終焉
氷の狼が陣営を広げている間、俺たちはたっぷりと休む事にする。
連続戦闘は慣れているとはいえ、足元が砂で思っている以上に疲れが蓄積していた。
それと時間がある今のうちに外壁に避難して戦場を移動する。
せっかく作り上げた陣営だったが、ケーレルの話ではまだ敵が七〇〇体ぐらい押し寄せてくるそうだ。このままでは巨大モンスターに時間がかかっただけで、瓦解しかねない。
ギラーフたちが何体倒したか知らないけど、こっちだけでも五〇〇体は倒しているはず。何が約一〇〇〇体だ。手付かず迷宮の方が排出量も強さもあって然るべきだった。
みんなが外壁に上り、これから移動をしようとするとフローラが声をかけてくる。
「少しだけ……、少しだけここで休みませんか?」
本当なら一秒でも早く移動して準備を整えたいところだが……。
自分たちの動かなくなった人形を力強く抱き締める家族たち。みんなの視線が氷の狼の戦闘に釘付けだった。あそこで戦っているのは家族の魂だ。
「少しだけだぞ……」
氷の狼一体に七体が群がっても、お構いなしで戦いを続けている。尻尾はとうの昔に魚に食い千切られ、四肢も徐々に細くなり始めていた。
陣営を広げるために敵の中へ中へと進んで行ったため、もう〈人形の魂〉の回収は不可能だ。送り出した時からそれはわかっていた。俺は家族の命と〈人形の魂〉を天秤にかけたんだ。俺の分身もそれぐらいはわかっていたはず。
「すまん。そろそろ行くぞ」
狼が無惨に殺される姿を見せたくない。
しかし、俺たちが移動をしても、モンスターの群れは付いて来なかった。まるで、海亀が消滅したポイントを目指して進んでいるような……。
いや、目指しているのか。
「リズ、あのモンスターが多いところに『獄炎魔法』だ」
「でも、あそこには氷の狼がいるニャ……」
「最後の力で敵を一ヶ所に集めてくれている。タイミングを外せば全てが無駄になるぞ!」
家族がこの迷宮化の荒波から無事帰還できるように。ただそれだけを考えて行動してくれているのだと思う。
だからこそ、ここで撃たなくてはならない。
リズは涙を拭いて気合いを入れると魔法を練り始める。
「行くニャ!」
少し離れた外壁の上から、敵の多い部分に向けて、リズが『獄炎魔法』を放つ。
俺たちはリアラの氷壁で平気だったが、氷の狼はきっと相性が悪いため全滅しただろう。
さすがに耐えられる距離じゃない。
敵を集めてくれたおかげで二〇〇体は一気に片付ける事が出来た……。
「ここからが正念場だ」
リズの魔法で全体的に敵を減らしてきたが、その多くはレベルが一〇程度の雑魚ばかり。
火魔法の蓄積で、砂漠は所々が赤々と溶岩を思わせる熱を帯びている。そのあまりの熱量に進めないと判断したモンスターが海へと逃げ始めた。
残すはレベル二〇以上の巨大モンスターばかり三〇〇体。
「リアラは外壁の内側に下りるための階段を作ってくれ」
「わかりました」
俺たちがさっきまで陣営を展開していた裏側。リズが『獄炎魔法』を撃ち込んで脆くなった外壁の内側にたどり着いた。
「一〇分休憩の後で、外壁を破壊する。ここで敵を迎え撃つぞ」
「敵を招き入れるんですか?」
フローラがとんでもないと言わんばかりだ。
エヴァールボが壁の一角を指さす。
「どうせもうすぐこの壁は破壊されますよ。見て下さい。壁に亀裂が入っています」
縦に大きなヒビがあり、敵の突撃で徐々にその亀裂は広がり始めていた。
「泣いても笑ってもこれが最後の戦闘だ。無理そうならすぐに退却する」
腹ごしらえ。俺たちは呑気に巨大イカを焼いて食べる。
「味付けが塩以外に何もありません……」
迷宮内でも美味しいスープを食べられるように料理をしてきたアンジェ的には、塩だけしか調味料がないのは許せないようだ。
ちなみに塩は〈料理人〉のスキルで出している。
スオレとリオーニスが〈大工〉のスキルで角材を出し、クラリーが薪割りの要領で巨大爪楊枝を作成。爪楊枝の先端に薄くスライスした巨大イカを刺して、角材の焚き火で程よく焼いた。種火にはリズの火魔法が使われている。
「戦場で食べる晩餐だな」
テイムモンスターにも水を飲ませて、生のイカを食べさせた。状態異常になっていないところを見ると、刺身でも食べられそうだ。
「魚も美味しかったけど、この白いブニブニも美味しいニャ!」
時間がないとはいえ、厚みが三センチもあるイカ。パンダ様辺りなら丁度いいサイズかもしれないが、大きすぎないだろうか?
最初からこういう物だと割りきっている家族は、それぞれ無言で頬張って肉厚食感にうっとりしている。
休憩をはさんで、ステータスには表示されない疲労を回復できたところで動き出す。
「あまり大きな穴は開けないでくれよ」
俺は大岩さん(鉛バージョン)を外壁の亀裂に向けて投げる。
大岩さんがサイズを気にしたのか、小さいまま壁に衝突した。
ゴルフボールの分だけ窪みができたとはいえ、外壁無傷!
