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迷宮踏破の前に。(挿絵有り)  作者: サーモン
第6章 子育てします。
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人材育成

 二時間後、迷宮内の掃除を終えた家族が帰宅した。本当はみんなが出発した一時間後に迷宮前で待っている予定だったのに、俺が現れなかったから心配して、わざわざ戻ってきてくれたようだ……。

 もう『迷宮化』を経験している家族にとって、迷宮内のモンスターが溢れている状況だけで理解できているだろう。


 帰宅した家族は静かに椅子に座り、その時を待つ。

 あとは俺が自分の考えを口にするだけだ。


「この地を()……」

「迷宮に入る人がいないなら、育てればいいニャ!」

 コイツは突然何を言ってるんだ? 状況を理解しているのか? 魚の食べ過ぎで脳の栄養が偏ってるのか?

 人がいないから困ってるのに、育てる相手なんていないだろ?

 俺が理解に苦しんでいると追加で情報が飛んできた。

「人なら外にたくさんいるニャ!」

 え? 貧民街の子供たち……?

 あの子たちを育てる?

「本気か?」

「一階層なら、装備が揃っていれば危険はないニャ! それにご飯をあげていなければ冬を待たずに死に行く子供たちニャ!」

 後半の説明はひどい言い方だが、日本とは違うこの世界ではきっとその通りなのだろう。


 木刀とはいえ、初期装備があったからこそ旅が始められた。この世界に生きる者はその初期装備すら与えられない。そういった者が貧民街に集まるのかもしれないな。

 俺の家族にまともな出自の者はクラリーとアキリーナだけだ。それでもレベルさえあればきちんと戦える。

 この世界は出自で強さが決まるわけじゃない。貴族だろうと、商売人だろうと、貧民街の子供だろうと同じ。頑張れば誰でもレベルが上がり報われる世界だ。

「やるだけやってみるか……」

 兵法三六計の一つ。逃げの一手にはまだ早いな……。


 方針が決まれば、さっそく行動を開始する。

「エヴァールボには、将来の武器を今日から作ってもらう……。銅や鉄の余り物を使いきってもいいぞ」

 武器の作成はスキルLv上げのついでだ。

「わかりました」

 まずは〈村人〉のレベルを八にするのが目標。

 こんな時、ギラーフがいてくれれば、面倒見がいいから助かるんだけど……。


「初期装備の購入からだ。買い物はエリスがいいだろう。武器は〈村人〉が装備できる武器なら何でもいい。木刀、短剣、斧、棍棒、弓、杖など色々あるだろ。防具は最低限の物があればいいぞ。足りない分は別の武器屋、防具屋を回って掻き集めてくれ」

「わかりました」

 子供たちは三〇人以上いる。種族がバラバラだから、使いたい武器もバラバラだろう。

「とにかく人数分買って来い。防具のサイズ調整はコーシェルが出来る。希望する子供たちを連れてさっそく行け。装備購入後、そのまま迷宮前に集合だ」

 エリスは頷いて出ていく。さすがに一人では手に負えないと判断したのか、ミーナを一緒に連れていった。


「あとは――パーティ構成だな……」



 俺たちはテイムモンスター()()で一〇人組を目標に複数作り、子供たちのレベルを上げるために、迷宮に来ていた。

 一時的に家族とパーティーを切り、子供たちとパーティーを組んでいる。

 昨日も来た一一階層とは目的が全然違う。

 俺のガラス装備は見られるわけにはいかないので、グレードを下げた鋼装備だ。

 武器の性能を落としただけで人前で堂々と戦える俺はまだいい方。手の内を隠すとリアラなんかは完全に戦えない。狼ちゃんに騎乗して指示するそうだ。

 俺が今から面倒を見る子供の数は七人。他のパーティーに比べて一番少ない。


「危険を感じたら来た道に引き返すニャ!」

 子供たちは貧民街の生活を抜け出すチャンスに心を躍らせている。

 何日も食事ができない辛さを経験し、死を間近に感じてきた者にとってこれは転機だ。

 危険があっても拒否する者はいなかった。


 戦ってこそのこの世界。稼ぎが悪い冒険者がいたとしても、貧民が出ること事態が俺に言わせれば驚きだ。

 さて、ここにいる子供たちは小粒ばかりか、それとも大粒の原石が混ざっているのか……。


「この階層では俺たちが戦う。モンスターが近づいてきたら逃げろよ」

 俺はよく子供たちに夕食を振る舞っていたので、リズよりも人気がある。『飯をくれる人』

 俺のテイムモンスターで現在も弱体化をしているのはパンダ様だけだった。パンダ様は鉛竹槍は諦めて、鉄竹槍を装備中。バッティングにはとくに支障はない。

 大サソリさんと大岩さんは〈魔物枠〉なため、俺が〈魔物使い〉になったことでむしろ強くなっている。

「それじゃあ、先に行ってくる」

 俺のパーティーメンバーはスオレとリオーニスだ。


 この作戦が決まってから、能力のダウン症を恐れて早めにみんなをパーティーから外すが、慣れてきたのか、前もってわかっていたからなのか、みんなケロッとしていた。

 俺の根性がないだけか……? あれ結構きついぞ?



