腕試し
日向ぼっこから一時間ほど、ようやくリズが起き出した。
ボ~ッとして目をこすっている。まだ思考がまわっていないようだ。
周りをキョロキョロ見渡して、俺と目が合うとその目は一気に見開く。
「キャ!」
慌てて後ろに下がったため、椅子から落ちて尻餅を突いた。
「痛いニャ……」
お尻を擦って痛みを和らげている。
本人はまだ気が付いていないが、スカートなのに、足を開いているから、黒いパンツが丸見えだ。眼福眼福♪
すぐに股を閉じるが――時すでに遅し。俺はもう脳内に全部焼き付けた。
顔を真っ赤にして、耳をシュンッとさせている姿も可愛い。でも、あまり意地悪をするのも可哀想なので、さっさと行動する。
「おはよう」
「おはようございますニャ……」
手を差し伸べて立たせてから、お尻の汚れを払い落とす。紳士的に……。
俺の手が触れるとさらに顔を上気させた。
おそらく一日中リズで遊んでいても飽きないな……。
その場合、リズの心臓は果たして持つのだろうか……?
防具屋にリズの〈皮の服〉を取りに行くと、すでにサイズ調整が終わっており、宿屋に配達済みだった。
仕事が早くて助かるが、今回は行き違いになってしまったようだ。
仕方なく宿に戻ると、受付のオバサンが預かってくれていた。
「おかえり。その嬢ちゃんの鎧だよ」
カウンターの裏から片手でヒョイッと投げてくる。一応新品だからもっと丁寧に扱って欲しい。
リズはバシッと受け取って、お礼を言った。
「ありがとうございますニャ」
まだ昼前だったので、部屋で着替えさせ、迷宮に行く事にする。
昼寝をした後で、体力は回復しているはずだ。精神的な方は――寝起きのハプニングで大変な事になっていそうだけど……。俺の方は逆に満タンまで回復させてもらった。
今回は腕試しである。
軽く一階層と二階層辺りを探索する予定だ。
この世界の迷宮は縦八〇メートル、横六〇メートル、高さ七メートルといった広い部屋がいくつも隣り合ってできている。(ギリギリ対角線で一〇〇メートル走ができる広さ)
なぜ一部屋がこんなにも広いのか……。
諸説あるが、一人でテイムモンスターを八体従えていた場合、道幅が狭く四体しか並べられなければ戦闘効率が悪い。(うまく前衛と後衛に分かれていれば、闘えない事はないが……)
大昔は通路もあったらしいけど、人気が出ずに人間をエサにできなくなった迷宮は、今の広いスタイルに姿を変えたとされている。
四角い部屋同士がたくさん隣接しているため、冒険者ギルドでは勝手に次の階段までの順路を決め、安全なルートとして提供していた。安全だから人が歩き、人が歩くから安全になる。
うまい考え方だ。
このルートを知りたくて、さっき行きたくもない冒険者ギルドで無料公開されている順路をメモった。
一階層は[前前右左前前右]でいいはずだ。
ちなみに正規ルートを一つでも外れるとそこは滅多に人が足を踏み入れない『モンスターの巣窟』と言われ、初心者にはオススメされていない。
そのため基本的に正規ルートを外れた場合には、いきなり団体戦となる。
それでも低階層は人がよく入るので、安全らしい。
もう一つ迷宮探索で重要なのは、一階層、六階層、一一階層、一六階層のように五階層おきに入口からすぐのエレベータでワープすることができる。
入口→一階層にワープといった流れ。もちろん逆も行ける。(一階層→入口)
このエレベータで移動できる階層の一階層下にあたる、五階層、一〇階層、一五階層のような階層の最後には必ず階層ボスが存在し、行く手を阻む。
階層ボスを倒したパーティだけが、先に進め、エレベータを利用することができるが――もちろん抜け道は存在する。
たとえば、パーティ内に一人でも六階層のエレベータを利用できる者がいれば、パーティ全員が六階層にワープすることができる。
一度でも六階層に足を踏み入れれば、今後も使い続けることができる事から、この抜け道はとにかく費用が高い……。
その料金のおかげで、迷宮都市は資金を潤沢に運用できているというのだから、利用者はいるのだろう。
貧乏人はきちんと一階層から攻略しよう。
入口から入った一階層は、人! 人! 人! ここは観光地かな?
