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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
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遅すぎた到着

 なるほど。だから戦力であるはずのスオレとリオーニスが死に急がないように無理矢理掴んでいたのか……。

 どういう状況だったかはわからないが、悔しかったんだろうな。

 二人の親友か……。

「これ以上遺体が傷付かないように回収しに行こう」

「もう回収して宝箱の中です。全てが終わったら家族でお葬式を……」

「宝箱の中……? 他に何か入れているか?」

「他には薬だけです」

「わかった。そのミーちゃんの件はあとだ。今はモンスターを倒すぞ。ケーレル、残りはどのくらいだ?」

「先ほどの火達磨が七体。それと迷宮前のボスだけです」

「あれがまだ七体もいるのか……」

 俺たちがボス戦の前にウンザリモードになったところで、やっとエンジンがかかった奴がいる。

「なるほど、なるほど。火達磨ですか。手強いですね」

「仕方ない。リズとリアラの共闘で残り七体を倒してくれ……」

 ここに残っている者以外はもう町を逃げ出していると思う。多少暴れてももう目立つことはない。

「ご主人様、魔石を一つ下さい」

「んっ? 魔石……?」

 宝箱から一つ取り出して、下投げで渡す。

「ほら。子供たちと一一階層に行ったから山ほどあるぞ」


 ケーレルの声が響く。

「火達磨が来ます」

 エヴァールボが火達磨に向かって魔石を投げた。

 あぁ、なるほど。魔石に火を吸わせるのか……。

 しかし、半秒ぐらい周囲の火を吸収したが、効果はそれだけだ。全く火の勢いは変わっていない。

 魔石はそのまま火達磨にコツンッとぶつかり、こちらに跳ね返って床に落ちてしまった。こんなの一〇個まとめて投げても火達磨の火を吸収する事は到底できないぞ?

 エヴァールボの策が失敗したのかな?

 しかし、隣でエヴァールボは静かに笑っていた。


 火達磨がこちらに移動してくる。動きは遅い。周りの建物に火を放って、あのモンスターがこの辺り一帯を火事にしていたことはすぐにわかった。

 三秒後。ドカンッと魔石が爆発し、真上を移動中の火達磨の石の装甲を破壊する。たまたま火達磨が魔石を踏んだ……?

 いや、エヴァールボには最初から確信があるようだった。


 足元が破壊されて体のバランスを保てなくなった火達磨は、ゴロンッと横に転がっただけじゃなく、開いた穴からは大量に蓄積された火が漏れ出し、どんどん火が弱くなっていく。

 まずは足側の火を維持できなくなり、次は胴。徐々に上に……、頭の火が小さくなって最後は目だけが燃えている。

「あとは叩いて破壊してください」

 私の仕事は終わりました。っと言わんばかりに後ろに下がっていく。

 魔石の扱いはエヴァールボの得意分野だったな。

 アイテム一つで強敵モンスターを無力化させてしまった。

 物は使いようだ。

 少女たちがエヴァールボに尊敬の眼差しを向けている。

「今の倒し方で、残り六体の火達磨は任せた。俺たちはボスを倒すぞ!」

 魔石をスオレとリオーニスに渡す。

「もう怒りで我を忘れるなよ! できるな?」

「「……はい」」

 二人が俺の目を見て応えた。もう大丈夫だろう。

 深呼吸をし、ケーレルを連れて三人で走っていった。探知機がいればどこに隠れていても先制攻撃が可能だ。

 建物の消火要員に魔法使い(水)君を同行させた。


 俺たちは迷宮の入口に向かって走る。

「エヴァールボ」

「何ですか?」

「少女たちに作った武器の種類を教えてくれ」

 活躍した直後だから褒めてもらえると思ったのか、ちょっと残念そうな顔をされた。

「長剣が一、剣が二、斧が一、ハンマーが一、短刀が一、杖が三です」

「わかった、ありがとう。出来れば、少女たちの武器と同じ系統の武器で倒すぞ」

「えっ? 何でわざわざそんなことをするニャ……?」

「同じモンスターが出たら、俺たちがいなくても倒せる可能性が上がるだろ?」

「なるほどニャ!」

 毎回同じかどうかは知らないけど、また火達磨が出たなら魔石を町に置いておけば、少女たちだけでも倒せるだろう。


 迷宮前に陣取るボスを発見。

 レベルは三八。

 コカ……。

「やばいやばいやばい。ちょっと待った。聞いてないぞ。石化の代名詞じゃねーか!」

「あの鳥、本当にボスですか? 一メートルぐらいしかありませんよ?」

 エヴァールボが建物の陰からボスを見て言った。

 羽を開いていれば何メートルになるのかわからないが、閉じている場合はあんなものらしい。

「見た目とか、攻撃力が専門のモンスターじゃない。周りをよく見てみろ。逃げようと走っている石の彫刻が何体もあるだろ? 石化の状態異常が得意なんだ」

「そうすると攻略には状態異常を回復させられる〈聖職者〉が必須ですね……」

「一応私の職業が〈聖職者〉です……」

 一緒に移動してきた少女たちの中にも一人いた。

 状態異常の回復には術者の〈かしこさ〉の値で解除できる種類が決まっている。

 例えば、毒は初歩だが、猛毒は難易度が高い。

 クラリーが小さく首を振ったところを見ると、あまり期待してはいけないようだ。

 普通の初級職だからな……。

「〈聖職者〉が石化した時ように〈聖職者〉を二人、もしくは〈聖職者〉の石化を解除する役を一人用意する。それがセオリーだ。どうしても〈聖職者〉がいない場合は全員で大量の薬を持って、近場の石化を解除しながらの強引な戦いになる」

