情報収集
翌朝、目を覚ますと、リズはベッドの横で目を真っ赤にして、ポロポロ涙を流していた。
どうしたんだろうか?
俺が頭に手を置くと、俯いて語り出した。
「ごめんなさいニャ~、夜伽をせずに眠ってしまったニャ。奴隷失格ニャ」
なるほど。昨日ベッドでふわふわになった毛をなでて楽しんでいたら、いつの間にか気持ち良さそうに寝てたな……。
俺としては充分に楽しめた。一晩中なでなでしてても良かったぐらいだ……。
「気にするな。今日もある」
「はいニャ~」
今日こそはがんばるニャ~とか気合いを入れている。
それにしても頬を赤くして言われると、こちらまで恥ずかしくなるんだが……。
朝食にハムサンドを食べてから、宿屋を出発した。
貴族街に近い『月光』を出て、迷宮のある中心へ。
貴族が用意してくれたのは一泊だけだったので、今夜の寝床を探す。
奴隷を買った次の日に、いきなり野宿はないよな……。
三件の宿屋で宿泊費を聞いたところ、迷宮から遠いほど、安くなる傾向があった。その分グレードも下がる……。
俺としては宿代は節約したいので、迷宮から離れた宿へ。
「いらっしゃい」
受付にはオバサンがいた。若い娘を置いていないのは儲けていないのか?
「今日から泊まりたいが一部屋いくらになる?」
「二名だと、五〇〇モールだね。朝食は付くけど、夕食はないよ」
一人二五〇モールなのに、夕食は付かないのか……。
俺の嫌そうな顔を見て、追加情報が入る。
「併設された酒場で食事をすると、おかずを一品サービスするよ」
迷宮帰りに食べてくる人が多いのか……?
それに宿の食事の時間を気にせず探索ができていいか? 何だか、これはありがたいサービスにも思えてきた。
「わかった――それでいい。テイムモンスターがいるが、エサ代と宿舎代はいくらになる?」
俺の後ろに待機しているモンスターたちを一瞥して答える。
「パンダのエサ代が二〇〇モール、オーガのエサ代が一〇〇モール、スライムのエサ代が無料だね。宿舎代は全部で一〇〇モールだよ」
パンダのエサ代が安いな……。迷宮都市にはパンダが多くて笹が出回るのか? 余計な事は言わないでおく。
「もしかしたら、これからテイムモンスターが増えるかもしれないが、構わないか?」
「その都度言っとくれ」
九〇〇モールを払って部屋を確保した。
荷物は運んでくれるサービスはないようだ。リズが重そうに三階まで運ぶ。後衛に荷物持ちとか、無理だろ。
荷物を置くついでに、部屋を確認すると、ベッドは二つあるけど、やはりお風呂はない。
お風呂がある宿は迷宮の近くの高級宿だけか?
昨日のうちにお風呂を堪能できて良かった。
「貴重品は部屋に置きっぱなしにしないでおくれよ」
「はい」
夕食の時間は酒場だから、夜遅くでも食べられる。酔っ払って倒れた場合は部屋まで輸送サービス付き。
至れり尽くせり……?
寝床の用意が出来たので、探索のための準備だ。
俺は装備があるからいいけど、リズは奴隷の服しかない。
職業〈村人〉に戦力を期待するのは、酷と言うもの。スライムを倒すのに、木刀で二回もかかるんだからな……。
リズはレベル一だった頃の俺よりも筋力がなかった。この辺りは種族的に後衛なので、仕方ない。
武器:短剣、盾:木の盾、服:皮の服→四三〇〇モールで購入。
皮の服を試着すると、ピッタリのサイズがなく、サイズ調整をしてもらうことになった。
多少の時間がかかるため、調整後は宿屋に届けてくれるという。
最初に寝床を決めておいて良かった……。待っているはめにならずに済んだ。
将来的にはローブのような物を着ると思うから、せっかくサイズ調整をしても長くは使わない気がするけど保険だ。
装備が決まったので、今度は中に着る服を探す。
奴隷が着る服は最底辺の品でいいらしいが、可愛い子に安い服を着せるのは、心苦しい……。
リズはもともと孤児院の出身で、裕福だったわけではない。そのため何でも喜んでくれそうだけど、どうしたものか……。
二人で仲良く歩いていると、ボロい服が無造作に山積みになっている店を発見した。
リズがバッと走っていき、店員に値段を確認する。
「このお店で買うニャ~」
色付きの服を中心に広げてサイズをチェックしているが、判断基準がよくわからん。
特別可愛い服を選んでいるようにも見えない。と言うか、可愛い服などそもそも皆無だ。
「白以外が好きなのか?」
「長く着られるように、汚れても目立たない色がいいのニャ~」
古着なので、多種多様ではあるが、着潰すまで着るつもりのようだ。
今はそこまでお金に余裕があるわけではないため、当分は便乗させてもらおう。
いつかリズには『買ってもらえて、良かった』と言ってもらえるような主人にならなくては……。
ちなみに、下着とスカートにはしっぽの穴を開けた。
これでスカートがしっぽでめくれる心配がなくなる。
ラッキースケベは減らしておく。
うちの子を見ていいのは俺だけだ!
