表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/87

ヴェルメリアの策略

 社長室の窓から夜景を眺めながら、羅那は書類に目を落としていた。

 朝から仕事をしているというのに、その進みは、かなり悪い。

 自分でも驚くくらいだ。

 手元の書類に視線を落としているはずなのに、胸の奥がざわつき、まるで誰かが見つめているかのように、心が勝手に反応する。


(……ヴェルメリア……)

 思わず頭を振る。ここはオフィスだ。仕事中だ。

 だが、瞳の隅に映る空気の揺れ、窓の反射、書類の影……そのすべてが、彼女の姿に見えてしまっていたからだ。

(……これは明らかにおかしい。まさか……)

 その仮定に行きつき、羅那は内心焦る。何故なら、抗えるはずのものが抗えていないのだから。

「……何だ、これは」

 低く呟き、拳を握る。胸の熱を抑え込もうとするが、震えは止まらない。理性では拒みたい。だが、体は自然と、あの赤紫の瞳を求めている。息を荒げるように、持っていた書類を机の上に置いた。


 その時、社長室の影から、ふわりと彼女が現れた。

「羅那様……お仕事は順調ですか?」

「ヴェルメリア……か?」

 そのヴェルメリアの声は甘く、しかし、艶めかしい響き。

 羅那は息を詰め、睨みつけようとして、何かを感じとり、すぐさま止めて、視線を逸らす――だが、目の端には、確かにヴェルメリアの存在が焼き付く。

「……また、現れたか」

「ふふ、当然ですわ。羅那様が私を求めているのなら……この私も積極的に応えなくては、ね」

 彼女の瞳は紅く光り、微笑の端には計算された誘惑が含まれていた。執拗に、しかし静かに、羅那を自分のもとへ引き寄せようとする力。

 羅那はその瞬間、理性が薄れていくのを感じた。胸の奥で暴れる災厄の力が、彼女の魔法と共鳴するように熱を帯びる。

(……サナのことが、好きなはずなのに……!!)

 胸が痛む。好きな気持ちは消えていないのに、ヴェルメリアへの渇望がそれを押しのけるように強くなる。明らかにおかしい。何か魔力的なものを感じた。

 これは恐らくヴェルメリアが何かをしている。

「あなた様には、妖魔の国に来ていただかなくてはならないのです……」

「こんなときに何を……」

 必死に湧いてくる欲望を抑えながら、羅那はヴェルメリアを睨みつける。

「妖魔の国は今、『瘴気に侵されている』と言ったら?」

「!!?」

 突然のヴェルメリアの言葉に、羅那は驚愕する。

「瘴気? だが、妖魔には……」

「ええ、私達にはそんなもの、問題ありません、が……それを魔力に変えていただかないと、我々は生きてはいられません。その役目を『歴代の魔王』様方が担ってくださっていました」

 ヴェルメリアは、羅那の胸元をそっと触れながら、見上げるように囁いた。

「羅那様なら、それができますわよね?」

「…………!!」

 出来ると言えば、出来るだろう。だが、瘴気を魔力に変えることが出来ても、それは体内に瘴気を入れて変換すること。

 『人間』に出来ることではない。人間にとっては、瘴気は毒だから。

 だが、『神の器』としての自分では?

 しかし、どのくらいの瘴気があるのかわからない。もし、万が一、耐え切れないほどの瘴気があるのならば、無理だ。

「ふふふ、安心してくださいませ。魔王様にしか動かせませんが、瘴気を魔力に変える魔導具がございます。それは魔王にしか使えないもの、でも羅那様であれば……」

「動かせる……というのか……?」

 ええと、甘い声でヴェルメリアは笑みを深める。

 その度に、ヴェルメリアからは甘い香りが漂うのが分かった。いや、これは魔力の匂い。

 わかっている。自分はヴェルメリアの策略にまんまとやられている。

 いったい、いつからかけられていた?

 先日、喋る少年妖魔に会ってから? それとも……初めて会ったあのときから……?


「さあ、羅那様……私の手を取ってくださいませ……大丈夫ですわ。夜伽のことには、とても詳しいですの。あなた様はただ、私に身を委ねていただければ、それでよいのです」

 手を差し伸べてきた。

 はぁ……はぁ……と、息が荒くなる。何もかもが熱い。

 正直言うと、ヴェルメリアが…………。


「違うっ!! 俺が欲しいのは、本当に欲しいのはっ!! サナだけだっ!!!」

 どくんと、何かが弾けた。おどろおどろしい何かが、突然、爆ぜた。

「うぐっ!! くそっ!! こんな、ときにっ……!!!」

「羅那様っ!!!」

 爆ぜたのは、災厄の力。咄嗟に羅那が抑え込んだが、それでも……まだ完全ではない。

「羅那様、羅那様っ!!」

 遠くでヴェルメリアが叫ぶ声が聞こえた。

 いつの間にか、先ほどまで自分を支配していた体の熱さが消え去っていた。

 いや、それどころではない。

 ここで災厄を噴出させるわけにはいかない。

 ここには……大切な、自分が選び、導いてきた社員達(なかまたち)がいるのだから!

「うああああああっ!!!」

「羅那様、いけませんっ!!」

 羅那だけでなく、ヴェルメリアもまた、力を使って、災厄を抑え込む。いや、殆ど、羅那の力で抑え込むことが出来た。

「…………ヴェルメリア……これが……お前の、求めていた……もの、か……」

「羅那様、羅那様……!!」

 なんとか抑えきって、そして、疲れた様子で羅那がその場で崩れ落ちるのを、ヴェルメリアが支えた。

「いいえ、私は…………」

 ヴェルメリアが求めていた『結果』ではない。ここまで追いつめるわけではなかった。

 しかし、だが。

「不本意ではありますが……これならば、羅那様を運べますわね……」

 あなたは、私を恨むでしょうか?

 どうして、そんな言葉が出てきたのか、ヴェルメリア自身、分からない。ずきりと胸が痛むのは、羅那が苦しんで、そして、厄災を抑えてくれたからに他ならない。

「どうして、私はこんな感情を……?」

 いや、違う。今は。

「いいえ、これで良いのです。魔王様は、我々になくてはならないお方。さあ、行きましょう、羅那様。いいえ、我が『魔王様』」

 彼を両手で抱えて立ち上がると、誇らしげな笑みを浮かべ、ヴェルメリアはそのまま、妖魔の世界へと転移したのだった。



 ふと、羅那の父、翔が窓の外を見た。

 空には不穏な雲が立ち込めている。

「気のせい……か……?」

 見ていた書類を置いて、翔は思わず、手元にあったパソコンを操作し始めたのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