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傍役メランコリー  作者: 夏冬
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5.対岸の火事


不良先輩はあの後、病院に行ってきちんとした治療を受けたらしい。

ちなみに骨折はしていなかったようだ。

ホッとした。

これで怪我人をズルズル引きずったこと、あまつさえ放り投げてしまったことについては、私のみぞ知る秘密になったから。


そして以来不良先輩と相田ちゃんとの仲が急速に縮まったことは、私には何があったのか知るよしもないけど。

ただ、相田ちゃんは不良先輩が意識を失ってる間ずっと手を握っていたそうで、その懸命さに心打たれたのではないかと思ってる。

喧嘩相手である不良仲間とも仲直りしたみたいだし、それも相田ちゃん効果だろう。


とりあえず私は、絆を深める彼らを尻目に、神社に行ってお祓いを済ませてきた。

最近のとばっちりの頻度は、異常だ。




先日、廊下で見目麗しい生徒会の役員たちを見た。

生徒総会以外でメンバーが揃っているのは珍しく、注目の的だったけど、特に新しく入った女の子が色んな意味で凄かった。


まず、役員たちに相手にされてないのに、一人で喋り倒していた。

対人スキルが極端に低い私は、たった一言でも無視されると三日は心が折れるので、女の子の図太さに拍手喝采だ。

私は敬意をこめて、恋敵ライバルちゃんと呼ぶことにした。

相田ちゃんに心奪われている生徒会の人たちをオトそうとしているのだから、まったく相手にされてなくとも、あながち間違ってはいないと思う。


その恋敵ちゃんは、とてもミーハーな女の子。

格好いい容姿の男には処構わず積極的に話しかけている。

成績は優秀らしいけど、空気の読めなささ加減に周りはうんざりしてるらしい。

と、風の噂で聞いた。

同じイケメン狩人でも、達人の相田ちゃんとは天地の差だ。


そしてさらに、あろうことか恋敵ちゃんは、生徒会の人たちに相田ちゃんの悪口を言っていた。

あの子は男たらしで淫売なだけだと、若干それあなたにも当てはまりますよーなことを延々と。

くわばら、くわばら。

生徒会の人たちの形相といったら、人一人くらい殺せそうなほどだった。

禁句を口にした恋敵ちゃんに、私は心底同情した。


―――が、その同情も、あの事件のせいで遥か遠方にかなぐり捨ることになる。



AM 12:40


食堂で期間限定の焼きそば定食を食べていたところ、下座付近がやたらと騒がしくなった。

人だかりができていて、完全に出入り口を塞いでしまっている。

なんだろうと思いつつ、構わず焼きそばを食べていると。


「てめぇが犯人なのは分かってんだよ! さっさと吐けよ!」


吐け?

食事中になんてこと……とかボケてる場合じゃないね。

今の声は、あの俺様生徒会長様だ。

他にもいくつか聞こえた声からして、生徒会メンバーが勢揃いらしい。

食堂で、何やってんの?


「私じゃない! 私じゃないわ! あの女の自作自演よ!」


あ、恋敵ちゃんの声。


「てめ…っ! まだ惚ける気か!」

「ねえ葉月! 葉月は信じてくれるでしょ!? だって……。」

「黙れよ! 葉月も俺たちも、全員てめぇの言葉なんざ信じねぇよ! さっさと認めて、結愛に謝れ!!」


やっぱり相田ちゃん関係かぁ。

声色からして、俺様生徒会長が完全にキレてるのが分かる。

怖い。

顔はきっと、般若のようになってるに違いない。

イケメンならば尚更迫力がありそうで、姿が見えなくてよかったと安堵した。


それにしても、恋敵ちゃんは今度は何をしたのだろう。

話の流れ的には、相田ちゃんへの嫌がらせ?

悪口はまだ許容範囲でも、流石に物理的な嫌がらせはアウトだ。

証拠を取られたら、生徒会もやめさせられてしまう可能性だってある。

そしたら元も子もないよね。


「あのさぁ~。」


この独特の間延びした口調は会計様。

恋敵ちゃんが言っていた葉月とは、彼を指す。


「一度寝てあげたくらいで、何それ。自分は特別だと思った? ざぁ~んねん! 俺の中できみはイロモノ扱い。証拠に、二度目はなかったでしょ?」


なんてひどい物言い。

ここだけ切り取ると、どちらが悪者なのか分からなくなる。


「は? お前、こいつと寝たの?」

「うーん、ちょっとしたお試しってやつ~?」

「趣味悪っ。」

「だってあまりに言い寄ってきて、うざかったんだもーん。」


…おいおい。

本当に、糾弾されるべき悪者はどっちだ。

歩く十八禁と揶揄されるお色気担当の会計。

面目躍如ってやつ?