 みんなが頷く。

「一つも彫刻が壊されていないから、石化をする趣味はあっても、それを破壊する趣味はないようだ。でも戦闘が長引けば、余波で彫刻が壊れるかもしれないな……」

「ここはやはり正面突破ですか?」

 コーシェルが初めてのモンスターに楽しそうだ。

 しかも、普段お目にかかれない石化の状態異常。

「それしかない……。石化は三秒の溜めの後に吐くブレス攻撃を吸うとなる」

「息をしなければいいニャ!」

 極論ではそうなんだけど……。

「リズは最長で何秒間、息を止めていられる?」

「一生呼吸をしていたいニャ!」

 なんだろう。意味不明な回答が……。

「一呼吸で戦えれば、石化を恐れる必要はないと?」

「あぁ……」

 何秒ぐらい止めていられるかな? っとそれぞれ試している。

 リズは気にせず呼吸を繰り返す。こいつはもともと遠距離攻撃だ。

 もし、ブレス攻撃が来ても、リズの風魔法があれば全てを吹き飛ばせられる。

 もうほぼ戦術は決まっていた。


 だが、俺はもっと確実な方法を知っている。

 この町のためだ……。

 コカトリスの弱点()を突く……。


「もしくは……『緊急連絡』だ。ゴーレム先生、()()でボスと戦ってきてくれ……」

「「「えっ?」」」

「ゴーレムは絶対に石化しないんだ……」

 だってもう()だもん……。

 大岩さんも戦えるけど、間違いなく戦闘範囲が広がって、彫刻を壊してしまう。


 ゴーレム先生が慎重に近付くが、コカトリスはすでに石になっているゴーレム先生を見ても興味がないようだ。全く戦闘態勢に入らない。

 極悪ランスを思いっきり無防備な横っ腹に突き刺す。

 コカトリスは慌ててゴーレム先生を敵と認識し、息を吸ってブレス攻撃のモーションに入る。ゴーレム先生は極悪ランスをコカトリスごと地面に突き立てた。コカトリスは横向きでブレスを放つが、もちろんゴーレム先生には効かない。

 必死に極悪ランスから抜け出そうともがくが、エヴァールボでも引きずるのがやっとの武器を横向きの鳥がどうにかできるはずもなく、HPを減らし続けてそのまま絶命した。


「何がボスニャ! これじゃ火達磨の方が強いニャ!」

「待て待て。高レベルのゴーレムがいなかったらかなりの強敵だぞ……。それに今回は一対一だからいいけど、団体戦だったら俺たちを標的にして戦闘モードに入るからこんな簡単じゃない」

 石の彫刻になっていた人たちはコカトリスを倒した事で、状態異常が解除されて元通り。

「あの……、これで終わったんですか?」

「あぁ、終わったぞ。急いでビエリアルのところへ行こう!」

 スオレたちも火達磨を殲滅して、全部のモンスターを倒し終えたようだ。迷宮前で会えた。


 町を出たすぐのところ。避難誘導をしていた人がまだいた……。

「リクソンさん! モンスターを倒し終えました」

「わかった。すぐに報告してくる」

 この人とクラリーは知り合いだったのか……。あのお母さんなら娘は有名だよな……。

「それに旦那に会えたんだな」

 そういえば、クラリーは嫁いだ事になってたんだっけ?

 俺は話に割って入る。

「すみませんけど、神官がどこにいるかわかりますか?」

「神官? 丘の上に避難してないかな? 神殿からならあっちの出口の方が近いから……」

「ありがとうございます! みんな行くぞ!」


 空になった診療所でビエリアルを拾い、丘の上を目指す。

「神官に何の用ニャ?」

「ちょっとな……」

 丘の上に到着するとカニ汁のいい匂いがする。

 でも、今はそれどころじゃない。

「神官はどこにいますか?」

「あれ? 旦那様?」

 アンジェが寸胴で料理をしていた。

「神官を探してくれ!」

 伝言ゲームのように神官を探す波が広がっていく。

 クラリーのお母さんが手を引っ張って連れてきた。神官の手にはカニ汁がある。

「急いでるんだろ?」

「すみません。転職の儀を行いたいです」

 クラリーのお母さんがカニ汁の器を神官から没収して背中を押す。

「町にはまだモンスターがいるんじゃ? 無理だよ」

「すでにモンスターを倒し終えました。だから、急いで転職の儀をお願いします」

「それがあんたの仕事でしょ? 早く行きな!」

 バチーンッと背中を叩かれた神官がむせる。それ――痛いんだよ……。


 今回転職の儀を行うのはビエリアル。

〈聖職者〉の中級職〈聖導師〉になる。

 俺が家族に出したノルマは、旅を始める前にビエリアルが転職可能な四〇レベルになること。

 迷宮都市で転職の儀を行わなかったのは、移動中に何かあった場合にビエリアルの性能が落ちていると家族全員が危険になるから。

「あとでカニ汁を……」

 まだカニ汁かよ!

 転職代金の代わりに〈カニのツメ〉を二〇個渡した。

「そういうのは困るんだよね……」

 周りをキョロキョロ確認して懐に仕舞う。モンスター騒ぎの影響でまだ人は町に戻ってきていない。

 急にキリッと仕事モードになった。

「では、さっそく始めよう」

 安い転職代金(ワイロ)だな……。

 毎回この神官のところに〈カニのツメ〉を持ってきたらいいんじゃないのか?

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