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ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


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秘めた思いはすれ違いを呼ぶ

 夜の冷気をまといながら、羅那は屋敷に戻ってきた。

 玄関に入る前、ひとつ深呼吸をする。胸の奥の疼きは、まだ完全には収まっていない。

(……サナには、言えない)

 少年のような妖魔を斬れなかったことも。

 ヴェルメリアが現れて庇い、消えたことも。

 そして……自分がその妖魔すら助けたいと思ってしまったことも。

 全部、隠すしかなかった。


「羅那くん!」

 急いだ足音とともに、サナが笑顔で駆け寄ってきた。

 無事に帰ってきてくれたことに喜んでくれているようだ。

 その顔を見た瞬間、胸の奥がまたざわつく。

(……罪悪感? それとも……)

 自分でもわからない。サナを大事にしたい、好きだという気持ちも確かにあるのに触れていいのか迷ってしまう。

「ただいま、サナ」

 できるだけいつも通りに微笑む。

 だが、サナの顔には安堵と同じくらい、強い不安が滲んでいた。

 それは、いつも彼の帰りを迎えるときの笑顔とは、どこか違って見えた。

「無事で……よかった。本当に、よかった……でも」

「……?」

「妖魔は、倒せたの? 傷はないよね? 羅那くん、なんだか、さっきから少し……変な感じで」

 一気に畳みかけるようなサナの言葉に、羅那は一瞬だけ視線を逸らした。

(言えない……今の俺じゃ、言えるはずがない)

 迷っている。だからこそ……。

「……ああ。妖魔は、もういないから」

「もう、いない……?」

 そう言葉を濁した羅那の言葉に、サナはいち早く違和感を感じた。

「だからもう、大丈夫だよ。安全だ」

 嘘ではない。あの少年妖魔は、ヴェルメリアが連れて行ってくれたのだから。けれど、今までのように消したわけではない。

 いつものように笑ったつもりだったが……。

「ねえ、羅那くん。『いない』ってどういうこと?」

(しまった……今の『いない』は、不自然だったか?)

 その言葉に思わず、笑みが凍り付く。

 そうだった。

 サナは、羅那の戦い方を知っている。

 羅那が妖魔を逃がすなんて、今まで一度もなかったのだ。全て倒しきっていた。だが、先ほどは……。


 サナの声が少しだけ低くなる。

「……本当に? 羅那くん、何か隠してる?」

「隠してなんか……」

「嘘だよ」

 短く、切り裂くようなサナの、声。

 サナは俯いたまま、拳をぎゅっと握る。その泣き出しそうな顔を見て、羅那もまた泣き出しそうになった。顔には出さなかったが。

「ねえ、羅那くん。……今日の羅那くん、なんか違う気がするの。言い方も、その瞳も、全部……」

「サナ、落ち着いて」

「落ち着けないよ! だって羅那くん、今も……私の目を見てくれない!」

「……っ!!」

 一瞬、空気が張りつめた。

 サナが涙をこらえているのが見えた。

 その目に自分が映っているのが、たまらなく苦しい。

「……サナ、俺は……大丈夫だよ。今日は少し疲れてるだけで」

「疲れてるだけで、あんな言い方、するわけないでしょ? 本当は、何があったの?」

 追い詰められていく感覚。

 災厄が、胸の奥でまた熱を持つ。

 答えられない。言えない。彼女を『巻き込みたくない』。ああ、そうだ。僕はサナを……。

「サナ。……頼む。今日は、これ以上聞かないでくれないか」

 サナの表情が、はっきりと歪んだ。

「……そんな言い方……いやだよ……」

 羅那は反射的に手を伸ばしかけたが、サナは一歩下がった。

「今日は……帰るね」

「サナ……」

 呼び止める声が震えてしまう。

 サナは振り返らなかった。

 ただ、小さく、押しつぶされたような、自分の、羅那の声だけが残る。

「……明日、また話したい」

 せめてと絞り出した言葉はそれで。


 扉が閉まり、静寂が訪れる。

 羅那はその場に立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった。

(……また傷つけた。僕は、何をしてるんだ)

 悔しそうに、どうしたらいいのかと、その拳を強く握りしめて。爪が食い込み、血が滲むまでに。

 胸の奥で、災厄の拍動が嫌に大きく響いたように感じた。



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