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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
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帰宅

 朝七時半。家の扉が元気よく開かれた。

「「「「「ただいま~!」」」」」

「おかえり」

 行く前よりも五人の顔が晴れやかだ。やっぱりあの地は五人の故郷なんだと再認識できた。

「エヴァールボはさっそくガラス鉱石で武器と盾を作製してくれ」

「わかりました」

 ガラス鉱石を受け取ると、エヴァールボが鍛冶場に向かう。


 五人が椅子に腰かけて、クラリーが話を切り出した。

「いつから気が付いてたんですか?」

「最初からかな。てっきりドワーフ部隊を育成しているのかと思っていたけど、四人を連れて行きたいと言った時のクラリーの楽しそうな顔を見たら――四人に関わる貧民街の子供たちなんだろうなと確信した」

 スオレたちがパチパチパチッと正解の拍手をしている。

「どうせ一緒に戦いたいっと一六階層に連れていったんだろ?」

「……はい」

「一回目の里帰りからまだ日が経ってない。〈デュアル回復水〉は役に立ったか?」

 クラリーが頷いてから質問した。

「では、厳命は?」

「〈デュアル回復水〉の効力が高すぎて、秘密が広まるのを防ぐためだな。でも、人命の方が大事だ。わざわざ効力が低いのを作って、いざ使ってみたら回復力が足りなくて命を失ったんじゃシャレにならないからな。きちんと口止めができる相手なのか試させてもらった」

 はぁ~っとクラリーが大きな溜め息を吐く。

「だろうと思いました」


「子供たちの使う武器と盾の種類をエヴァールボに伝えておけよ」

「えっ?」

「今回の報酬だ。死なれたらお前たち五人が悲しむからな。最低限の援助はする」

 自分の事のように喜んでいるスオレたちが一斉に頭を下げた。

「「「「ありがとうございます!」」」」


「喜んでるところ悪いんだけど、子供たちの装備が出来上がったら、すぐにでももう一度炭鉱の町に行ってくれ……。今度は一週間ぐらい滞在だな」

「えーっと……何かあるんですか?」

「一度『迷宮化』しちゃうと終わっても、定期的にモンスターが排出されるんだぞ?」

「定期的にモンスターが排出される……?」

 クラリーが面食らって目をパチパチさせている。

「あれ? 知らなかったのか? だから迷宮都市の衛兵が駐留してるだろ? でも実際にモンスターが出たら衛兵なんかじゃ対処できないぞ……」

 モズラ様に聞いたが、迷宮都市の衛兵は冒険者崩れの集まりだ。冒険者でお金を稼げるなら、みんな自由気ままな冒険者を続けている。つまり衛兵になってから強くなった者を除き、全員が弱い。

 犬の国のように国力を上げるために強い人材を登用して、鍛えている国とはわけが違う。


 クラリーたちはそれでなぜ急いで装備を届けるのかわかっていないようだ。

「一緒に一六階層に行ったなら、今あの町で一番の高レベルは間違いなくお前たちが育てた子供たちだろうな」

 五人がそれぞれ『いや~それほどでも~』っと嬉し恥ずかしっといった感じで照れている。

「力を得た子供たちが身の丈に合わないモンスターだとわかっていても、町を襲うモンスターを目撃したらどうすると思う?」

 ピタッと動きを止めて、五人の顔から血の気が引いていく。

「あ、あの……今からトンボ返りしても……」

「とにかくガラス装備ができるまで落ち着け。そろそろ鍛冶場の準備ができただろうから、エヴァールボに伝えてこい」

 五人は我先にっとお互いを押し合って出ていった。

 そんな慌てなくても、誰が伝えても同じなんだけどな……。


「このままでいいのニャ?」

 廊下の先から声が飛んできた。

「やっぱり聞いていたのか……」

「『おかえり』って言う前に話が始まっただけニャ……。ご主人様がズルをしないのは知ってるニャ。でも、あの言い方だとトンボ返りさせたいみたいな言い方ニャ」

「勝負はここからだろ?」

「リアラとナイラを先陣で送るって言えばきっと勝てるニャ……」

「リズは俺にズルをさせてでも勝たせたいのか? でも、あの二人はダメだ。今回は炭鉱の町に多くの冒険者の目があるはず。せっかくここまで隠して生活をさせてきたのに、台無しになってしまう」

