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brain編

brain「ニューヨークのことをビッグアップルって呼ぶ人がいるけど、私はたまに自分が毒林檎を食べさせられてまだ眠っているんじゃないかって気分になる」


brain「4th grader...十歳ぐらいのころまでは、普通の生活だった。お父さんはアメリカ人の会社員で、お母さんは日本人の主婦。ちょっと変わった家だったけど、幸せだったのは間違いないと思う」


brain「全部変わったのはfinancial crisisのころ。お母さんは、日本ではリーマン・ショックって呼ばれてるって言ってたな。サブプライムローンとかいうやつで、お家は抵当にとられちゃって引っ越し。学区も変わって仲の良かった友達とも離れ離れだよ。お父さん、失業して以来性格が変わりまくってお母さんと喧嘩しない日の方が少ないくらいになっちゃって…」


brain「結局、お母さんの方が折れて離婚しちゃった。お母さんについていくかって聞かれたけど、日本に行ったことがなくて気が進まなかったんだよね。あの後、お母さんの実家の方でもすごい大きな地震があったって聞いたけど大丈夫かな…出て行ったあとは連絡すらとれなかったや」


brain「お父さん…お父さんはその頃から、わたしにちょっと厳しくなった。何が変わったかって言われると説明が難しいけど…要は、私にもっと女の子らしくなれって言いたかったんだと思う。自分でもなぜかわかんないけど、それは成績のこととかで怒られるよりずっと嫌だった。友達には女の子扱いされても違和感ないのに」


brain「一度だけ、なんでそんなこと言うのか聞いたことがある。お父さん、私がもっとしっかりしないと俺みたいなやつと結婚して不幸になってしまうからって…痛々しすぎて、二度と同じことを聞けなかったし、もう反論もできなかった。でも嫌な気持ちは変わらなかった。わたし、将来誰かと結婚して養われるなんて想像したことなかったのに」


brain「新しい学校は退屈だった。成績は良かったけど、趣味とか話の合う相手はいなくて。変わってる子だって思われてた。そこまでは良かったんだけどさ。中学の頃に、なんかジョック(日本語で言えば体育会系の陽キャだね)的なやつに告られて、全然興味が湧かなかったから普通にごめんって断ったらなぜかクラス中に広がっててネタにされた。誰なら私を落とせるかみたいな遊びになって一日何度も告られたり、そのうちバイレーシャルなのをからかわれていじめみたいな感じになりだしてさ」


brain「…本気で嫌だった。私は何もしてないのに、せめて関わんないで欲しいのに奪われてく。ゲームにハマったのはあのあたりかな…オープンワールドで、キャラクリエイトが自由なやつがよかった。FPS視点でソロ専だから誰にも見られないのに、無駄に見た目に拘ったりしてさ。家にお金がない中で最新タイトルをマトモに動かすために、自作PCとか軽量化Modの入れ方覚えるようになった」


brain「どのタイトルが好きかって聞かれたら、いまはfallout3とfarcry3って答えるようにしてる。…ちょっぴり懐古厨なのは否定しない。でも、本当に好きなのはfarcry2とwatchdogs無印なんだよね。watchdogs2は発売日に買ったけどさ、ストーリーが気に入らなくて全然ノれなかった。でも音楽はよかったから、Spotifyの代わりって思えば定価で買う価値はあったかな」


brain「お父さんと本気でぎくしゃくしはじめて。ちょっと大きな喧嘩しちゃってから、高校卒業したら家出するって決めた。…それが半年前。卒業してお父さんと離れてから、お金なんていつも足りないし、なんかよくわからないけど腹は立つし。ネットで誰かと話す以外まともな人との関わりなんてなかったし、それでも本音は話せなかった。この鍵垢を作ったのは日記というかメモ帳の代わり」


brain「…現金が足りない時に限って、クレジットカードとか全然通らなくて。ここまで否定するのかって思った。まあ、私を信用する要素なんか何もないんだけどさ…結局バイトしながら家賃のヤバさに戦々恐々しつつ細々生活するだけだったんだよね」


brain「暇つぶしにアノニマスとかリザードスクワッドのフォーラムROMりだしてさ、わたしもあの中に入れるかなって思ったけど、自分を見返してなんか違うなって思ってやめた。…役に立てる自信がなかったんだよね。でも知識だけは手に入ったから、時間の無駄じゃなかったと思う。現に、それがなきゃ暮らしていけてないしね」


brain「Web3.0を知ったのはその頃だった。P2Pやブロックチェーンで、誰にも管理できない、誰も誰かをデバンキングしたり垢BANできない社会を作るっていう。確かイーサリアムの人のコンセプトだったかな。PoWは結局電気代の安い国がマイニング有利になる仕様だから、イーサリアムもとっととPoSにすればいいのにって思う。環境にも悪いしね」


brain「カーディング、覚えたのもネット巡回のおかげ。バ先のレジスターにクレジットカードスキマーをこっそり設置して、お客さんがカードをスワイプするとデータが手に入るって仕様。スキマーが通るレジスターが残ってる個人経営のお店を見つけてわざわざ面接したんだよね。あとはそれをダークウェブフォーラムで売って、暗号通貨で支払ってもらえばそれをビットコインミキサーにかけて匿名で受け取って、出元が問題にならないようにP2Pのオンラインカジノでサブ垢で自演対決してギャンブルの勝ち金として引き出す。…こういうの、お母さんの国では八百長って言うんだっけ。どういう語源なんだろう?」


brain「べつに、カードを盗まれた人が困るわけじゃない。ちょっとカード会社に連絡して、保証してもらうだけ。実際に困るのは保険会社だけだよ。…会社、社会、経済。私の脳内で全部を処理しきるのは難しすぎるよ。民主的なわけでもないし、透明なわけでもなくて、でも実際は格付け会社が職務放棄してたりしてみんなの生活をめちゃくちゃにして、社会に必要だからって理由で処罰されない。うん、やっぱり一度壊れたほうがいいよ。ビットコインの方が…うーん、できればモネロの方がずっといい。なくなる時は全部自己責任だしね」


brain「フォロワー0人の鍵垢だからって書きすぎたかな、プラットフォームの自動判定で垢BANとかないよね?…気にしすぎか。運営さん、ここに書いてることは全部フィクションですよ。明日、誕生日だ。明後日あたりにクリプトが手に入る予定だから、自分に何か買おうかな。一日くらい遅れてもいいよね」


sheep「…というわけだそうね、白雪姫様?」

brain「私をそんな風に呼ぶのはやめて。それより、どうやってその鍵垢に侵入してリアルで私に…ていうか、そもそも何が目的?本気で意味わかんない」

sheep「あら、お困りのようね。では探偵役として私が一つずつご説明致しましょう、まず、あなたはダークウェブフォーラムに使い捨てじゃないメールアドレスを登録すべきじゃなかったわ。まるでシルクロード初代のウルブリヒトよ?」

brain「え、嘘、わたしそんなことしてたの?!」

sheep「無理もないわね、登録した当初は犯罪に使う意図はなかったでしょうし。でも失策は失策よ、そして困ったことに例のフォーラムは脆弱性を放置してたから、登録データを抜くのはそこまでは難しくなかったの」

brain「でも、それだけで身元の特定も鍵垢の侵入もできるはずないじゃない!」

sheep「普通はね。ところで、have I been pwnedってウェブサイト知ってる?メールアドレスを入力すると大量データリークの被害に遭ってないか検証してくれるサイトなのだけど。試しに流出したメールアドレスを入力してみたら見事にあなたのアドレスで当たりが出たから対応するデータダンプをダークウェブのアーカイブを漁ってダウンロードしたんだけど。そのダンプ、かなり古い流出だったのもあってサービスプロバイダ側がいい加減でパスワードのソルティングがなかったのよ…それで、適当なプラットフォームをリストアップしてあなたのアドレスとパスワードで一回ずつ当たりをかけてみたの。結果はご存じの通りよ」

