黒幕?
巨大イカ、タコ、サソリを倒した直後、ケーレルが慌て出す。
「中から一体とても強いモンスター反応があります」
悲鳴が聞こえたからには中にもモンスターはいるだろうが、さっきまではここまで取り乱していなかった。
今の戦いの中でレベルが上がって、探知機の性能が上がった?
「ここにいた三体よりもか?」
「はい!」
レベル二〇より上の敵か……。ヤバイな……。
フーリエンを捕らえた時にいた女王の側近のレベルが初級の三〇だった。レベルだけが強さの目安じゃないとしても、普通の衛兵の中に側近を超える逸材がいるとは思えない。つまり、俺たちが動かなくては国中を蹂躙されかねない。
「あ、待って下さい。その強いモンスターの周囲にいるモンスターがすごい勢いで減っています」
ギラーフたちが現場にたどり着いたのか?
急いで確認する必要があるな。
「石柱君、俺とノルターニを壁の上に向けて投げてくれ」
ノルターニは俺の意図をすぐに理解できたのか、コートの中を脱ぎ、獣化する準備を開始した。コウノトリ用のコートには脱がなくてもいいように、翼を出す穴が完備されている……。
コーシェルさんナイスです。
「すまないな。戦場で……」
今も戦闘は続いている。さっきのようなレベル二〇のモンスターは現れていないが、それでもレベル一〇のモンスターが流れてきているため、常時戦っていないと増える程度には渋滞している。
「いえ、大丈夫です」
石柱君に二人まとめて投げてもらい、放物線の頂点でノルターニが獣化して滑空を始めた。
思った以上に上空まで飛んだため、周囲を見渡す。
「右に大きいのがいます」
ノルターニが指示した右方向を見ると――巨大なモンスターがいた。亀? 家を背負って移動できそうなサイズだ……。どうやら予想通りギラーフが食い止めている。ダンジョンの外で遭遇するとジャイアントモンスターも大きくなるのか?
亀は周囲の家を瓦礫に変えながら暴れている。
そして逆方向の左側には、やはりと言うべきか、フーリエンの逃げる姿があった。右肩を負傷している男が少し前を先導して走っている。
騒ぎを起こして脱獄させたか?
そんなことより、今はギラーフを助けなくては……。
城壁から七〇〇メートル程に、平らで広い民家の屋上があったのでそこに着地する。
ギラーフまではあと三〇〇メートル。
「ノルターニは戻ってリズとモズラとエヴァールボを連れてきてくれ。それから……」
俺は青田から受け取っていた帰り用の〈転移アイテム〉をフローラに渡すように言った。
「もしもの時は躊躇わず、先に帰れ!」
パーティーのリーダーをフローラに変更する。
一〇分とかからず、全員が揃った。
「早かったな」
「打ち出された頂点でキャッチしてもらいましたから……」
「楽しかったニャ~」
モズラは絶叫マシーンに乗ったような真っ青な顔になっている。リズは平常運転だ。
「このまま向かっても足手まといになりそうだから、見ていて気が付いた点を言ってくれ」
「ガラスの刀で攻撃をしていないようですが……」
この一〇分ギラーフは一度も攻撃をしていない。
大振りな亀の攻撃を避けた後に隙を突くぐらいギラーフなら造作もないはずだ。
「甲羅が堅過ぎて刀じゃ攻撃が通らないのか? そういえば、あのナイフはどこにあるんだ?」
「私が持っています」
手紙の効力がまだ続いているとすると、あのでかいのに攻撃を与えられるのは、モズラが預かっているナイフだけ?
「それじゃ俺たちもボス戦に向かうか……」
民家の屋根の横階段から下りて、真っ直ぐギラーフのもとへ向かった。
「ギラーフ、待たせたな」
「いきなり大当たりを引いちゃいました」
ギラーフが嬉しそうに返事をする。まだまだ余裕だ。
ステータス表示には『ジャイアントシータートル』レベル四五……。巨大海亀!
炭鉱の町の最後の岩を考えると、同じレベルだから、こいつがボスだ。
「尻尾が上がりました。口から水弾が来ます」
ギラーフの宣言通り大きく開けた口の中から巨大な水弾が発射された。巨大と言っても岩スライムの方が大きい。サイズは直径三メートルぐらい。リズの魔法より大きいけど、あれは完全にセーブした状態の水弾だ。
俺たちが綺麗に避けると、後ろに建っていた家の壁にぶつかって、壁に放射状の大きなヒビを入れた。瓦礫にならなかっただけ、幸運だったと思ってもらおう。
「攻撃パターンがわかるのか?」
「頭を下げた時の行動パターンが多いんですよね……。さっそくきました。くるっとターンをしながら尻尾で攻撃をしてきます」
俺たちはギラーフの指示で亀から距離をとる。
回転の時に舞い上がった砂が周囲に砂塵を起こす。
俺は称号補正で平気だが、リズはもろ口に砂が入ってうがいをしている。
「どうして行動パターンがわかっているのに、反撃をしないんだ?」
「それが……、この亀さん。涙を流しているんですよ」
これ海亀の産卵かよ! 砂浜と砂漠を間違えたか?
ステータスをもう一度チェックすると、状態異常の欄が確かに妊娠になっている。何も攻撃をしていないのに、もうすぐHPがなくなりそうだ。このままじゃ卵を産む力はないかもしれないな……。
「ビエリアルはどこにいるんだ?」
「コーシェルが周りのモンスターを全滅させてくれたので、呼びに行かせています」
「あと少しで命が尽きるぞ……」
回復水を使ってもいいが、その場合は患部に直接かけるか、対象に飲ませる必要がある。
攻撃をしていない以上患部は難しいだろう。今回は後者だ。
「口を開けるタイミングは水弾以外にはないのか?」
水弾のタイミングに投げても、弾き返されて終わる。
「左後ろの足で床をダブルタップした後の攻撃が噛み付き攻撃です」
分析しすぎじゃね?
「そのタイミングに一斉にHP回復水を口に投げ入れるぞ。HPの残量的にチャンスは一度だけだ」
それぞれに二つずつ薬が配られ、ギラーフの合図を待つ。
「来ます!」
ギラーフの分析は正しく、噛み付き攻撃がきた。ただし、噛み付く前に首を伸ばしたけどな! 言っておいて欲しかった。急に顔が接近してきたことにビックリし過ぎて左手で持っていた薬を投げそびれてしまった……。
俺以外はみんな二つとも投げている……。気になるのは、亀の左頬と左目にヒットした回復水だ。リズは未だに投球フォームを確認しているから、あれは両方リズか?
「HPが一〇%まで回復したから、もう大丈夫だろう」
安心したその時、ドスンッと亀の裏側に白い卵が産み落とされる。一つ産むのに、HPが八%も削れた……。
俺は無駄と知りつつ、海亀に叫ぶ。
「もうやめておけ。それ以上産むと死んじゃうぞ……」
「お待たせしました。回復します」
ビエリアルの回復で、最後の力を発揮できたのか、何とか二つ目の卵を産んで、巨大海亀はその命を終えた。
状態異常の死ってドロップがないのか……。場違いにもそんな事を考察してしまう。
「亀だから一回にもっと産めたはずなのに……」
俺は一瞬だけ亀に同情したが……。
「今は家族の援軍に向かうぞ! そこの衛兵たち、この卵を大切に女王の所に運んでおいてくれ」
周囲で戦いを見守っていた衛兵たちに声をかけた。