「んじゃどうするニャ?」

「実はあの五人が一番適任者なんだよ。石や岩相手なら破壊力のある斧とハンマー。ケーレルの索敵。ノルターニの上空からの情報収集。戦術の幅は広がるだろうな……。それに何人いるかわからないけど、向こうの子供たちとの連携もある……」

「先陣を送る気がないなら、朝食の時に言ってた内容に変更はないのニャ?」

「薬だけは届いてるだろうから、それを使えば五人が到着する前にモンスターが排出されても、死者は減らせるだろ……。俺は俺のすべき事をしておくから、みんなはレベル上げを急いでくれ」

 あとの事をリズに任せて家を出る。


「うわっ! お前たち何してるんだ?」

 エヴァールボの鍛冶場前に正座をする五人。

 真ん中にクラリー、その両脇にスオレとリオーニス、両端にケーレルとノルターニが一直線に座っている。

「不安なんですよ……。あの子たちが死んじゃうんじゃないかと思って……」

 クラリーが手をめっちゃ擦って祈っている。

 祈って祈って一秒でも早く装備が出来上がるのを待っている感じだ。

 俺はもう溜め息しかでない。

「先に出発しててもいいぞ……」

「えっ? いいんですか?」

 クラリーは嬉しさで顔がパッと明るくなった。

「その代わり――あと一つレベルを上げておけば助けられたのに、それをサボったせいで子供たちが死んでも知らないからな! 他の家族はこれからレベル上げに一六階層に行く。どうするかはお前たちに任せる。どうせ装備が完成するのは夜だ」

 今回の件が片付いても、五人はもう炭鉱の町から離れられないかもしれないな……。

 こんな事ならクラリーを自由にさせずに、みんなで炭鉱の町に行けば良かったか……?

 こっちはこっちで迷宮都市の『迷宮化』で手が離せられなかったんだよな。


 エヴァールボは外の出来事など関係ない。鍛冶場に籠っている。


 どうやらクラリーたちは歩むべき道を決めたようだ。

 立ち上がって納屋に行くと、ここまで乗ってきたペコペコ隊じゃない、別のペコペコ隊五体に股がり、出発していった。

 あれ? 炭鉱の町に行っちゃった?

 おかしいな。俺の筋書きと違うぞ……。


 アンジェが納屋の前でガッツポーズをした。

 勝者が胸を張り、近付いて声をかけてくる。

「賭けは私たちの勝ちですね。前日からペコペコ隊の体調を万全にしておいたかいがありました」


 賭けの内容はクラリーたちの行動パターン……。

 A:どうしていいのかわからず途方にくれる。

 選択者なし。

 B:装備が完成するまで、レベル上げに勤しむ。

 俺。

 C:炭鉱の町にトンボ返り。

 残り全員。


 あそこまで言ったら、普通は強くなろうとするだろ……。

 子供たちのレベルを一個でも上げる方に傾くとは思ってもみなかった……。


「さてと、目の前の事でいっぱいいっぱいになっちゃう、可愛い家族の尻拭いに走るメンバーは誰にしましょうかね?」

 俺はアンジェと一緒に納屋の中を確認する。

 ジャイアントテイムモンスターたちをそのまま持っていきやがった……。

 それに馬車の荷台がない。俺たちはどうやって炭鉱の町に向かえばいいんだ……?