brain「パスワード、使いまわすべきじゃなかった…ってこと?ああ、なんでサボってたんだろう。パスワードマネージャーくらい知ってるのに」

sheep「そうよ。次からはkeepassでもbitwardenでもお使いなさいな…いえ、いっそブラウザ標準搭載のものですら用を成したわ。OSパスワードが最終防衛線になってしまうのはあまり好みではないのだけれど。それ以外にも、もしあなたがSMSで二段階認証を設定していればSIMスワップが必要な場面だったわね…電話番号を安売りしたくなかったのでしょうけれど。あと、多分あなたってVPNを常用していたでしょう?ログインアラートが出なかったわ」

brain「…それで、リアルで特定した方法がまだだよ」

sheep「あら、慌てなさって。チェインアナライズと言うには恥ずかしいのだけれど、クリプトミキサーはフォーラムに連携されていたものだからか知らないけど、フォーラムと同じで脆弱性が修正されないままだったの。あなたの嫌いそうな言葉で言えば、卵を一つの籠に盛るなというやつかしら。私なら、モネロかせめてトルネードキャッシュを使う場面ね…あとは公開されたブロックチェーンの流れを追ってカジノサイトを見つけて、そのカジノサイト側の観戦機能を使って毎回負けていることとその相手が一人しかいないことを見れば生のウォレットがどれかくらいわかるわ。あとはそのウォレットが実社会のどの施設で使われていたか見当をつけて、あなたが鍵垢で投稿した画像と合わせて生活圏を狭めていくだけ…簡単に言うけど、大変だったのよ?あのフォーラムでリークしたアカウントの中で、やっと条件がすべて満たせたのはあなただけだしね」

brain「…なんのために?あんたは警察なの?だったら何でわたしを捕まえない?」

sheep「警察じゃないわよ。強いて言うなら、sheepと呼んで頂戴。あなたに声を掛けたのは…そうね、ちょっと忠告がしたかったからかしら」

brain「はあ?要は脅しってこと?私は、わたしのものはもう手渡さないよ。残りのクリプトはコールドウォレットに入れてるし、在処も教えない。もし見つけても、シードフレーズは絶対吐かない。試してみれば?」

sheep「あなた、何かと物騒ね。安心なさい、あなたの資産や今の稼業に口を挟む気はないの。私が言いたかったのはね、カーディングでは社会を変えられないってことなのよ」

brain「そんなの、やってみないとわかんないじゃん…わたしひとりではなにもできないって知ってるよ。でも、ちょっとくらいは意識が変わるきっかけに―」

sheep「あらあら、あなたは賢いのにちょっぴりお馬鹿さんね。ブロックチェーンには保証会社なんてものはないのよ?クレジットカードでこれなら、暗号通貨なんてますます不安だと思われるだけよ」

brain「それでもいい。カード会社とか保険会社にダメージが行けばそれでちょっとはムカつかないで済むから」

sheep「それも短絡ね。いい?保険会社はお金を払うのが仕事なの。むしろ誰もお金を盗まなくなったときこそ、彼らはお仕事を無くしてしまうわ。カーディングの直接の被害者が盗まれた本人じゃないとしても、カード会社は保険料を増額するだけ、財源はカード手数料の増額という形で賄われて、結局損をするのは企業ではなくて消費者なのよ」

brain「じゃあどうすればいいっていうの?!わたしはこのままなんにも言わないで消えるのは耐えられない!」

sheep「そうね…あなたは奪われてきた側だもの、そう思ってしまっても無理ないわ。私は警察じゃないもの、あなたが生きるためにしたことを裁く立場にはないの。でもね、私ですらあなたを特定できたの。今のままだと警察はもちろん、下手をしたらもっと危険な組織に接触を受けて、あなたにとって望まない形に話が進んでしまうかもしれないわ。だから、提案があるの」

brain「…提案?」

sheep「もし、あなたが声を上げる手段が合法な世界にないと言うのなら。私の仕事を手伝ってくれないかしら。損はさせないわ」


(括弧内は欠落しているシーン、これから書く)

(小額のカジノチップを高額の物に偽装して資金を増やす詐欺を説明)

(sheepが実行してbrainが後方支援するつもりが、brainの「イーブンでない関係は信頼できない」という主張で逆転)

(詐欺の実行)


sheep「その匂い。brain、大麻やってるの?」

brain「あ、バレた?お金に余裕ができたら一度やってみたかったんだ。ストナーデビューだよ」

sheep「複雑な気分ね、まだ違法だしあなたは一応未成年だから、あまり目立つことはお勧めしないのだけれど…」(注:NYで21歳から大麻使用が合法になったのは2021年からで作中では多分まだ。クオモばんじゃーい)

brain「成人年齢が18だったり21だったりするの謎過ぎない?どっちかで決めてくれればいいのに。結局18になれば軍隊に入れるし、なんなら男ならSSS(Selective Service System)必須なんだから、戦争に行ける年ならweedくらいやってもいいでしょ」

sheep「わからないでもないわ、あなたの体だものね。でもほどほどにしておくのよ?」

brain「わかってるって、sheepは心配性だな。マリファナやるようになってから楽しみができて、調子がいいくらいだよ。カジノに潜る時も自然体を装えるしね。sheepだってお酒くらい飲むでしょ?多分あれと大差ないよ、お酒飲んだことないけど」

sheep「私、teetotaler(完全禁酒者)なのよね。必要がなければわざわざ飲まないかしら」

brain「え、そんな人いたんだ…マジで?sheepは何を楽しみに生きてるの?」

sheep「ふふ、少なくとも今の時間は楽しいわね。brainがいるもの」

brain「…ちょっと信じかけたよ。なんか、嘘でも照れる」

sheep「あら、嘘じゃないのに。brainは私といて退屈かしら?」

brain「楽しい、と思う。sheepはわたしのこと否定しないし。あれ、人といて楽しいってこういうこと?」

sheep「さて、どうかしらね。なんにせよ、私はbrainといる時間が楽しいわ」


brain「sheep、sheepは人を好きになったことってある?」

sheep「いきなりね。そうね、私の身の回りの人に比べれば回数は少ないけど、無いことはないわ。どうしてかしら?」

brain「そっか…私、恋愛って何なのかわからないんだよね。人を好きになるって何なのか、考えても考えてもわからなくて」

sheep「あら、まだ機会が巡ってない…のかしら。それとも、brainは生まれつき自分は人とは違うって感じる?」

brain「たぶん。どんなに魅力的って言われる人でも恋愛感情が動いたって思えたことはないからさ、私が変なんだと思う」

sheep「断言はしないけれど、アロマンティック…なのかもしれないわね。生まれつき、恋愛感情が不規則だったり、大抵の人と比べて弱かったり、人によっては全く発生しない人もいるの」

brain「どういうこと?」

sheep「そうね…brainにわかる言葉で言えば、パソコンだってハードウェア、オペレーションシステム、アプリケーションがあるでしょう?多くの人は、これらの要素が性別をベースにしたパッケージでほとんど揃っている場合が多いの。私で言えば女性の体、女性としての性自認、異性への恋愛感情と、性愛ね。でも、一部の人はそれとは違う組み合わせに生まれることがあるのよ。それらの組み合わせの集合を総称して、性的少数者とか、クィアって呼ばれているの」

brain「脳のバグ、なの?わたしはやっぱりおかしい?」

sheep「バグじゃないわよ。linuxは対応ソフトウェアは少ないけれど、OSとしての完成度はプロプラエタリにも負けず劣らずでしょう?」

brain「でも、やっぱりさみしい。ドラマとか見てて、恋愛が成就することが救いだったり、幸せの条件だったり、エンディングだったり、理解できないけど、羨ましいことなのはわかるから」

