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白夜戦記──世界に光を降らせる日  作者: ルシア
第1章 ログザ魔脈坑

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第6話 恐怖

 グレンは周囲の檻から見つめられる視線による緊張と長旅の疲労から、いつのまにか気絶するように眠っていた。


 ──────ゴーン、ゴーン、ゴーン


 鐘の音で目を覚ます。なんとか目を開け、体を起こすと、周りの奴隷も一斉に怯えたように急いで立ち上がっている様子であった。


 すると、大部屋の入り口から1人の兵士が部屋に入ってくるのが見えた。


「さあお前ら、仕事の時間だ!! さっさと起き上がってログザ魔脈坑へ向かえ!」


 昨日、部屋の鍵を閉めた士官から受け取った鍵をポケットから取り出し、部屋の鍵を自分であける。


(自分で鍵を開けられるなら、この鍵に何の意味があるんだ…?)


 グレンは不思議に思いながら、ぞろぞろと外に出る奴隷たちに続く。すると、この第13収容所(バラック)の玄関へとつづくエントランス部分には机を並べて兵士が作業をしていた。


「部屋番号を提示せよ」


 すると奴隷たちは自身の牢の鍵を見せる。


「45番、お前はログザ魔脈坑、12番坑へ入れ」


「69番、ログザ魔脈坑と最奥部の間で魔素採取瓶の積み荷について往復をしてもらう」


 グレンも自身の手にある鍵をよくみると13-121と書かれている。

 前を見習い、グレンも部屋番号を提示した。


「ん、121番、お前は昨日来たばかりだな? 発言を許可する、答えよ」


「…っ、は、はい、そうです」


 久々に声を出すと、枯れており驚く。それもそうだ。奴隷になってから、ほとんど声を出しておらず、グレンは自分の声を久々に聞き、懐かしさすら感じるありさまであった。


「よろしい、貴様は大怪我していると聞く。治癒するまではログザ魔脈坑の上層と搬出入庫の積み荷を荷車で往復する仕事についてもらう。よって、まずは搬出入庫へ向かい説明を受けよ。搬出入庫は収容所(バラック)を出て左手側を進んだところにある。では配給を受け取り、進め!」


 通されたグレンたち奴隷には、隣のテーブルで朝食として、ごつごつとした陶器に注がれた『スープ』が配給された。だがそれは、()えた匂いのする泥水のような液体に、虫食いだらけの豆が申し訳程度に数粒浮いているだけの代物だった。


(これが、俺のごはん…?)


 口に入れるのを躊躇せざるを得ない配給食を前に、グレンは固まってしまう。

 だが、周りの奴隷たちはその薄いスープを短時間で掻き込み、収容所(バラック)の外へと進んでいく。グレンは昨日、鞭打ちで殺された老人を思い出す。


 (遅れて罰を受けるわけにはいかない)


 慌ててその味のしないスープをなんとか飲み干し、ドアの横にある台にスープ皿を重ね、外へと出る。

 朝にもかかわらず、赤砂が吹き荒れ、変わらずツルハシの音や怒号が飛び交っている。腐臭がひどく、思わず両手で鼻を塞ぐ。


 ────ドン


「うわ!?」


 ドアの前で止まっていたため、後続の奴隷に押され、思わずよろけてしまう。奴隷たちはぞろぞろと進んでいく。その流れに従い、グレンも歩みを進める。

 ある程度広い道の左右には収容所(バラック)と呼ばれるアパートのような構造物がいくつも立ち並び、その構造物の間に小さい道がいくつもあり、奥にはいくつものテントが無数に広がっているのが見える。また、収容所(バラック)の壁際には、今にも死にそうなほど痩せこけた奴隷が、労役に向かう気力すらなく寄りかかっている姿もあった。


(ここは、地獄だ)


 カノンにいたとき、グレンは死と遠い世界にいた。だが、ここでは死がそこら中に存在しており、明日明後日には生気のない目で道に倒れこんでいる自分を想像し、恐怖を感じていた。 


 そうして、道なりに進むと、有刺鉄線とフェンスで囲まれたこの区画の唯一の出入り口に到着した。門番に監視されつつ、区画をでたところで奴隷たちは自分たちの持ち場に向けてばらばらと散らばり始めた。


