noir+snow編
noirとsnowの物語
(pigbutcher詐欺の被害者の依頼を受けて被害金の返還に乗り出し、加害者は国際詐欺組織に監禁されていたことを監視カメラのハッキングなどで知って拘禁された詐欺師の協力の元LANサーベイランスによるクリプトの回収と、sheepがzuluの支援の下現地に侵入して詐欺師を救助する描写を後で書く。以下は救出後のやり取り)
sheep「こんなに遅くなって、悪かったわね…あの施設で、何かと苦労もあったでしょう。ところで、中途半端なところで放り出すのはかえって非効率で性に合わないの。あなたたちさえよければ、日本での生活費の融通と、気が向いたらまっとうな仕事の斡旋も―」
snow「sheepさん。私たち、隠していたことがあるんです」
noir「snow」
snow「いいから。この人に隠し事をしても、きっと遅かれ早かれバレちゃうよ」
noir「そうか…それもそうだな」
sheep「あら…話したいことがあるなら、私は聞くわよ」
snow「ありがとうございます。私たち、日本でも犯罪をしていて、このまま帰ったら多分、捕まっちゃうと思うんです」
sheep「それは…参ったわね。どうしてそうなったか聞かせてくれるかしら」
snow「わたしの、義理の、父が…」
noir「snow、俺から話す。俺たちは異父兄妹で、父親のことはよくわからんが、母親は付き合う相手を毎年のように取り換えるアバズレだった。そんな女が最後に選んだのが、人とも思えないようなやつでな…」
snow「…うん。学校にも行かせてもらえなかったよね。お兄ちゃんが庇ってくれなかったら、snow死んじゃってた」
noir「俺は痛みには強いからな、気にするな。ただ、俺でも盾になってやれないことが起きてな。あいつ、snowに手を出そうとしやがったんだ。冷静に考えてみれば、あの時二人とも殺すべきだった。そうすれば、少なくともsnowはこんな目には―」
snow「お兄ちゃんその話はもうしないって約束したでしょ!なんでわたしのためにお兄ちゃんが傷つかなくちゃいけないの?!」
noir「すまない、"約束"だったよな。そうだな、大人になって考えてみれば、もっとマシな手もあったのかもしれない。ただ、その時思いついた中では家出が一番現実的だったんだ」
snow「わたしが強くなかったから。お兄ちゃんには苦労かけちゃったね、わたしなんかが生まれてこなかったらお兄ちゃんは―」
sheep「それで、その後どうしたのかしら。子ども二人だけで生きていくには苦労もあったでしょう?」
noir「ああ、多かった。年齢をごまかして働くにも限度があった。路上で寝るのは当たり前で、結局生きていくには盗みしかなかった」
sheep「…そうよね」
noir「それでも野宿したときに見る都会の夜景は、きれいでな…ただ、それすら続かなかった。冬になって大雪が降った日、俺が十分食わせてやれなかったばかりに、snowがひどい風邪をひいてな」
snow「ごめんなさい」
noir「いいんだ、snowはいまは体は…これからは…いや、何でもない。俺は、これからはsnowに同じ思いをさせる気はないぞ。どんな手を使ってもな」
snow「…お兄ちゃんはがんばりすぎだよ。あの時だってそうだった」
noir「ああ。オンラインで知り合った相手に、身分証を売った。あまりにはした金で、家から保険証も持ち出せなかった俺たちには薬局の薬代で消えた。それでも、何とか持ちこたえてな。ただ、一度転がったらあとは速かった。犯罪の世界は身分経歴年齢不問…俺みたいなのでも金を作ってやれるって気が付いたからな。売人でも受け子でもなんでもやったよ、犯罪歴と裏社会の知識だけが見についた」
sheep「そうだったのね…」
noir「だが、さすがに続かない。ある日寝床にしてた場所に私服警官が張り込んでいることに気が付いてな。荷物も何も捨てて慌てて逃げたよ。正直、あれはきつかった。いや、犯罪者としてやったことに対して言い訳はしない…だが…積み上げてきたものに背を向けて逃げ出すのは、何と言ったらいいか」
sheep「そうね、あなたの感情は自然だわ。守るべき時にあなたたちを守らなかったものが、今更になってあなたたちを追い詰めてきたことに否定の余地はないもの」
snow「sheepさん…」
noir「…俺がもっとしっかりしていればよかったんだがな。それで安直に、高飛びしようとした。どうせ住む場所もなくしたし、元々いつかはそのつもりで二人で英語を学んでいた。皮肉にも、パスポートだけは発行の金がなかったせいで売り飛ばすのを後回しにしていてな。俺もsnowも家がなくて、職場も学校も病院とも無縁で、身分証を使う機会もなしに偽名を使っていたから、住む場所や顔は割れても身元まではまだ手が回っていなかったんだろう。俺たちでも働けるアテがあると聞いて、それで飛びついた先がここだったんだ。見事に騙された…いや、騙してたのは俺たちか。はは…」
sheep「そうね、その状況だったら前提は変わってしまうわ。安易な判断で仕事の斡旋なんて提案すべきじゃなかったわね」
snow「いえ、sheepさんは何も悪くないです。助けてもらえなくなると思って、隠していたのは私たちの方ですから」
sheep「…それで、あなたたちはどうしたいかしら。もし法の裁きを受けたいのであれば、少なくとも弁護士費用は持つと思って頂戴。人選に関しても、あなたたちみたいな子をよく受け持っている人に心当たりがあるの」
noir「それが、その…すまないsheep、少しの間snowのいないところで話しても構わないか?」
sheep「snowはどうかしら?私は構わないわよ」
snow「お兄ちゃん…わかった、snowここで待ってる。ゆっくりでもいいからね」
noir「あまり時間はかけない、早めに戻るよ」