服、下着→五〇〇モールで大量購入。
次はリズを専属で守るテイムモンスターを選ぶ。
しかし、モンスターの友の数値が壊滅的だったため、レベル五までしか選べなかった……。
頑丈そうな奴がいたので、即決。
・ゴーレム(♂/普通/二)→三万モールで購入。
・テイムモンスターの印→五〇〇モールで購入。
ゴーレムはパンダ様より高い……。
――――ステータス――――
名前 ゴーレム
性別 ♂
素質 普通
レベル 二
HP 九五/九五
MP 〇/〇
SP 〇/〇
筋力 二三
体力 二〇
素早さ 四
かしこさ 二
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特性
・物理攻撃に強いが、魔法攻撃に弱い。
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装備
・テイムモンスターの印(右腕に装着)
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「きちんと大事に世話をしてやってくれ」
俺はゴーレムをリズに預ける。
「ありがとうございますニャ」
真剣な顔で答えるけど、目線はテイムモンスターに釘付けだ。どこか名もなき町の宿屋の受付嬢を思い出す。
テイムモンスターを背後に連れて歩く姿は、一端の冒険者に見える。
このままではゴーレムは戦えるけど、パンダ様の武器がすぐに駄目になって戦えなくなってしまう。
鍛冶屋でパンダ様の特注武器を発注する。
見た目は竹! 材質が鉄!
聞いてみると、昔パンダ用に作った在庫品が残っていた。
鉄竹(攻撃力+二〇)→五〇〇〇モールで購入。
さすが迷宮都市。ない武器は鍛冶屋で作ってもらえばいいようだ。欲しい物が手に入る。
最後に冒険者ギルドに寄って、無料で張り出している迷宮の低階層の順路をメモった。
ついでに買取依頼のチェックをする。
今後は腰を据えて活動するかもしれない。
少しでも高く売れるなら俺としても是非売りたい。
だが、低階層の依頼は全くなかった。
それに同じ買取依頼でも、一モールずつずれているところに人間の汚さを感じる……。
すごい共感できるところが悲しい……。
ぐ~~。
用事も情報収集も終わったところで、可愛い音が鳴った。
リズのお腹の音だ。
音に反応して顔を向けると、すごい早さで目をそらされた。顔中が赤い。若干涙目だ……。聞こえちゃったかニャ~とか言ってる。バッチリ聞こえました! とは言わないでおこう。
さて、どうやって誤魔化して、取り繕うか……。
「迷宮都市の出店はおいしいのか?」
「そう聞いてますニャ~」
「リズには毒見をしてもらわないとダメだな……」
リズの顔が満面の笑顔になった。
「はいニャ~!」
目が輝いている、それにヨダレまで……。これは将来淑女にはなれないな……。
可愛いからいいか。なでなで。
迷宮都市の出入口の前にある広場の脇には出店が出ていた。
そこで〈肉の串焼き〉(三〇モール)を三本買って仲良く食べる。モンスター肉じゃないから安いそうだ。
リズは両手に一本ずつ……。
「ご主人様に買ってもらえて、幸せニャ~。一生ご主人様について行くニャ~」
服を買った時にした俺の決意はいったい。もう買ってもらえて良かったとか――安いな……。将来男にだまされるぞ。いや、俺が一生手放さないか。
口の周りにソースを付けて、幸せそうな顔で食べている。
意外とこの子、世話がかかるんだよ……。
お肉を食べ終わって満足したようで、現状に気が付く……。
口も手もベトベト……。
顔を赤くして困っている。困ったリズも可愛いけど、口を拭いて、手を拭いて、キレイにしてやると、恥ずかしかったのか、声が小さくなる。
「ありがとうございますニャ~」
「気にするな」
頭をなでながら、日向ぼっこしていると、リズは膝の上でスヤスヤ寝息を立て始めた。
――――ステータス――――
名前 緑野赤
種族 人間
性別 男
素質 天才
クラス 獣使い
レベル 一〇
HP 一四〇/一四〇
MP 〇/〇
SP 二三〇/二三〇
筋力 五
体力 五
素早さ 五
かしこさ 五
モンスターの友 七〇
残りポイント 〇
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クラス特性
・モンスターをテイムできる。
・獣系のモンスターのテイム確率上昇、また獣系のモンスターの能力上昇(上昇率はレベル依存)。
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称号
・スライムの友(衝撃耐性(小))
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装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
・細剣/木の盾/皮の服/なし
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所持金
・三万八九四〇モール
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テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・パンダ(♂/良い/一三)
武器:鉄竹
・ブルースライム(♀/良い/一一)
武器:鉄のキバ
従属:ミニスライム(子供)×八匹
・オーガ(♂/普通/五)
武器:金棒
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奴隷 ※名前(種族/性別/素質/クラス/レベル)
★リズール(ネコ族(ラグドール種)/♀/普通/村人/二)
装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
・短剣/木の盾/皮の服/なし
テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・ゴーレム(♂/普通/二)
武器:なし
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