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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
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仕方ないから行ってもいいニャ?

 子供たちの事を信頼していないわけじゃないが、さすがにガラス装備を持ち逃げされたら大事(おおごと)だ。

 そもそも量が結構あるから、急いで運ぶなら宝箱に入れる必要がある。

 そうすると家族の誰かに届けてもらわなくてはならないけど……。

 もうすぐ日が昇る。ペコペコ隊を出動させるなら明るいうちだ。早く決めなくては……。

「まだ悩んでるニャ? 昨日からずっと眉間にシワが寄りっぱなしニャ……」

 眉間を指でグニュッと左右に広げる。

「まだまだここにいる間にしなくてはいけない事が山積みなんだ。俺たちが旅立つまでに貧民街の子供たちを形にしないといけないし……」

「ストップニャ。ご主人様は一人で何でも背負いすぎニャ。もっと家族を頼るニャ」

「えっ? すでに色々とやってもらってると思うけど……」


「アイーリス」

「はいにゃん」

 呼ばれてベッドの上にジャンピング正座をして着地。

 昨日の夜、こっそり一人で練習しているところを目撃してしまった。その時は勢いを殺しきれず、前のめりになっていたが、今回は成功して嬉しいのか、しっぽがヒュンヒュン動いている。

「炭鉱の町に行って、クラリーたちにガラス装備を渡して来るニャ!」

「はいにゃん! 亀さんに誓って必ずや届けるにゃん」

「ちょっと待て。アイーリスはまだ赤ちゃんだぞ? 一人で行かせられるわけがないだろ」

 どこの世界に初めてのおつかいが馬車で一日半の距離だよ……。


「それに亀さんってなんだ?」

「昨日海亀が孵化したニャ。そうしたらアイーリスったら……」

 リズがプッと笑う。

「ママ、それは言わない約束にゃん! 宝箱が突然ガタガタ動き始めたから中を覗いたら、宝箱の中から顔を出した亀さんと頭をゴツンしたのは内緒にゃん!」

 俺とリズは顔を見合わせて同時に声を出して笑った。

 そういえばリズの宝箱からアイーリスの宝箱に移動したのを忘れていた。

 あのまま入りっぱなしだったんだな。

 まだ孵化するまでに日数があったはずだから、宝箱の中でも経験値が入ったのか……?

「二人とも何がおかしいにゃん?」

 俺とリズが笑っている理由がわからないようだ。

「何でもない。亀さんを見たいから一度出してくれるか?」

「ここで出したら部屋が大変な事になるにゃん」

 そんなにでかいの……?


 まだ日が昇る前の少し薄暗い庭に移動して、さっそく出してもらう。卵のサイズを軽く超えた三メートルの甲羅を背負った亀が二頭。いや、テイムモンスターだから二体。性別は♂と♀が一体ずつだ。

「宝箱から出たら、合わさっていた甲羅が広がって、一枚の大きな甲羅になったニャ」

 えーっと……いまいち意味がわからないけど、赤ちゃんの頭の骨の一部分が重なり合って生まれてくるのと同じイメージか?

 小さい卵では広げられなかったからモンスター的な進化を遂げた?

 どうやら亀はアイーリスを親と認識している。

 将来ジャイアント候補だから俺のテイムモンスターにする予定だったのに……。

 娘のテイムモンスターならいいか?


「亀さんに乗れるにゃん。これで炭鉱の町を目指すにゃん!」

 亀に乗ったアイーリスは浦島太郎のようだ。

 誰か釣竿を持たせろ! 銛だったか? って今は遊んでる場合じゃないな……。

 亀はアイーリスを乗せて、ノソノソと歩いている。このままでは迷宮都市を出るだけで、お昼を過ぎないかな?

 なんだろう。急にクラリーたちに同情したくなってきた。

「遅いにゃん!」

 亀に言うなよ……。それ普通だから……。

 レベルはどちらもすでに一三。

 きっと探索の後半に孵化して、乗って楽しんだけど、飽きたから帰宅したんだろうな……。

 俺の千里眼を持ってすれば、昨日の情景が手に取るようにわかる!


「妖精魔法【カマイタチ】に水弾ゴーにゃん!」

 えっ?

 竜巻が亀の口から一〇メートルの距離でグルグル回っている。

 そこへ一メートル級の水弾が亀の口から発射された。

 竜巻が水弾を上に押し上げて、水が周囲に飛び散る。この一帯だけに大粒の雨が降った。

 これって俺が犬の国でやろうとしていた水撒きと同じ原理だ……。

「楽しいにゃん」

 あの~。カマイタチも水弾も一般人を殺せるレベルだからね……? 人に向けて使ったらダメだよ?


「アイーリス! そのまま炭鉱の町までゴーニャ!」

「任せるにゃん!」

 いやいやいやいや、お前たち母娘に任せてたらお爺ちゃんになるわ!

 亀がアイーリスの指示で庭の広い方へ歩き出す。ノソノソ……。

「ところで、装備は持ったニャ?」

「あ、忘れてたにゃん。大変にゃん」

 亀から降りてダッシュして戻ってきた。走った方が何倍も早い……。

 家の外まで様子を見にきていたモズラが宝箱から装備を出してアイーリスに渡していく。

 マジでモズラまでアイーリスに行かせる気なの?