snow「…お兄ちゃん、二人でなにお話するのかな。わたしを置いてsheepさんと駆け落ちとか?!…えへへ、そうだったらいいけど、そうじゃないんだろうな。お兄ちゃんはsnowに縛られすぎだよ。snow、snow。いい名前。雪、好きだった。何番目の人だったか忘れちゃったけど、殴らないお義父さんがいたとき、一度だけsnowとお兄ちゃんと一緒にお庭でかまくら作ってくれたな。雪はあんなに冷たいのに、人をぽかぽか暖めることもできるんだってびっくりした。この国では日本みたいには四季もないし、雪なんか降らないから、外を見ても変化がなくて、このままずっと終わらないんじゃないかって思ってた…お兄ちゃんには言えないけど、あの大雪の日に風邪をひいちゃって、snowやっと終われるんだって思った。お兄ちゃんがあんなにたくさん悪いことしてまでsnowを助けてくれるなんて想像もできなかった。これから先、お兄ちゃんにどれだけ迷惑かければsnowは生きてられるんだろう?…お兄ちゃんは報われないとだめだよ。ううん、わたしが報いるの、そうしないとわたしが耐えていけない。でも、もしこのままお兄ちゃんが帰ってこなかったら…snowは諦めよう。だいじょうぶ、溶けちゃうことはこわくないよ、みんないつかはそうなるんだから。ゆーきやこんこ、あーられーやこんこ…あはは、snow音痴だな、やめよう」
sheep「それで、どうしたのかしら?私にも言いづらいことかもしれないけど、それはそれとしてあまりあの子を待たせたくないでしょう?」
noir「sheep、俺はどうなってもいいんだ…ただ、捕まることでsnowが俺と引き離されると、まず間違いなく壊れる」
sheep「聞かせて」
noir「snowはな、俺と違って、虫も殺さないような人間だ。他者の感情に強く共感できる、いや、できすぎる。日本にいたころも、完全に犯罪から隔離することはできなかった。この国にいたころのことは言うに及ばずだ。あまりにも多くの人を傷つけることを強要されて、内面ではどれほどの苦痛を抱えてるか。恐らくは、生き残るための方法だったんだと思う…俺に尽くすことを目標にし始めたのは」
sheep「それは…つらかったでしょうね、snowもあなたも」
noir「俺のことはいいんだ。だが、俺とsnowが自首したら、結果はどうあれ引き離されることには違いない。俺に尽くすことだけが生きる目標、俺に何かを差し出したときだけ幸福を感じる、いや俺の幸福を自分の幸福だと誤認する、そんな人間を一人にさせるわけにはいかない。だから…見逃してくれないか?」
sheep「それで、生きる当てはあるの?この国で二人で。失敗したとき、傷つくのはあなただけじゃないのよ」
noir「わかってる…だが、他にどうしようもないんだ。あんたに借りを返せないであろうことが心残りだが―」
sheep「あら、取り立てないなんて言ってないわよ。あなた、私のところで働く気はある?」
noir「…っ!そうか、そうだよな。俺は…snowと一緒に居られるなら、諦める。昨日までのことを考えれば、奴隷扱いでも割には合う。だからせめて、snowには飯を食わせてくれないか?」
sheep「働く気があるか聞いただけじゃない。そうね…あなたは人に使われるという立場に向いてないでしょうから、外注という形にしましょうかしら」
noir「外注?どういう意味だ?」
sheep「ここからは、あの子も交えて話し合うべきよ。戻りましょう」
snow「あ、お兄ちゃんお帰り!sheepさん、兄が粗相を働いていませんでしたか?」
sheep「何も気を回すことはなかったわ。それよりnoir、snow、二人とも。私から提案があるの」
noir「ああ、聞かせてくれ」
snow「…はい」
sheep「私は今回、詐欺被害者の暗号資産の回収に来たわ。少し手間が増えたけど、その過程であなたたちという優秀な人材との知己を得た。これは私の業務拡大の追い風だと思うの」
snow「sheepさんのところで、働けるってことですか?」
sheep「少し違うわ、あなたたちも組織の下で働くのはこりごりでしょうから、外注という形で提携しようと思うの。私が何を任せるべきか判断して、あなたたちで請け負うか判断する。つまり、パートナーシップ。三者で立場は対等と言っていいわ。当然、定期的に仕事は回すし報酬は弾むから安心なさい」
noir「話が、うますぎないか?」
sheep「そうでもないわよ。銃器や弾薬、ピッキングツールの密造や密輸入は私の方で行うには手間がかかりすぎるし、余計な組織とのつながりは持ちたくない主義なの。実働部隊として動けるnoirも、小所帯のうちの戦力としては喉から手が出るほど欲しい人材だわ。当然、日本への渡航費、偽造身分や当座の生活費、住居はすべてこちらで持つ。それも対等な契約のうち。どう?」
snow「sheepさん…そんなの、もう断れないじゃないですか」
noir「ああ…いきなり信用することはできないが、乗らない手はない」
sheep「なら、決まりよ。noir、snow、あなたたちに期待しているわ」
sheep「ところで、pseudonymはそのままでいいかしら?」
snow「私は大丈夫です。雪、好きだから」
noir「俺も同じくだ…夜空に因んでな」
sheep「sheep、snow、noir。一人だけフランス語ってのも面白いわね。nightじゃ芸がないかしら?」
noir「俺はナイトって柄じゃ、ないからな…」
snow「んんん?お兄ちゃんはわたしのknightさまだよ?snow英語苦手だけど、そのくらいはわかるんだ!」
noir「…いや、何でもない。とにかくpseudonymはこれで通してくれ、今更考えるのも手間だしな」
sheep「わかったわ。これが約束の身分証、大抵の場面では通るけど期待しすぎないで」
noir「偽造身分証か…檻の敷地が広くなっただけだな。まともな職に就こうと思えば一発でバレる。だが、それは初めから同じことだ」
sheep「わかってるじゃない。使い方は追々教えるわ」
snow「…本当に、いいんですか?これだってお金がかかってそうだし、当面私たちが十分な利益を上げられるとは保証できません」
sheep「長期投資は経済の基本よ?あとで帳尻を合わせてくれればいいの。待てるだけの内部留保はあるから気にしないで。それにね、この身分証はこういった事態を想定して予め用意したものだからコストはかかってないと思って頂戴」
