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傍役メランコリー  作者: 夏冬
3/32

3.誤解です


相変わらずぼっちな毎日を繰り返し、一ヶ月が過ぎた。


中間テストの順位が貼り出されました。




《13位 松村 六花》



「うおおおおぉぉー!」


私は神に感謝の祈りを捧げ、雄叫びを上げた。

…もちろん、心の中で。


良かったよぉ。

順位、下がってない。

寝る間を惜しんで勉強した甲斐があったね!

目標の10位以内にはまだまだ遠いけど、この順位をキープしていれば、おそらく問題ないはず。

お父さんが苦言を呈することはないだろう。


「ふぅ…。」


さて、今回の一位は誰かな~。

テストの順位表が貼り出される毎の楽しみとなっている、一位争いの結果。

私は一番上に書かれた名前を確認し、ほお、と深く頷いた。


《1位 相田 結愛》


なるほど相田ちゃんか。

前回はあの秀才くんで前々回は相田ちゃんだったから、奪冠という形になる。

流石はミス・パーフェクト。

顔が良くて頭も良いなんて、もはや嫌味ですな!


視線を下に滑らせ、純朴王子の名前を五位に見た私は、思い切りハンカチを噛みたくなった。

何なんだ。

もさくて、根暗で、地味子である私に救いはないのか。

勉強だけが唯一の取り柄と言っても過言じゃないのに、それさえもイケメン&美少女に負けるとは…!

いや、もう、慣れっこなんだけどね。


だから尚更、一位の下にある名前に共感を覚える。


《2位 篠崎 明彦》


彼は、勉強命! のガリ勉くんだ。

鬱陶しい髪の毛と、センスのない私でも分かるダサすぎる眼鏡。

時々、頭からキノコが生えてそうだなと錯覚してしまうほど、彼はパッとしない容姿をしている。


私と同じ根暗グループに分類されても、アレはちょっと異彩かな?

悪い意味で、かなり目立つ風采だから。

コミュ障らしく、友達は0。

そこにはシンパシーすら感じてしまう。


私は彼ほど頭がいいわけではないけど、もし私を男にしたらこんな感じかな、ってのを体現した秀才くんに、私はエールを送りたい。

是非とも次回の期末テストは頑張って、一位を目指してくれ。

そして、高を括っている美男美女を見返してやるのだ。

ふふ…、普段は地味だの根暗だの言われ蔑ろにされる私たちの逆襲の時が、とうとう来たのよ!

覚悟するといい、美形どもめ。


と、一人妄想しながら、私は今日もぼっちを満喫するのだった。




事件は昼放課に起こった。

何故か、横峰先生に呼び出されたのだ。

しかも場所は生徒指導室。

え、私なにかしたっけ?


「失礼します…。」


さしずめ気分は鬼ヶ島に辿り着いた桃太郎だ。

いや、これから刑を言い渡される囚人?

……そっちの方がしっくりくるかも。


恐る恐る室内に足を踏み入れた私を、横峰先生はいつもと変わらない様子で出迎えてくれた。

しかし、私が席に座ると一変。

至って真剣な面持ちで切り出す。


「松村。俺は、高校生の時、野球部に所属していた。」


へー、そうなんですか。

丸坊主?

似合わない。

…というか、だから何だと言うのだろう。


「あの、先生…?」

「三塁手でな、打順は3番。レギュラーだったが、俺が目ぼしい結果を残すことはなかった。チームに埋没してしまう、そんな存在だった。」

「は、はあ……。」


あれ。

何の話してんの?

私、関係ある?


「チームでエースと呼ばれていたやつは、今じゃプロの野球選手だ。……ここだけの話、俺の将来の夢も野球選手でな。心底そいつが羨ましかった。」

「……。」


昔語りがしたい年頃なんだろうか。

私は寛容な心で、横峰先生の話を聞くことにした。


「分岐点は…そうだな。ある試合でのことだ。俺たちが圧倒的に負けていて、最後の攻撃。俺に打順が回ってきた時、すでにツーアウト取られてたんだ。相手のピッチャーとの相性は良かった。内角高め。俺の好物ばかり投げてくるやつだった。けど……。」

「…けど?」

「もう勝てやしないんだからと、俺は諦め半分で打席に立った。応援に来ていた当時俺が好きだった子に無様なところを見せたくなくて、わざと球を見逃したんだよ。まあ、三球目にデッドボールを食らったから、そこで試合終了することはなかったがな。

で、分岐点。俺の次のバッターはエースと呼ばれるあいつだった。俺と違って、最後まで諦めていない様子でさ。空振り一度とファウルを続けて、何球目かでホームランを打ったんだ。」

「おお。」


野球については詳しくないけど、ホームランってとにかくすごいんでしょ?