 あの馬鹿たちは……。


「旅の支度を済ませておけよ……。俺は二一階層に行きたかったんだけどな……。三日だ。三日で俺の希望のレベルまで上げろよ……」

「時間がありません。皆さん、さっそく迷宮に行きましょう!」

 いつの間にか納屋の外に家族が勢揃いしている。

 そういえば、みんなはこの展開を予想していたんだったな。


 家族の希望は旅らしい。一ヶ所に留まるのは刺激が少ないとかなんとか……。旅の荷物? 宝箱の登場で全てが家族の思い通りに進んでいる。


 エヴァールボは鍛冶を続行。

 残りの家族は約束通り一六階層でレベル上げ。大さそりさんと岩小僧はウーリーに貸し出しする。

 俺はその間に称号集め。荷物入れに大箱君はいるけど、久しぶりにテイムモンスターはパンダ様だけだ。


 魔法使いの称号だけは早めにコンプリートさせておいた方がいいと言う結論から、全種類をコンプするために一一階層に向かう……。


 一緒に同行するメンバーは軍師君が選考した子供たちの最強集団。

 一一階層で団体戦をするには、まだちょっと早いらしい。

 さすが選りすぐりの一三人。全員テイムモンスターを所持。パーティーには弓の子も二刀流の子も入っている。

 子供たちは一〇階層のシャドーの危険度をすぐに理解して一〇階層の探索を諦めたらしい。数日間九階層で過ごして、レベルが上がったら一一階層に行く予定になっていたそうだ。

 っというか、攻略速度が早すぎる……。


 俺とパンダ様が受け持つのは主に魔法使い(各色)。遠距離攻撃の登場とゴーレム隊が魔法に弱い。

「可能だったら火魔法を火魔法で狙撃しろよ!」

「えっ?」

〈魔法使い〉の子が俺の意味不明な指示に呆然としている。そんなこと考えたこともなかったんだろう。

「いや、ごめん。何でもない」

 あんなのできるの……、リズだけだよな……。

 知らず知らずのうちにあの規格外が標準になってたんだ。


 俺は魔法使い(各色)を脅しながらテイムしていく。

 魔法使い(火)、魔法使い(風)。

 魔法使い(土)は最初の頃にテイムした。

 テイムしていると魔法使い(火)が早くもかぶった。素質が『良い』だから、先にテイムしていた『普通』は子供たちにあげる。

「あとは魔法使い(水)だけなんだよな……」

 あれ? テイムに夢中でいつの間にか主旨が変わっていた。

 俺は称号を取りに来たんだった。


 テイムモンスターの魔法使いがしゃべれる事を俺はすでに知っている。

 しかし、脅してテイムをした素質『良い』の魔法使い(火)は話しかけてもしゃべれないフリをした。

 きっとテイム直後の親密度みたいなのは脅してテイムすると低い気がする……。

 でも、脅してテイムするのが一番早い……。


 テイムモンスターである以上、指示をするときちんと拒否せずに動いてはくれるけど、やばい……。

 俺のテイムモンスター状態で魔法を撃つと威力が高い。発動させた本人が驚いて自分の手を確認するレベルだ。

 俺の〈モンスターの友〉の補正で二〇毎に〈かしこさ〉が一割増えている。現在の〈モンスターの友〉の数値が二二〇超えなので、単純に二倍だ……。

 とてもレベルが一一とは思えない。

「テイマー職はテイムモンスターが強くなっていいですね」

 っとこの世界では常識らしい事でかなり焦った。

 どう言い訳をしようか脳をフル回転させていたのに、その言い訳が成り立つならもっと早く教えて欲しかった……。


 一日の探索が終了した頃、俺は合計七体の魔法使いをテイム。

 子供たちはレベルが上がった事もあり、自分たちだけで団体戦を行えるようになっていた。

 今日は〈カニのツメ〉を大量入荷したから、夕食はカニ汁にする。


 家に帰ると、すでにエヴァールボが炭鉱の町の子供たちの分を完成させ、俺たちの武器までが終わっていた。

 俺の〈ガラスの剣+一〉は〈ガラスの剣+三〉と交換する事になる。中古の剣の行き先は炭鉱の町の子供たちだ。

「夜の移動手段がないから、今から届けられないんだけど……」

 狼ちゃんがいないせいで、移動手段がペコペコ隊になる。

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