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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
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成長披露

 日付はクラリーが炭鉱の町に旅立った翌朝。


 俺たち家族の恒例行事でもある迷宮探索後に行われる露店で買った〈肉の串焼き〉を食べる行為。

 四〇人規模の初期装備しか身に付けていない子供たちが迷宮前で行儀悪く食べる様は大いに人目を引いたことだろう。


 その結果、迷宮都市ではある噂が流れ始める。

『貧民街の子供たちが迷宮から生還した』


 俺は最初から貧民街の子供たちにモンスターの間引きが出来るなど、これっぽっちも思っていない。

 俺の狙いは貧民街の子供たちでも生還できるほど今の迷宮は安全になったと広める事だ。

 それともう一つ、貧民街の子供たちはパーティーを組んで数に物を言わせた探索を進めているということ。


 この世界では冒険者ギルドがパーティーの募集や、斡旋などは一切行わない。基本的に依頼された事を掲示板に貼るだけだ。

 そのためソロ狩り、ペア狩り。貴族の戦闘奴隷を使った狩りが主流となっている。

※人数を換算する時はテイムモンスターを含まない。

 炭鉱の町ではすでに改革を終えているが、パーティーを組むという発想がそもそもない。長旅で同じ馬車に乗った気の合う相手とパーティーを組めれば大成功と言える。

 一人、二人では無理でも一〇人集まれば五階層ぐらいまでは一週間もかからずに到達できるはず……。



 貧民街の子供たちは俺の予想を上回り、たった二日でレベルが八に到達する者が出始めた。

 もしかすると俺はとんでもない部隊を育成しているのではないだろうか? そんな予感が脳裏をよぎる。


「よし、今日は一人ずつ得意な事で俺たちに腕前を見せてくれ。例えば、剣が得意なら剣速。弓なら命中率のような披露でも構わない。評価のいい者にはモンスター屋でテイムモンスターを買ってやる」

 子供たちから歓声が上がった。

 テイムモンスターを持つ事は、この世界では一つのステータスのようなものだ。


 いつも夕食を食べているスペースに家族が陣取り、子供たちが一人ずつ(みが)いた技術を披露していく。

 七人が終わった頃。

 モズラがなぜか嬉しそうに説明してくる。

「あ、次の女の子。一昨日言ってた弓の腕前がすごい子ですよ」

 そういえば夕食の席で言ってたな……。

 教官を順番にしているから、目立つ子は覚えているようだ。

「先入観で評価を間違えるなよ」

 俺たちの話を盗み聞きしていたパンダ様が、なぜか納屋に走っていった。

 戻ってきた手には〈最後尾〉のプラカードを持っている。懐かしい。

 はじまりの町で作ったアレだ。まだ持ってたんだな。

 宝物だったのか?


 パンダ様は弓の腕前を披露する女の子から二〇メートル離れた位置に立って、板をバンバンッと叩いた。どうやら、射ってこい! って言っているようだ。

 しかし、弓の評価をするにはさすがに、的がでかすぎる。

「『後』の右下の『(▽部分)』を狙います」

 女の子も同じ事を思ったのか、射つ場所を宣言した。


 パンダ様は射る人を一切見ていないので、矢の軌道に合わせてプラカードを動かして少女を助けるような事はできない。

 そして的の高さをなるべく変えないようにゆっくり横に歩き始めた。

 えっ? 歩くの? モンスターは常に動いてるんだから、戦闘中に矢を当てるにはその通りなんだけど……。難易度上げてきたな……。


 少女は一瞬足元を確認して、さっと弓を引き、矢を放つ。その間わずか三秒。

 バンッといい音がパンダ様の持っている板から聞こえた。

 パンダ様がプラカードを持って審査員席に走ってくる。

 確認すると、宣言通り()の▽の中に矢が刺さっていた。

 団体戦の場合、モンスターが多いから集団の中に向けて射てばほぼ当たる。そうではなく、この二日間一射一射丁寧に狙って訓練をしてきたのだろう。

「これは間違いなく合格だな」

 審査員が頷いて満場一致。子供たちから拍手で祝福された。


 また数人小粒が続く。


「木刀でコーシェル先生と勝負をさせてください」

「はっ?」

 バカがいるぞ。〈村人〉でコーシェルに勝てるわけがないだろ……。

 あまりにもビックリして、椅子からずり落ちるかと思った。

 平静を装って声をかける。

「コーシェル、ご指名だぞ……」

「はい」

 男の子が『コーシェル()()』と言ったからには、知り合いなのだろう。演武のつもりで黙って見守る事にした。


 距離五メートルの位置で二人が木刀を構える。男の子は左手に木の盾も装備。

 先に動いたのは男の子。

 斜め上に振りかぶってコーシェルの左肩目掛けて木刀を振り下ろす。

 コーシェルが木刀で受け止めた。

 男の子は体を捻って空いているコーシェルの右腹部を狙うようだ。左手に持っていた盾を横切りのように動かす。

 んっ?

