ある王妃の罪
拙作「ある王女の罪」をお読みいただきありがとうございます。
たくさんの感想をいただいていたのに、返信もせず申し訳ありませんでした。返信の代わりにお読みいただければと思います。
わたくしには陛下との間に子が4人いた。
一番上の王子は王太子として、幼い頃から優秀であり、長じては少し厳格過ぎる面もあるが、将来の王の器には十分な資質を備えていた。
三番目の王子は兄の代わりをも務められるよう教育されるが、兄の王太子を補佐する役目も担うため、優秀でありながらも弁える能力も求められる。
二番目と四番目は王女。
彼女たちは国のため、いずれ政略の婚姻を成すこととなる。王家の姫と生まれたからには当たり前のこと。
他国へ輿入れするとなれば、決して侮られることのないよう高い教養と、美意識すらも必要となる。
皆、期待に応えてくれる―――そのはずだった。
二番目の王女から、末の王女が字を読めないと聞かされた時は、本人の努力不足だろうと、教育係に厳しく指導するよう伝えた。
だが、後に彼等は憐れむように口を揃えて言うのだ。
「王女様には物の形を捉える能力が乏しく、今後も字の読み書きは難しいでしょう。」
いくら教師を変えても同じことを言われる。そして、最も異常だったのは、会話だった。
王女と話すことはできる。しかし、彼女はこちらの思いを理解しない。
聞きたいことだけを聞き、嫌なことや分からないことを、自分の中で都合良く置き換えてしまう。
そこに悪意はなく、共感や協調するという部分が元より欠落しているとしか言いようがない。
医師や薬師に相談しても、改善は望めなかった。
その頃には、貴族の間で末王女が欠陥品だと噂が広まった。
降嫁先に選ばれることがないよう、王女と同世代の令息のいる高位貴族家は、早々に婚約者を決めてしまう。
自分の名前さえ書けない王女を、他国へ輿入れさせるなど、外交問題にもなりかねない。
王家の姫としての未来は、もはや閉ざされたのだ。
末王女の未熟さを、陛下は嘆き悲しんだ。可哀想だと甘やかすことが増え、わたくしや王太子の苦言も届かなくなる。
せめて王族として、孤児院や治療院への慰問には同行させ、公務を担う体裁を整えるくらいしか道はない。
そうして数年が過ぎた頃。
王女は恋に落ちた。―――落ちてしまった。
相手は王国騎士団の副団長だった。
先の国境での戦場で武功を挙げ、将来有望である若者。我が息子の王太子も、傑物だと友誼を交わすほど、高く評価していた騎士だった。
そして、その騎士には許嫁がいた。
式に向けて準備を調えていた頃、もともと病に伏していた許嫁の父親が亡くなってしまう。
嘆く許嫁の家の喪が明けるまで、式は延期となったが、両家は二人の婚約を正式に届け、国も承認していた。
王都に新居を構え、式を待つ時間も共に過ごしていたという。その初々しい二人に、民も言祝いでいたと聞く。
式に参列する予定の王太子夫妻も祝福し、正式に祝いの品を贈っていたとも聞いていた。
そんな二人に影を落としたのが、末王女だった。
王太子や母のわたくしが、騎士には許嫁がいる、もう夫婦なのだと諭しても、王女は「そんなはずはない」と聞き入れない。
説得を繰り返している時に、あろうことか父親の陛下が、末姫可愛さから願いを聞き入れてしまう。
一旦は騎士からの辞退により、この話は収束したかのように見えたが、王女は自分に甘い陛下に再三騎士との婚姻をせがんだ。
とうとう王命が下されることとなる。
わたくしや王太子、騎士の婚約を承認した貴族院がいくら陛下をお諌めしても、頑なに「王女の幸せのため」だと仰せになるばかり。何とか撤回していただかねばと焦りが募る。
そんな中で、王女に仕える古参の者が、許嫁の娘の暗殺を企てるまでになる。
密かに王太子が手の者を差し向け未然に防いだが、騎士団や民に隠すことはできなかった。
「王女が横恋慕し、英雄の騎士と許嫁を引き裂くだけでなく、許嫁の娘を亡き者にしようとしている」
「王様も王女可愛さから、我らの英雄に王女を押し付けようと命じた」
民の間でも、年頃を過ぎても末の王女に輿入れの話が一切ないことを、何やら問題ありだと認識されていたところに、今回の件が広まったのだ。
王太子や貴族院が騎士の側に付いていることも、噂の流布を後押ししたのだろう。
そんな矢先に、騎士が許嫁を連れて逃亡したとの報がもたらされた。
陛下と王女への怨嗟の声は、もはや抑えようのないものへと高まっていった―――。
騎士と許嫁が姿を隠しているうちに、わたくし達は陛下に翻意を促すべく、議会でも取り上げ説得していた。
だが、王女に味方がいないことを嘆く陛下は愚かな父親でしかない。
王として、議会の意向や民意を正しく理解してくださることはなかった。
一年が過ぎようとしていた頃、逃亡先で二人が見つかったと知らせが入る。
その知らせには、二人の間に起きた悲劇をも含まれていた⋯⋯⋯。
わたくし達は、陛下と王女の説得に失敗し、若い恋人達を死に追いやってしまったのだ。
陛下は退位された。
貴族院にも民にも見放され、王太子にその座を譲ることとなった。
陛下もまた、守りたかった王女も、ご自身さえも守ることができなかったのだ。
王太子――新王は、妹の末王女を許しはしなかった。
修道院へと送ることを決定し、退位したわたくし達と離宮で過ごすこととした。
明日、修道院へ向かうという夜、王女が別れの挨拶に訪れた。
「お兄様は、わたくしの罪を
『他人の幸せを考えなかったこと』
とおっしゃったのだけど⋯わたくしには、分かりません。
だって、わたくしが幸せならば、みな幸せだと思っていたから。」
陛下は「お前が幸せなら余は幸せだ」と涙ぐんでいらしたが、わたくしは何も言えなかった。
あなたの罪は、わたくしの罪。
あなたに罪を負わせる前に、王妃として決断すべきだった。
ごめんなさい―――わたくしの愛しい末の王女。
修道院へ送られる日の朝、眠った状態で冷たくなっている王女が発見された。
除籍前の死により、王女は王族の身分のまま、王家の霊廟にて永遠の眠りについたという―――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
たくさんの疑問にお答えできたかどうか、拙い文章でさらに混迷を深めてしまったら申し訳ありません。