snow「できるだけ、しっかり働きます。私にできることは少ないですが、できることならなんでも」
noir「羊(sheep)に飼われるなんて全く洒落が効いてるな…いいだろう、どうせ首輪のない生活にも期待していない。だが納得できない仕事は受けない、外注だからな」
sheep「あなたたち…そうね、私たち三人が対等な立場であるということだけは覚えておいてね」
snow「―というわけなの。sheepさんは凄かった。あの人がいなければ、私もnoirも今もあそこで人を騙していたと思うわ」
snow「沢山の人をね、騙してきたの。私のことを本気で心配してくれる気持ちに付け入って、お金を騙し取ってきた。老後の蓄えとか、子供の学費とか、見境なしにね。日本語ができる人は少なかったから、成績は二人でツートップだった。」
snow「実はね。idealちゃんにしか言えないけど、本当は思ってたの。騙される人がいなければ誰も騙すことを強要されないのにって。あまりにも、厚かましいでしょう?でもね、いつしかね…救ってほしいっていうのは、お金を引き出すための言葉じゃなくて私の本音になってたの。あの施設で、一緒に閉じ込められていた人たちを、私の代わりに、誰かが外に出してくれないかって。そんな妄想みたいなことを現実にしてくれたのがsheepさんで、だから私はsheepさんを支えたかった。sheepさんなら、きっと表立ったやり方では救えない人たちのことも救ってくれるから」
ideal「そこにsnowさんは入っていたんですか?」
snow「えっ?ええっと、私が助けてほしかったのはnoir―お兄ちゃんなの。あとjournalistさんと、thiefさんと、他にもみんな―」
ideal「snowさん。snowさんはどうして、幸せを拒むんですか?」
snow「え?idealちゃん、ちょっと行き違いがあったのかしら。私はね、たくさん罪を重ねてきたの。それに、お兄ちゃんにもsheepさんにも守ってもらえて、idealちゃんとzuluくんっていう大切なお友達がいて、わたしは今が一番幸せだよ」
ideal「裏にいる人が、みんな自分から幸せを諦めなきゃいけないなら、先輩は。局長は。一体どうしたらいいって言うんですか?」
snow「idealちゃん…?あ、もうすぐ雨が降っちゃいそうだからこの辺で―」
ideal「私…諦めませんから」
ideal「noirさん」
noir「idealか…snowと仲良くしてくれてるそうだな、恩に着るよ。どうした?」
ideal「noirさんも、snowさんもいい人なのに、どうして幸せになれるようにできてないんですか?」
noir「まずは一点訂正させてくれ。俺はいい人じゃない、立場が似通っているからそう見えるだけだ。厳密にはたった今利害が一致しているだけで、お前の味方ですらない」
ideal「本当に悪い人はそうやって予防線を張らない。noirさんが私を味方につけないのは、私に利用するだけの価値を感じてないから?利害の不一致が起きた時、あとで傷つけるのが怖いから?一度誰かに認められる経験をして、それを失うのが怖いから…?」
noir「何の、話だ。俺は分かりきったことを口にしただけだ」
ideal「局長はシステム…って呼んでる、法律とか、世の中のルールみたいなものを守ろうとしてるんだと思う。それは、システムがみんなを守ってくれるように作られてるから…なんだよね。でも、システムは絶対に平等じゃない。私は自分から外側にいることを選んだから、守られなくたって平気。でも、noirさんとsnowさんには最初からシステムの内側にいる選択肢なんてあったの?noirさんは…自分から誰かを傷つけることを望んだことはある?」
noir「いや。…あると言えば、恐らく嘘になってしまうな。俺は善人ではないが、別の選択肢があればいいと思ったことは何度もある。snowもな」
ideal「システムは…例外とか、扱いが難しい(包摂コストが高すぎる)人を引き受けない。その方が効率がいいから。なら、そんなものの存在意義って何?局長も、noirさんも…自分の隣で、他の誰かが幸せになり続けることを直視してるの?」
noir「ああ。一度そういうものだと割り切れば、痛みは…軽くはなる。上を見ればキリがないからな。どうしても耐えられない、そういうときは夜に人気のないところで空を眺めてる。ああ、これは秘密だぞ。あまり人には知られたくないし、夜道で敵に不意打ちされたらたまらないからな」
ideal「noirさん」
noir「ideal、下を見てもキリがないぞ。俺たちのことは殆どの人が意識しないし、しても敢えて見なかったことにする。そうしても責めない。俺よりさらに不幸でこの年になるまで生き延びられない人間なんて山ほどいて、俺もsnowもそのことは見ないようにしてるからな。皆どこかで折り合いをつけて生きている」
ideal「私は。考えなくなるのも、諦めるのも嫌です。noirさんもsnowさんもいい人で、局長の隣には先輩がいるから。システムが裏の人たちを磨り潰して存在ごとなかったことにするなら、私もシステムを見なかったことにする。だから、私はまだ裏にいます」
noir「ideal、俺から言えることは少ない…そうだな、アウトサイダーで居続けるなら、傷つく覚悟だけはしておくといい。たとえどんなに匿名化しても、見ず知らずの相手でも、法に触れること、加害することは己の身を削る。最初の一年はいい、興奮が恐怖を圧倒的に上回る。三年、五年と耐えられるやつもいるかもしれない。だが、いつか積み重ねた負債の利息を支払いきれなくなる。…逃げられるうちに逃げたやつだけがこのゲームの勝者だ」
(以下のテキストは意図的に通常の自然科学の資料より情報を極限化することで再現性を破棄しており、改正銃刀法のあおり、唆しに該当させる意図は存在しません)
「Lutyのサブマシンガンは現実的じゃないかな、バックヤード工作でオートマチック銃に足りる精度は出せない。すぐジャムるよ」
「本当はその気になればポンプアクション式も作れる。でも、火力が必要になった時点で負けだから隠匿性の高い二連式の方がいい」
「オーケー、私はいま落ち着いてる。必要な材料は薬莢、火薬、信管、ワッズ、弾頭の五つだよね」
