表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
134/171

でどじででどっだじゃん

 炭鉱の町に帰宅すると昼時を過ぎていた。

 ペコペコから降りて、入口でリクソンさんにあいさつをする。

「ご苦労様です」

「ご苦労様にゃん」

 アイーリスは右手をあげてアピールをした。

「小さいのに、えらいね」

 身元がはっきりしているので、大したチェックも受けずに素通りする。短時間の外出は入場料が取られないようだ。

 昨日の町への進入は緊急事態のため、もちろん免除されている。入場料は町の復興資金にあてられるそうなので、俺たちも払っていいとは思っていたのだが、未だに徴収される気配がない……。

 アイーリスはリクソンさんに言われた『えらい』という魔法の言葉にご満悦。しっぽが嬉しさで元気よく動き、俺の足をペチペチ叩く。お前はリズか!


 俺とアイーリスは歩きながら、迷宮都市を出る前に大人買いをした〈肉の串焼き〉を食べている。

「一仕事した後の〈肉の串焼き〉はやっぱり美味しいにゃん」

 この〇歳児は、どこの中年親父だ……。

 送迎してくれたペコペコたちとテイムしたばかりのペコペコにも与えて早くも五本を消費してしまった。

 大箱君には現在お金と薬とドロップ品と〈肉の串焼き〉しか入っていない。時間停止モードの箱だ。

 別に寝泊まりはリズの宝箱でしているし、アイーリスの宝箱もある……。だから特別入れる物がない。


「パパ……。もう一本食べたいにゃん」

「朝御飯はおにぎりしか食べてなかったからな。ちょっと待ってろ。今出す……」

 俺は背負っている大箱君を降ろそうとする。

「自分で取れるから大丈夫にゃん」

 ペコペコの背をトントン叩いて、しゃがませると、背中によじ登った。そのままバランスを保って器用に立ち、大箱君に手を入れて〈肉の串焼き〉を一本取り出す。

「えっ? 今どうやった……?」

「でどじででどっだじゃん」

「口に物を入れてしゃべるな!」

「手を入れて取ったにゃん」

 それは後ろを振り返って、この目で見ていた。俺が言いたいのはリズの宝箱をチェックした時には確かに物を取り出せなかったということ。

「アイーリスの宝箱を貸してくれ」

「はいにゃん」

 ベタベタな手で宝箱を両手で持って突き出してきた。両手を使う時でも〈肉の串焼き〉は掴んで離さない。きちんと右手にある……。


 中をチェックする前に可哀想な宝箱の側面を拭いてから手を入れた。

――――――――――

・ご主人様人形(六代目)

・リズ人形(一代目)

・パンダ様

・岩小僧

・亀君

・亀さん

・ペコペコの卵

・石コロ

・木の枝

・ペコペコの羽根

・薬

・お金

――――――――――

 あれ? 普通に――使える。

 素質が『良い』だから?

 他の人が勝手に使えたらセキュリティー的には良くないよな……。

「仲良くなったから使えるにゃん」

「仲良くなった?」

 アイーリスの宝箱との接点なんて戦闘しかないぞ?

 仲が良いで説明できないよ?

 側面を拭いたから?


 急いでクラリーの実家に向かう。

 驚くべき事に家がもうほぼ出来上がっていた。

「「あと二時間で完成しますから、もう少し外出しててください」」

 えっ? 家って八時間で完成するの?

「ちょっと宝箱を借りるぞ」

「「はい」」

 スオレの宝箱に手を入れる。

 すぐに底にぶつかり使えなかった。やっぱり素質じゃないか?

「宝箱のチェックですか?」

「コーシェルか。さっきアイーリスの宝箱が使えてな……」

「私のも試してみますか?」

 素質『普通』をもう一個試しても……。

 でも、せっかくコーシェルが差し出してくれたから手を入れてみる。

――――――――――

・ご主人様人形

・ガラスの刀

・丸ガラスの盾

・髪の毛

・ゴーレムちゃん

・薬

・お金

――――――――――

 あ、ギラーフの髪の毛だ……。

 違う。そこじゃなかった。

 あれ? なんでスオレのは使えなかったのに、コーシェルのは使えたんだ? どういう事?