「ごめん。俺が余計な事を言ったせいで……」
第二球投げました!
ドーンッと音を上げて、三メートルサイズの大穴を開けた。大岩さんはすぐにサイズを小さくして退却してきた。
穴からモンスターが進入してくるのを素直に見ているだけでは芸がない。
「リズは穴に向けて火の竜巻だ」
「わかったニャ!」
魔法が三回も通過すると、穴の周囲は赤々と熱せられ、サーカスの火の輪を思わせる。道であって、道ではない。
っと満足していると外壁の上からモンスターが次々と降ってきた。
「何があった? 巨大タコがモンスターを投げてきたのか?」
外壁に上っているわけではないので、詳細はわからないが、モンスターが向こう側から降ってきている事には違いない。
二体、三体、四体と増えて倒す量よりも送り込まれてくるモンスターの方が多い……。
さらにパンダ様が打ち返すが、方向がまずい……。
外壁にぶつかり、三メートルの穴だけではなく、外側と内側からの衝撃で完全に穴の上が瓦解してしまった。逆三角形のように大きく広がった幅およそ五メートル。
今度は上からだけじゃなく、五メートルの切れ目にどんどんモンスターが飛び込んでくる。
「一度壁を塞ぎます!」
リアラが氷で壁の修復を始めた。残り四メートル。
「痛いニャ!」
今度は何だ?
後ろを振り返ると、少し離れた位置にいたはずのリズの手足を巨大イカが掴み、四方に引きちぎろうとしている。
「ダメだ。退却するぞ」
しかし、フローラにリーダーを渡したままだった。
痛恨のミス。もう間に合わない……。
「最後のお楽しみには合流できましたね」
リズを掴んでいた巨大イカがスパンッと左右に分かれる。真っ二つに斬った? いったい誰が?
イカの向こうにはギラーフが笑顔で立っていた。
「えっ? ギラーフ? 入口は?」
「向こうの戦いは終わりました。あとはここだけです。〈ガラスの剣〉を借りますね」
棒立ちになっていた俺の手に手を重ねて、スッと剣を奪い去る。
「コーシェル、この〈ガラスの刀〉を!」
〈無刃刀〉を投げた時のように投げるが、その刃は巨大海老の頭を貫いて、消滅させた。
コーシェルは使っていた〈鋼の刀〉を手放し、巨大海老の消滅により自由落下を始めた〈ガラスの刀〉が落ちきる前に柄を握り、勢いそのままに近くにいた巨大アワビを殻ごと一閃。
「ガラスの武器は攻撃力が下がらないようです」
コーティングにもよるが、確かに錆からは遠そうだ。海水に直接浸けるとどうなるかはわからないが……。
ギラーフたちの登場で、状況が一変。浮き足立っていた足並みが揃い始めた。
「さすがにもうダメかと思った。フローラ、念のためリーダーと〈転移アイテム〉をこちらへ」
「はい」
きっと俺は顔面蒼白になっていただろう。
二〇分後。迷宮化の終焉を告げるように、俺の視界にはルーレットが表示した。
これはゲームのイベントクリア報酬で、一番敵を倒したパーティーのリーダーに表示される。
『炭鉱の町アンダリオン』では青田がダントツの活躍だったから俺たちには縁がなかった。
今回は――猫系の装備が多い……。
『にゃんころステッキ』、『にゃんころシールド』、『にゃんだるホーン』……。
全部見たことも聞いた事もない。
あ、『万能薬』もある。
まさか、これで手に入れたのか?
俺は軽い気持ちでルーレットを回す。
どうせ、ここにも罠があるからだ。
ボスを討伐していないパーティーがルーレットを回す場合、ゴミしかでない。
『お魚一年分』
いらねー。外壁の外に大量に落ちてるわ!