「薬莢はパイプスタッフィナーをベースに、穴を開けた木製ダボに配管用オリブを嵌め込んだものを差し込んで…」
「信管ケースはアルミ缶を加工したもので代用。Tap-O-Cap(アルミ缶を信管ケースに加工する小型ツール)の3DCADモデルが公開されててよかった」
「確かにマッチが四十本もあれば12ゲージショットシェルは作れるけど、削る手間も考えたら私はゴールデンパウダーの方が好みかな。ビタミンC(アスコルビン酸)とスタンプリムーバー(硝酸カリウム)をお湯で混ぜるだけだし。もちろん、加熱しすぎや保管に気を付けないと危ないけどね」
「アスコルビン酸。子供のころ、まだ小学校に通えてた頃理科室でクエン酸をこっそり拾って口に入れてたのを思い出すな。今思えばコスパ的にはものすごい贅沢だけど、お腹が減って味のするものなら何でもよかった。化学が好きになったのはあの時の経験かな…毒性のあるものを見分ける必要があったから」
「信管はアームストロングミックス(マッチの頭薬と箱側面の赤燐を慎重に混ぜたもの)やレース用のキャップガンでも使えるけど、信頼性に疑問がある。ダブルバレルであることは信頼性の言い訳にならない。H48(昔の弾丸用軍用信管の炸薬)の素材は、ええっと塩素酸カリウム、硫化アンチモン、硫黄、粉末ガラス、重曹…全部揃ってる、良かった」
「H48の調合が一番危ない。ただでさえ私はそそっかしいから…お水を張ったタライを用意して、その上で作業しよう。うっかりこぼしても不活化する。でも静電気とか、気を付けないと」
「ワッズは蜜蝋で防水加工したフェルトでいい。もっと良質な素材もないことはないけど、こっちの方が証拠が残りづらい」
「弾頭…鉛のベアリングの方が密度が高くて重量当たりの空気抵抗が少ないことくらいわかってる。でも、スチール製がいい。鉛は…毒があるから」
「できた…じゃない、全然できてないよ。もう一回フェルトで蓋をしてグルーガンでしっかりクリンプするの。全部こぼすところだった…なんで私ってこんななの?」
「バッチテストの時が一番緊張する…全て失敗になったら、不発や暴発が起きたらどうしようって。…手、もう少ししたら震えなくなるかな」
「グリップに止血用のターニケットがぎりぎり入る。ストックはなしでいいな、無煙火薬ほど反動は強くない」
「薬室解放、散弾装填、薬室閉鎖。撃鉄を起こして、照準よし…発射」
「きゃ!…何回聞いても慣れない、銃声。sheepさんに防音ボックスを作ってもらってよかったけど、火薬の匂いがこもっちゃうのが欠点かな。本当はトリガーに紐をつけてテストしたほうが安全なんだけど、今更だしね…」
「弾道ゼラチンは…うん、ちゃんと貫通してる。あとで傷んだところをとって、お鍋で柔らかくしてリサイクルしないと。安定性は下がるけど、ゼラチンもったいないもんね。…そうだ、あとでお兄ちゃんにゼリーでも作ってあげようかな」
「本当は…ずっとおいしいものとか、便利なものだけ作れたらいいのにな…ううん、snowにそんなこと望む資格なんかないよ。今は目の前のことに集中」
snow「お兄ちゃんおかえり!どこも怪我してないよね?」
noir「ああ、ただいま。俺は無事だから安心してくれ」
snow「お兄ちゃんそういうことすぐ隠すからな〜、そうだゼリー作ったの、もうそろそろ固まってると思う!」
noir「おお、それはいいな。…火薬の匂い。snow、snowこそ平気だったか?」
snow「snowどこも怪我してないよ、もう慣れたもん、心配しすぎ」
noir「…そうか、無理はしないでくれよ。ゼリーはなにで作ったんだ?」
snow「じゃじゃーん、世間で話題のフルーツビネガーです!あ、ゼラチンは弾道ゼラチンに使ったやつの余りだけど、お鍋はちゃんと綺麗なのを使ったからね」
noir「そうか、とりあえずこの黄色いのをいただくよ…レモン味か、うまいな」
snow「こっちの緑のはぶどうなんだって、snowもまだ飲んでない」
noir「ああ、そっちはsnowが食べるか?」
snow「んー、お兄ちゃんが両方先食べていいよ。私のやつはゼラチン少なめにしたからまだ固まってないの」
noir「…そこまでして節約することないんだぞ?外注の仕事はうまくいってるからな」
snow「でも、それは今だけだよ。想像したくないけど、お兄ちゃんが怪我しちゃったりして働けなくなっちゃったら大変だから」
noir「そうだな…すまん」
snow「え、謝ることなんかないよ…お兄ちゃんが働けなくなってもsnowががんばって支えるから、つらいときはいつでも休んでね?」
noir「…ああ、そうだな。だが、俺もsnowと同じ気持ちなんだ。大切な妹だからな」
snow「お兄ちゃん…お兄ちゃんはもう十分がんばってくれたから、snowのこと以外も考えないとよくないよ?」
noir「まあ、善処するよ。ゼリー作ってくれてありがとうな」
noir「今でこそフェロセリウムロッドを常備してるが、昔は使い終わったライターで無理やり火花を起こして紙ゴミや布ゴミに火をつけて凌いでいたな。燃料切れのものがポイ捨てされていて助かった」
noir「円状に巻いた段ボール紙を缶詰の空き缶に詰めて、溶かしたろうそくを流し込むだけで簡易ストーブになる。正直、これを超える固形燃料のレシピは他に知らないな…パラフィンを袋で買えばろうそくより安くつくことを知った時は、もっと早く知っていればよかったと後悔したよ」
noir「ペットボトルのキャップにカッターの刃を水平に仕込んで、垂直の切り込みを入れるとペットボトルを紐状に加工できるカッターになる。パラコードほどとは言わないが、服の補修やテントの維持に使えるなかなかの紐になるぞ。綯えばロープにもなるしな」
noir「幸い公園には安定した水源があったが、人の目が多かったりしてそれすら厳しいときは適当な水をペットボトルと砂で作ったフィルターで濾過して煮沸していた。今はライフストローがあるが…本当にまずい味だったな」
noir「食料には全く悩まされた。たんぽぽや猫じゃらしではカロリーがまるで足りないし、どんぐりは季節しか取れないからな。どんぐりの季節には、近所に川がなくて流水で漬け置きも難しかったものだから何度も煮込んでアク抜きしたぞ」
