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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
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クラスアップ

 レイスはアイーリスのテイムモンスターにしたが、主人になった少女は未だ夢の中。

 あの寝言はいったいどういう意味だったのか、すごい疑問が残る。

 カメレオンは俺が位置を見極めれば大丈夫なので、大した脅威ではない。

 しかし、スオレとリオーニスには試してみたい事があるらしい。


 次の部屋で、豆まき後。

「「角材キャノン発射!」」

〈大工〉のスキルで出した角材をスオレが水平やや上に構えて、リオーニスがハンマーで叩いて打ち出していく。殺傷力はそれほど高くはないが、傷を負わせてカメレオンの位置を探るには充分だった。

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。

 ずっと出していればSPが減り続けるが、床に落ちた時点で消していくため省エネ。


 リアラは上品だから、もし氷結魔法で同じことが出来たとしても、絶対にしない。こういう雑な戦術を嫌う傾向がある。

 でも、効率を考えれば最良の策なため、きちんとフォローに回り、姿を見せたカメレオンに氷の長い(くぎ)を刺して、身動きを封じていく。氷の形状は〈大工〉に合わせたのだろう。

 二人の頑張りが、リアラという強者を活かしている。


 一八階層の初物は「蝋人形」

 蝋人形はモンスターとしては珍しく小さい。五〇センチ程で俺がこの世界に来た時に着ていたような〈村人の服〉を着た人形だ。服から外に出ている顔や手、足の部分は全て白で出来ている。普通に考えてあれは蝋だな。

 ただ、モンスターの弱そうな見た目に反して、家族の精神的ダメージが大きい。

 人形を見て、動かなくなったご主人様人形を思い出してしまった者の手が次々止まる。


[ペコペコ]、[レイス]、[ゾンビウサギ]、[カメレオン]、[蝋人形]

 素材は蝋だから、熱すればいいと思うが、リズはレイスの相手で忙しい。

「ここは私に任せてください」

 モズラが火炎瓶を投げて、蝋を熱する。指示をしなくても最良の一手を判断してくれたようだ。


 蝋人形は火を避けて行動している。

 その上、遠距離の攻撃手段を持たないため、部屋を半分に横断するイメージで火炎の道を広げておくと、立ち往生させる事ができた。他のモンスターたちと分断する事で、数を減らせてより安全になる。