(えっと、俺の持ち場は左手に進むんだっけ)


 指示された通りに歩みを進めると、巨大な倉庫のような『搬出入庫』に到着した。そこには空の魔素採取瓶が入った箱を積んだ荷車がずらりと並んでおり、その前で見覚えのある軍人が待っているのが見えた。


(ジャズさんだ)


 最初にグレンに奴隷として生き残るための立ち振る舞いを教えてもらった人。グレンにとっては味方とは言えないが、カノンを出て以降、唯一自分に助言をくれた、他の人よりも信頼できる大人でもあった。

 小走りでジャズのもとにいくと、既に待機している奴隷のなかに、同じ馬車に乗っていた見覚えのある奴隷が何名かいた。

 やがて、グレンを含め100人ほどが集まったところで、ジャズが手を挙げて注目を集める。


「さて、ある程度人数が揃ったな。これより、お前らの最初の仕事を教える」


 すると、ジャズの赴任したばかりのためか、メモ書きを開き、読みながら話し始める。


「いいか。このすり鉢状の大穴には、底に向かってスロープが敷かれている。ぐるりと一周下るごとに『第~層』と呼ぶ。底は第7層だ。……お前らの仕事は単純だ。この空の荷車を押して『第2層の中継地点』まで下りろ。そこで赤魔素が詰まった瓶が入った積み荷を荷車に載せ、このバラックの搬出入庫まで引き上げてくる。それだけだ」


 そして、ジャズが後ろを指し示すように魔素銃(マジックライフル)を向ける。そこでは現在進行形で、おそらくグレンらとは別の収容所(バラック)にいる奴隷が、荷車から積み荷を降ろし、軍人へ受け渡しをしているところであった。


(この荷車、かなり重たそうだが、俺に運べるのかな)


 グレンは8歳の少年であり、ましてや骨折している身である。だが、やるしかなかった。やらなければ昨日見た老人のように殺されてしまう。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 グレンは搬出入庫から荷車を押し続け、ついにログザ魔脈坑の入り口に到達する。


(なんとかここまでこれた…ここからは下り坂だから少し楽かな)


 すると、入り口に立っていた見張りの軍人が鎖をもって近づいてくる。


「おい、ここからは荷車が勝手に進まないように鎖でてめえの手枷と荷車をつないで固定する」


 そういうと、かちゃりと鎖で手枷と荷車のとってにある穴がくっつけられる。


「ここからは荷車を前にだし、取っ手を引っ張るようにして進むんだ。荷車が後ろにあると、轢かれる危険があるからな。わかったら進め」


 グレンは、鎖があれば下り坂でも荷車は勝手に進みにくいと考え、感謝しつつ下り始めた。

 慎重に、力を入れて荷車が勝手に進まぬよう調整しながら降る。そして、50メートルほど進んだところで、荷車の車輪が落ちていたこぶし大の石に引っ掛かる。


 ──ガタン


「あ!」


 荷車が落ちていた赤石を跳ね、その勢いで勝手に進み始める。グレンのコントロールが効かず、ログザ魔脈坑のすり鉢状の奈落に向かって突進し始める。グレンと繋いである鎖によって、グレンはうつ伏せに引き倒され、一緒に奈落へ引きずりながら迫り始める。


(――――やばいやばいやばい死ぬ!!!)


「あっっっっぐうううう!!!!」


 歯を食いしばり、スロープの地面から飛び出ていた岩の出っ張りに必死でしがみつく。鎖に引かれて頭から奈落へ引きずり込まれそうになっていたグレンだが、岩を掴んだ反動で体が半回転し、足から落ちる体勢に変わった。

 幸いにも靴の踵が岩肌の溝に引っかかり、両手両足で斜面に突っ張るようにして、なんとか荷車の進行を食い止めた。

 折れた肋骨が悲鳴を上げ、脇腹に気が狂うような激痛が走る。しかし、グレンは歯茎から血が滲むほど食いしばり、絶対に岩から手を離さなかった。


(し、し、しぬ。死んじゃう!)