「あ、ごめん。ちょっとストップだ」

 一度中断させる。


「木刀を二本持ってみろ」

 俺が声をかけると、ギャラリーの子供たちから木刀が回ってきた。

 支給された物は木刀と盾だったために、思った動きが出来なかったのか?

 木刀を二本構えると、よくあるなんちゃって二刀流になった。左右の筋力が違いすぎるため、左の剣は短い方がいいかもしれない。少し重そうだ。

 コーシェルは初めての二刀流相手でもモンスターが二体同時に襲って来ることはよくあるので動じない。


 先に動いたのはやはり男の子。コーシェルが先手をあげているのだろう。

 今度は左手の木刀を使って、横切りでコーシェルの木刀を誘うようだ。

 残念ながらコーシェルは誘いに乗らずに軽く下がって避け、反撃とばかりにがら空きになった男の子の左側に木刀を滑らせる。

 男の子が木刀を交差させてこれを防ぎ、右の木刀一本で鍔迫(つばぜ)り合いを開始させ、サッと左の木刀で突きを繰り出した。

 しかし、それを読んでいたコーシェルがターンをして避け、柄で男の子の右脇腹を殴って撃沈させる。

 結構深く入ったな。

「ビエリアル回復してやれ」


 コーシェルが手を抜いていたとは言え、面白い戦いだった。最初から男の子がコーシェルに勝てるとは思っていなかったが……。

 果たして、判定は?

「どうする?」

「彼に合わせた武器を作りましょうか?」

 俺たち家族は同じ武器でも好き好きがあるので、使いやすいように微妙にバランスを変えていたりする。一本調整するのにかかる時間は、ものの何分間の作業ではあるのだが、四〇人分をやるとなると手間だ。

「エヴァールボがそれでいいなら、右手の武器の他に、左手用は少し短くて軽めのを用意してやってくれ」

「わかりました」

「次」


 また何人か小粒が続いた。


「あの~」

「なんだ?」

「戦術を練るのが得意なのはどうやって、披露すればいいですか?」

 そういう軍師的な奴もいるのか……。考えてなかったな。

「あとで迷宮で腕前を見る。ランダムで選んだメンバーの特性を活かして、二回で最適の作戦を披露してくれ」

「わかりました」

〈村人〉ばかりじゃ、作戦も何もないか……?

「次」


「野草の知識があります」

 んっ?

 どうしたらいいんだ? 俺にはそんな知識はないぞ?

「誰かこっち側でわかる奴はいるか?」

 みんなが首を振ってしまった。

 花の知識ならモズラたちがあるんだけどな……。

「転職で何を目指す?」

「〈薬師〉です」

「なるほど」

 調合に必要な知識なのか?

「今後の成長で判断する。今回は保留にさせてくれ」

「わかりました」

〈薬師〉になれたら、下準備用の器具を買ってやればいいか……。


〈村人〉卒業記念の催しは軍師君の采配で幕を閉じる。

 実際には軍師と言うよりは、適性を見抜く力があったっと言った方がいいのか。モンスターとの相性が悪い奴をすぐに下がらせ、危険を最小限に減らすのがうまかった。

 死ななければ、怪我をしなければ、どんどん強くなれるのだから、こういう人材は貴重だ。


 モンスター屋で弓の子はパンダ、軍師君はオーガを選ぶ。

 これが子供たちの励みになれば安いものだ。


 午後からはそれぞれ迷宮探索に向かった。子供たちの中にはまだレベルが七の子が八割ぐらいいる。


 その日の夕食前に行われた三七人分の転職代金は俺一人よりも安いし、種族固有職のバカ高い金額もなかったので、二〇万程度だった。


 初級職にさえ就けば、稼ぎ方の幅は広がる。

 四〇人もいれば二〇万ぐらい数日で返せるだろう。


 巣立った雛鳥たちとは、会う機会が減るだろうと思っていたが、夕食は相変わらず俺の家に食べに来る子供たち……。


 日付が変わりそうな夜中に玄関で物音がするので確認すると、クラリーが帰宅していた。

「もっとゆっくり羽を伸ばしてきても良かったんだぞ……?」

「どうやら、ゆっくり休むよりも刺激ある戦闘の方が合っていたようです。〈人形の心〉は無事入手出来ました。眠いので、細かい報告は明日します」

「あぁ、おやすみ」



 次回予告ニャ!

「今回は夜中ニャ! アイーリスは夢の中ニャ。邪魔する者は誰もいないニャ……」

「次回は子供たちが肉体改造で苦しむにゃん。むにゃむにゃ……」

「ニャ! ね、寝言……?」

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