「瓶の割れる音がなければ、()()の一手なんだがな……」

 ガシャーンガシャーンッと鳴って、アイーリスのお昼寝の妨げだ。


 そして、アイーリスが起きた。

 途中で起こされた感じではなく、充分な睡眠が取れた顔をしている。

 身体能力が高いから短時間で効率よく体力を回復できるのかもしれない。


 戦闘が終わるのを見届けてから、アイーリスに気になっていた事を質問する。

「レイスをアイーリスのテイムモンスターにしたけど、どうやってテイムしたかわかるか?」

「寝ていたから、わからないにゃん」

 概ね予想通りだな。偶然なのか、今はまだ眠っている力なのか……。期待するのはやめよう。


――――――――――

 ドロップアイテム ※( )の中は売却価格


・蝋人形→蝋(三〇モール)と二八モール


――――――――――


 夜の灯りは油を使ったランプが主流なため、蝋を使った蝋燭(ロウソク)を作る技術が発展しなかったようだ。

 使い道がないアイテムという事で、買い取り価格が安くなっている。

 俺は蝋を一度溶かして蝋燭を作る方法を知っているので、売るつもりはない。


 特に危険を感じないので、どんどん進む。


 アイーリスが寝起き初の妖精魔法を使った。

「妖精魔法【カマイタチ】にゃん」

 さっきよりも発動が早い。そして台風のサイズが大きくなった。

 さっきは爪で引っ掻いたような傷だったのに、今度は浅いとは言え、缶切りで切ったような傷を作る。

 俺たちは知らなかった。

 妖精にもレベルが存在していた事を……。さっきのは低レベルの妖精が放った魔法だっただけだ。

 アイーリスは寝ていたとは言え、ずっと一緒に行動をしていた。


 俺はフェアリーの称号をオンにする。

 アイーリスには伝えていないので、なかなか次の魔法を使わない。

「妖精魔法【カマイタチ】にゃん」

 きた。発動までがさらにスムーズになった。

 今度は彫刻刀で切ったような少し深い傷を付ける。カマイタチの威力がアップした。

 違いにバレる前に称号をオフに戻す。

 あまりアイーリスが目立ちすぎて、モンスターから狙われても困る。


 午後から来ただけなので、途中で引き上げた。無理すれば二〇階層を攻略出来ると思うが、レベル上げも兼ねているので、一六階層は美味い。


 迷宮探索後。いつも御用達の露店で〈肉の串焼き〉を購入する。露店のおっちゃん曰く、久しぶりに売り上げが伸びているらしい。

 貧民街の子供たちが買ったおかげだろう。

 約四〇人×三〇モールか……。俺が豆まきした額よりも少ない気がする。おっちゃんには言えないな。


 恒例行事の後で雑貨屋へ。

 俺とリズとアイーリスの三人で仲良く買い物に来た。

「懐かしいニャ! 相変わらず繁盛し……」

 なんとか最後まで言わなかったが、もう全部言ったのと同じだ。うん、人がいない。

 俺とアイーリスは気にせずリボンを選ぶ。

「どっちがいいにゃん……。迷うにゃん……」

 右手に赤、左手に黒。を持って悩んでいる。両方買う事ももちろん出来るが、もう少しだけ様子をみる。

 リズのしっぽにはピンク色のリボンが付いているので、赤色のリボンにするようだ。

 リズと同じようにしっぽの先から五センチ辺りに蝶々結びをする。

「ママとお揃いにゃん!」

 リズとアイーリスがしっぽに付いたリボンを合わせて笑顔で幕を閉じた。


 夕食前。アンジェがウーリーを連れて、声をかけてくる。

 俺は今日も大量の〈スライムのかけら〉を消費するためにゼリーを作っていた。

「旦那様、ちょっといいですか?」

「どうした? すまん。あとは大きい器に移して、昨日みたいに冷やしておいてくれ」

 ゼリー作りはリズとリアラに引き継いでもらう。アイーリスはすぐ横でしっぽを豪快に振って、出来上がりを楽しみに待っている。


 俺たちは三人で居間のテーブルに移動した。

 こちら側は俺一人、向こう側にアンジェ、ウーリーと座っている。

「ペコペコの雛の件ですが……」

「うん」

「ウーリーの話では、もういつでもクラスアップができるそうです」

 ウーリーの顔を見ると首を縦に振っている。なぜ、自分で言わないのか気になるところだが……。

 アンジェのテイムモンスターだからか?

「なんで、ウーリーはそれがわかるんだ?」

「私は〈配合師〉ですから、ある程度はモンスターの気持ちがわかります。本日、ペコペコの雛たちのレベルが一定値に達した事で、クラスアップをしてもいいかお母さん(アンジェさん)に聞いて欲しいっと……」

 クラスアップ? この場合は雛が成体になる事だろうな。

「んっ? 一定値で大きくなれるのか?」

 ペコペコの雛たちは二〇を越えた。一定値とは二〇の事か……?

「確かミニスライムたちはいつの間にか大きくなったぞ?」

 炭鉱の町を出発する日だったかな?

「それはきっと時期がきた成長です。今回は強くなったので、本来よりもずっと早い成長です」

『英才教育』のように、レベルが上がった事で体が出来上がったのか? ゲームで言うと成長限界?

「あれ? ちょっと待った。どうしてクラスアップをするのに主人の許可がいるんだ? 今回はアンジェの子だから、親の許可だが……」

「レベルがリセットされますし、体が大きくなれば餌代がかかってしまいます……」

「あぁ――そういうことか……。クラスアップをさせてもいいぞ。何ならあの子たちを増やして、人数分の乗り物を用意できないか?」

「血の関係で、兄弟姉妹じゃない子を見つけて、妊娠させておきます」

「頼む」

 アンジェは夕食の準備を他の人に任せて、さっそくウーリーと納屋に向かった。

 雛が(かえ)ってから、今日を楽しみにしていたからな……。

 クラスアップか……。そうすると岩小僧もいつか大岩さんのようにジャイアントになってくれるのか? 単純にボールが二つになる。

 ミニ(子供)が二〇なら通常がジャイアントはもっと上だよな。今から楽しみだ。


「クラリー! どこかにいるか?」

 伝言ゲームのように人から人へ声がかかり、三〇秒ほどすると、クラリーが居間に現れた。

「何かありましたか?」

「ペコペコの雛たちが大きくなっていると思うから、納屋に行って鞍の準備をしておいてくれ。革部分はコーシェルに任せてもいいぞ」

「わかりました。寸法を測ってきます」

 筆記用具と長さを測る棒を持って出ていく。


「リアラ、今度クラリーと一緒に炭鉱の町に行ってきてくれないか?」

「何かあるんですか?」

「みんなの〈人形の魂〉を壊しちゃったからな……。補充をしておきたい。クラリーもたまには里帰りをしたいだろ……」

 残りはアキリーナ以外みんな貧民街育ちだ。大した思い入れはないだろう。

「〈人形の魂〉ということは、一三階層ですよね? その程度なら、テイムモンスターを貸せばクラリーさん一人でも行けると思いますが……」

「なるほど。その手があったか……」

 着の身着のまま一人の方が楽だよな。


 クラリーは夕食をおにぎりのみにし、部屋で鞍の設計図を描き上げると、コーシェルに革の製作を任せ急いで旅立った。

 貸し出したテイムモンスターは、狼ちゃんと大岩さん、石柱君だ。(石ザルは小さく出来ないため、お留守番)

 手土産に大量の〈カニのツメ〉を持たせたから、大カニさんが食べられる事はないだろう。

 馬車の速度で一日半だから、狼ちゃんなら身軽だから半日程度だと思う。


 夕食。エヴァールボが俺の隣にきた。

「よっぽど里帰りが嬉しかったみたいですよ」

「だろうな。モズラから〈脱出アイテム〉を受け取ったら、回復水も持たずに、あとは手土産だけ持って行っちゃったからな。一応路銀を用意してたのに……」

「あとは現地調達ですね」

「実家があるんだし、大丈夫だよな?」

 きっとあいつは一モールも持ってないぞ……。


 リズとアイーリスは家の中で夕食を食べている。

 アイーリスがおっぱいを飲むため、家族以外の人の目を嫌がったというわけだ。

 リズがいないだけで、夕食が静かだ。

「リズ、どう……」

「栄養が全然足りないニャ!」

 俺は暴食(リズ)暴飲(アイーリス)が織り成す地獄絵図に回れ右をして、庭での夕食を楽しむ事にした。



 次回予告ニャ!

「次回はクラリーさんが里帰りしますにゃん」

「アイーリス! このコーナーは私のものニャ! 次回はクラリーの家出ニャ!」

「子供に嘘を教えるなよ……」

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