水撒き
スタートの九話を大幅に修正しましたので、お時間がある方は読んでみて下さい。
翌朝。
スキルを使えるようにするために、冒険者ギルドに出向こうと思ったが、残念ながら『迷宮化』のモンスターが攻めてくる直前という事もあり、少しでも戦力アップを遂げようとする住民で殺到していた。
女王様にお願いをすれば優先的に順番を回してくれそうだけど、これまで使ってこなかった能力を開放して、一朝一夕で使いこなす事が出来るのか?
「私は朝から並ぶニャ!」
「そうですね。少しでも強くなった方が生き残れると思います」
リズは興味本意から。ギラーフは真面目な気持ちから。
どうしてこの二人はこうも対照的なのだろう……。
それに昨日は負けて逃げ帰ったようなものなのに、元気だな。
「今日も自由行動にするから、行きたい人は行ってきてもいいぞ。俺はモズラと昨日の海中迷宮の反省会をしている」
朝食の時に今日の予定を決めたが、みんなスキルに興味があったようだ。
準備が終わったリズが声をかけてくる。
「ご主人様と一緒に行きたいニャ……」
俺が行かないせいで、寂しがっていた。
「反省会は並びながらしますか?」
モズラがあっさりとリズに助け船を出す。こんなにすぐに意見をひっくり返したら、モズラらしくない。
モズラも反省会よりスキルの方が興味があるのか?
「……そうするか」
キーリアは植林。フローラとリアラ、ナイラは昨日の密命でまだ睡眠中。
今日も天気がいいな……。
宿から一歩外に出て、一瞬だけ砂漠能力上昇(中)の称号を切ってみたが、異常な暑さだ。
炎天下に放置された車に乗り込んだ時のアレを思い出した。俺は称号の影響で平気だが、こんな天気に外にいたら、熱中症になりかねない。
リズには空気中の水分を増やしてもらっているが、もっと大規模にやった方が良かっただろうか?
優秀な〈魔法使い〉だとか、魔法を三つ同時だとか、規格外な部分が明るみに出るのが怖い。
冒険者ギルドの前に並んでいた犬族は砂漠慣れをした人たちだったが、今日の暑さは異常なようだ。
脱水症状で倒れる人が続出。そのたびにビエリアルの回復魔法が活躍していた。体力が回復する限り死ぬ人は出ないだろう。
俺たちは魔法で水筒に水を補給して、みんなで飲んでいるが、俺とリズだけは平気だったりする。
「今モンスターが押し寄せて来たら、戦力的に疲弊しています」
そうか。自分たちの事しか考えていなかったが、ここにいる人たちは国を守りたいからここにいるんだった。そんな人が熱中症、脱水症状でバタバタ倒れている現状。
「まずいな……」
「パンダ様を呼んで来ますね」
エヴァールボが列から抜けて、宿に戻った。
えっ? パンダ様がいると解決できるの?
宿まではたったの五分なので、すぐに戻ってきた。
パンダ様の手には、鉛竹槍がある。
移動中は布で隠しているはずの武器も、今は黒光りする物騒な代物を全面に出していた。
「リズさん。水弾をパンダ様に放って下さい」
「わかったニャ!」
列から抜け出て、通りでパンダ様と一〇メートル程離れた位置に立った。見物客は冒険者ギルドに並んでいる約七〇人。
ピッチャー投げました!
水弾っていつから一メートルクラスの大玉を表す単語になったんだ?
右手でドーンと発射された弾はキャッチボールの二倍は出ているだろうと思える速度でパンダ様に迫る。
お馴染みのバッティングフォームから繰り出された竹槍が見事に水弾を粉砕した。
竹の幅を超えた水はそのまま地面へ。バケツをひっくり返したような水溜まりができる。
霧状になった水は空気中に吸い込まれ、なりきれなかった水は、雨のように辺りに降り注ぐ。周囲で見守っていた人たちから一気に歓声が上がった。
「すげぇー。涼しくなった」
「もっとやってくれ~」
なるほど。
これなら多少水弾のサイズが大きい程度で中級魔法を使ったと言い訳をすれば、問題にならないし、何より一回に一発しか撃たなくても大量の水分が供給される。
俺は水弾を上に撃たせて、風魔法で下から押し上げるようにして破壊させ、広範囲に一気に雨を降らせるような目立つ方法しか思い付かなかった。
「俺とリズの冒険者ギルド訪問はまた今度にして、国に水分を補給してくる」
俺の発言にビックリして顔向けたリズが、高速で首を振っているけど、こんな大規模な水魔法を初級魔法のMPで無駄撃ちできるのはリズだけだ。
そして、リズの水弾を全く怖がる事なく、打ち返せるのはパンダ様だけ。
よく考えられている。
少しずつ場所を移動しながら水撒きパフォーマンスを続けた。
「お腹が空いたニャ~」
四時間歩きながら魔法を撃ち続けたリズが空腹を訴える。
そう言えば休みなしで、水撒きをしていた。いつも迷宮探索で半日とか籠っていたから、俺たちは歩き続けても慣れている。
でも、探索の時は昼食を食べているので、その限りではない。
「もう少しで、魚料理の店だから、それまで頑張ってくれ」
「頑張るニャ!」
俺たちの水撒きの通った後は涼しいせいか、子供たちが面白がって付いてくる。
犬族以外の種族を排他的にしてきたフーリエンはいなくなったが、その考え方は根強い。
子供だからこそ純粋に魔法の有用性を理解してもらえるかも……。
そんな淡い期待を込めて、子供たちに雨を降らせて楽しんだ。
料理屋に着いたので、ここで子供たちと別れる。
この国でも二食が基本なのか、空いていた。
「今日は町に雨が降ったらしいぞ!」
それ、俺たちの仕業です。
ここの店主はお話好きだったな……。
ずっと会話が途切れない予感がしたので、慌てて注文をした。
例の大きい魚を二匹。
一匹はリズが、もう一匹は俺とパンダ様で食べる。
パンダ様って意外と雑食だった。
俺たちが食事をしていると、ギラーフたちがやって来る。またここで家族に会うのか。
「話を聞いていたので、一度来てみたかったんですよね。因みに道案内はリアラとナイラに頼みました」
偶然食事をしていた店に訪れたのではなく、俺たちの元にやって来ただけだった。
昨日の夜ご飯も魚だったのに、よく飽きないものだ。
って、この世界の人にとっては、魚は貴族の食べ物か……。
追加注文を済ませて、先に出来上がった魚をみんなで取り分けて食べた。
リズは魚限定で大食い選手権に、出場ができそうだ。
「スキルを使えるようになりました」
七〇人規模の列を消化するために、結局四時間もかかったのか……。




