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傍役メランコリー  作者: 夏冬
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1.内弁慶なんです


学園のイケメンを次々と虜にしてゆく美少女。

別名イケメンキラー。



「あっ、先輩、どうしたんですか?」

「ん…この前の、礼。ダチがどうしてもしとけっつーから。」

「えぇ! そんな、別にいいのに……。」

「いいから受け取れよ。」


今度は不良系イケメンの吉澤先輩か。

いやぁ、彼女も随分と手広くやってるもんだ。

私は廊下に佇む二人の美男美女を眺めながら、教室の自分の席で頬杖をつく。


美少女の名前は相田結愛あいだゆめちゃん。

可愛くて、良い子で、男女問わずモテるという、人生それだけでヒャッホーな三拍子が揃っている子だ。

根暗オア地味子と呼ばれる私からすれば憧憬の的である。

というか、ちょっと羨ましすぎて歯ぎしりしたいくらい。


私は密かに、相田ちゃんをイケメンキラーと呼んでいる。

イケメン狩人でもいい。

相田ちゃんを心の中でそう呼ぶ人は、きっと少なくないだろうと信じてる。


何故なら相田ちゃんは、イケメンと名のつく生物に高確率で遭遇し、すぐに仲良くなり、おまけに相手をメロメロにさせるという素晴らしい能力に長けている。

この学園でも既に、俺様生徒会長含む美麗揃いの生徒会員たち、堅物風紀委員長、クラスのリーダー的存在である爽やかくんまでが魔の手に落ちた。

生物担当の横峰先生もちょっと危うい。

で、さっきの不良先輩を数に入れれば、彼女に魅了されたイケメンは二桁にのぼる。

これをイケメンキラーと言わずして、なんと言う。


おまけに相田ちゃんはまだ誰とも付き合う気がないのか、そういう話題になると、上手く茶を濁す。

イケメンたちも牽制し合ってるのか、誰も彼女に告白しない。

とにかく自分の株を上げようと必死にアピールするだけだ。

流石に相田ちゃんがイケメン共を率いて滑り道中することはないけど、構図的には立派な逆ハーレムを築いていらっしゃるのは疑う余地もない。

顔の良い男の人たちに囲まれるなんて羨ましすぎるので、私は相田ちゃんがあまり好きではない。

うん、単なる僻みだ。

直接言う機会も勇気もないだろうから、せめて心の中だけでは自由に言わせてほしい。

私なんてクラスの男子と目が合うだけでドキドキするのに、相田ちゃんはイケメン相手にまったく怯みを見せないものだから、そういう意図がなくても私には嫌味に思える。


私はこんなイケメンを侍らせてるのよ?

どう? 素晴らしいでしょ?

お前はどうなのよ?

……みたいな。

うわ、ごめん、相田ちゃんをめちゃくちゃ悪女に仕立て上げてしまった。

完全に私の被害妄想です。


相田ちゃんは優しい女の子だ。

次々とイケメンを狩っていくことを除けば、クラスでもぼっちに等しい私を気にかけてくれる、何この天使……状態。

そんな子を嫌うって、私の方がよっぽどか性格悪いかも。


「えへへ。ありがとう、吉澤先輩!」

「……………名前。」

「え?」

「あ、いや! なんでもねえ! じゃ、じゃあなっ。」

「? さよならです!」


これでもかというほど顔を真っ赤にさせ逃げていく不良先輩。

相田ちゃんは首を傾げながらも笑顔で手を振る。


鈍いな、相田ちゃん…。

多分不良先輩は、名前で呼んでくれって言いたかったんじゃないかな。

まあ、私がわざわざ助言してあげることもないけど。

ハッ、ざまぁみろリア充どもめ!

爆ぜて爆ぜて爆ぜて、そのまま灰になっちまえ!

………としか思えない。


不良先輩が消えたので、今日の相田ちゃんのイケメン狩りはもう終わりかと、私は机の上の文庫本に視線を戻した。

私が読んでるのは『世界の裏事情☆』とかいうふざけた題名の本だ。

お国が絡んだ闇~な話じゃないよ。

文字通り、世界の地層に関する説明がつらつらとあるだけの本。

あんまり面白くないから、お勧めはしない。


「あ、ねえ、そこのきみ。結愛ちゃんっている?」


退屈だなぁと本をペラペラ巡っていると、すぐ近くから声がかかった。

まさか自分が呼ばれているとは夢にも思わなかったので、ただ相田ちゃんの名前に反応しただけなのだけど、顔を上げると声の持ち主としっかり目が合ってしまった。

そう。

しっかり、と。


「…………」

「…………」


え、嘘。

やだぁ純朴王子じゃないですか。

隣のクラスの、甘いマスクと無垢な瞳が絶賛女子に大人気中の。

何故ここに?

ああ、相田ちゃん関係ね。

そう言ってたもんね、今。


――って、本当にやだぁ!!


「………」


私はぎこちなく首を回す。

教室内を確認するけど、どこにも結愛ちゃんの姿は見当たらない。

不良先輩と別れた後、どこかに行ってしまったようだ。


ギゴギコと錆びれた音が聞こえそうな動作で首を元に戻し、頑張って笑顔を作る。

頬が引き攣るけど。

王子と目も合わせられないけど。

ダラダラ流れる嫌な汗も、気にしてられない。


「えっと…エット……ざ、残念ながら、いまセン…ね。」


ひぃぃぃぃ。

王子の美形オーラにやられる。

このキラキラ感は何。

誰か王子の周りに輝く写真フレームでもいれたの?


眩暈に襲われながらも何とか答え切った私に、王子は不審がるどころか、特に気にしてもいない様子で。


「そっか。ありがとう、また来るね。」


そう言って、笑顔で去ってゆく。


流石は純朴王子!

その他の群衆なんて気にしてられないもんね!

いや助かったけど!


所詮一クラスメイトの私など、華やかしい夢も見れないのさ…。

王子はきっと、明日には私と話したことなどすっぽり忘れているだろう。

ああ虚しい。

私はこんなにも心臓が暴れて止まないのに。

現実なんてこんなものなのね…。

思い知ってしまった。


というか相田ちゃんは、いつの間にあの純朴王子まで毒牙にかけたんだろう。

素晴らしいくらいに肉食女子。

行動力が並大抵じゃない。


うん。

相田ちゃん、私撤回するよ。


イケメンに囲まれるとか、全然羨ましくない。

むしろ怖い。

王子と対面しただけで、窒息死するかと思ったもん。

やっぱり美男の近くには、美女しか吸えない酸素があるんだね。



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