与えられたのは管理者と『魔王』?
「流石にこれは看過できない」
怒りと嫌悪を滲ませた冷たい視線を、羅那は震えるヴェルメリアに向けた。その手はすでに剣の柄を掴み、今にも振り抜かれようとしていた。
「らら、羅那くん!! ちょっと、待って!!」
その手をサナが止めた。
「さ、サナ!?」
「私、よくわからないの。なんで、この妖魔の国が荒れているのか。どうして、こんな仰々しい機械があるのか……そして、なぜ、羅那くんがこんなにも感情を揺さぶられているのか」
サナの言葉に羅那は手を止めた。
そうだ、何も話していなかった。
巻き込まないよう、サナを守る為にこの件については、サナを離していた。
もし、先にサナに話していたら、もし、二人で乗り越えることが出来るのなら……どんなに嬉しいことだろうか、と。
ヴェルメリアが口を開こうとするのを、羅那はその手で止めた。
「どこから話したらいいか……僕の中に、災厄があるのは、知っているよね。それが、時々、暴走するようになったんだ」
「暴走!? それなら……」
「それと同時に、僕の中に新たな感情が生まれたんだ。本当に……妖魔は消さなくてはいけない存在なのかと。まあ、災厄の力のせいかもしれない。でも……僕は思うんだ。アークが魔王を滅ぼした時に、魔王にこう言っていたんだ。『いとし子』と。あのアークがいとし子なんて、魔王のことを呼ぶだろうかって」
「だから、羅那くんは……」
サナの言葉に苦笑を浮かべて、こくりと頷いた。
「サナが妖魔退治を依頼しただろ? あのとき、僕は妖魔を倒せなかった。いや、剣は振るったんだけど……そのとき、ヴェルメリアがその妖魔を守った。だから……消せなかった。逆にヴェルメリアを救ってしまったんだ」
その言葉にサナはずきりと痛みを感じたが、けれど、もともと優しい気質の羅那にとって、それはかなりの負担だっただろう。
倒してきた妖魔が人のような仕草を見せたのだ。守るところを見てしまったのならば、恐らくサナも同じことをしただろう。
「それに、ヴェルメリアは、この世界が瘴気に蝕まれると言っていたんだ。そんなこと、知らなかった。まあ、こんな苦しい機械で無理やり瘴気を注入され、妖魔に与える魔力へと強制的に変換されてやられるのは、もう勘弁してもらいたいけどね」
ちょっぴり怒りが見えたのは、きっと先ほどの羅那の叫びの所為だろう。実際の場面には遭遇しなかったが、あのとき聞こえた苦しげな叫び。そして、その後のぐったりしていた羅那の姿を見れば、やりたくないという羅那の言葉も頷ける。
「まあ、瘴気については……何とかしてあげたいとは思うけど……」
「あ、それなら、私が何とか出来るかも」
「え……サナが?」
サナの突然の言葉に、羅那は目を見張る。
「何とかできるって、何を……」
「だって、これ、瘴気を魔力に変換できるのでしょう? それなら、これを正しく利用すれば、なんとかなるんじゃないかなって。私、浄化するのは得意だから。だって、私は浄化のスペシャリストよ。白銀竜の巫女の出番って感じしない?」
サナのその言葉にヴェルメリアが驚く。
「浄化を、できるのですか? 魔王様、以外に……!?」
ちょっとだけ、サナは得意げに。
「んーと、私だけでは難しいけど……けど、羅那くんの力を借りたら、この機械を使ったら、できそうだなって」
「僕の力も? もちろん、力を貸すよ。流石にサナにこれを使わせるわけにはいかない」
先ほどの苦しみや痛みを知っているからこそ、羅那はすぐさまサナの側に寄りそう。
「大丈夫、繋がるつもりはないし。なんか、触れるだけで使えそうな気もするし」
「……えっ?」
そっと羅那の手を握って。
「じゃあ、さっそく試してみるわね」
「ちょ、サナっ!?」
さっそく、実演して見せる。サナは癒しの力を使って、羅那の魔力を借りて、その機械を動かした。
「レバーを動かさなくても、使える……ですって……?」
サナの力に反応して、瘴気は吸い込まれ、浄化されていく。浄化されたそれは、魔力に変換されて、妖魔達へと注がれていく。
それが、暖かく優しい魔力として、妖魔達を癒すかのような、暖かい光として。
「これが……サナの力……」
まだ瘴気は残っていたが。
「はう……はぁ……はぁ……ちょ、ちょっと休憩……」
「サナ!! 本当に大丈夫か? 痛みは、苦しみは? 本当に大丈夫!?」
先ほど機械に繋がれて実際に苦しみと痛みを感じた羅那は、その機械の恐ろしさをこれでもかと味わった後だ。サナの様子がきになるのも仕方ないことだろう。
「うん、ちょっと魔力を使いすぎて疲れちゃっただけだよ? えっと……羅那くんの時は……大変だった?」
その言葉に羅那は、そっと視線をずらした。明らかに狼狽するように、畏怖するかのように。