 友好度……? 親密度……? 一緒に戦うとレベルみたいに本当に上がるのか?


 確かスオレは……宝箱をテイムした翌日に、炭鉱の町にガラス鉱石を取りに行かせて……、トンボ返りでまた炭鉱の町に行ったから……。

 朝方の火達磨戦やビエリアルのレベル上げぐらいしか一緒に戦っていないのか?


 俺はクラリーの実家の前で相談相手を考える。

「やはりテイムモンスター関連はウーリーだよな……。帰宅待ちか……」

「ウーリーなら、石柱君の槍の補充にエヴァールボさんのところに行ってるはずですよ」

 そういえば、クラリーが火達磨戦で全て焼失させたって謝ってたな……。

「ちょっと行ってくる」

 町の中の移動だけなので、ペコペコたちはアイーリスの宝箱の中に入れた。


 歩き出してから気が付いたけど、実はエヴァールボの師匠の鍛冶場の場所を知らない……。

 あと二時間は外出命令が出ている。

「その辺りを散策でもするか?」

「するにゃん!」

 アイーリスと手を繋いで歩き出した。


 今朝モンスターに襲われたばかりの町なのに、もう色んなところで建築作業が進んでいる。

 中には全身鋼装備を着た若者が材料を運んで手伝っている姿まであった。似合わない……。

 その若者がドワーフのおじさんに怒られている。

「昨日逃げた分、きちんと働けよ。出禁にするぞ!」

「やっと鋼装備になったんですから。勘弁してくださいよ」

 鉱石を持ち込んでオーダーメイドで鋼装備を作ってもらったのかな? 恩返しに手伝っているのか?