sheep「そうね…brain、あなたがクィアに生まれたことと、クィアとして生まれたことで発生した機会損失はね、繋がってはいるけれど独立した概念なの。linuxだって代替ソフトウェアを探したり、自分に合うディストロを探してホッピングしたりするのに苦労するけれど、それは結果であって原因ではないでしょう」

brain「そうかな、そうだよね…これってさ、変えられる?」

sheep「一概には言えないわね…グレイアロマンティックといって、あなたのような人でも稀に誰かを好きになることがあったり、人によってはそれが一生に一度か二度だけ起きるなんてこともあるそうだわ。変えるというより、そんな日が来るまでは誰を好きになるのかわからないというのが私の誠実な答えね。でも、それって平均的にロマンティックな人とも構造的には大差ないのよ。いくらロマンティックでも、誰を好きになるのか制御できるわけではないもの。一度クィアを自認した人が、一生そのままであるという確証は誰にも持てないわ。その逆に、シスヘテロ…平均的な人が、何かのきっかけでクィアを自認する可能性もね」

brain「…そっか、ドラマだってそうだったもんね、運命の愛ってやつだ。…私、sheepの時間無駄にしてない?この話題非生産的だったよね」

sheep「あら、brainは気遣いがうまいわね。あなたの話を聞かせてくれて、むしろお礼を言いたいくらいよ?でも、自分の特性を今すぐ無理には理解する必要はないし、そのすべてを私や他の人に明かさなければならないなんてことはないからね。他にもまだ気になることはあるかしら?」

brain「…えっとね、さっきsheepが言ってた性自認ってやつもわからないの。自分が女の子だって感じたことはないし、かといってトランスジェンダーだっけ?男の子になりたい気もしないんだよね。どっちでもいいというか…どうでもいいってのが本心」

sheep「あら…そうなのね、brainみたいな人はいるにはいるわ、ノンバイナリー…というよりはアジェンダーに近いのかしら。基本的には性自認、ジェンダーが自分には無いとか、一般的な方法では定義できないとか、そもそも重要ではないと感じる人のことよ。人によってはアジェンダーフルイドと言って、時折性自認を感じることもある人もいるのだけれど」

brain「わたしだけじゃないの?」

sheep「ええ。私がそのことで違和感を持たせてしまったことはあるかしら。そうね…してほしいことがあったら聞かせて頂戴」

brain「ううん!sheepが気にすることじゃないよ。今の服装とかメイクとかは、その方が仮想敵の警戒を解くのに合理的だから続けてるだけだしね」

sheep「あら、本当にいいのに…私はあなたが警戒しなくてもいい相手になれるかしら」

brain「…イーブンな関係だとは思ってる。一応パートナーだしね」

sheep「そうね、パートナーだわ。そう言ってくれて嬉しい」

brain「…ほんとうに?わたしsheepの役に立ててる?」

sheep「もちろんよ、私は少し貰いすぎなくらいかもしれないわね。今日だってあなたのことを教えてもらったもの」

brain「利益を生まない情報は供与のうちに入らない…よ。sheep、私に悪意があったらどうするの?」

sheep「まあ、その時は大変ね。でも、あなたのことを知れて嬉しかったのは否定しようがないもの」

brain「わかった。だったらsheepのこと教えて」

sheep「あら、難しいことを聞くのね。そうね、私はこの通り一介のアウトサイダーだけれど、それとは別に社会をほんの少し住みやすい場所にできたらなって思うことがあるの」

brain「意味わかんない。だったら詐欺なんかしないで政治家にでもなってればよかったんじゃない?」

sheep「色々考えて、そうしなかったわ…私は人を育てられるタイプじゃないから、私がいなくなったあとを引き継げる人がいるとは考えづらいもの。何より、その生き方だとあなたみたいなパートナーを見つけるのは難しかったでしょうしね」

brain「言ってること滅茶苦茶だよ。わたしとsheepはお金の関係、そうだよね?」

sheep「…そうね、今後を考えると、私も十分な資金は必要だもの。brainが頼りと言ったところね」

brain「十分に稼いだらどうする?このやり方もいつまでもは続かないよ、カジノだって対策する」

sheep「でしょうね…brainにその気があれば、将来私の考えているお仕事を手伝ってほしいけれど。もちろん、今は考えなくてもいいわ」

brain「わかった、内容と条件次第だって言っておく。あとさ、その」

sheep「あら、何かしら?」

brain「sheepは恥ずかしい話とかでも聞いてくれる…?」

sheep「もちろんよ。あなたが話したいことであればね」

brain「私恋愛感情は持たないんだけどさ、その、性欲は普通に持てるんだよね」

sheep「あら、そうなのね」

brain「それでね、好きになる?わけじゃないんだけど、興味を持つ相手の性別とかが全く気にならないっていうか」

sheep「うーん、男の子でも女の子でも興味を持てるってことかしら」

brain「合ってるんだけど違う。自分に性自認ってやつがないからかもしれないけど、相手のそれも気にならないし、そもそもよくわからないんだよね」

sheep「バイセクシャルやオムニセクシャルというよりは、むしろパンセクシャルに近いのかしら?明言はできないけど、とにかくそうだったのね」

brain「sheepは驚かない?一つ二つならともかく、三つも変な要素重なってて面倒じゃない?」

sheep「そうね、少し驚いたのは認めるわ。でも、私はbrainと居て困ったことないもの。面倒だなんて思わないわよ」

brain「…わかった、じゃあこれからも面倒掛けないようにするね」


brain「見て、これ買ったんだ。DSIのライフル、1200ドルもしたんだよ?」

sheep「あら。私はあまり詳しくないのだけど、AR15ってやつの短縮モデルかしら」

brain「うん。ストナーでストーナーだよ、政治的には両方怒らせちゃうね」

sheep「ストナーはマリファナのことでしょうけど、ストーナー?」

brain「ごめんごめん、ユージンストーナー、アーマライトでAR15作った人のこと。AKで言うとこのカラシニコフさんみたいな人だね」

sheep「ああ…なるほど、なんだかレインボーファーム事件を思い出すわ」

brain「知ってる、ミシガンでマリファナを広めようとした人だったよね。死んじゃったけど…ネバダのBundy standoffは好きになれないけど、レインボーファームの方は誰にも迷惑なんかかけてなかったのに」

sheep「悪法も法という言葉もあるけれどね。堂々とやりたければ政治の道でも志した方が近道なことも多いわ」

brain「そうかな。…そうかも。まあ、マリファナとかは一度広まってから法律が追い付く感じだと思うけどさ。禁酒法だってみんながこっそりお酒飲んでなかったら多分なくならなかったでしょ?」

sheep「そういうこともあるわね、あとはリスクをどこまで引き受けるのかの問題といったところからしら」

brain「確かにね。あ、撃っていい?ここ一応レンジだからバックストップはあるけど外したら大変だ」

sheep「もちろんよ、でも気を付けてね」

brain「はーい。…(銃声)ひゃっ!銃声もマズルフラッシュもヤバいね。ARピストルにしたのは失敗だったかな…サプレッサー付けたいけど、NYだと違法だからやなんだよね。ほぼ意味ないじゃん」(注:バレルが短いと火薬が燃え切らず、結果銃声やマズルフラッシュが大きくなりがち)

sheep「NYでARピストルは、確かSAFEactとかいうので規制されてなかったかしら…?」

brain「そうなんだよね…私も調べてみてびっくりしたよ。nysenate .govで条文調べようとしたらJavascript必須で余計病んだしさ。…マガジンとかセミオートで規制するのはまあわかるけど、フラッシュハイダーとかグリップ周りまで口を出すのはわけわかんないよね」

