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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
124/171

休息日でも迷宮へ

 翌朝、部屋でリズが宝箱を開けて、ビックリする。

「ニャ! あれ? あれ?」

「どうした?」

 しかし、中に手を入れて、ホッとした顔をした。

「あ! いい事を思い付いたニャ……」

 一度宝箱を閉じて、俺の前に持ってくる。

「い、今から手品をするニャ! タネも仕掛けもありません」

 手品って仕掛けしかないんだぞ?

 顔がとても楽しそうだから野暮な事は言わない。

 リズは宝箱を開けると、こちらに中身が入っていないことを見せる。

「何も入っていないニャ?」

「おう。入ってないな」

 真っ黒な布の裏地で、汚れ一つなくて綺麗だ。

 リズは宝箱の中が見えないようにベッドの上に置くと、中に手を突っ込む。

「はい! ご主人様人形ニャ!」

 右手には確かに俺そっくりの人形がある。

 えっ? マジ……? あまりの出来事にどうリアクションをすればいいのかわからない。

「あれ? 全然驚かニャい? ご主人様は知ってたニャ?」

「いや、充分驚いた」

 リズはどんどん宝箱からご主人様人形を出して並べていく。その数なんと()体。多すぎだろ……。


 じゃなかった。

「まさか、宝箱はマジックバックだったのか……」

 そうするとレベルで容量が拡張するのか? 要検証だな。

「コップに冷たい水を入れて、一個は宝箱の中に、もう一個はテーブルの上に置いてくれ」

 部屋にあるいつも飲み物を置くぐらいにしか使っていない簡素な木のテーブルを指さす。

「はいニャ!」

 まずは、温度の変化チェックだ。


 結果が出るまで時間がかかるので、その間に他のチェックを行う。

 どうやらこのテイムモンスターは主人しか使えない。

 主人以外が中身を取り出そうとして手を突っ込んでも、何も出てこない。それどころか宝箱のサイズまでしか、奥行きが存在しない。

 破壊すれば中身を取り出せる可能性はあるが、それは同時にテイムモンスターの死を意味する。

 一番やっかいな機能が中身が入ったままだとテイムモンスターを受け渡せないという事だ。

 自走、自衛、盗難防止付きのマジックバックか……。意外と高性能だな。


 二〇分後。

 コップを取り出してもらった。嬉しい事に中に入れておけば温度は保たれている。

 そのままコップを宝箱に戻す。もっと時間を長くして確認してみるつもりだ。

 宝箱を逆さまにしてもコップの水は平気だった。さすが高性能なマジックバック……。


 宝箱の枠よりも大きいサイズが入るか検証すると、海ガメの卵でも簡単に入った。物を入れる時、主人が持たなくても触れて『入れる』と思うだけでいいようだ。宝箱の中に仕舞ってしまえば、当然重さまで無視。今まで迷宮に隠して運ぶのが大変だったのに……。宝箱一つでいいなんて……。

 今のところいくらでも入るので、最大容量は不明。


 朝食の後にもう一度コップの水をチェックすると温くなっていた。

 きっと生き物である海ガメの卵が入った事で、マジックバックの内部時間が進行する仕組みに切り替わったのではないだろうか?