その様子がおかしくて、思わずサナは笑ってしまった。
「ちょ……本当にこれ、ヤバいんだからね!! 本当はこんなこともサナにはさせたくなかったんだから!!」
「…………ふふふ、羅那くんがそういうのなら、ホントに大変な魔導具なんだね。ふふふ」
そう二人が話していたときだった。
『ようやく、ここまでたどり着いたか……』
若い青年の声が響く。その声はサナさえ覚えていた。
「アーク……?」
羅那が思わず、声をかけた。
実体はないが、そこには、光を帯びたアークが姿を現していた。
『お前達がここまで来るのを、待っていた』
「もしかして、サナをここまで連れてきたのも、アークの所為?」
睨みつける羅那にサナが抑える。
「ら、羅那くん!! 相手は、えっと神様だよ? も、もう少し言い方……」
「いいよ、気にしなくても。アークとは長い付き合いだし。まあ、最初の頃はこんな口調ではなかったけどさ……」
「そうじゃなくってね?」
『そろそろ話しても良いか?』
アークが優しげな瞳で口元に笑みを浮かべながら、二人を見守る。そうだった、何か用があったから、アークは、創造神はここに来たのだった。それに気づき、二人は姿勢を正した。
『まあ、そういうことで、お前達にはここの『管理』を任せたい』
「またー? どれだけ面倒事を押し付けられるんだよ」
腕を組みながら、ちょっとだけ嫌そうに羅那は告げる。
『もちろん、タダでとは言わない。そうだな、2000年分くらいのデータがあれば、問題ないだろう』
「ん? 今、2000年って、言った?」
羅那の言葉にアークは、楽しそうに続ける。
『世界の状況を確認して起きたい。これは珍しいケースだからな。というわけで、羅那、サナ……2000年生きて、ここを管理しろ』
「ちょ……ま……」
羅那の止めようとする言葉を遮ることなく、アークはそれをやってのけた。
――羅那とサナの二人に、『妖魔の国の管理者』としての、『2000年』の寿命と管理の為の大量の魔力も与えて。
「アークっ!!!!」
羅那の叫びも空しく、やることをやった後のアークは満足げな笑みを浮かべて、そのまま消え去った。
「えっと、羅那くん?」
「あああああ、もうっ!! 勝手なのはわかってたけどさ!! なんだよ、この2000年の寿命って!! それに、この魔力……また俺に暴走しろっていうのかよっ!!!」
「えっと、落ち着いて、ね?」
「これが落ち着いていられるかっていうんだよっ!! もう、振り回される俺の気にもなってくれよっ!!」
と、一通り叫んだ後で、気づいた。
「あれ、サナは……その、大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。なんていうか、たっくさんの人を癒しまくっても大丈夫って感じがするかな!」
その言葉にもしやと行きついたのは、サナの能力だ。確かサナは魔力を人の癒しに使う。もしかして、アークは羅那の力ではなく、サナの力を補助するための力……なのかもしれないと。
「の割には、僕の力まで増やさなくても……ううう、また、いろんなもの壊しそう……」
「大丈夫?」
「んー、頑張ってみる」
そういう二人の側に、ヴェルメリアが近づき、そのまま跪いた。
「魔王様……そして、その伴侶様。私はあなた方、お二人に従います。どうか……この世界をお救いくださいませ」
その言葉に羅那は、ふっと笑みを浮かべた。
「もちろんだよ。僕とサナとで、ここを救うことを誓おう」
「あ、ありがとうございます……魔王様……」
「けど……その魔王様っていうのは、止めて欲しいけどね」
そう苦笑する羅那に、サナはくすりと笑って。
「でもまあ、さっきの浄化でこの国はしばらく大丈夫よね? 一度、羅那くんの実家に戻って、報告しないと」
「ああ、そうだ……な……………………うああああ!!! ヤバい。これ、絶対にヤバいよね!!」
突然の羅那の豹変ぶりにサナとヴェルメリアが、驚きながら、顔を見合わせた。
「だって、あの父さんだよ!? 絶対これ、許してくれない……あんなに憎んでいた妖魔を、妖魔の国を救うなんてしちゃったら……な、なんていわれるか……」
「えっと、羅那くん?」
「さ、サナ……君のことは絶対に守るけど、けど!! その前にっ!!」
「え、ら……んんん!?」
急に羅那はサナの唇を奪った。優しく、そして狂おしいほどに熱い、口づけを……。
「うん、これで覚悟を決められる」
「ちょっと、羅那くんっ!!」
「行くよ。この覚悟があるうちに!!」
こうして、サナと羅那は、そのまま羅那の転移魔法で、一気に浅樹家に戻っていったのだった。
しかし、二人だけではない。
「お供しますわ、魔王様方……」
あのヴェルメリアも、共に……。