sheep「日本だとほぼ全面禁止だから、私には違和感がないわね。エアソフトガンにも威力上限があるくらいだし」

brain「うわー、tyrannical!まあ、私のこいつも似たようなもんだけどね。ARなのにボルトアクションだよ、あり得る?…固定マガジンで我慢するのとボルトアクションでどっちがマシか迷ったんだけどさ、結局セミオートだと何やっても州政府に目をつけられてる感じがしちゃっていっそこっちでいいかなって。どうせ十発しか入らないしね」

sheep「高い買い物なのに、将来法令が変わって回収なんてことになったら困るものね」

brain「そそ。わたしのものだからさ、絶対に没収されたくない。どこにでも連れ歩くにはちょっと大きいけどね、やっぱりこの辺りじゃ銃は目立つし。…なんか愛着湧いてきた。犬とか飼ったらこんな感じなのかな」

sheep「あらあら、大切にしてあげなさいな。ピストルは本来あなたの年じゃ買えないのが厳しいところよね」

brain「それ!21になるまで待つとか、現状考えたら無理。固定マガジンでもセミオートだと駄目だしね。レッドステートは肌に合わないけど、ブルーステートもしんどいなあ」

sheep「そういえば、ARピストルにしたのはどうして?ロングバレルのMini-14辺りなら堂々と持てるじゃない、NYCだとさすがに気が引けるけれど」

brain「鞄に収まるサイズギリだからさ。ペンシルベニアで家族から貰ったってことにして買ったやつをこっそり持ち込んできたの、見つかったらFOPA(Firearm Owners Protection Act-要するに、弾を抜いて箱に入れた武器を持ってその州を素通りするだけなら州法違反の武器を運搬しても問題ない法律)でゴリ押し…は無理だよね、弾入れてるし。あと二年見つかんないようにしないとだなあ…再来年の誕生日になったらさ、もっかい州外行って買い直したことにするんだ。自分への誕生日プレゼント。…permit通るかなあ」

sheep「それって確かStraw Purchase(注:銃器の代理購入で、違法行為)とか言ったかしら…銃を持つのも苦労があるわね。まあ、無いよりはあった方が安心できる面もあるでしょうけれど」

brain「実はさ、銃買おうって決めるまでは護身用品いろいろ考えててね。カーダーやってた頃はフラッシュパウダーの材料集めて実験してた。コスパとか考えて、アルミナム(日本で言うところのアルミニウム)と硫黄と硝酸カリウムに落ち着いたな。やりたいことあって、材料だけ持ってきたんだよ。まだ混ぜてないやつだけどさ」(注:NYSでは基本的に爆発物は違法。"dangerous fireworks"扱いになる)

sheep「フラッシュパウダーって…確か、大昔のカメラのフラッシュに使われていた火薬よね?日本の裁判所で撮影が禁止になったのが戦後まもなくフラッシュでガラスが破損する事故が起きたからだって言うけど、あれもフラッシュパウダーか閃光電球の類だったのかしら。大量に燃やせば、閃光手榴弾の替わりになるのよね」

brain「そ。アルミナムパウダーって面白くてさ、ちょっと見てて、スプーンで適当に掬ってライターで火をつけて…えいっ!(飛散した粉末が燃焼)ぎゃ、熱っ!」

sheep「brain!火傷したの?!」

brain「心配しすぎだって、ちょっと手に粉がかかっただけだよ。あー、手袋しとけばよかった。いきなり風が吹くのは反則だよ」

sheep「ひやひやさせるわね、まったく…それどうせ使わないんでしょう、いらないなら私が買い取ってもいいかしら?」

brain「sheepが?何に使うの?」

sheep「まあ、色々よ。お代は言い値でいいわよ、今はお金に苦労してないし」

brain「ふーん、まあいいけど。お金は貯めてるんでしょ?私も苦労してないから代わりにディナー奢ってよ」

sheep「そんなのでいいのかしら?」

brain「うん。sheepとご飯行ったことないし。あ、食べられないものってある?」

sheep「食べられないというのはちょっと違うかもしれないけど、これでもペスカタリアンでお魚のお肉しか食べないようにしているの。他は特にないわ」

brain「ふーん?蛋白質とか大丈夫なのかな…まあヴィーガンでも平気な人はいるんだからなんとかなるか。同じの食べたいから、この前ネットで見つけたベジタリアン専門店でもいい?雰囲気がよくて一度行ってみたかったんだよね」

sheep「あら、あなたのお勧めなら期待が持てそうね。楽しみにしているわ」


https://www.southbendtribune.com/story/news/local/2021/10/08/rainbow-farms-michigan-siege-marks-20-year-anniversary-vandalia/5997467001/

https://www.nysenate.gov/legislation/laws/PEN/265.00

https://mfg.dark-storm.com/new-york/#:~:text=Fixed%20Magazine%20Pistols%20may%20be,non%2Dsemi%2Dautomatic%20action.

https://www.youtube.com/watch?v=3BQMuDkSy4Y

https://gunsafety.ny.gov/system/files/documents/2020/04/images_of_rifles_that_are_not_classified_as_assault_rifles.pdf

https://nycitylens.com/wp-content/guns/want-to-buy-a-gun-without-all-the-paperwork-go-online/

https://www.reddit.com/r/NYguns/comments/xvgura/fopa_in_nyc/

(Allenchlorateflash#6 30Potassium chlorate 40Aluminium (dark pyro) 30Sulfur)

Bangor powder #1 67Potassium nitrate16.5Sulfur16.5Aluminium (dark pyro)

https://pyrodata.com/composition/flash-powder?tid_1%5B%5D=13&title=&field_video_video_url=All&field_table_check_value=All&description=All&description_1=All

https://ypdcrime.com/penal.law/article270.php


sheep「いい内装のお店ね…ポタージュとアサイーボウルをお願いします」

brain「私も同じやつで!ね、電子決済になってから、チップマジで高くなったよね。18%がデフォルトってあり得ないって!sheepと稼ぐ前は気まずくて外食行けなかったよ、いまはあちこち巡って我慢してた分を取り戻してる」

sheep「支払ったところで本当に労働者に分配されるか不透明だものね。電子決済だとなおさらだわ…」

brain「せっかく対応がよかったサーバー(注:ウェイトパーソンのこと。まあ、ウェイターとかウェイトレスはジェンダータームとしてちょっとね)さんに支払ったつもりでも、お店がプールしてみんなに分割するとうーんってなる。それは給料であってボーナスではないっていうか、チップとして払った実感も意味もない気がしちゃってさ…まあ、裏方の人にもチップが行きわたるのはいいことだし、結局払う金額は変わらないんだけどね。あ、アサイーボウルって初めて食べたけど結構おいしい!フルーツとグラノーラの味だから甘すぎないのがいいね」

sheep「私もお砂糖苦手なのよ。白糖は牛の骨を使うからあまり買いたくないのもあるけど、単純に味がね…逆にフルーツは気を抜くといくらでも食べられてしまうくらいね」

brain「あははっ、sheepにも弱点あるんだ。sheepはなんでペスカタリアンだっけ、やってるの?やっぱり環境とか動物のこと考えてだよね、sheepってなんていうか、やってることの割にまともな人っぽい」

sheep「倫理的消費は個人がパレート最適のピースとして自己を再定義する有効な手段よ?元が社会に寄生する側なのだから、せいぜい今の安定が一日でも長く続くよう励んでみるのも一興だわ。ああ、強制はしないけどね…私もお寿司は好きな方だし」

