さないにゃん!」

 腕を組んで怒っている。


 モンスターが弱いとは言え、これは人選を間違えたな……。


 その後は黙々と探索を続けていく。

 一三階層に来たけど、階段のある方角しかわかっていない……。

 ケーレルをこちらの班に呼びたいが、少女たちの前で転移をしているところを見られたくないので、このまま続行。

[石ザル]、[石クラゲ]、[岩スライム]、[石サクランボ]、[石人形]

「ここで人形か……」

 普通に倒すと、三分もかからないため安心安全。

「これのどこが難易度高いにゃん?」

 アイーリスって妊娠前の記憶とかって注がれてないのか……? 英才教育は謎しかない。


「一度五体ぐらい残してキメラを作ろう」

 アイーリスに見せるために、みんなで残り五体のモンスターを倒さないように逃げ回ってやっと三分が経つ。

 逃げる際にアイーリスは俺が背負っていたので、後半の一分は楽しそうだったけど、俺は逃げるのに必死だった。

「モンスターがくっついて大きくなったにゃん!」

「あれを倒すと〈人形の心〉が手に入るんだぞ」

「妖精魔法【カマイタチ】にゃん!」

 背負われた体勢のまま妖精魔法を使う。

 色々な角度から風の刃が人形を攻撃し、ズバズバ剣で斬ったような傷を残す。一発……。

 キメラを作る方が何倍も苦労した。

 みんなも同じ事を思ったのだろう。苦笑いだ。

 しかし、アイーリスだけは()()を倒せたので大喜び。

 俺たちはどこか不完全燃焼のまま先に進む。


「岩スライムが光ってる。テイムしておくか……」

 正直、岩小僧は大人になればジャイアント化する希望があるからいいが、そこまで岩スライムは求めていない。

「動かないモンスターなら倒しちゃいけないのを覚えていられるけど、動かれると難しいにゃん……」

 えっ?

 アイーリスがコップに入ったボールの位置をあてるゲームをしているように頭をかかえた。

「アイーリスは岩スライム以外を殲滅してくれ!」

「それならわかりやすいにゃん!」

 意外なところに落とし穴があったな。

 妖精は倒しちゃいけない岩スライムを目で追って把握しているようだから、もしアイーリスが指示をミスしても止めてくれるよね?

 アイーリスのお願いが絶対か? 試すのは怖いのでもちろん試さない。


【称号:スライムの大親友(衝撃耐性(大))を取得しました】

・岩スライム(♀/普通/一〇)

 とりあえず岩スライムの主人はウーリーにし、急いで耳打ちをしておく。

「また何か企んでいるニャ……。ご主人様の顔が嬉しそうニャ」

 リズには考えている事が筒抜けか……。

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