3 なんなんだこの状況はっ
「ここ、よく来るんですか?」
「あー、そうだな。まあまあ来てる。」
「へぇーそうなんだぁ。確かに雰囲気いいですもんね。」
「・・・ああ。」
陽川の質問に答えつつ、どうしてこうなったのか考えてみる。
まず、陽川に発見された。そしてお礼を改めて言われた。今日のお代を、前にあげた130円だけでなく全額払ってもらうことになった。
ここまではいい。いたって普通だと思う。
しかし、その次がおかしい。
(・・・なんなんだこの状況はっ!どうして相席することになった!?)
相席させてくれという要望に勢いのまま返事してしまったのが本当に悔やまれる。
そもそもなぜそんな要望を言ってきたのかがわからない。
(普通こんなことするか?・・・いや、お代を全額払うということなら確かに相席のほうがいい、か?これが陽キャ女子のコミュ力?)
そんなことを考えながら曖昧に返事していると、それを訝しんだのか陽川にじっと見つめられていた。
「・・・もしかして、ご迷惑でしたか?」
不安そうにこちらの反応を窺ってくる。
そんな目で見つめられて、これで『はい、迷惑です。』なんて言えるわけがない。
「い、いや。全然大丈夫。少し考え事してただけだ。」
「ホッ・・・良かったぁ。あの、改めてありがとうございました。私、陽川紗季っていいます。」
頭を下げてきた。こういうところは律儀なのに所持金の把握はできないんだな、と思ったが口にはしなかった。
「まぁ、どういたしまして。」
「ええと、おにーさんのお名前聞いてもいいですか?」
(・・・さてどうするか。)
隼人が恐れていたのはこれだ。
現状、自分が同じクラスの影島隼人だと気づかれた様子はない。それはそうだ。今の姿と学校の姿はまるで違う。
だが、名前が一致しているとなったらどうか。
すぐに結びつくとは限らないが、少なくとも疑われはするだろう。
「・・・阿江隼人だ。」
阿江とは父方の名字だ。影島は母方である。これだったら呼ばれたときの反応が遅れることも少ないはず、そう思い選んだ。下の名前が同じだが、それぐらいの偶然はあり得ることだと思う。
「阿江さんですね。あっ、全然遠慮せずに注文してもらっていいですよ。」
「いや、いい。いっつもアイスティーだけだから。」
「そうなんですか。じゃ、私何か頼もっかなぁ・・・。何かおすすめあります?」
「んー、俺はあんま甘いもの好きじゃないから頼んだことはないが・・・そのパフェとかいいんじゃないか?たぶん女子高生用だろ?」
たぶん、と言っているがこれは事実女子高生用だ。オーナーの八杉さんが何か若い客が来るためにいい案はないか、ということで隼人が提案した。今までその効果はゼロだ。
そもそも、ここの常連さんの中にSNSを使いこなしている人はいないため、一度若い客に足を踏み入れてもらわなければ新たなる若い客につながることはない。アルバイトの慶太、もしくは隼人自身がやればいいのでは?と思うかもしれないが、偶然にも両方がSNS系統に疎い。
「あー、確かに美味しそう!じゃあこれ頼みます。」
そう言い陽川はボタンを押した。
そしてほんのりと口元をにやつかせた店員慶太が現れる。
「はいっ。」
「このミックスフルーツパフェ1つお願いします。」
「かしこまりました。」
余計なこと言うなよ、という視線の圧をかけておいたので何も言われなかったが、明らかに面白がっている。あとで大量の通知が来そうだと少し憂鬱になる。
それはともかく、考えていても無駄なのでそろそろ聞いた方がいいだろう。
「ええと、一つ聞いてもいいか?」
「はい、なんですか?」
「どうして相席に?・・・ああ、迷惑だったとかそういうんじゃなくて、単純に理由を聞きたい。」
一瞬彼女の表情が曇ったのを見て慌てて追加説明した。
「ん?この前のお礼をするためですが?」
「それならレジのときにお金を渡したらいいだろ?それに俺って見るからにやばそうだと思うんだ。下心あって近づいたとか思わないのか?」
隼人がそう言うと陽川は首をかしげていた。
「えっ、そうなんですか?」
「いや、違うけども。」
「んー、確かに阿江さん見た目は少し怖めですけど全然そうは思わなかったです。だって困っていたところ助けてくれたし、それにこんな感じのカフェに来るような人だし。あとは・・・ええと、なんとなく大丈夫かなって。」
自分のことをそう思ってくれていたのは嬉しいが、『なんとなく』は少し危機感が心配になる。若干何かを言いかけていたようで、それを誤魔化すために言ったようにも取れなくはないが。
あと、『こんな感じのカフェ』は少し失礼ではないだろうか。誉め言葉でもあるのだろうが、そういう意味で言われたのではない気がする。
「だからその、別に何か理由があってっていうわけじゃなくて、ちょっと話してみたいなぁって思ったからなんですけど・・・」
(・・・なるほどな。)
さすが陽キャ女子である。こうやって友達を増やしていくのかと、感心した。
隼人は、用事もないのに誰かに話しかけるなどまずない。あったとしてもそれは既にかなり仲のいい人であって、見ず知らずの他人にそれはできない。
ちなみにどうやって慶太たちとかと仲良くなったのかというと、大抵は向こうから近寄ってきた。それでしばらく話したり一緒に行動しているうちに勝手に仲良くなった。
「俺ってこう見えてあんま自分から誰かに話しかけようとしないタイプからさ。いきなりこんな話しかけられて驚いてたんだが・・・。まぁ、そういうことなら嬉しいよ。」
「・・・。」
「どうかした?」
「いっ、いえ!そういう風に笑うんだなぁって・・・。」
「・・・?」
次回更新は3月4日予定です。