brain「パレート最適って…ほんっと難しい言葉使うよね、ナッシュ均衡と違ってみんながみんなのために行動すれば世界はよくなるみたいな概念だっけ?」

sheep「それは功利主義的最適じゃないかしら…一応誤解のないように言うと、誰も損をせずにこれ以上の改善を見込むことができない状態の集まりのことよ。功利主義的最適はとても大雑把に言えばそれをもうちょっと進めた概念で、誰かが損をしても全体としてはより大きな改善を見込むことのできた状態のことね」

brain「あ、なんとなく分かった。例えば持ち物の交換とかもお互いのためになってるって意味ではパレート改善ってやつで、それをやりきった状態がパレート最適なんだね、クローゼットの置物になってたフラッシュパウダーの材料がディナーに化けるみたいな。何に使うかは知らないけどさ。sheepがお肉を食べないのは損のうちに入らないの?」

sheep「私は納得してやってるもの、今のところ支障もないし特に損はないわよ」

brain「そっか。まあ、ベジタリアンダイナーって初めて行ったけど普通においしいもんね。ペスカタリアンってやつならお魚も食べられるんだし。ここはちょっと高いから行きつけにするには大変だけどさ」

sheep「ふふ。私も普段は節約するようにしてるの、悪くても200 grand(二十万ドル)くらいは貯金しないと帰国できないわ」

brain「sheep、そんなに貯めてどうするの?あれだFIREでも目指してるのかな」

sheep「スタートアップキャピタル(開業資金)ってやつかしら?長期投資して増やすことを考えてもどうしてもそれくらいは要るのよね。額が額だからロンダリングすると目減りしてしまうし」

brain「…やっぱりsheepの考えてることはわかんない。私なら適当なクリプトをHODLしちゃうかな。ボラティリティがあるのはわかってるけど、フィアットだってドル安になったりするし」

sheep「正直それも選択肢の一つだけど、ちゃんと分散しておくことよ?」

brain「わかってる。"卵を一つの籠に盛るな"ってやつだよね、前言ってた」

sheep「私はオボペスカタリアンじゃないから卵は食べないのだけれどね」

brain「あはは、今のちょっと笑った。sheepだったら絶対egg serverでお行儀よくゆで卵つついてるイメージだったのに」

sheep「ふふ、それはそれで面白そうね。ね、ディナーのついでという訳じゃないのだけど」

brain「どうしたの?」

sheep「これ、貰ってくれないかしら。訳あって遊びに買ったけど、いまは使い道があまりないから値段は気にしちゃだめよ」

brain「なあにこれ…わあ、スマートバンド?ストラップが可愛い」

sheep「その自作品といったところかしら。arduinoを弄ってそれっぽいものを作っただけなんだけどね…見ての通り、サイズの割にできることは少ないわ。防水でもないし」

brain「別にいいよ、時間確認するのにいちいちスマホ弄るの面倒だしさ。これ、本当に貰っていいの?」

sheep「もちろんよ、重くて邪魔だったら鞄にでも入れておいて頂戴」

brain「ううん!ちゃんとつけるよ。可愛いからウェアラブルデバイスっていうよりはアクセサリーって感じだしね」


https://www.reddit.com/r/AskAnAmerican/comments/1ja4r4p/is_18_tip_normal_in_us/

game theory - Definition of Pareto efficiency and prisoner's dilemma - Economics Stack Exchange

https://www.youtube.com/watch?v=WYT7r62AEYo


brain「えへへ、人からプレゼントなんてもらったのいつぶりだろ。sheepは値段は気にするなって言ってたけど、何かお返ししないとイーブンじゃないよね。…sheep、下手な電子機器はセキュリティのことを考えて使わないだろうから。いっそローテクなやつがいいかな、GarminとかBangle JSって手もあるけどいまいち喜んでくれるか謎だし。そうだ、子どものころミサンガの作り方勉強して何本か作ってた。とりあえず刺繍糸買ってあれ作ってみて、反応が微妙だったらまた別のなんか買おう」


brain「…刺繍糸が二色四本ずつ、薄いピンクと濃いめのピンク。まずは端から4インチくらいのとこでぎゅっと束ねて、一本ずつくるくる巻いてく。…時給換算したら非生産的すぎて死にそう。子どもの頃の私はよくこんなことやってたな。…できた、一個目のハート。あとはこれを十回くらい繰り返すだけ。…できたー!昔は二時間くらいで行けたのに、倍は掛かっちゃった。やっぱり鈍ってるな私。あとは両端を四つ編みにして…かわいい。sheep喜ぶかな?まあ、年上に贈るものじゃないかもね。いらないって言われたら私がつけるか」

https://misamisa.me/1060


brain「sheepのやつ、この時間帯なら大抵このすぐ近くのセーフハウスだよね…ん、誰かと話してる?」

sheep「ごめんなさいね裏通りで立ち話だなんて。私のアパートだと近所の目があるから、どうしてもね」

tusk「別に気にしないさ。それより、今日の儲け話は?」

sheep「ちょっとしたerrand(お使い)を頼みたいの。tusk、私がカジノで稼いでいるのは知っているでしょう?」

tusk「前に聞いたからな…やり方までは教えてもらえなかったが」

sheep「あなたは直情径行が過ぎて向いてないわ。con artistもartistのうちだって言ったでしょう?」

tusk「…まあいい。あんたのおかげで家族全員ホームレスにならずに済んでるからな」

sheep「オピオイド、辞められたらいいのだけど…簡単じゃないでしょうね。NYがナロキソンに寛容でよかったわ、レッドステートだとどうしても偏見あるもの。最近は変わってきているけど」

tusk「ついでにオキシコンチンもOTCで売ってくれれば俺としては嬉しいんだがな…医者に騙されるより、最初から自己責任のほうがまだましだ。最近は処方されなくなったが、俺みたいに手遅れのやつにとっては余計厳しい」

sheep「不思議な話よね、ダークウェブで個人が同じ薬を売ったら重罪なのに、企業としてやればどんなに悪質でもホワイトカラークライム扱いで大した刑にならないこともあるだなんて」

tusk「俺だってまだマシな方さ、Insysにでも引っかかってたら今頃死んでたかもしれない」

sheep「インセンシティブ(不謹慎)だとは思うけど、不幸中の幸いというやつね…立ち話が過ぎたわ、今日のお願いは私の稼ぎ場にしてるカジノの指定した車両にGPSを仕掛けてほしいの」

tusk「なんだ、現金輸送車でも襲うのか?」

sheep「そんなことしないわよ、元PMCが乗ってる車よ?…単純に、GPS信号が接近してきたときにすぐ感知できるようにだわ。報復するにしてもまさか電車でのこのこやってくることはないでしょうし、モニターして通知が来るようにしていれば対処しやすいじゃない」

tusk「なるほど…面白くなってきた。あんたのことだから信頼はしているが、ちゃんと報酬は弾めよ」

sheep「危ない橋を渡ってもらうんだもの、当然よ。期待しているわ」


brain「あー、やっぱりそうだよね…なんか、私らしくないこと考えてたんだなあ。sheepって多分いい人っていうか、私みたいな落ちこぼれを構いたくなる性分なのかな。やめときゃいいのに。私みたいなのに構っても面倒なだけだよ。考えてみたら異常だよね、私の鍵垢に不正アクセスしてIRLリアルで会って、でも好条件の仕事を提示するだけ。sheepの知り合いにはあと何人私みたいなのがいるんだろ?…やめだやめ、考えても意味ないよ。これからどうしよ…って、考えてみたら何の違いもないんだよね。お互いに利用価値があるのがイーブンってやつだしさ。これからも一緒に稼げばいいじゃん、私に損失はないんだし。早く帰ってふて寝して忘れよ」