 もはやバランスを崩し切っており、掴んでいる石と石にかけている足のいずれかを外して立ち上がろうものなら、荷車に引っ張られるのが目に見えていた。


「おい! 注意しろといっただろ!」


 幸い、ログザ魔脈坑の入り口に近かったため、見張りの兵士がやってきて荷車を引っ張る。これにより、なんとかグレンは立ち上がった。


「す、すみませ―――」

「しゃべるな奴隷が、二度とこんなミスを起こすな!」


 ―――バシッ!


「があ!」


 見張りがもっていた鞭で一撃を受け、グレンは再び倒れこむ。


「早く立て、次はないぞ」


 グレンは歯を食いしばり、怒りに目をむき何とか立ち上がる。なぜ自分がこんな目に合わなければならないのか、何をしたというのか。この世の不条理に怒りが止まらない。だがそれでも、グレンは軍人に逆らう手段はなかった。生きていくためには、この作業を終わらせるしかなかったのだ。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 1歩ずつ、先ほどよりも慎重に下る。死と隣り合わせの作業であり、グレンは集中力を高める。しかし、第1層を下り終え、第2層に差し掛かったところで、明らかに空気が変わるのを感じた。


(あ、暑い…)


 第1層では外から吹き込む穏やかな風を感じ、午前であったため日差しも直射日光を浴びることなくいけた。しかし、時間が経ち正午に近くなると、日差しが真上から差し込む。さらに、下層から赤魔素によるものか熱風が吹き上がってくるのを感じ、いっきに体力が奪われていく。


「はぁっ…はぁっ…」


(集中だ、俺。とにかく、集中だ!! じゃないと死ぬぞ)


 暑さで意識が朦朧としてくる。汗が滴り落ち続け、体力が凄まじい勢いで奪われていくのを感じていた。


(っ…! これは…)


 第2層の中盤に差し掛かると、そこには干からびた死体が何体も落ちていた。耐え切れずここで死んだものを担いで上に上がるものはいない。もし、グレンも体力が切れると、彼らの仲間入りである。いや、グレンの場合は荷車と鎖でつながっているので、今倒れると荷車に引っ張られ、奈落の底へ落下して即死だろう。


(俺は…こうはならない! なりたくない!)


 泣いても、辛くても誰も助けてくれない。グレンは生への執念を燃やし、第2層の終盤まで荷車を運び続けた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 なんとか奈落に落ちずに第2層終わりの中継地点に到着した。

 到着してすぐに、中継地点にいる軍人から硬いパンをひとかけらと、赤砂で濁った水が入ったコップが渡される。

 奴隷たちは地べたに座り、パンを口に含み、水でふやかして飲み込む。

 軍人たちは魔素銃(マジックライフル)を構えて奴隷を監視する。奴隷たちは声も出さず死んだ目で補給をつづけた。

 そして30分ほど休憩したあと、軍人に来いと呼び出され向かったところ、グレンが引いてきた空の荷車には、赤く煌めくガラス瓶が詰め込まれた箱が載せられた。


「お前の荷車は既に魔素採取瓶を積んだ。さっさとここを出発せよ。積んである赤魔素はお前の命より重い、慎重に運べ」


 そういって見張りの兵士がグレンを送り出す。


(俺の命より重い…)


 その言葉を聞いても、ジャズに奴隷という立場を教わったときほどの悲しさや辛さを感じなかった。代わりに感じたのは強い憤りと、自身でも驚くほど冷える頭であった。


(俺が生き残るには、冷静に、死なないようにこの作業をこなすしかない。なんといわれようとやるしかないんだ)


 ギリと奥歯を噛み、力を込めて荷車を押し続ける。最初は良いペースで進み、第2層の中盤まで登ったときに、足裏に異変を感じ始める。


(く、足裏の皮が剥がれて滑る)


 荷車を押すために地面を掴むような足の使い方をしていたためか、足の爪から血が流れ、足裏の皮がベロりと剥がれ始め、それによる出血で滑り、なおさら力を入れなければならないという悪循環に陥る。


 それでもグレンは進む。生き残るために、カノンを助けるために。

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