『お前、止めろよ!』の視線を送る。

「アイーリスさん、そろそろ真面目にやったらいいんじゃないですか? ご主人様が不安がってますよ?」

「そうなのにゃん? 準備運動も終わったし、行ってくるにゃん。朝食には戻るにゃん」

 誰の準備運動が終わったんだ? 走ったアイーリスのか?

 朝食には戻るってなに? いつの朝食? 一〇年後ぐらいかな? 一〇〇年後なら死んでると思うな……。


 アイーリスは♀の方を宝箱に仕舞って、再び♂の亀に乗る。

「ちょっとだけ痛いけど、我慢してにゃん……」

 何かさっきまでの冗談っぽい雰囲気がスッと消えた。

「妖精魔法【風来坊】にゃん」

 亀の下に空気の層のような空間が生まれて、亀が浮き上がる。今度はそのまま足元から強い上昇気流が発生して亀が一気に上空へ飛ばされた。

 もう暗い空に吸い込まれて、その姿は見えない。

「俺は――夢を見ているのか……?」

 亀っていつから空を飛べるんだ?

「風を強く受けなくてはいけませんので、本当は小さい体格のアイーリスさんにはまだ飛べないようなんですが、土台に亀さんを使うことでそれをクリアしているようです。どこからともなくやってきて、フラッとどこかへ行く。そんな移動魔法らしいです」

「あれって落ちたら死なないのか?」

「妖精魔法ですからね……。朝食までには戻るそうですよ?」

 確かに空を飛べれば早いだろうが……。

「あ、それから一人用らしいので、ご主人様は乗れませんよ?」

 それはこれっぽっちも考えていなかった。

 今さら思っていたことはあの妖精――風の妖精だな。


 朝食後。

 朝食前に戻ってこなかったアイーリスが心配になっていた。ミントティーを飲みながら、みんなで窓の外を見ていると『迷子の女の子を保護しました』みたいな知らない女性の大人とアイーリスが仲良く手を繋いで歩いて戻ってきた。

「アイーリスニャ!」

 すぐにリズが娘を引き取りに走っていく。

 リズと女性が頭の下げあいをしてから母娘が戻ってきた。

「ただいまにゃん! 任務完了にゃん。クラリーさんから受け取りましたのお手紙にゃん」

 ポケットからクシャクシャになった手紙が出てくる。

 これきっと宝箱に入れておけば綺麗だったと思うぞ?

『まさかアイーリスさんが一人で来るとは思っていませんでした。宝箱には馬車の荷台を移しておきました』

 マジで行って戻ってきたんだな……。


 ぶっちゃけペコペコ隊で充分だったんだけど……。

「何で、知らない人に連れられていたんだ?」

 ずっと家族と一緒だったから、知らない人に付いて行っちゃいけませんって教えていなかった……。

 妖精が一緒だから相手の体の方を心配しないといけなくなるんだけど……。

「ゴブリン四体に襲われていた旅人を助けたにゃん!」

「それで朝食に間に合わなかったのか?」

「そうにゃん。パパが人命が大事だって言ってたにゃん」

 人命が大事……? それってデュアル回復水の効力の話じゃ? いや、人命は大事だけど……。

 なにサラッと異世界に漂着した人が出会うテンプレイベントを経験してるんだ?

 〇歳児に助けられる旅人もどうかと思う。

「ゴブリン四体と戦って、怪我はないニャ?」

 リズが体をペタペタ触ってチェックをしている。きっと炭鉱の町を往復する方が難易度高いから……。

「怪我はないにゃん」

 そりゃ無傷だろ。二一階層のガーゴイルを妖精魔法で致命傷にする実力者だぞ……。

 ゴブリン四体ぐらい瞬殺だろ……。

「良かったニャ……」


 みんなでアイーリスが朝食を食べるのを見守った。もう普通に離乳食を終えて大人と同じ物を食べている。


「さっきの人は『忍び』らしいにゃん」

「『忍び』?」

 じっくり見てなかったから詳しくはわからなかったけど、とても『くノ一』には見えなかった……。

「ペンダントをもらったにゃん」

 首から下げている物をみんなに見せる。

 黒い宝石に黄色いライン。

「へぇー。綺麗な猫目石だな」

 ペンダントにしてもアクセサリー分類じゃないようで、鑑定で見ても宝石が『キャッツアイ』としかわからなかった。

「それ――私も欲しいニャ!」

 モズラが家族の顔を見渡して宣言する。

「旅先が決まりましたね」

「わかったわかった。きちんとレベルを上げておけよ。もっと頑張らないと、このままじゃ時間切れだからな……」


「やばいニャ! 急いで出発するニャ!」

 みんなが宝箱を背負って、家を出る――時……。

「そういえば、ご主人様は二一階層に行きたいって言ってなかったかニャ? 仕方ないから行き先を二一階層にしてもいいんだけどニャ?」

 チラチラとこちらの様子を窺っている。

 しっぽは不安そうに全く動いていない。

 それとは真逆で家の外からは『リズさんナイス!』の声が聞こえる。

 魂胆はわかった。一六階層で時間切れにならないように、二一階層で時間短縮をしたいっと……。

 俺は二一階層に行きたがっている。盾はまだだけど最低限の武器だけはすでに完成済み。


 まだ必要な称号を取り終わってないんだけどな……。

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