 いきなり人体実験のような危険な事をした事に反省。

 卵はアイーリスの方に移して、リズの方にはもう一度冷たい水を入れた。


 朝食が終わったので、休息日の話し合いをする。

 今回は二日間あるため、家族には一日目と二日目どちらがいいか選んでもらう。


 ノルターニは肉体改造の関係で強制的に一日目だから、スオレたちも一日目に決まった。

 クラリーも一日目にして午後から四人と一緒に行動するそうだ。

 今回のお小遣いは一人一〇〇〇モールずつ。

「お小遣いが足りなければ、自分たちで迷宮のモンスターを倒してくれ」

 転職をしたノルターニ以外は稼ぎ放題だ。本当は今さらお小遣いをあげる必要はない。休息日に探索をしないで、純粋に休息するための資金だ。


 リズとアイーリスは二日目を選んでショッピングに行くそうだ。荷物持ち兼護衛はゴーレム先生。

 俺は二日間とも貧民街の子供たちのお世話をする予定。

 まずは休息日じゃないメンバーで転職明けの子供たちのレベルを底上げする。

 全員一気に転職をしていなければ、進んだ階層から探索を進めても問題がないのだろうが、四〇人近い人数がいたので、バラバラにするのも面倒だった。


「今回は単純に一パーティー三部屋で、それを四回繰り返そう」

 手の内を晒せられない以上、レベリングは一一階層で行う。

 戦闘経験のおかげか、前回の一一階層と違い子供たちが落ち着いている。

 クラリーは子供たちのレベル上げをするなら手伝いたいと休息日なのに付いてきた。そして一番落ち着きなく単身でモンスターに突進していく。

 理由を聞いても教えてくれなかったが、絶対に里帰りで何かあったな……。


 三部屋ずつレベリングを行うと、平均レベルが六まで上がった。初級職だから、装備が新調され武器は鉄、防具は銅になる。これでもう転職前よりも強くなったはず……。

 俺は子供たちのパーティーから一つ選んで後ろを付いて行く。

「みんなすまん。左から二番目のラビットをテイムする」

 アンジェに用意してもらった餌を撒いて、餌付け。

【ラビット(Lv二)が仲間になりました】

【称号:ウサギの友(ジャンプ力上昇(小))を取得しました】

・ラビット(♀/普通/二)

 ウーリーの種族モンスターだ。でも、特にいらないので、じゃんけんで勝った子にあげる。


【フェアリー(Lv二)が仲間になりました】

【称号:フェアリーの友達(火耐性(中))を取得しました】

・フェアリー(♀/普通/二)


 低階層だから、テイム発生率が高いんだろうな。っと思いながら後ろを歩いていく。


【ゴブリン(Lv三)が仲間になりました】

【称号:ゴブリンの友達(パーティ戦能力上昇(中))を取得しました】

・ゴブリン(♀/普通/三)


【オーク(Lv三)が仲間になりました】

【称号:オークの友達(筋力上昇(中))を取得しました】

・オーク(♂/普通/三)


 子供たちは次々手に入るテイムモンスターに興奮しているが、全て特別強いテイムモンスターではない。

 三階層ではオークの叫びに女の子たちが一瞬怯むが、すぐに復帰していた。やはりオークが狩れるというのは大きい。

 金銭面でもそうだが〈オークの肉〉は夕食の食材として人気がある。

 人数が多いから野菜スープを中心にしていたけど、子供たちだけで肉を入手できるなら、どんどん食べさせてもいいと思う。


 探索終了後。話し合いの結果、軍師君の発案で、今日の稼ぎは夕食で食べる肉を残し、全てお金に替えてモンスター屋でテイムモンスターを購入することになった。

・オーガ(♂/普通/二)

・パンダ(♂/普通/二)

・オーク(♂/普通/一)

・オーク(♂/普通/二)

 最初からテイムすることを考えていないため、どんどん購入して、どんどん戦力アップを計るようだ。

 経験値は分散するが、単純に考えてすごい勢いで強くなる。

 きっと一ヶ月もしないうちに俺たちを超えるぞ……。


 今日だけで、子供たちの所持するテイムモンスターが八体も増えた。


 翌日も俺は子供たちに付いて回る。

 今日参加したパーティーは四階層で少し様子を見てから、五階層を探索するそうだ。

 購入したばかりのテイムモンスターは強くはないが、弱くもない。普通に戦えばレベルは上がるので、日に日に強くなっていく。

【ウルフ(Lv五)が仲間になりました】

【称号:狼の友(夜間能力上昇(小))を取得しました】

・ウルフ(♂/普通/五)


【ウルフ(Lv五)が仲間になりました】

【称号:狼の友達(夜間能力上昇(中))を取得しました】

・ウルフ(♀/普通/五)


 ウルフをテイムすればリアラとナイラ、狼ちゃんが強くなるので、他が光っていても無視してウルフ一点縛りでテイムした。

 ウルフ(改)とは違い乗れるサイズではないので、子供たちに譲る。


 今日最後の仕上げとして、俺が見守っていたパーティーが五階層を突破した。

 ここまで来るのにたった二日だ……。毎日パーティーを入れ換えているため、レベルは平均的に上がっている。

・オーガ(♂/普通/二)

・パンダ(♂/普通/一)

・パンダ(♂/普通/二)

・ゴーレム(♂/普通/二)

・ゴーレム(♂/普通/二)

 将来の事を考えて強いテイムモンスターを増やす方針も取り入れ始めたようだ。


 今日だけで、またテイムモンスターが七体増えた。


 これなら俺たちが旅に出ても子供たちが戦いを続けている限り『迷宮化』はもう訪れないだろう。


 そして気が付く。

 どうしてクラリーの手紙には迷宮都市の『迷宮化』の危険を知らせる内容が書かれていなかったのか……。


 それは俺たちにとって、子供たちの育成が必要な分岐点だったからだ。

 未来はわからない方が面白いな……。

 貧民街の子供たち育成編は終了です。

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