noir「最初の頃はsnowと一緒にトイレで寝てた。次にはペットボトルの紐で継ぎ接ぎにした布をテントにしようとしたが、雨で現実を思い知らされた。ごみ袋を繋いで上に被せることで凌いだが、やっと防水タープが買えたのはいつだったか…」
noir「森なら屋根がなくとも場所を選べば広葉樹が天然の雨避けになったんだろうがな…床はもっと重要だった。床材は断熱性で見て松葉がいいなんて聞いたが、選ぶ余地もなく二人でごみ袋に枯れ葉を必死に詰めていったよ」
noir「水を入れたペットボトルを僅かに白く濁らせて、昼間はテントの屋根に空けた穴に設置する。夜は懐中電灯の上に乗せる。まともな照明があるとないとでは違いすぎる」
noir「インターネットはフリーwifiしかなかった。一度だけ、evil twin攻撃に引っかかってうっかりパスワードを入力して酷い目に遭ったことがあるぞ…端末のOSサポートが切れても買い換える余地は殆どなかったしな」
noir「公園に水道や夜間照明を置くなら、いっそ電源も設置してくれればいいんだがな…いや、これは望み過ぎか。なけなしの金で買った太陽光パネルが生命線だった。盗まれたら困るから、いつでもリュックサックに貼り付けていたな」
noir「冬場は夜になるたび生きるか死ぬかだったな…ペットボトルで湯たんぽを作って、それでもとても耐えきれなくて妹と二人抱き合うようにして横になった。いつもは寝つきの悪いsnowがなぜか五分も立たずに眠りについて、もう目を覚さないんじゃないかとはらはらしたよ。不安でまんじりともせずに夜を明かして、やっとsnowが目を覚ましたときには思わず少しだけ涙したな。…ああ、妹には秘密だぞ?」
noir「時たま声を掛けて来る大人は居たが…まだ幼いsnowを連れている限り、安易に信用出来る相手はどこにもいなかった。いや、何度も妹を狙われそうになって荷物をまとめて寝る場所を変えたよ。その度に、snowには謝らせてしまったな…怖かったのは俺じゃなく、snowの方なのに」
noir「SIM契約なしではネットすら通じる保証はないから、snowとはお互いできるだけ側にいて、離れるときも時間と待ち合わせ場所を必ず共有してた。フリーwifiが通るうちに、必要な情報は何でもダウンロードしたぞ。kiwixをインストールしてwikipediaをまとめてダウンロードしたな…おかげで、ただ続く時間を耐えるために読むものには苦労しなかった。画像を入れるにはスマホの内蔵ストレージ容量が足りなかったから、文章だけであとは想像力で補ったものだ。…昔のスマホならSDカードスロットがあったんだがな」
noir「生き残るために必要なことなら何でも学んだ。最初の頃、知識がなくて失敗したことが多すぎたからな。日本語圏のインターネットではなかなか役に立つ情報がなくて、二人で英語のサバイバルガイドを機械翻訳と併せて必死に読んだ。役に立ったのは全体のごく一部だが、それがなければ何度死んでたかわからない」
noir「音楽だけは、ただの趣味だったな…無線イヤフォンは買えないし、買えても充電が間に合わないから音量を小さくして二人で聴いていた。あの時だけは、自分たちが普通の兄妹なんじゃないかと思ってたよ」
zulu「snowさん、新しいピッキングツールがあるって本当ですか?」
snow「zuluくん、今回のはお姉さん少し頑張ったんだ!みてみて、今回のは隠匿性を重視してフィーラーゲージじゃなくて車のワイパーブレードの芯材をベースにしてシュリンクチュービングで持ち手を作ってみたの。前のやつより細くて使いづらいけど、zuluくんなら問題なくいけるかなって!」
zulu「フック、ハーフダイアモンド、レイク…あ、ハープーンもあるのだ。鍵穴を壊した鍵で詰めた後に抜き出すやつだっけ」
snow「そうそう!ブランクキーの持ち手の根っこにぎりぎりまで溝入れたやつがあるから、ドアを開けられなくしたいときはこれを差し込んで思いっきり捻ってね」
zulu「でも、シュリンクだと太くなったりして結局嵩張っちゃうんじゃ…?」
snow「ふふふそこはお姉さんの腕の見せ所だよ。こっちの油性ペン、インクがあるのは先端だけなの。これの底を空ければ四本とも差し込めるよ。あ、一本ごとに向きを互い違いにして入れてね!」
zulu「なるほど、これなら確かに隠匿性が高くて安心なのだ。心労が減って本当に助かるのだ…」
snow「でしょう!zuluくんの役に立つかなって思って色々調べたんだ」
zulu「あの…さっきから気になってたんですけど、なんでブラジャーがここにあるんですか?」
snow「あ、それは最後のサプライズにしようと思ってたのに!snowだめだな、作って満足して隠すの忘れちゃってたよ…」
zulu「サプライズ?」
snow「じゃじゃーん!これはね、カップの周りのワイヤーの部分を引き抜くと、フックが一本だけ入ってるの!zuluくんどうしても持ち物検査される場所にピックを持ち込むにはどうしたらいいか悩んでたでしょ?snowのブラが布地薄くなってへたっちゃったから、直すついでにアンダーとカップ数ちょっと減らしてzuluくんでも着られるようにしてワイヤーを切断して加工したの。私が付けるとワイヤーが折れたとこがどうしても違和感があるんだけど、zuluくんならつけてもブラパッドだし気にならないかなって!」
zulu「さすがに恥ずかしすぎるのだが?!できれば普通に新品で作ってほしかったのだ…」
snow「snow謝った方がいい…?snowはね、まだ使えるものを捨てちゃうのどうしても苦手で…zuluくんならお友達だからいいかなって思ったの」
zulu「あ、いや丁寧に作ってくれたのは見てわかるし、すごく嬉しいのだ。ぼくもそういうところあるからよくわかるのだ」
