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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
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旅立ち

 俺たちの旅立ちまでにギラーフの修行が終わらなかったため、仕方なく初期からいる子供たちの中でギラーフの顔をはっきり覚えている子に『炭鉱の町に行く』と伝言を頼んだ。

 次は炭鉱の町で伝言を頼めばいいだろう。


 俺たちは暗いうちに家を出発する。

 まずは徒歩で街壁の外に出て、人気のないところまで移動した。

「ここまで来ればいいだろう。アイーリス、馬車の荷台を出してくれ」

 最近は迷宮探索中に宝箱の中で睡眠をしているので、外部の音を遮断できてぐっすり眠れているそうだ。

「はいにゃん!」

 宝箱に手を入れて、もう一方の手を道路に向けて出す。

「気のせいか――形変わった?」

「引くところが広くなったニャ!」

 馬を固定する角材と角材の間で手を広げて幅が広くなった事をアピールしている。

 もともとリズが触れられていたのかを知らないんだけど……。

「……なるほど」

「でも、馬も狼ちゃんもいないからせっかくあっても動かせないニャ……」

 いなければ作ればいい。

「リアラ、氷狼を作ってくれ」

「わかりました」

「リズは風の魔石に魔力を補充」

「はいニャ!」

 さらに荷台の重量を軽減させるため、テイムモンスターたちは宝箱の中で休憩してもらう。

 生き物が入っていると時間進行モードにスイッチするので、放置しておくと鮮度が落ちる食材系の宝箱とは別になっている。

 アンジェはみんなの食事担当なので時間停止モードの宝箱にしなくては使えない。

 実は何でも自由に入れられる利便性を考えると停止モードの宝箱の方が自由度がない。

 必要な物だけ時間停止のオンオフを設定できればもっと使いやすかったんだけど、これ以上は贅沢というものだ。


 一台の馬車に全員を乗せるため、宝箱を宝箱の中に入れようとしたが無理だった。そこでほぼ全員が宝箱の中で休憩する事になる。

 外にいるのは氷狼とリアラだ。

 たまに氷のメンテナンスをしないと溶けてしまうらしい。

 それ以外にも氷狼を激走させている〈人形の魂〉を定期的に交換するそうだ。

 俺の分身、()き使われ過ぎ……。


 宝箱の中は揺れないので、快適空間ではあったが、白い壁が殺風景すぎて息が詰まる。

 しかし、二一階層で暴れたためにすぐに眠気が襲ってきた。

「今日はパパと寝るにゃん」

 リズが口に手を当てて言う。

「反抗期ニャ……?」

 いや、違うだろ。〇歳児の反抗期ってなんだよ……。

 目にじんわり涙が溜まってきた。

 俺と寝たらダメなのかよ!

「ベッドをくっつけて川の字で寝ればいいだろ?」

「はっ! 私が真ん中ニャ!」

 ジャンプしてベッドに飛び乗り真ん中に陣取ると、俺とアイーリスにおいでっと手招きをする。

「ママ……。そこは娘に譲るものにゃん……」

「んじゃ真ん中に寝てみるニャ?」

 アイーリスが真ん中に横になると、ベッドとベッドの微妙な隙間に沈んでいく……。

「助けてにゃ~ん」

 綺麗にはまって出られないようだ。手と足をバタバタ振ってもがいている。もがけばもがくほど沈んでいく蟻地獄。


 ベッドを一度離して救出。

「あのまま一生出られないかと思ったにゃん……」

 目がマジだ。大袈裟すぎだろ……。

 縦ではなく、横でお尻の辺りに繋ぎ目がくるようにし、アイーリスを真ん中にして眠る。

 リズは足側のベッドをこっそり蹴って隙間を広げ、アイーリスを落とす作戦に出たようだ。

「大人しく寝ろ!」

 ゲンコツを落として、静かにさせる。

「ごめんなさいニャ……」

 結局俺が真ん中に寝ることでリズの暴走を止める事に成功した。

 今まで知らなかったけど、毎晩あの攻防をしてたのか?

 これが猫族の子育て法……?


 翌朝……?

