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白夜戦記──世界に光を降らせる日  作者: ルシア
第1章 ログザ魔脈坑

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第10話 魔具

 ──瞬間。

 轟音と共に、グレンの視界がいっぱいの炎で埋め尽くされた。


「うわあっ!?」


 慌てて魔法を解除すると、目の前の赤茶けた岩肌がどろりと焼け焦げており、周囲の空気が陽炎のように歪むほど温度が上昇していた。荒地の土とわずかに混ざる鉱物が一瞬で炭化した、刺すような焦げ臭さが鼻を突いた。


「び、びっくりした……まさか、ここまで激しい炎が出るなんて……!」


「おいおい……赤魔素の適性もここまで高いのかよ」


 ジャズは呆れたように息を吐いた。


「しかも、そんだけの火力を出しておきながら、魔石の赤魔素はほとんど減ってねえ」


 ジャズに言われ、手元の魔石を見つめる。貰った時と同じ、深い紅色の輝きを保っていた。意識を向けると、魔石の中にはまだまだ赤魔素が残存しているのが、グレンにははっきりと感じ取れた。


「本当だ……一瞬とはいえ、あれほどの火魔法を発動したのに」


「ああ、それが無魔素に対する『基礎能力』の高さだ。無駄な魔素を一切漏らさず、自分のイメージ通りに無魔素を動かし、最高効率で火魔法へ変換している証拠だな」


 なるほど、とグレンが納得したところで、ふと一つの疑問が湧き上がった。

 奴隷に落ちる前、狼に襲われたとき、グレンは小杖(ワンド)がなくとも風魔法を発動して九死に一生を得た。そして今も、赤魔素が込められた魔石だけで火魔法を発動している。


「ジャズさん、ひとつ聞きたいことがあるんですが」


「なんだ」


「カノンにいた頃、魔法を使うには絶対に『魔具』が必要だって教わったんです。でも、なんで俺は魔具なしでこんなに魔法が使えるんでしょうか?」


「あー、魔具の仕組みについても学んでねえのか。奴隷の間は魔具に触れるこたぁないだろうが、今後の人生で必ず知っておくべき知識だ」


 ジャズは近くの岩場にどっかりと腰を下ろし、腕を組んでグレンを見据えた。


「まず、魔具が必要とされる理由は大きく2つある。一つ目は『魔法の底上げ』だ」


 ジャズはポケットから赤魔素と緑魔素が込められている小瓶(カートリッジ)を取り出し、地面へ手を向ける。


「──緑魔素よ、進め(ヴェイ・ザル)


 すると、地面の砂が小さなつむじ風のように巻き上がった。


「俺やグレンのようなタイプは、ある程度魔素のコントロールができるうえに、ノータイムで無魔素にイメージを伝達して魔法を発動できるからな」


 ジャズが地面に向けていた手を握ると、つむじ風がすっと消えた。


「だが、適性の低い一般人はそうはいかねえ。赤魔素の適性が低い奴が、魔具なしで火魔法を発動しようとしても、ちょっとした火花が出るだけだったり、とんでもない方向に火を飛ばしちまう。それを補助するのが、小杖(ワンド)なんかの魔具だ」


「補助、ですか?」


「ああ。魔具の中には、魔素を抜かれて空っぽになった『空の魔石』が組み込まれてる。空の魔石は無魔素の伝導率が異常に高くてな。魔素を流し込むだけで、あらかじめ決められた方向や威力に魔法が『固定化』されるように作られてるんだよ」


「なるほど……あれ? でも、俺が初めて小杖(ワンド)を使ったときは、威力の加減ができなくて凄い暴風になっちゃったんですが……」


「それはお前が、魔具の『固定化された回路』を通さず、お前のバカでかい基礎能力のまま直接無魔素を動かしちまったからだな。違和感が出て当然だ」


「じゃあ、俺はまだ魔具をちゃんと使ったことがないんですね」


「そういうこった」


 そこまで言うと、ジャズは背中から魔素銃(マジックライフル)を下ろし、グレンの目の前に掲げた。


「そしてもう一つが、ある程度の魔素適性と基礎能力が備わった者のための魔具だ。魔法の効果範囲を拡大したり、複数の魔法の同時構築を可能にするものだな」


 ジャズは立ち上がり、200メートルほど先にある大岩へ魔素銃(マジックライフル)を向けた。


「──緑魔素よ、射出せよ(ヴェイ・ザル)