あー。バカらしい。
――――ステータス――――
名前 緑野赤
種族 人間
性別 男
素質 天才
クラス 獣使い(農夫)
レベル 二五(一)
HP 二九〇/二九〇(+三〇)
MP 〇/〇(+三〇)
SP 五三〇/五三〇(+三〇)
筋力 五(+一八)
体力 五(+九)
素早さ 五(+一二)
かしこさ 五(+九)
モンスターの友 一四五(+一〇)
残りポイント 〇
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クラス特性
・モンスターをテイムできる。
・獣系のモンスターのテイム確率上昇、また獣系のモンスターの能力上昇(上昇率はレベル依存)。
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称号 ※章の最後に記載
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装備 ※武器/盾/服/アクセサリー
・ガラスの剣+一/丸鋼の盾+一/鋼の軽装鎧+一/身代わり地蔵の指輪
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テイムモンスター ※名前(性別/素質/レベル)
・パンダ(♂/良い/二五)
武器:鉛竹槍+一
・ジャイアントサソリ(♀/良い/二四)
武器:銅球
・ジャイアント岩スライム(♀/良い/二〇)
武器:なし
従属:岩スライム(♂/普通/二〇)
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奴隷 ※名前(種族/性別/素質/クラス/レベル)
★リズール(ネコ族(ラグドール種)/♀/普通/魔法使い/一九)
魔導の杖/なし/鋼の軽装鎧+一/お守りのリボン
・ゴーレム(♂/普通/二四)
武器:鉛のメリケンサック+一
・ブルースライム(♀/良い/二五)
武器:鋼のキバ+一
従属:スライム(混合)(混合/普通/二〇)×八匹
・オーガ(♂/普通/二四)
武器:鉛のハンマー+一
★ギラーフ(リス族(シマリス種)/♀/普通/盗賊/二四)
ガラスの刀+一/丸鋼の盾+一/鋼の軽装鎧+一/護符
・石アント(♂/普通/二二)
武器:鋼の槍+一
・石ウリボー(♂/普通/二二)
武器:なし
・スケルトン(♂/普通/一七)
武器:なし
・海ヘビ(♀/普通/一七)
武器:なし
★モズラ(ヒツジ族(サウスダウン種)/♀/普通/錬金術師/二四)
自動装填ハンドボウ(SP使用)/なし/鋼の軽装鎧+一/護符
★ビエリアル(レッサーパンダ族(レッサーパンダ種)/♀/普通/聖職者/二四)
聖導の杖/なし/鋼の軽装鎧+一/護符
・オーガ(♀/普通/二三)
武器:鉛のハンマー+一
・ハムスター(♂/普通/二三)
武器:鋼のキバ+一
★エヴァールボ(ハリネズミ族(パイド種)/♀/大器晩成/鍛冶師(ハリネズミ)/二〇(二〇))
ガラスの大剣+一/鋼の盾/鋼の鎧/護符
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同居人
☆ミーナ(人間/女/良い/踊り子/一五)
鉄扇+二/なし/踊り子の服/護符
・石タートル(♀/良い/一九)
武器:なし
☆エリス(人間/女/普通/商人/一五)
鋼の短剣+一/丸鋼の盾+一/軽装の鎧/護符
・石ビートル(♂/普通/一九)
武器:なし
★アンジェ(人間/女/普通/料理人/二〇)
鋼の包丁+一/丸鋼の盾+一/軽装の鎧/護符
従属:ペコペコ(雛)(混合/普通/一四)×一〇匹
・魔法使い(土)(♀/普通/二〇)
武器:鋼のステッキ+二
★フローラ(ユニコーン族/♀/普通/神聖術師(ユニコーン)/一六(一七))
鋼のステッキ+二/なし/軽装の鎧/護符
☆キーリア(サル族(リスザル種)/♀/普通/農婦/一五)
鋼の鎌+一と鋼の鍬+一/なし/軽装の鎧/護符
・フェアリー(♀/普通/二一)
武器:鋼のステッキ+二
・石サクランボ(♀/普通/一九)
武器:なし
★リアラ(オオカミ族(ツンドラオオカミ種)/♀/普通/氷結術師(ツンドラオオカミ)/二〇(二〇))
鋼のステッキ+二/なし/軽装の鎧/護符
★ナイラ(オオカミ族(ツンドラオオカミ種)/♀/普通/氷狼(ツンドラオオカミ)/二〇(二〇))
鋼の剣+一と鋼のナイフ+一×一〇本/丸鋼の盾+一/軽装の鎧/護符
☆ウーリー(ウサギ族(ホーランド・ロップ種)/♀/普通/配合師/一四)
鋼の短剣+一/丸鋼の盾+一/軽装の鎧/護符
・石柱(♂/普通/二〇)
武器:鋼の槍+一(投擲用)×七本
★コーシェル(タヌキ族(エゾタヌキ種)/♀/普通/裁縫師/一七)
鋼の刀+一/丸鋼の盾+一/軽装の鎧/護符
・ゴーレム(♀/普通/二〇)
武器:鉛のメリケンサック+一
防具:鉛板の鎧+一
☆クラリー(ドワーフ族/♀/良い/細工師/一七)
鋼の斧/なし/鉄の鎧/護符
・石ザル(♂/普通/二〇)
武器:なし
☆スオレ(イタチ族(アンゴラフェレット種)/♀/普通/大工(アンゴラフェレット)/一〇(一三))
鋼のハンマー+二/なし/軽装の鎧/護符
☆リオーニス(イタチ族(アンゴラフェレット種)/♀/普通/大工(アンゴラフェレット)/一〇(一三))
鋼のハンマー+二/なし/軽装の鎧/護符
☆ケーレル(マングース族(ミーアキャット種)/♀/普通/斥候(ミーアキャット)/一〇(一三))
鋼の短刀+二/丸鋼の盾+二/軽装の鎧/護符
★ノルターニ(鳥族(コウノトリ種)/♀/普通/村人(コウノトリ)/一五(一五))
短剣/木の盾/軽装の鎧/護符
★アキリーナ(王族/♀/良い/プリンセス/一〇)
鋼の短刀+二と錫杖+二/なし/軽装の鎧/護符
・グレムリン(♀/普通/一五)
武器:なし
・スケルトン(♀/普通/一五)
武器:なし
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