『……です。緊急連絡です。皆さん起きて下さい!』

 宝箱の中にリアラの声が響いた。

「何かあったようだな。確認してくるから、急いで着替えていろ」

 宝箱には外の人が『緊急連絡』だと言うと、内部に外部の声が届くようにお願いしておいた。アナウンスみたいに流れるようだ。

 宝箱から顔だけ出して、リアラに確認する。

 通称『箱入りリズ』スタイル。

 外はまだ暗いな……。

「どうした?」

「すでに戦闘が始まっているようです」

 俺は御者の席に移動して外を見た。

 少し見下ろす感じの先でいくつか火の手が上がっているのが確認できる。

「あれが炭鉱の町か?」

「そのはずです」

 一日半のはずだけど、馬よりも相当早く、それに休憩いらずで走っていたため、予想よりも早く着いたようだ。

「このまま町に進入できそうか?」

「近くまで行かないとわかりません」

「『緊急連絡』みんな起きろ。一〇分で戦闘準備をしてリズの宝箱に集合だ。リズは荷台でみんなを宝箱に入れてくれ」


 五分後。全員が集まった。一回目の『緊急連絡』で戦闘準備をしていたようだ。

 操縦は完全に〈人形の魂〉の俺任せ。

「戦力を隠したまま戦える状況だったら良かったんだが、そう都合よくいかないかもしれない。それでもリアラとナイラとフローラは合図をするまで大人しくしててくれ」

「「「わかりました」」」


 俺は御者に戻り、横にリズの宝箱を置いて、みんなと会話をする。

 家族は会話をする時だけ宝箱から顔を出す。


 暗い夜道なのに、馬車とすれ違うようになってきた。

 向こうは逃げるのに必死で俺たちの事など興味がないようだ。氷狼が走っているのに、気が付いている様子がない。

※夜目の称号で確認。

 夜中に突然モンスターが現れて、急いで逃げているのかもしれない。本当に少し前の出来事なのだろう。

「門が見えた! 例の丘の斜面に松明が見える。きっと避難民がいるぞ。モンスターが流れたら危険だ。ペコペコ隊に乗ってミーナ、エリス、アンジェ、アキリーナ、アイーリス出動!」