snow「本当?そっか…zuluくんもなんだ。snowね、今でこそいろいろ作ってsheepさんに買ってもらえてるけど、長持ちするように作ってるからいつお仕事無くなっちゃうんじゃないかって心配して節約してるの。でも、すぐ壊れるものを渡してzuluくんが必要な時に役に立てないことだけは嫌だから、ブラの金属ワイヤーがピックのベースに使えるって調べてあんまり考えずに作っちゃって…そういえば、お兄ちゃんにテストしてもらったときは凄い苦笑いしてとりあえずは間に合ってるって言ってたな。あの時気付くべきだった」
zulu「本当に気にしないで欲しいのだ、完全に隠し持てるピックが一本あると安心感が違うし大切に使うのだ。レンチはヘアピンの部品に偽装したお気に入りのがあるし。そういえば、この前noirさんにサバイバル的なことを教えてもらって何でも知っててびっくりしたのだ…」
snow「お兄ちゃん、zuluくんにそんなことまで話してたんだ。zuluくんできればnoirと仲良くしてね?お兄ちゃんはいい人なのに、snowのせいで友達作れないから…snowは今でも冬が好きだけど、公園にいたころは冬が来るのが楽しみだったの。お兄ちゃんに言ったら怒られそうだから秘密だけどね」
zulu「え、寒くないのだ?食べられるものもどうしても少なくなっちゃうし」
snow「寒かったよ。でもね、お兄ちゃんとの距離が近かったから。ある日寒すぎてペットボトル湯たんぽを作って、燃料が足りなくて一本しか作れなかったから二人で湯たんぽ抱っこするみたいにして横になったの。snowいつもは寝つき悪いんだけど、その日は安心してすぐに寝ちゃった。もしかしたら、ちょっとだけ低体温症だったのかな…」
zulu「それは…無事でいてくれてよかったのだ…」
snow「ありがとう、zuluくんは優しいね。でも、お兄ちゃんには心配かけちゃったみたいで。翌朝目覚めたらお兄ちゃん、必死に隠してたみたいだけどふらふらだったよ。snowのせいで眠れなかったんだろうな…あのときかな、snowの全部をお兄ちゃんにあげたいって思ったのは」
zulu「ぜ、全部?」
snow「うん、できることなら何もかも。そうしてsnowがどんどん軽くなったら、お兄ちゃんはsnow抜きで幸せになれるかもしれないから。今は、まだ難しいけどね…」
zulu「ぼくは。ぼくはsnowさんに色々作って貰えて、大切なお友達って言ってもらえてうれしいのだ。だから、できればこれからも頼りにさせてほしいのだ…」
snow「ほ、本当?!えへへっ、snowもっとがんばるよ。だから、zuluくんもお兄ちゃんと仲良くしてね?」
zulu「それは、もちろんなのだ…今日はありがとう、ピックツール全部大事にするのだ」
https://www.youtube.com/watch?v=gTZddvAws9M
https://m.youtube.com/watch?v=p1ANmpB1enQ&pp=ygUVbG9ja3BpY2sgZmVlbGVyIGdhdWdl
ブラジャーワイヤでピッキングツールが作れるって動画を見て五分で思いついた
brain「snow、あなたの選択は―いいえ、あなたの生き方に残された選択肢の中から選んだものに、私は共感しないし理解もしない。でも、認めるわ。きっと今ですら最悪の中の最善で、あなたは無意識下には自分を守れていると思うから。あなたは恐らく、私が何を言っているのかすらわからないでしょうけれど」
snow「…?brainさん、何か心配していただいてありがとうございます?でも、私は大丈夫ですよ。私が大丈夫じゃなかったら、お兄ちゃんが大変じゃないですか」
brain「あなたが…あなたのままで居られるくらい、現実がこれ以上は重くならないことを心から願うわ。あなたは、sheepによく似ているから」
snow「私は、sheepさんみたいなすごい人じゃないです。brainさんは、つらいこととか、苦しいことは平気ですか?生きてたら、みんなしんどいですよ。私にできることなんてないけど、brainさんのお話を聞くくらいならたぶんできます。brainさんは何でも一人でできちゃう人かもしれないけど、たまには人に頼っても良いんですよ?」
brain「どうして、あなたに気を遣われなきゃいけないのよ…私は誰にも頼らない、自分のために。でもあなたにだけはもっと頼れない。あなたのために」
noir「brain…俺たちは、いつまでこの痛みに耐え続けられるんだろうな。お前がどうかまでは知らないが、俺は直接傷つけられた時にはもう痛まない。耐え方を覚えた…所詮、傷つける側がどれだけ怯えているか知っていればどうとでもなる。…ただある時、妹によく似た人が、ありきたりの生活を送っているのを見た時に、少しな」
brain「人の人生なんて過ぎてしまえば一瞬よ、どんなに苦しみに塗れたものでもね。noir、痛みも喪失も空虚も、その気になれば捨て去ることはできる。でもね、あなたは自分が思うほどには堕ちきっていないわ。それがたった一人でも自分を預ける相手を信じきれるならね…耐えられるうちは、耐えたほうが得するんじゃない?どうせいつか終わるんだし」
noir「snow…俺はsnowから、もう十分に受け取っているぞ。いや、たとえsnowが何もできなくても、俺の側にいてくれなくてもいい。せめて、たまには休んで、俺のことを考えないでも穏やかに過ごすことは難しいのか?」
snow「えぇ~?!snowはお兄ちゃんが大好きすぎて一日でもお兄ちゃんのこと考えてないと死んじゃうよ!あ、わかった。snow重い?そっか重いよね、彼女でもないのに。snowのがんばりがnoirの迷惑になるなら、snow消えてもいいよ」
noir「(絶句)すまない、snowの気持ちを理解しきれなかった。ただ、これだけは理解してほしいんだ。snowがどんなに重たくても軽くても、俺はsnowのお兄ちゃんだからな」
snow「わかってるよ~!そしてsnowはお兄ちゃんの妹だから、snowが邪魔にならないならお兄ちゃんのために今日もがんばるね!」
noir「俺はsnowが生きていてくれることが幸せだから。たとえsnowが俺の役に立てない日があっても、俺はsnowから幸せを受け取っているからな」
snow「お兄ちゃんは優しいからそう感じちゃうんだよ~、そんな調子だといつか悪い女の人に騙されちゃうよ?snowはね。受け取るだけの関係は家族でも不健全だと思うな」