考えてみれば時間帯が悪かった……。今は昼間だ……。時間をずらすべきだった……。
一階層ではモンスターを見ることなく素通りする。
二階層……。
準備不足で、正規ルートがわからない……。
こんな事なら無料公開されている五階層までのルートを全部メモすれば良かった。
今日は三階層に進みたいわけじゃないから、このまま二階層を探索する。
紙に進んだルートを書く……。マッピングとか大それた事をしているわけではなく、簡単に[前]とか[右]とか進んできた順路を書いているだけだ。
それをしないと、迷子確定……。部屋の構造に特に変化がないので、広い部屋の繰り返しになる。
地上に戻ったら迷宮の〈脱出アイテム〉を買っておくか……。錬金術で作れるらしい。異世界って便利だ……。
この〈脱出アイテム〉は便利なのに値段も安価。(単価二〇〇モール)
カンのいい人はわかると思うが……。
使用しても即時離脱ができない! さすが、罠が豊富なゲームだ。一筋縄じゃいかない。
起動してから一分間その場にとどまらなければ作動しない。
ピンチの時に逃げ帰るため用ではないということだ。
それでもピンチの時に一分間戦線を維持できれば、離脱可能ではあるが……。
一分間も戦線を維持できれば、打開策も見つかりそうだが……、したがって離脱の判断が難しい。
そして、やって参りました。迷宮でのモンスターとの初戦。
二〇体ぐらいはいるかな? いきなり団体戦である。
最初の町でモンスター屋で売りに出ていたモンスターばかりだ。
[スライム各種]×七、[フェアリー]×三、[ゴブリン]×一三、[ラビット]×一。
二階層なら、パンダ様無双だろうけど……。
宿でパンダのエサ代が安かったことからもわかっていたが、迷宮都市ではパンダは好まれる。
そして我等のパンダ様も一味違うはず。
なぜならば!
天井まで七メートルしかないのだ! つまり、ホームランがでない!
現にパンダ様にスイングされたモンスターが天井に衝突している。
これぞ、壁ドン――ではないが……天井ドンの始まりだ。
竹製バットから鉄製バットになったパンダ様は、目の前の敵を蹴散らしながら、一人で敵陣深くへ!
おかしい……。想像していた展開と違う……。
もっと安全な戦いを想像していた。もちろん敵陣にいてもパンダ様は無傷だ……。
全方位を囲まれているパンダ様が、全方位にモンスターを弾き飛ばしてる……。
そのため、こちら側にもさっきからモンスターの雨が降り注ぐ……。
なぜ、命の危険にさらされなければいけない!
リズはしゃがんで耳を押さえて涙目だ。さっきまでピクニック気分で上機嫌だったのに……。
リズの方にモンスターが飛ぶ。これはまずいことに直撃コース……。
俺は急いでリズをお姫様抱っこしてモンスターの飛行ラインから逃れた。
突然の抱っこにリズは真っ赤な顔で、口をパクパクさせている。
両手がふさがっていて、頭をなでてあげられないのが、ここまできついとは……。
二人で見つめ合っていた時間はどれくらいだろう。きっと一瞬に違いない。
なんせ、すぐ目の前をモンスターが飛んでいくんだもの……。
パンダめ!
モンスターが通過した時に巻き起こった風は、リズの足側から発生したため、リズのスカートを簡単に……。
訂正。パンダ様グッジョブ!
「だめええええええええええ」
リズの絶叫と、時を同じくして、迷宮の初戦は終了した。
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初戦のドロップアイテム ※( )の中は売却価格
・スライム各種→スライムのかけら(一〇モール)と五モール
・フェアリー→フェアリーの羽(三〇モール)と一〇モール
・ゴブリン→ゴブリンのキバ(一五モール)と八モール
・ラビット→ラビットの肉(一〇〇モール)と五モール
合計六二九モール
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――――ステータス――――
名前 緑野赤
種族 人間
性別 男
素質 天才
クラス 獣使い
レベル 一一
HP 一五〇/一五〇
MP 〇/〇
SP 二五〇/二五〇
筋力 五
体力 五
素早さ 五
かしこさ 五
モンスターの友 七五
残りポイント 〇
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クラス特性
・モンスターをテイムできる。
・獣系のモンスターのテイム確率上昇、また獣系のモンスターの能力上昇(上昇率はレベル依存)。
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称号
・スライムの友(衝撃耐性(小))
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装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
・細剣/木の盾/皮の服/なし
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所持金
・三万九五六九モール
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テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・パンダ(♂/良い/一三)
武器:鉄竹
・ブルースライム(♀/良い/一一)
武器:鉄のキバ
従属:ミニスライム(子供)×八匹
・オーガ(♂/普通/六)
武器:金棒
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奴隷 ※名前(種族/性別/素質/クラス/レベル)
★リズール(ネコ族(ラグドール種)/♀/普通/村人/三)
装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
・短剣/木の盾/皮の服/なし
テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・ゴーレム(♂/普通/三)
武器:なし
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