 鋭い発砲音と共に、銃口から放たれた風魔法が極細の竜巻となって螺旋を描き、瞬く間に大岩へ着弾する。静寂に包まれていた荒野の空気が、凄まじい風圧によって切り裂かれた。淡い緑色の軌跡が、淀んだ暗闇の中に一直線の光の道を引いたかと思うと、足元の地面を微かに揺らすほどの重い衝撃波が遅れて響き渡る。

 パァンッ! という破裂音と共に、硬い岩が真っ二つに割れた。グレンは、風魔法がそこまで遠く、しかもピンポイントに届くとは思いもよらず、絶句した。


「……っ! この威力の魔法を、あんな遠くまで……凄いですね!」


「言っておくが、これは俺だけの力じゃねえ。この魔具による恩恵だ」


 ジャズは銃口から漂う緑魔素の残滓を振り払い、銃身をポンと叩く。


「この銃は、魔素を完璧に伝導する素材と、逆に一切の魔素を通さない『絶魔鉱(ぜつまこう)』を組み合わせて作られてる。魔具の中に魔素を無理やり通し、出口を極限まで絞り込むことで、圧縮された魔素が弾丸みたいな爆発的な威力を生む仕組みだ。そして──多重適性(マルチ・スペル)の人間は、魔具によってその真価を発揮する」


「あの、ジャズさんが使っていた、風魔法と火魔法を合わせた魔素弾ですか?」


「ご名答だ。2つの魔法を同時に、完璧に頭の中で構築するのは、人間業じゃ不可能に近い。だから、赤魔素の『火の弾丸』を作るイメージにだけ脳を集中させ、緑魔素の『加速』のイメージは魔具の回路に任せる。この魔具があるからこそ、多重適性(マルチ・スペル)は戦場で重宝されるのさ」


「なるほど…」


 そこまで話すと、ジャズははっとした顔をして頭を横に振った。


「…いや、戦場だけじゃねえな。複雑な魔具の設計図を描いたり、大型の魔具で生産ラインを維持する魔工学(マギテック)の分野でも、多重適性(マルチ・スペル)の技術者は引く手あまただ」


「そうなんですね」


 そう言うと、ジャズはグレンに向かい合う。


「さて、ここまで魔法と魔具について学んだわけだが……俺が教えられるのは徹底した戦闘技術と魔法能力の底上げだ。何があっても生き残れるように指導する」


「はい!」


「赤魔素に適性があることがわかって助かった。ここは赤魔素の魔石が腐るほど落ちてるからな。まずはこの魔石を使って、火魔法を徹底してコントロールする訓練だ」


 ジャズはポケットから魔石をもうひとつ取り出し、グレンに見せるように手をかざして魔法を使う。


「──赤魔素よ、進め(イグ・ザル)


 すると地面から火が吹き上がる。グレンがその火を見つめていると、炎が膨らんでは縮むのを繰り返す。そして、地面間際まで炎が小さくなったかと思うと、ジャズの足元をぐるぐると円を描くように動き回った。


「まずはこのレベルで赤魔素をコントロールできるようになってもらう」


 グレンは、先ほど火魔法を唱えて暴発したことを思い出す。


「俺にできますかね…?」


「いきなりは絶対にできない。だが、訓練を続ければ必ずできるさ。ましてや俺より才能があるんだからな」


 その言葉に背中を押され、グレンは手元の魔石を強く握り直す。


(無魔素を感じ取る……そして、細く、長く魔素を流すイメージ……!)


「さあ、やってみろグレン」


「はい! ──赤魔素よ、進め(イグ・ザル)!」


 グレンが念じると、今度はボワッと人の頭ほどの炎が吹き上がり、すぐにプツンと消えてしまった。


「極端すぎるし力みすぎだ。深呼吸してから、もう一度細い糸を紡ぐようにイメージしろ。威力を出すより、抑え込むほうが何倍も難しいんだ」


「は、はい……っ!」


 その後、ジャズの指導を受けながら繰り返し挑戦するも、なかなか上手くいかない。だが、不思議と苦痛ではなかった。絶望しかなかった奴隷生活の中で、明確に「自分が前に進んでいる」と実感できるこの時間は、グレンにとって唯一の希望となっていた。


 昼間は死と隣り合わせの地獄の労役をこなし、夜はジャズの元で魔法のコントロールを磨く。

 ただの奴隷の少年が、本物の『戦士』へと脱皮するための、過酷で濃密な日々がここから始まるのだった。

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