 ミーちゃんの鎧の溶け具合を見たけど、鋼装備じゃ火達磨には勝てないわ……。最初から逃げた可能性もあるけど、若者の状況判断が正しい。

 それにモンスターが出たら馬車に乗って逃げた奴もいるのに、復興を手伝っている人がいるんだから、この町は大丈夫だな。


「パパは手伝わないにゃん?」

「俺は戦う方が専門だからな……」

「ママが言ってたにゃん。ボスの鳥をソロで倒したって……。パパはすごいにゃん」

 えーっと……。どうしよう。尊敬が失墜しそうな誤解をされていらっしゃる。

 リズ~~~~~~。

「アイーリス……。実はソロで戦ったのはゴーレム先生なんだ」

「そうだろうと思ってたにゃん」

「えっ?」

「パパは指揮をしている方が性に合ってるにゃん」

「確かにな……」


「あ、ウーリーさんがいたにゃん」

 入口すぐの迷宮へのメインストリートを歩いていると発見した。

「ウーリー」

「あ、旦那様。急用は終わったんですか?」

「あぁ。ペコペコの有精卵を一三個も入荷したぞ」

「私の仕事が……」

 ウーリーがおでこに手を当てて、わざとらしくふらつく。

「ウーリーさんが楽しそうにゃん」

「急ぎでペコペコ隊を増やしたいんですね。宝箱の宿舎を拡張になくてはいけません! これから帰って大忙しです」

「忙しいところ悪いんだけど、宝箱の件で少しいいか?」

「はい」


 最近できたらしい〈野菜スープ〉の出店でスープを飲みながら話をする。

 迷宮都市から出店した系列だから味は同じ。

 ただし、材料を運ぶ送料が代金に上乗せされて、迷宮都市の三倍で一杯三〇モールだ。

「話って何ですか?」

 以前は使えなかったのに、他の人の宝箱が使えるようになった事を説明する。

「なるほど。親密度ですか……。聞いたこともない考え方をしますね。つまりテイムモンスターが心を開いたから、使える機能が拡張されたっと?」

「そういうことになる」

「私たちの家族は違いますが、一般的にはテイムモンスターは戦うための()()という認識です」

「迷宮都市の子供たちがそんな感じだな」

「そうですね。ですので、主人以外の命令を聞くことはまずありえません」

「えっ? いつもみんなきちんと動いてくれるぞ?」

「本来その時点で変なんですけどね。旦那様は知らないかもしれませんが、頻繁に主人を変更するとテイムモンスターに悪いとされています」

「そうなのか?」

「主人が代わる一番の代表が売られるケースですから……」

 俺はウーリーの手にある石柱君を見る。

「石柱君をクラリーのテイムモンスターにして、また私のテイムモンスターに戻して影響がでないのは、旦那様が言っている親密度なのかもしれませんね。その結果が他の人でも扱う事ができた。宝箱も同じです」

 ウーリーは楽しそうな顔をした。

「ちょっと試してみますか?」

「ここでか?」

「はい。すぐに終わります。旦那様の大箱君が♂、私のが♀でしたよね?」

「あぁ、そうだ。なぜかジャイアント以外は♀だった」

「そうだったんですか?」

「言ってなかったか?」

「聞いてなかったです。とりあえず試してみますね」

 ウーリーが大箱君と宝箱を並べて、呪文のように唱え出した。

「君たちは夫婦です。これから家族を作っていいですよ」

 突然の事すぎて意味がわからない。

 アイーリスは急に興味が出たのか、しっぽを振って楽しそうだ。

「これで妊娠許可が出ました。そのうち妊娠して子供が生まれてくるかもしれません」

 さすが〈配合師〉だな……。

 気のせいか、宝箱同士がコツンッとぶつかった気がする。

「相性がいいかもしれませんね。帰ってペコペコ隊の妊娠も促さないといけませんので、続きは夕食の時に……」

「あぁ、すまん」

 ウーリーは残りのスープを一気に飲み干してクラリーの実家に引き上げていった。

「俺たちも飲んだら帰るか?」

「どうせあと二時間は暇にゃん?」


 アイーリスが猫舌すぎて、のんびり一〇分ほどかかってスープを飲んでいると、ウーリーが走って戻ってくる。

「急用です! 急いで……人気のない場所へ……」

 三人で走って迷宮の二一階層に来た。

「先程、宝箱を夫婦にしましたよね?」

「あぁ、したな」

 本当にできたのかは知らないけど……。

「旦那様は大箱君に入ってください」

「えーっと……」

〈肉の串焼き〉が冷めるから嫌ですとは言えない空気。

 仕方ない。入るか……。

「私も行くにゃん!」

 二人で大箱君に入った。

〈肉の串焼き〉が白い台の上に山積みになっている。

「大箱君には初めて入ったな……」

「すごいにゃん。大箱君には扉があるにゃん!」

「扉……? まさかジャイアントだから部屋が二倍だった?」


 ノブ付きの扉に近付いて開けようとすると、コンコンッと音がした。

「え? ノックされたぞ……」

「驚かせてすみません」

 扉を開けて、ウーリーが()()に入ってきた。

「何でウーリーがここにいるんだ?」

「こちらの部屋へどうぞ」

 俺たちはウーリーに言われるまま部屋を移動して、扉を閉めた。

「テイムモンスターたちの宿舎がある……」

 つまり……。

「はい。()()は私の宝箱の中です」

 俺は慌てて宝箱から出て、辺りを見ると、少し先に大箱君がいる。

「移動式の転移装置……?」

 夫婦になったからお互いの家がくっついた?


 あれ? ちょっと待って……。この発見ってアイテムを何でも入れられるとか、そんな次元じゃないぐらいの発見じゃないか?

 一度宝箱に戻る。

「ウーリー、これはすごいな……」

「アイーリスさん。宝箱を貸してください」

「外にあるにゃん。どうぞにゃん」


 俺はこの後の出来事を思い出しながら、完成したクラリーの実家の前で胡座(あぐら)に頬杖をついて眺めていると後ろから声をかけられた。

「費用は本当にいらないのかい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