brain「…夢を見た。学校で誰も味方がいなかったこととか、家でも自分らしくいられなかったこと。今更こんなもの見せるなんてわたしの脳はひどいよ。…終わったと思ったのに。私はさ、二度と捨てられたくないんだよね。だから誰とも深く関わらないでいたし、本当はsheepにもそうすべきだった。私やらかしたな…今からあいつに切られたら、情けなさすぎる。なんであんなに気を許しちゃったんだろう?…正直、もう十分稼いだよね。ボラティリティ高いクリプトに突っ込んでお祈りすればFIREできるレベル。IRSに見つからない工夫はいるけどさ。それで暴落してもどうせイージーマネー(泡銭)だし、またカーディングでもやればひとりで生きてく分には十分稼げる。消えよっか、お金は全部持って、荷物は残りのマリファナと銃だけあればいいよね。奪われるのはもうたくさん」


brain「…あれから一か月。ネットで大麻オフのメンバーを何度も募集して、毎回違う相手と遊んでる。お金はいくらでもあるから、場所代とマリファナ代の半分は私持ちだ。エフェクト出てるときに人と絡んでると自分が世界の内側にいるような気がしてくる。足りない食欲もMunchies(マンチー、大麻使用中の食欲増進のこと)で補えるから、健康にもいい気がする。…いいことばっかりじゃない。パーティーやってると、どうしたって女の子って目で見られるし。それで声掛けてくるのはまあ、いいけど…毎回断るのも面倒で罪悪感がある。付き合うなら、わたしよりもっといい人はいるのに。…一度だけ、バスルーム行ってる間に飲み物に薬混ぜられたことある。フルニトラゼパム(日本でいうサイレース、睡眠薬)かなんかだったのかな、急に眠くなってきて慌てて帰った。あれって処方薬でも出ないはずなんだけど、まあ大麻パーティーなんだから好きな薬をこっそり持ち込む人はいるよね。最近寝つき悪いから、私も欲しいなあ…お金、どれくらい残ってるかな。結構目減りしちゃった。あいつは…sheepは使いすぎると出所が疑われるから少しずつ使えとか言ってたっけ、まあどうでもいいけど。あ、ポケットにエディブルあった。これ食べて寝よ、シャワーは起きてからでいいや」


brain「私のことがネットで噂になりまくってる。そりゃそうだよね、ここしばらく毎日のように大麻パーティー開いてたんだし。それだけならいいけど、やばいのはカジノの連中にも伝わったっぽいこと。オフ会で盗撮された写真が出回ってて、それを監視カメラの映像と照合したんだと思うけどダイレクトメッセージで金返せって脅迫状が何通も届いてきた。とりあえず年齢とか個人情報に繋がることは誰にもバラしてないし募集も毎回Tor使って移動経路も公共交通機関だからマリファナのことで警察が来ることはないと思うけど、カジノは違う。あいつらはお金のためなら証拠なんて気にしない。…まあ、怒らせたのは私なんだけどね。州を出たほうがいいのかな、でもやばいとわかってても移動するのがだるい。とりあえず、お金をフィアットで持っておくのは危険だ。当座の生活費に一グランドだけ残して残りは全部対面屋にお願いしてクリプトアセットに替えよう。あとは銃もすぐ撃てるように薬室に初弾を装填してセーフティかけて、あとは…あ、スマートバンド充電切れてる。arduinoだからか知らないけど電池消費大きめなのかデカいわりにすぐ電池切れちゃうんだよね、本当はとっとと捨ててGarminでも買えって話なんだけど…なぜか捨てられないんだよなあ。まあ、いいよね。わたしのものだし」


brain「本格的にヤバくなってきた。出回った私の画像でPimEyesで検索してみたら、カジノが懸賞金みたいなの懸けてて私がパーティーに誘った連中がどんどん情報を流してる。お金と大麻だけの繋がりなんて、こんなもんか…いっそ体でも売ってたらもう少しは情を持ってくれたかな。わたしのことを必要とする人なんて一人もいなかった。だから私も誰も必要としない。それでイーブンだったはずなのに、どうしてオフ会なんて開いちゃったんだろう。全部捨てて逃げたいけど、動くのがだるい。今は田舎の一軒家を借りて二階で過ごしてる。外出は最小限、ご飯は宅配、歯磨きとお風呂は適当。…追手のことを考えれば本当は住居を転々としないといけないんだけど。月契約で借りちゃったから家賃がもったいないし面倒。最近、暇があればsheepに貰ったスマートバンドの画面を眺めてる。文字盤がなかなか動かない。時間が進んでくれない」


(時間帯は夜中)

brain「カメラ確認…表に三人接近中、非常口にも一人。銃はあるけど、非常口を張ってるやつを殺しても車がないから逃げ切れない…終わりか。なんだかんだ、楽しかったよね私の人生。家庭とか学校とか何が楽しいかわかんなかったけど、少なくとも普通の人と違う人生は送れたんじゃないかな?八つ当たりにカーディングして、あいつにバレて、あいつの誘いで裏カジノ荒らして、逃げて…そっか私逃げたんだ。家からもあいつからも逃げて楽な方ばっかり行ったからこうなったのかな。現実はゲームとは違うから、私はエイデンピアースにはなれなかったよ。あーなんか、むしろニコールのポジのが近いまでない?…まあいいや、私のことは私がわかってればいい。…お金、使いきれなかったな。マルチシグネチャでもしてればあいつに半分は返せたか。…わたし、なんでこんな時にsheepのことばっかり考えてるの?あいつとはお互い本名も知らない他人同士で、パートナー…じゃなくて、もう会わないって決めたのに。駄目だよわたし、カジノの連中に捕まったら何されてるかなんて見えてる。もう誰にも何も奪わせない。だから私の物語はここで終わり、あとはクソ長いスタッフロールが続くだけだよ。銃はそのために買ったんでしょ?」


adam「最終確認だ。標的は一名、武装している可能性あり、俺とbakerとcharlieで正面から攻略、先行したdavidが非常口を押さえる。目撃を避けるためにライフルは無し、発砲は極力避けろ」

baker「相手はティーンの女の子だろ?四人がかりで制圧する必要があるのか」

adam「何度も言っただろ、標的のプロファイルからして武装している可能性が高い。娘がダブるのはわかるが仕事は仕事だ。エドワードのことまだ覚えてるだろ?」

charlie「確か…向こうで子供みたいなやつに大怪我負わされて、まともに働けなくなって自殺しちまったんだったか?クソ、拳銃だけで戦うのは気が引けるな。ダブルカラムでもないし」

baker「.45にサプレッサーの組み合わせが合理的なんだから仕方ないだろ。9mmの亜音速弾の方が嬉しいが、使い捨ての武器にあまり予算はかけられないしな」(ライフリングが残るので捨てる)

adam「そういうことだ、中途半端なポリマーよりは1911の方が安心感はある。そもそもこの作戦は捕縛だろう、合計24発も撃って状況終了できなかったら終わりだ」

baker「…気分が悪いな。向こうでPMCやってた頃に同僚のイラク人が装備持ち逃げしたときも腹が立ったが、あれは後でゲラゲラ笑えた。会社が買い戻したんだよな」

charlie「全員怪我なしで状況終了できたらなんだって笑えるさ。正規の元軍人ですらホームレスやってるようなやつもいるんだから、俺たちはまだ恵まれてる方だよ」

adam「階段に着いたぞ。さて、ここからは雑談なしだ。俺とbakerが先行、charlieは後から―」

charlie「手榴弾だ伏せろ!!」

(轟音)

baker「何も見えない!閃光手榴弾か?」(アルミニウムと酸化剤で作ったフラッシュパウダー)

