かくれんぼは怖い
恐怖で震える体。怖い。ただただ怖かった。
もう一度控えめに声をかけられる。
「お嬢様。お願いします、出てきてください。」
少し戸惑った声が扉の向こうから聞こえた。
私はもちろん返事なんかしない。
物音を立てず、じっと耳をすませる。
カチカチと金属がぶつかる音がした。
…何の音?
「出てきてくれないんですね…。仕方ありません。」
ため息を吐く音が聞こえると急に静かになった。
きっと諦めたんだ。よかった…。
なんて思うのもつかの間。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
何かを引っ掻き回すような音。そして不気味に動くドアノブ。
顔が真っ青になるのが自分でも分かった。
逃げなきゃと防衛本能が働く。
辺りを見回しても逃げ道なんてなかった。
とっさに目に入ったクローゼットに手をかけ、
怖くて仕方が無かった私は必死になって身を隠した。
音が聞こえないようにクローゼットのドアを閉め、
服の中に潜り込んでいく。
ガチャリ
鍵の開く音が聞こえ、ドアノブをゆっくりとまわす音が聞こえた。
カツカツと靴を鳴らす音。私の煩い心臓の音。
私の耳は今までに無いくらい研ぎ澄まされていた。
「いない…?あぁ!!お嬢様は私と遊びたかったのですね!!
かくれんぼなんてそんな可愛らしい遊び…。さすがは私のお嬢様。
喜んで付き合いさせていただきますね?」
すらすらと。まるで何かのセリフのようにしゃべりだした。
この人は私と、いや他の人と感覚が違うらしい。
かくれんぼ?私にとっては生死にかかわることなのに。
「あぁ…ですが…。…お嬢様残念なお知らせがあります。
どうにも私の本能が早く貴女に逢いたがっているのですよ。」
カツカツと聞こえる音がだんだん大きくなって。
ドクドクと心臓がさらに早く煩く鳴り出して。
「だから…かくれんぼはもうおしまいにしましょう?」
視界が淡い光を持ち出していく。
ゆっくりとゆっくりと開けられた扉は私を絶望へと落とした。
目の前で布がこすれる音が聞こえ、ついに光が見えた。
私は目を見開き、大粒の涙を流す。
逆光のせいか、涙のせいか。彼の顔がよく見えなかった。
「やっと逢えましたね。私のお嬢様。」