noir「健全じゃなくたっていい、snowなら。信じなくても、受け入れなくても、納得できなくてもいいからただ聞いてくれ。たとえいつの日かsnowがもう二度と頑張れなくなっても、俺はsnowをいつまでも守り続けるからな」
snow「きゃ~お兄ちゃん、かっこよすぎ!今の俳優さんみたいだったよ。でもね、世の中にはsnowよりもっと価値のある人たくさんいるんだよ?お兄ちゃん、わたしのこと考えすぎて視界が狭くなってる。お兄ちゃんは自分のために生きることを覚えたほうがいいよ、がんばれなくなったわたしを死ぬまで守るなんてお兄ちゃんの仕事じゃないよ?だいじょうぶ、たとえわたしがいなくなったあとでも、お兄ちゃんならいつかは自分でしあわせを見つけられるから。そうじゃないと、snow安心できないよ。snowだって人間だからいつかはいなくなっちゃうんだから、お兄ちゃんも妹離れしないと」
noir「snowは…自分のために生きることなんて、できないのか?」
snow「んー、人はね、他の人との関わりと役に立ってるって自覚がないと簡単に壊れちゃうんだ。もしお兄ちゃんが…そうだなー、トラックに撥ねられて、異世界とかに転生しちゃって、でもその世界には誰一人人間がいなかったら、それでも生きていける?」
noir「その相手が俺ばっかりで、差し出すものに限度がないから怖いんだ。与え続けて、俺を助けるためなら命まで差し出してしまうんじゃないかと」
snow「ん。差し出すよ、だってお兄ちゃんのいない世界を生きたくないもん。snowだって、どうせ永遠に生きるわけじゃないんだから、誰かの役に立って死んじゃうなら嬉しいくらいだよ」
noir「わかった。なら、せめて命まで差し出す相手は俺だけだって約束してくれないか?そうしたら、俺はそんな状況をできるだけ回避することができる」
snow「んー…いいよ、でもお兄ちゃんも約束。もしsnowが死んじゃいそうになって、それをお兄ちゃんが命懸けで助けられるとしても、絶対にわたしを助けないで。わたしはお兄ちゃんがいない世界なんか生きたくないから」
noir「それはsnowの"望み"なのか?」
snow「…うん、お兄ちゃんなら裏切らないって信じてる。あ、もしかしてわがままだった?」
noir「snowは、俺にどんなわがままを言ってもいいんだぞ…わかった…約束だ」
snow「武器は自分から誰かを傷つけたりしない。全部製作者で、持ち主である私の責任なんだ、たとえ何が起きても」
「撃つ覚悟はないけど、撃たれる覚悟はもっとない。自分じゃなくて大切な人が撃たれるならなおさらね…銃器密造の理由なんてそれで十分」
「直ちに両手を上げて後ろを向いて!そこから一歩でも前に動いたら、撃ちます」
「嘘、嘘、嘘…あああっ過集中!…(足を狙って)内臓が破損するような位置には当ててないから、当座の問題は止血だけ。散弾が集中して傷口が開きすぎているけれど、ターニケットで間接止血したらまだ間に合うかも。ううん、まずは銃創全体を布で圧迫して直接止血が優先…お願い、間に合え! 」
noir「snow…」
snow「意識はない。けど、呼吸も脈拍も安定、してる。この人、助かったのかな。絶対に油断できないけど」
noir「snow、お前…」
snow「お、お兄ちゃん!ごめんね、後回しにしちゃって、わたし一度集中すると他のことが頭に入らなくなっちゃうから…お兄ちゃん、怪我してるよね。まずは手錠を外すね、sheepさんに手錠の鍵はだいたい共通だって教わっててよかった」
noir「snow…俺のせいで、傷ついたな」
snow「え?わたしはなんにも傷ついてないよ?えっと手当てするね…消毒、痛くなるから気をつけてね」
noir「お前は、どうして…」
snow「ごめん、sheepさんから通話だ。手が離せないからスピーカーにするね」
sheep「snow、snow?!どうして連絡に…いえ、聞くまでもないわね。noirは回収した?」
snow「はい、noirは保護しました。大小の傷がありますが、いずれも致命的ではありません。ただ…」
sheep「ただ?」
snow「拘束下のnoirを救助するために、一人撃ちました」
sheep「…助けられた?」
snow「っ…大腿を射撃して、止血に成功しています。出血のためか意識はありませんが、呼吸脈拍安定、直ちに命に別状はない…と思います」
sheep「そう。どうやら医者が必要なようね…元依頼人で、今は契約してる医者がいるから送るわ」
snow「ありがとうございます。今回の支援と引き換えに、私の残りの武器の座標を送ります。分散しているので回収は手間ですし、金額的に足りないかもしれませんが…」
sheep「気前のいい話ね、それであなたはどうするの?」
snow「自首、します」
noir「snow…」
sheep「こうなる予感がしていたわ…だから私の現着を待てって言ったのに」
snow「ご厚意を粗末にして、大変恐縮―」
noir「sheep、今のは聞かなかったことにしてくれ。首無しが通らないなら俺が自首する」
snow「お兄ちゃん!なんでそんな事言うの?!お兄ちゃんがどこかに行っちゃったらわたしは―」
sheep「あなた達、少しは落ち着きなさいな…それでも私の外注?snow、noir、今回の件は私の方で持つわ。それで納得しなさい。それと、今回は特例的に一切の費用を私が持つから、さっきの話は忘れなさい」
snow「sheepさん、それではsheepさんの在り方が歪みます。責任は私にあるんです」
sheep「あなた、私をなんだと思ってるのよ…いい、もし撃たれたのが無辜の人なら私があなたを捕まえてたわ。一度契約した外注だもの。でも、相手は同じアウトサイダーでしょう?より優れた武器への備えもないのに先に手を出した方が悪いわ。少なくとも、この件で私の在り方は歪まない。…本音は、あなた自身のことでしょう?」
snow「そこまでご存知なら、どうして」
sheep「あなたの身はあなた一人のものではないからよ。さっきの自分自分の言葉を振り返ってご覧なさい…noirが居なくなったらですって?ならあなたは自分一人が救われるために、noirを置き去りにするのを認められるの?」
