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ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


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8/62

絶対零度の貴公子と逃れられない睡魔?

 水槽の前のベンチで、サナが一人、静かに魚を眺めていたときだった。

「……あれ、可愛いお姉さん、一人?」

 背後から、軽薄な声が響いた。

 振り向くと、へらへらと軽そうな男が三人。揃って距離が近い。

「それならさ、俺たちと一緒に回らない?」

「暇なんだよねー」

 サナはすぐに立ち上がり、はっきりと告げた。

「ごめんなさい。今、彼氏を待ってるので」

 けれど、その言葉は軽く笑われただけだった。

 それがちょっと、ムカついた。

「えー? でも、さっきから一人じゃん」

「今のうちに遊ぼうよ」

「……だから――」

 腕を掴まれ、引かれそうになった、その瞬間。


「――そこで、何をしている」

 低く、底冷えするような声が、水族館の空気を切り裂いた。

「……っ」

 サナが息を呑む。

 振り返った先にいたのは、戻ってきた羅那だった。

 けれど、いつもの柔らかな雰囲気は、どこにもない。

「もう一度言う」

 一歩、男たちへ近づく。

 視線は冷たく、感情が削ぎ落とされたような瞳。

「俺の彼女に……何をしようとした?」

 その瞬間、男たちは本能的に悟った。

 ――これは、関わってはいけない相手だ、と。


「……っ、わ、悪かった!」

「失礼しました!」

 三人はほとんど転げるように逃げていく。


 それでも羅那は、彼らの背中が完全に見えなくなるまで、じっと睨みつけていた。

「……羅那、くん」

 呼びかけても、反応がない。

 張り詰めた空気が、まだ彼の周りに残っている。ならばと、サナは行動に移した。

「……とうっ」

 ごつん、という鈍い音。

「あうっ……!? さ、サナ……?」

 突然の頭突きに、羅那は目を瞬かせた。ぶつかった所を擦りながら。

「……戻った」

 サナは、ほっと息を吐く。

「元の羅那くんだ。よかった……」

「え……俺……いや、僕……?」

 困ったように笑うその顔は、いつもの彼だった。

「ちょっと……さっき、怖かったよ。こう……キッてかんじで」

「……あっ……ごめん」

 羅那は小さく頭を下げる。

「ねえ、羅那くん……やっぱり、無理してるでしょ?」

「いや……うん、そうかも。で、でもね? せっかく……サナと来たのに……」

 名残惜しそうな声に、サナは苦笑して彼の頭を引き寄せた。

「はいはい。膝枕」

「……え?」

 抵抗する間もなく、羅那の頭はサナの膝の上に収まる。

「とんとん……」

 背中を優しく叩かれて、数分もしないうちに。

「……すぅ……」

「……ほんとに、限界だったんだね」

 眠る顔を見下ろしながら、サナはそっと微笑んだ。

 そのまま彼女自身も、いつの間にか意識を手放してしまっていた。


 ――閉館アナウンスが流れるまで。




「……ごめん……!」

 目を覚ました羅那は、勢いよく頭を下げた。

「ほんとに、ごめん! せっかくのデートなのに!」

「もう、いいよ。大丈夫」

 サナは穏やかに笑う。ちょっと、羅那の意外な面をたくさん見れたのは、サナにとっても収穫だったように感じる。それに。

「羅那くん、ちゃんと元気になったから、それだけで充分だよ」

「……でも」

 羅那は言葉を探すように、視線を彷徨わせてから。

「……守れて、よかった」

 ぽつりと落ちた本音。それは、先ほど、ナンパな男達からサナを守ったことを指していた。

「……うん。それは……すっごく嬉しかった」

 その言葉に、羅那は少しだけ、ホッとしたような笑みを見せた。


 一瞬の沈黙。

 そして、羅那はゆっくりとサナに近づいていく。

「……サナ」

 羅那に名を呼ばれ、サナの胸が小さく跳ねる。

「さっきは、眠くて変だった。でも……」

 ほんの少し、躊躇ってから。

「……今は、目、覚めてる」

「……なにを?」

 問い返す前に、距離が詰まる。


 触れるか触れないか、ぎりぎりのところで――

 唇が、そっと重なった。


 一瞬だけ。

 確かめるような、浅いキス。


「……っ」

 離れると、羅那は少し照れたように笑った。

「……ごめん。どうしても」

「いいよ……羅那くんなら許しちゃう」

 サナは恥ずかしそうに頬を染めて、笑顔を見せてくれた。


 眠気に負けた、少し不格好なデート。

 それでも――

 確かに、二人の距離は縮まっていた。


 次に会うとき、彼が何を差し出すつもりなのか。

 サナはまだ、知らない。




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