 失敗したらどうしよう。隣の部屋に入る前に深呼吸をした。

 俺のパーティーは人数を減らして、他のパーティーを強化している。

 隣の部屋に移動して、敵の量を確認した。

 やっぱり敵はフルか……。

「まずは大岩さん。行ってこい!」

 直線上で一番モンスターを巻き込みそうなラインを狙う。

 多少左右にずれていても、徐々にサイズを大きくして突撃してくれるので、安心だ。

「「「おおおおお!」」」

 大岩さんの突撃で子供たちから歓声が上がった。ギャラリーがいると戦いにくい……。

「サソリさんは左、パンダ様は正面、俺たちは右だ」

 敵に接近される前に陣営を広げていく。

 魔法使い(水)が詠唱を開始した。

「やばいな。パンダ様、あの魔法使いにモンスターを打ち返せ!」

 たまたま、本当にたまたま、水魔法とパンダ様が打ったモンスターが空中で衝突する。

 水が周囲に飛び散った。

 威力はパンダ様の方が勝っていたようで、魔法使いのすぐ横にグレムリンがドサッと落ちて消滅する。

「遠距離があるのはきつすぎるな……」

 他のパーティーに忠告をしてきた方がいいか? もう出発しているよな。それに手が離せられない。

 転職したばかりでレベルは低いが、ステータスはすでに転職前を超えている。あとはHPが少ないけど、なんとかなるだろう。


 一番やっかいな奴が、一番奧にいて倒せなかった。今度は魔法使い(火)が詠唱を開始する。

 仲間への誤爆を嫌がったのか、集団を避けた魔法はきれいに俺たちの頭上を越えて、子供たちに向かっていく。やばい。これは直撃コースだ。

「逃げろ!」

 俺が叫んだ時にはすでに行動していた奴がいた。

 大岩さんの子供。岩小僧がジャンプ一番体で火魔法を防ぐ。普段影が薄すぎて忘れていたが、レベル二〇を超えている逸材だ。

「ナイスだ。遠距離は岩小僧に任せよう。俺たちは目の前の敵に集中するぞ!」

 後ろを気にして集中できていなかったが、岩小僧の体を張った防衛で気が楽になった。

 銅球を振り回して、モンスターを次から次へとペチャンコにするサソリさん。

 奥へ奥へとモンスターを打ち出していくパンダ様。

 縦横無尽にゴロゴロ転がりモンスターを()いていく大岩さん。

 よし、もう大丈夫だ。形勢が傾いた。勝てる。


 人数を減らしているせいで、レベルの上がりが早い。

 まさかの一回の戦闘でもうレベルが四だ。

 これ……。初期装備いらなかった?

 階段側を覗くと一戦目を終えたメンバーが次の指示を待っている。他のパーティーはレベル三が多い。二もいるが、四はいない。どうやら俺たちは頑張り過ぎたらしいな。

「少し戦闘訓練をさせるぞ……。子供たちは五人組に分かれて一階に移動。教官はテイムモンスターを数に入れずに各二名ずつだ」

 手の内を晒せないリアラとナイラ、フローラ辺りは待機組になるように操作した。待機組は一一階層でモンスターを減らす作業をする。危険がないようにきちんと家族をパーティーに戻すことを忘れない。


 最初だから俺も一組担当をする。危なくなったら介入するだけだ。

 子供たちだけでパーティーを組んでいるため、いくら子供たちが戦っても俺たちには経験値が一切入らない。

 今回は見届けるだけに等しいので、リズとペアで行動することにした。

 一階層でモンスターを一〇体になるように間引きして、あとは子供たちに戦わせる。

「懐かしいニャ~」

「そうだな。リズも同じ道を通ったな」

 覚えている。猫族は後衛職だから、短剣で攻撃しなくてもいいんだけど、度胸を付けさせるために、敢えてやらせていた。


 レベルが四になった俺の班の子供たちはそれぞれ別々のパーティーに入れている。やはり、レベルが四の子供はモンスターを倒すのに必要な攻撃回数が少ない。

 数回団体戦を繰り返せばレベルが二だった者は三へ。三だった者は四へ上がるだろう。

 ゆっくりではあるけど、俺たちの蒔いた種が今動き出した。

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