snow「…それは」
sheep「捕まって誰かに罪を肯定して欲しいなんてどだいあなたらしくないのよ。いえ、どうしてもというのなら止めないわ…でも、二兎は追えないわよ。選びなさい、今ここで。あなたか、noirか」
snow「…その言い方は、ずるいです」
sheep「あら、今更気がついた?アウトサイダーはね、とても卑怯で、卑劣なの。いえ、フェアであること、認めてもらうことは全てaffluenceを裏付けとしていると言ったほうが公平ね」
snow「…アフルエンスってなんですか」
noir「豊かさって…意味だな」
snow「はは、私たちには、一生使う機会がない単語だろうな…」
sheep「あなたにもっと選択肢があれば、人を撃たないで済んだ。noirにあなた以外の存在がいれば、あなたは消えてもよかった。でも現実はそうじゃないの…そうじゃなかったのよ」
noir「…俺が耐えれば。snowは救われるのか?」
sheep「さあ、気軽に試せる選択じゃないことだけは確かだわ。少なくとも、私は別の選択肢を提示する。選ぶのは本人」
noir「そうか…そうだな。済まないsnow、俺はもう口を挟まない」
snow「ううん…いいんだよ。わたしは、これからもお兄ちゃんの隣にいる」
noir「傷が癒えないとしてもか?表に出れば、別の生き方だって―」
snow「お兄ちゃん、口を挟まない。そうだね、わたしに昨日と同じ風に明日を生きるのは無理かもしれない。でも、お兄ちゃんにもバレないくらい完璧に平気なフリはできるよ」
noir「snow」
sheep「話は纏まったようね?snow、前言撤回は無しよ」
snow「sheepさん。今回は、何から何までありがとうございます」
sheep「私が与えた選択肢が粗末にならないよう、生き方で示して頂戴。それで貸し借りは無しだわ」
noir「俺からも…感謝、する」
sheep「あら、感謝はしないんじゃなかったの?」
noir「そうだったな…そうだな、俺の感情に意味はない。必ず働きで返す、外注として」
sheep「なら今は、せいぜい療養に励みなさい…もうすぐ医者が着くわ、引き継ぎは任せて撤退しなさい。sheepアウト」
snow「あ。お兄ちゃん、わたしが隣にいるのに別の女の子の方見てる〜」
noir「うん?ああ、済まなかったな。何か話でもあったか?」
snow「ううん!ん、ちょっと気になっただけだよ。お兄ちゃんああいう人がタイプ?」
noir「…いや、そういう問題ではないな。ただ少し目を離せなかっただけだ」
snow「お兄ちゃん、それはもう噂に聞く一目惚れってやつなのでは?!…やっぱりわたしが側にいないとだめだな。あの人、普通に幸せそうだったよ?」
noir「…ああ」
snow「お兄ちゃん…お兄ちゃんはわたしの世界一の人だけど、ほんとはこんなこと言いたくないけど、お兄ちゃんは幸せそうな人を好きになるのは向いてないと思う。だってお兄ちゃんの性格なら、好きになった人の幸せを壊したら一生引きずっちゃうから」
noir「snow、そういうわけじゃ―」
snow「そっか、お兄ちゃんだって人間だもんね、人並みの欲求があってもなんにも恥ずかしくないよ。でも、そういうお店とかの方があとで傷つかずに済むと思うんだ。ううん!いっそわたしで解消すればいいよ、大好きなお兄ちゃ―」
noir「似てたんだ!」
snow「えっ?」
noir「snowに…似てたんだ。それなのに普通に幸せそうで。俺の何が足りなかったのか…考えて、目が離せなかった」
snow「そっか、…早とちりして、ごめんね。snowの幸せは普通じゃないかもしれないけど、でも本物だよ。お兄ちゃんに頼られるたび毎日幸せをもらって今日も生きていけるから、感謝してます」
noir「snow」
snow「なあに?お兄ちゃん、改まって」
noir「snowが…一日でも長く生きてくれるなら、もう俺のためには他に何もしなくたって構わない。生活の不安はどうにだってできるし、もう十分頑張ってくれたからな」
snow「ええっ?!わたしまだ働けるよ、主婦ですか?お兄ちゃんのところに永久就職ですか?!」
noir「夜寝るたび、朝起きるたび、逃れようのない恐怖に駆られるんだ。snowが居てくれるか、いや、いっそ遠くに行っても構わない、ただ今日も明日も息をしていてくれるか」
snow「わたしはどこにも居なくならないよ、生きてる限りは」
noir「俺は、どうすればsnowに耐えさせなくて済む?何をすればsnowは自分を許せるようになるんだ?」
snow「お兄ちゃん、小学校に通えなくなった頃、二人でお庭に雪だるま作ったの覚えてる?」
noir「…ああ。ニンジンも帽子もなくて、鼻は鉛筆と、確か公園で帽子の代わりにビニール袋を拾ったんだよな」
snow「うん。お兄ちゃんと一緒に探したから、楽しかった。あのあとすごい怒られて、雪だるまも壊されそうになって、お兄ちゃんが庇ってくれたんだよね」
noir「…snowが頑張って作ってたからな」
snow「でも、夜が明けて、おひさまが出て、暖かくなったら雪だるまさん、溶けちゃってた」
noir「ああ。カメラの一つもあれば、snowには残してやれたかもしれなかったな」
snow「いいんだよ。わたしはね、本当の本当にずっと続くことだけは耐えられないから。溶けてなくなっちゃったほうが、雪だるまさんも幸せだったと思う。だって、世界がずっと暗いまま、寒いままだったら他のみんながかわいそうでしょ?」
noir「…そうか?そうだな…ああ」
snow「きっとね、世界の幸せって少しだけ固定されてて。わたしががんばらなくてもいい世界なら、ほかの誰かがその分がんばらなくちゃいけなかったと思うから。だから、わたしはがんばることが嫌いじゃないよ。だって大好きなお兄ちゃんのためだから、むしろ頼ってもらえるなら幸せ者だよ」
noir「snow…俺は、お前に何をしてやれる?」
snow「ただそばにいて。わたしのことをもっと利用して。お兄ちゃんが傷つかなければ、わたしも傷つかないよ。お兄ちゃん、毎日幸せくれてありがとう」