adam「クソ、俺もだ!標的は単独じゃない可能性がある、全周を警戒して追撃に備え―」

charlie「嘘だろ催涙ガスだ!鼻と口を袖で覆って呼吸を浅くしろ!」

baker「まずいまずいコンタクトにしたのは失策だった!俺失明しないよな?!ネットで見たぞ!」

adam「失明はしないが、あとで外しとけ!クソ、どうかしてるぞ。見えるのはcharlieだけか?」

charlie「ああ、何とか―標的が見えた、射撃する!」

baker「バカスプレー缶のガスがもし可燃性だったら―」

(銃声)

sheep「ぎゃああああっ!」

charlie「すまん、止められなかった!階段を抜かれたぞ。ガスマスクをした女だ、銃は見えないが鞄を持ってた」

adam「なんてこった、もっと早く部隊を分散しておくべきだったな…とにかく遮蔽物に隠れ―」

baker「階段から何かが落ちてくる音がする!伏せろ!」

charlie「なんなんだよ一体!…あ、石ころ?」


sheep「お、遅くなったわね。ひどい顔色じゃない、あなたにはもう少し健康に気を使ってほしかったのだけど」

brain「sheep?sheepなの?何で?何が起きたの?」

sheep「ごめんなさいね、いまは時間がないの。非常口の見張りはスタンガンで制圧しておいたから…裏に私の車が止めてあるから行きましょう、連中の車はとりあえずタイヤを潰しておいたからそうそう追いつかれることはないはずよ」

brain「わ、わかっ…た」


sheep「いたた…シートベルトは無理そうね、お腹に当たるわ」

brain「sheep、sheep撃たれたの?!sheepが死んじゃう!!」

sheep「防弾ベストを着用しておいてよかったわ…さすがにあとで鎮痛剤でも飲むけど、問題のうちには入らないわ。それより、あなたこそどこか痛いところはある?到着が遅れてごめんなさい、きっと怖かったわ―」

brain「わたしはsheepを裏切ったんだよ?!お金だってもう半分以上無駄に使っちゃったから、今から稼いでsheepに満額返済するなんてどのくらいかかるか―」

sheep「いえ、あれは全部あなたの稼いだ分のお金じゃない。それに無駄遣いなんかじゃないわ、きっとあなたが生き延びるのに必要だったのでしょう?だったらいくら使っても高すぎることなんてないわよ」

brain「お金じゃない。じゃあ、スキル?ううん私にできることなんて大したことない。恋愛感情?sheepにその徴候はなかった。見逃してただけとも考えづらい…」

sheep「brain」

brain「そもそも、どうやってこの場所に辿り着いたの?何の目的で?sheepは私の何が目当て?」

sheep「brain、落ち着きなさい。まずは…謝らなくちゃならないことがあるわ。あなたにあげたアクセサリー、事前に位置情報発信機を仕込んでおいたの」

brain「じゃあ、今日まで何で私を消さなかったの?自分で処理するのが難しくても、カジノに情報を流すことだってできたはずだわ。ノウハウの流出だって多少は防げ―」

sheep「何で私がそんなことするのよ。あなたは大切なパートナーでしょう?」

brain「それはお互いの利用価値がイーブンだった時のロジック。私が逃げてからは成立しない」

sheep「するわ。現に、あなたは私が撃たれたことに気を遣ってくれたじゃない」

brain「そんなの、口先だけかもしれない!なんでsheepは簡単に信じるの?」

sheep「信じるわよ…あなたの言葉だもの。位置情報を監視していたのは、あなたの何かを目当てにしてたわけじゃなかったの、ただ…あなたの場合、こんな事態が起きうる可能性を排除しきれなかった。今まで黙っていて、ごめんなさい」

brain「そんなことをして、いったい何の見返りがあるの?sheepにはわたしの他にお友達がたくさんいるのに、なんでわたしに構うの?わたしより便利な人なんて、探せばいくらでもいる!」

sheep「そうね、brainよりお金持ちで、賢くて、かわいくて、なんでも得意で、素直な…ああ、あなたより素直じゃない子は探すほうが難しいわね。とにかくその全部を足したような人だっているでしょうね。でも、私がお友達になれるのがそんな見知らぬ誰かとbrainの二択なら、私は絶対にbrainを選ぶわ。だって、brainの代わりになれる人なんて地球のどこを探しても他に居ないもの」

brain「嘘だ。わたしはもう騙されないよ」

sheep「信じなくていい。信じなくたっていいの、ただ、心のどこかで覚えていてくれればね」

brain「じゃあsheepの他のお友達は?わたしがその子と喧嘩したら、sheepはどっちの味方をするの?」

sheep「そうね、まずはお互いの話をよく聞いて、どちらも後悔するくらいには相手を傷つけないように、私が間に立つわ」

brain「何のリターンもない、そんなのはsheepが一方的に傷つくだけだよ」

sheep「正論ね。何度身に染みて思い知らされたか…brainはいつだって賢い子ね。私がこの生き方を続けてしまう理由、今のbrainには少し難しいかもしれないわ。だから、今は私がbrainのことを忘れたくないってお話をただ聞いてくれたら嬉しいわね」

brain「…sheep。sheepにとって、わたしは大勢の中のひとりだよね?」

sheep「そうね…ごめんなさい。でも、どうでもいい存在じゃないの。あなたがいない間、お腹を減らしていないか、ちゃんと屋根のある場所で眠れているか、何度も考えたわ…どれだけあなたを探したかったか。それでも私のところから離れることを選んだ以上自由にさせてあげたかったのだけれど、状況が許さなくて顔を出すことになってしまったわ。不愉快だったでしょうね、ごめんなさい」

brain「…ううん、でも、アクセサリーはもういらない」


brain「sheepはわたしを傷つけない。見捨てない。でもわたしだけのsheepじゃない。わたしだけのsheepじゃないの。あの人は、もし救える力があるならきっと世界だって救おうとしてしまうから。ずっと思ってた、世界はもう、終わってるんじゃないかって。本当は核戦争か何かが起きて、私が人類最後の生き残りで、放射能で変異したミュータントとでも戦いながら何の理由もなくただ生き延びてるんじゃないかって。そう思わないと、やってられなかった。私に手を差し伸べてくれる世界なんて存在しなかったのは事実だから。誰一人にも愛されなくて、恋すらもできない私には、社会がどれだけ崩壊してるのか…憎しみという形で自分に証明し続けるより生きる方法なんてなかった。いつか誰かが守ってくれるなんて、想像だにしなかった…sheepのしたこと…放射能汚染された世界を彷徨っていた私のためにいきなり無償で安全な家を建てて、インフラを引いて、法律を作って、価値体系と生きる目的を作って保護者になってくれたくらいには大きい。わたし、ほとんどあなたのために何もしてないのに。こんなの何もイーブンじゃないよ、白馬の王子様にだって性欲はあるのに。わたしなんかじゃ、sheepのしてくれたこと一つとっても一生かけても返せない。sheep…sheepはどうして、あんなに自分を削ってまでわたしを生かしてくれたの?あんなことを言われたら…もう、離れられなくなるところだった。ううん、今からでもsheepのところに戻りたいくらい。そしてsheepのことを独り占めするように仕向けるの。わたしが一番役に立つよって、sheepのためなら男の子にでも女の子にでも、恋人にでも子供にでも、ううんいっそ親にだってなんにだってなるよ、だから、せめてわたしひとりだけのことを想って、そうしないと、少しでも見返りを受け取らないと、与える相手を制限しないと、一番削れてしまうのはsheepだから。でも駄目なの。それはsheepの生き方を歪める。私が近くにいたら、sheepを歪めずにはいられない。だから、離れる。sheepが生きている限り、一生涯生きられるくらいの愛を貰ったから。sheepはね、わたしにとって、世界なの。sheepが息をしてる限り、この世界はまだ壊れ切ってないって認識できる。離れていても、sheepはわたしのことを心のどこかで忘れてないって確信できるから、大丈夫。…アクセサリー、そろそろ捨てなきゃ。sheepのために、私が今できる唯一のこと。なかないよ、わたし。わたしがないたらsheepも悲しむから」