ホームラン打てば勝てるんだっけ、野球って。


「まあ、後が続かなくて結局試合は負けてしまったけどな。そいつは部内でも英雄扱いだったよ。さらに試合後、俺の好きだった子と付き合い始めて…、俺はそこでようやく後悔した。バッティングのコーチには言われ続けてたんだ、俺の打ち方は綺麗でセンスがあるから、練習を重ねれば四番も夢じゃないって。なのに俺は積極的に居残り練習するわけでもなく、汗水垂らしながら遅くまで練習に明け暮れていたエースのあいつを笑ってたくらいだ。夢を叶えたあいつと夢に敗れた俺、違いは、脇目も振らない努力の差だったのかな。」


よく分からないが、ふむふむと頷いておく。

早く放課終わってくれないかなぁ、なんて、長い休み時間が始まったばかりだというのに考えてしまう。


「自分のもてるすべての力を引き出し、結果を残すこと。何よりも大切なことだと思わないか。」

「…ですねぇ。」

「松村も、大人になって後悔したくないだろ? 先生はな、お前の全力が見たいんだ。」

「………は?」


あ、しまった。

完全に素で聞き返してしまった。

その流れで私に振られるとは思わなかった。


「…どういうことですか?」


気を取り直し、尋ねる。


「ほら。これは、お前の今までのテストの順位。」


横峰先生が机に置いたのは、一枚の用紙。

そこには私の今までのテストの結果が記されていた。


「………?」


どれも10位代を右往左往しているもので、ほらと言われてもだから何だと返したい。

横峰先生も私の物言いたげな視線に気づいたのか、文字に指を滑らせる。


「テストの合計点。お前はずっと、同じ点数しか取ってない。」


うわ、確かに。

自分では気づいてなかったけど、なんて偶然。

狙って取れるものじゃない。

今度賢ちゃんに自慢しちゃおー。


「…惚けるのがうまいな、松村。俺も一杯食わされたよ。まさかお前が、実力を発揮していないなんてな。」

「…………はい?」

「そうやって物分りの悪い振りをするのは止めだ。お前はあえて点数を調節し、10位代をキープしていたんだろ?」


……何言ってんだ、この人。

私がしばし瞠目する内に、横峰先生は捲し立てる。


「お前みたいなのを天才と言うんだろうな。同じ合計点を取り続けるなんて、普通だったら狙ってできるものじゃない。」


ええ、狙ってませんもん。


「本来なら相田や篠崎よりも高い点数を取れるんじゃないか? 史上初の満点記録も夢じゃないだろう。なあ、松村はどうして実力を隠す。」

「…あの。隠すも何も、それが私の限界であって……。」

「まだ白を切り通す気か?」

「え。ちが、あの……。」


先生。人の話、聞いてる?

合計点が同じだったのは、ただの偶然なんだってば。

私が相田ちゃんたちを凌ぐ実力の持ち主なわけないだろう。


「まあいい。想定内だ。松村は謙虚だからな…。」


謙虚も何も、私は事実しか言ってませんが!


「今日は、松村にとっても為になる話を持ってきたんだ。


どうだ、生徒会に入ってみないか?」


…………。


パードゥン?

と、私は真顔で言いたくなった。


生徒会。

聞き間違いでなければ、確かに横峰先生はそう言った。

一体何の冗談だ。

私が生徒会とか、冗談でも笑えない。


「えっと、先生?」

「悪い話じゃないと思うんだ。生徒会に入るだけで内申に箔が付くし、校内でも色々と融通が利くようになる。そうすれば、松村だって実力を発揮しやすいだろ?」


…ほ、本気だ。

本気でこのイケメン、私に生徒会入りを勧めてやがる。


「ここだけの話…生徒会に勧誘して、すでに三人の生徒に断られているんだ。松村にまで拒否されたら、後がないんだよ。」

「三人って……。」

「篠崎と東堂、それから都竹つづくだな。」


なんともまあ、私の中でホットな人たち。

秀才くんに純朴王子、そして都竹とはうちのクラスの爽やかくんだ。

ずっと爽やかくんと呼んでいて本名を忘れかけていたけど、そういえばそんな苗字だった。


「篠崎と東堂は成績が申し分ないし、都竹はリーダーシップというか、うまく人を纏めるのに長けているだろ? だから勧めてみたんだが、結果は惨敗。都竹は部活を優先させたいとかで、東堂は放課後は忙しいから無理だと言ってな。篠崎なんて、『僕にあんな馬鹿らしい真似をしろと? 今の生徒会には辟易してます』だ。」


え…。

秀才くんって、そんなキツめの性格なの。

あれだけ感じていたシンパシーが一気に弾け飛ぶ。


ふと、相田ちゃんの名前が上がってないことに気づき、私は横峰先生に聞いてみた。


「相田ちゃ……相田さんに頼んではどうでしょうか。」

「相田は…。いや、もともと生徒会入りを松村に打診したのは、あいつらが遊び呆けてる――言い方が悪いな。頭が春一色になって、仕事の効率が下がったからなんだよ。」

「……。」


なるほど。

生徒会の人たちに一斉に訪れた春=相田ちゃんへの恋心。

ただでさえ彼女に振り向いてもらおうと必死なのに、生徒会に彼女を入れたら目も当てられなくなるのは必然だと、横峰先生はそう言いたいのだろうか。

相田ちゃんの魅力って恐ろしい…。


「なあ、頼む。この通りだ! 松村しか頼れる相手がもういないんだ!」


横峰先生が頭を下げる。

うむ、イケメンに懇願されるのも悪くない。

悪くないけど…。

生徒会に入るなんて、絶対に嫌だ。


宝石の中に藻の生えた石ころを投入するようなものだ。

もし藻が宝石に少しでも触れてしまったら…。

あああ、怖い!


「あの、先生。私じゃ先生のご期待に添えられることはないんで…。」


私に地雷を踏めと言ってるようなものだ。

それじゃあ、と私はそそくさと教室を出た。

ものすっごく罪悪感が胸に募るんだけど…。

そもそも私、実力を隠したりしてないからね。

先生の誤解が悪いということで。


そして後日。

生徒会には、私でも相田ちゃんでもない隣のクラスの成績上位者の女の子が入った。




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