 自分の宝箱を背負った家族はペコペコに乗って馬車の後ろからジャンプしていく。ペコペコが羽ばたいて着地。シャキーンッと羽を広げた決めポーズが少しリズみたい……。

 アンジェが最後に……。

「また皆さんでカニ汁でも作って待ってますね」

「おう。クラリーを見つけたら何か合図をくれ」

「わかりました」

 バサッと飛び出したペコペコが先に飛んだペコペコに張り合って二秒ほど長く羽ばたいた。

 腰に手を回して胸を張っている。気がした……。

 ペコペコ界にも優劣がありそうだ。


 馬車を少し進めると遠くに横たわる人が何人も見える。

「怪我人がいるようだ。ここはビエリアルに任せた」

 数秒遅れてビエリアルが顔を出す。

「わかりました」

 自分の宝箱からテイムモンスターを出して準備する。

「オーガさんは一緒に連れていって下さい。きっと私の近くにいるよりもいいと思います」

 宝箱とハムスター君を連れて、怪我人のところへ走っていった。

「このままここで俺たちも降りるか……。リアラたちも付いてくるだけ付いてきて目立った行動はするなよ」

 周囲はまだ暗いし、町の方を見ている人はいるが、俺たちの方を見ている人はいない気がする。

 今のうちに馬車を宝箱に仕舞う。氷狼は〈人形の魂〉を取り出してリアラが宝箱に仕舞った。


 みんなで走って町に向かう。途中に避難誘導をしている人がいた。

「すみません。状況を教えてくれませんか?」

「君は確か……」

「はい。『迷宮化』の時にいた者です。クラリーの居場所を知っていたら教えて欲しいんですが……」

「クラリーはまだ町の中だ」

「わかりました。みんな行くぞ!」

 俺たちは走り出して町へ。


 入口の方にはまだ火が来ていないようだ。

「ご主人様、あっちにガラス装備の子がいるニャ!」

 リズが指さした先に闇に透ける武器を持った少女がいる。

 俺たち以外でガラス装備って……。

「まずは加勢に行くぞ!」

 少女たちは三人一組で一体のモンスターを囲んで戦っている。結構均衡した戦いだ。

 排出されたモンスターの数は少ないのか、他にモンスターは見当たらない。

 コーシェルが少女たちの獲物を横から攻撃してトドメを刺す。

 横取りだからゲームでは禁止行為に該当されているが、この状況では仕方ない。

「君たち! クラリーの居場所を知っているな?」

「えっ?」

 一人が『クラリー』の名前にすごい反応を示す。

 俺は話しかける前から確信があった。

 三人のうちの一人が持っている武器は俺が前に使っていた剣だ。鑑定で調べなくてもわかった。

「時間がない。そのガラス装備を作ったのは俺たちの家族だ!」

 証拠とばかりに俺の剣を見せる。きっとガラス装備はそう簡単にお目にかかれる物ではない。

「クラリーさんの実家の方です」

 迷宮の入口から少しそれた位置に家があるのは知っているが、少女が指さした先は火の手が上がっている方だ。

「わかった。行くぞ! コーシェル先頭を頼む。ナイラは最後尾を頼む」

 リズは走りながら燃えている家に大量の水をかけていく。

 片手間で放水車並みの水を出せるのはお前ぐらいだよな。

 走っているとモンスターはいないのに、火の勢いが強い。

「リズ!」

「いくニャ!」

 前方斜め上に水水風の中級三段合成を放つ。

 横に伸びる竜巻の水バージョン。ただ水の量がさっきの放水車の五倍は優に超えた。

 迷宮の一室を水浸しにした時と同じ量の水が短時間で放射される。

「やりすぎじゃね?」

「ひ、ひ、火は消えたニャ!」

 前方を指さして必死にアピールする。しっぽは怒られるのを覚悟しているようだ。

「おう。家もいくつか消えたけどな!」

 手前にあった何軒かの家の二階から上が水の勢いに負けて、吹き飛んだ。

「……そうニャ。これは指示通りニャ!」

「そんな指示してねーよ!」

 なに俺のせいにしてるんだよ!

「相変わらずデタラメな威力ですね……」

 コーシェルが最高の誉め言葉で呆れ、リアラとナイラまでが頷いている。

 称号の影響で制御が出来ていたはずだ。つまり最初から一発で消火する気で家を巻き込んだんだよな……。


「前から誰か来ます」

 クラリーが消火された道からスオレとリオーニスを引きずってやってきた。

「火に巻かれて逃げ場を失ってました」

「ほらニャ! 狙ったニャ!」

 何がほらだ。単なる偶然じゃないか。

 スオレとリオーニスは怒りで来た道を引き返そうと暴れている。

 クラリーが行かせまいと、首根っこを掴んで必死に抑えている感じだ。

「旦那様、私は……子供たちを守れませんでした……」

 ケーレルとノルターニと知らない少女二人が四人がかりで一体の火に包まれた達磨(だるま)のモンスターを遠ざけていた。


 クラリーと一緒に移動してきた杖を持っている少女が声をかけてくる。

「あのモンスターには生半可な水魔法は効きません」

 生半可……?

 みんなの視線がリズに集まった。

 この少女はさっきの放水が魔法だとは認識できなかったんだろう……。もう魔法の域を超えてたからな……。

「そんなに期待されても困るニャ~」

 左手を頭に持っていって照れながら、右手だけで三メートル級の水弾を火達磨の上に落とした。


 さすが……。


「ニャ!」

 一度は水をかぶって消火されたが、再度燃焼して火達磨に戻った。

「これはすごいな……。リアラ、すまんが氷壁で水槽のような壁を作ってくれ。三メートル、三メートル、三メートルぐらいで上は蓋をしなくていい」

「わかりました」

「リズは水槽に水を入れろ!」

「はいニャ!」

 今度は真面目に水を発射。すぐに水が満タンになった。


 加熱した石のように水に沈んだ火達磨の周囲はグツグツしている。

 体を覆っていた火はなくなったが、目の部分だけは未だに燃えていた。水の中で花火が燃えているアレだ……。

 生命維持をしているようで、微動だにしない。

 あの部分の消化に失敗すると、火種になって再び燃焼させてしまうのか?

 水温がどんどん高くなって氷壁が薄くなってきた。

 ナイラが氷壁ごとハリボテランスで突いて、達磨の頭を破壊した。

 表面は分厚い石で、中は空洞らしい。


「スオレとリオーニスの親友のミーちゃんが――死んじゃいました」

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