くそ、イケメンだからって調子に乗りやがって。

私も一度は言ってみたいよ!

異性が言い寄ってきてうざかったって!


「は、葉月ぃ……!」


恋敵ちゃん、涙声。

いくらなんでも今のは傷つくよね。

それだけ会計様も怒ってるということだろうか。


「…ごちそうさまです。」


私は口元についたソースを拭き取って、立ち上がる。

なかなかに美味であった。

明日も焼きそば定食を頼もう。


トレイを返却口に出した私は、ふと考える。

…さて。

食堂を出るには、どうすればいいんだろう。


「いい加減にしろよ! 結愛に謝れっつってんだろ!」

「嫌よ! なんで私があの女なんかに! だいたい、私がやったという証拠もないじゃない!」

「てめぇはずっと結愛の悪口言ってたじゃねぇか!」

「だから何!? あの女のこと嫌ってるのは何も私だけじゃないでしょ!」


恋敵ちゃんも開き直ってきたのか、涙ながらに無実を訴えるのはやめたらしい。

だんだんと言葉の応酬が白熱している。

ひょっとして私は、これを越えなければ外に出れないの?

なんて殺生な。


人だかりの中を堂々と進んでいく勇気はないので、大人しく騒ぎが静まるのを待つことにした。

…賢ちゃんに電話しようかな。

ああ、でも、お昼は職員会議があるとか言っていたっけ。

手持ち無沙汰な私は、机の上にあったナフキンでパックンチョを折ることにした。

可愛いよね、パックンチョ。


「もういい。てめぇは生徒会から出て行ってもらう。」

「はあ……!? なんで私が!」

「顧問にもすでに伝えて了承を得ている。結愛を虐めていた女をやすやすと俺たちが許すと思うか?」

「…ッ、頭おかしいんじゃないの! あんな女に入れ込むなんて! お、お父さんに言ってやるから! 私のお父さん、閣僚なんだからね! あんたたちなんて全員退学にしてやる! 首洗って待ってなさいよ!」


そうこうしているうちに、恋敵ちゃんが何やら叫びながら去っていた。

お父さん、閣僚さんなんだ。

すごいね。

でも、去り際の台詞は雑魚キャラみたいだよ。

あ、パックンチョ出来た。


「まずいんじゃないですか? 彼女のお父上は、教育相ですよ。」


副会長…敬語を使ってるから、多分副会長で合ってる。

彼が深刻な口調で言った。


「はあ? ……マジかよ。」


おっと、知らなかったようだ会長様。

その反応は、俺様っぽくない。


「まあ、いいだろ。子供のセカイに大人が介入してくるようなら、こちらだって同じ手に出ればいい。忘れたか? 俺様が一体誰の血を引いているのか。」

「あ~そういや会長って、天下の桧山修造の孫だっけ。この国を代表する資産家の。財界や政界とも深ぁい繋がり持ってんだよねぇ。」

「……僕は事を荒立てるのではなく、面倒にならないよう今回の件を片付けてほしかったんですけどね。」


生徒会のメンバーは、生まれも育ちも血統書付き。

それで容姿も優れているものだから、非の打ち所がない。

いや、唯一それぞれの性格が難点かもしれないけど。


恋敵ちゃんには勝ち目が無さそうだ。

悪役が問答無用でヒーローたちに泡を吹かせるって展開も面白そうなのに。

この分じゃ、退学に追い込まれるのは恋敵ちゃんの方かもしれない。


生徒会メンバーが去って、野次馬が消えてから、私は食堂を出た。


非常階段でうずくまって泣きじゃくっていた恋敵ちゃんを見つけるのは、数分後のこと。


……あれれ。

私、神社でお祓いを済ませたはずなのに。


厄介事が、こんにちは~と挨拶をしてくるぞ?





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