(ここまででやっと一話)


数年後、再会

brain「負けちゃったわ」

sheep「勝ちを譲ったというべきでしょう…私としては複雑ね」

brain「いいえ、たとえあの場は切り抜けても、結果は変わらなかった。まどろっこしいのは嫌いなの、あなたの勝ちよ」

sheep「まだ大麻は続けてるの?」

brain「勿論よ。ストナーとストーナーだけが恋人。どちらも裏切らないから私にはちょうどいい…日本に来てから銃器密輸の目処は立ってないし、snowって子には断られちゃったけどね」

sheep「見透かされてるのよ。あなた、勝ち筋より逃げ道を残したかったんでしょう?」

brain「選択肢が一つでも残ってるに越したことはないわ。人生が短いのはともかく、さすがに苦しい死に方はごめんだもの」

sheep「そう。なら、あなたが扉を叩かないことをわかった上で言うわ…探偵局の扉は、あなたに閉じられていない」

brain「嬉しい。けど、お断り。私はcomic villainにハマるタイプなの。NFTは買わないけどね」

sheep「なら問いの立て方を変えるわ。どの条件が満たされたら、あなたは私の存在に傷つけられることをやめられる?」

brain「sheep。sheepにとって、わたしは大勢の中のひとりだよね。zuluとか、ideal、外注の子たちと同じくらい大切な」

sheep「…そうね。ごめんなさい」

brain「いいの。sheepはそのままがいい。わたしはあなたを否定しない。でも肯定もできなかった。だから、今回だけじゃなく次もその次も負け続ける。私は無謀な勝負は仕掛けないの」

sheep「愚問だったわ、正規雇用の話は無しにして頂戴」

brain「いいの、嬉しかったのは本当だから。でもね…私のような存在まで、救おうとしないで。それは負荷じゃなくてバグになる。一人でも多くと、誰か一人のことだけをはいつか必ず矛盾するから。そんなことより、今あなたを支えてる人たちに、たまには言葉で感謝してあげてね。sheepは自分のことになると、とたんに口数が少なくなるから」


ideal「brainさん。私は…私と先輩は、brainさんの

邪魔ですか?」

brain「Gimme a sec, what are you talking all of a sudde―一体全体何がどうしたって言うの?ええっと藪から棒に」(※1)

ideal「brainさんが、する必要のない勝負を仕掛けてきたのって。局長にまた会いたかったからじゃないんですか?」

brain「あら、sheepったらそんなこと言ってたの?リアリズムの体現者の割にロマンチストであることを妙に捨てきらないのが彼女の―」(※2)

ideal「違います。…brainさんの話をするとき、局長、辛そうでした。局長は、brainさんに何かしたわけじゃないと思う。brainさんは、システムの敵になる人じゃないから。でも、局長はbrainさんのことを傷つけてる。…消去法で言えば、それってもう恋しかないから」

brain「私はアロマンティック、生まれつき恋愛はしない器質なの。仮に―仮にあなたの憶測が当たっていたとしても、もう終わった話よ。だいたい、どうしてそんなことを確信を持って言えるの?ましてやあなたとzuluがどうとか、話が飛躍してるわ。いったい何がわかるって―」(※2)

ideal「ごめんなさい、わかります。私も…わたしも好きな人がいるから。恋愛でもそうじゃなくても、一番大切な人の隣が自分じゃないこと。私なら耐えられないです」

brain「あなたと私は違うわ、私はね…四六時中身に付けられない、墓場に持ち込めないものは抱えないの。意思があって、私から離れることを選べる存在は尚更ね…」(※3)

ideal「無くしてもいいものしか持たない。失うのが、怖いからですか?」

brain「…そうよ。聞いて満足した?それにね、sheepは私だけのものにはならないの。いえ、仮にそんな事が起きたら、それはもうsheepの抜け殻だわ」(※3)

ideal「そんなの…抜け殻でも、潰されたあとでも、大切な人には変わりないです。私たちがいなくなれば、先輩は役割から解放されて、brainさんは局長と居られて、それじゃ、駄目なんですか。今じゃなくても、未来でも」

brain「sheepがsheepで居られなくなる時、彼女がどうなるかわからないわ。私は、その可能性に自分を賭けられない…いえ、私が破滅を加速させる側になること。sheepの在り方を否定する結果になること。そのリスクは取れない。私はね、得ることよりも失わないことを優先するの」(※4)

ideal「snowさんも、noirさんも、裏にいる人は、どうして誰も幸せになっちゃいけないんですか。傷つかないことは贅沢なんかじゃないです、傷つけないことも」

brain「あなたは…アウトサイドにいるべき人ではないのかもしれないわ。いえ、今のは忘れて…探偵局にいるのは、ああ、そうか、zuluのためね」(※5)

ideal「…はい。高校の頃から、ずっと好きなんです。私のいないところで、先輩が勝手に不幸になることなんて許さない。たとえわたしのことなんか振り向いてくれなくても、わたしが先輩を見張らなくちゃいけないんです」

brain「彼も、罪作りな子ね…sheepだって、彼の幸せを望んでいるでしょうに。あなたは、彼と一緒にアウトサイドにいるつもり?たとえどんな結果になったとしても受け止めきれる?」(※6)

ideal「私は今は裏に居たい。いつか戻れなくなるかもしれないけど、先輩の背中が見える位置に居たいし、こっちでしか見られないものがあるならそれだけで十分です。十分なんです、今はそれだけで」

brain「ideal、人の背中ばかり見ていると足元を見失うわ。でも嫌いじゃない…嫌いじゃないわ、そういうの。どうせYOLO…ええと、日本語で言えば人生一度きりじゃない。それでも私から言えることがあるなら、そうね…望んでアウトサイドに来たなら、自分が望んだこと、十年後に振り返って後悔しないことだけに手を出したっていいの。あなたは強者、選べる人なんだから。頑張りなさい、女の子。ああ、ちなみに私の代名詞はthey/themよ?別にどう呼ばれても拘りはないけど」(※6)


brain「恐らくはそう遠くない未来に、sheepはsheepでいられなくなる。何の見返りもなしに、世界の外側を背負い続けるなんて狂気の沙汰だから。国家からも企業からも社会からも、報酬も安全も名誉や承認すら受け取らないで一方的に身を削って与え続ける。美しいけど、人を救えるけど、自分自身は絶対に報われないやり方。だからね、その時もしまだsheepが生きてたら…私がそれ以上は壊れないようにするの。駆けつけて、連れ去って、誰の目も届かない場所、山奥かどこかのインターネットも繋がらないセーフハウスに繋ぎとめて。まずはゆっくり時間をかけて諭してあげないと、もうあなたは二度と世界を救わなくていいよって。sheepのいない世界は、ほんの少しだけ住みづらくなる。でも、sheepを使い潰した世界に、sheepの価値は永遠にわからないし、わかったとしても私が彼女を差し出すには値しないから。私は、sheepのいない世界になんか用はないの…目の前にsheepだったものだけがあればいい。sheepも、私の事だけ見ていればいいの。ずっと。何の役にも立たないsheepでも、ただそこにいるだけで私のことを救えていれば、きっと生きていられてしまうから。だから、私はsheepに何も求めない。sheepを求める世界の側に立たない。もう十分受け取ったから、あとは私のすべてを捧げるだけだわ。さて、何から始めようかしら。sheepはペスカタリアンだから、私もお肉を食べないようにしないと…ついでに環境負荷の低い釣りの方法でも覚えようかしら?ああ、あとsheepはあれこれ理屈をつけて世界を守ろうとするでしょうから、私も今から勉強しないと。あとは…」

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