表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/60

いつになく陽気な水族館デート

 そして、約束のデートの日を迎えた。

 サナは、いつもより少し早めに家を出て、待ち合わせの駅前に来ていた。

「結局……あれから返信、来なかったけど……羅那くん、大丈夫かな……?」

 スマートフォンを握りしめたまま、そわそわと落ち着かない。

 腕時計を見て、周囲を見回した、次の瞬間。


「あっはぁ……サナ、見つけた」

 背後から、突然、ぎゅっと抱きしめられる。

 息がかかるほど近い距離。甘くて、少し熱のある声。

「……え?」

 一瞬、誰か分からず固まったサナだったが、その声にすぐ気づく。

「ら、羅那くん……?」

「ああ、生サナだ……生き返る……」

 いつにも増して、やけにテンションが高い。

 そのまま、離れる気配もなく、ぎゅうっと抱きしめられたまま囁かれる。

「ごめんね。ずっと返事出せなくて、ホント地獄かと思った。実は、ずっと会社で缶詰だったから……」

「……缶詰?」

 聞き返すと、羅那はくすっと笑って、ようやく腕を緩めた。

「逃げ場なし。仮眠もろくに取れなくてさ。でも――」

 にこっと、やけに眩しい笑顔を向けられる。

「今日のサナ見たら、全部報われた気がする」

「も、もう……」

 羅那の褒め言葉に頬が熱くなる。

 けれど、妙に距離が近いままなのと、その笑顔の裏にある疲労が、少しだけ気になった。

「今日も、とびきり可愛いね。ちゃんとおしゃれしてくれたんだ。すごく嬉しい……」

「うん……まあ、デートって言ってたし。それに、前に付き合ってた彼氏も、おしゃれしたら喜んでくれたから」


 その瞬間だった。

「……前に、付き合ってた彼氏」

 低く、静かな声。

 空気が、ひやりと冷えたような感覚に、サナは思わず背筋を震わせる。

「えっ……あ、えっと……」

「……」

 一瞬の沈黙。

 けれど、次の瞬間、羅那はいつもの柔らかい声に戻っていた。

「そっか。じゃあ、今は?」

「い、今は……羅那くん、だけだよ? それに、羅那くんも、その服すごく格好いいし!」

 黒い上着に黒いパンツ。全身黒コーデだが、線が綺麗に出るお陰かで、どこか大人びて見える。

 その言葉に、羅那はぱっと機嫌を直したように笑った。

「ふふ、ありがとう。急いできたから適当に選んじゃったんだけどね。じゃあ、水族館行こうか。藤森水族館ってところ」

「3駅先のところだよね。楽しみ」

 自然な流れで、手を取られる。

 そのまま改札へ向かい、二人並んで電車を待った。


 電車の中は、そこそこ混んでいた。

 揺れる車内で、羅那は無意識のようにサナのすぐ隣に立ち、手を離さない。

「……羅那くん、なんかいつもよりハイじゃない?」

「そうかな?」

 首を傾げて、少し考えるようにしてから答える。

「あー……無茶な仕事をハイスピードで終わらせたから、その反動かも。昨日やっと形になってさ。でも、3時間くらいは寝れたよ」

「……3時間?」

「うん。一週間貫徹よりはマシでしょ」

「全然マシじゃないよ……」

 思わずそう言うと、羅那は楽しそうに笑った。

「でも、その分、今すごく幸せだから大丈夫」

 そう言って、指先を絡めてくる。

 眠いはずなのに、離れようとしない手に、サナは何も言えなくなってしまった。



 やがて、水族館の最寄り駅に到着する。

 改札を抜け、館内へ向かう途中。

「チケット、僕が買うよ」

 券売機の前で、羅那はサナを庇うように一歩前に出る。

 背後にぴったり立たれて、少し驚いた。

「ら、羅那くん、近い……」

「混んでるからね……サナ、離れると危ないし」

 そう言いながら、周囲をちらりと見渡す視線が鋭い。

 列に割り込もうとした男性が、その視線に気づいたのか、何も言わずに引き下がった。

「……今の、なに?」

 思わずサナが呟いた。

「え? 何かあった?」

 羅那は、何も気づかなかったといわんばかりの、きょとんとした顔を見せてきて。

 聞き返されて、サナは首を振った。

「ううん、なんでもない」


 チケットを受け取り、入館する。

 ひんやりとした空気と、静かな水の音が二人を包み込んだ。

 そして、今。

 いつになく陽気な羅那とサナは、水槽の前に並んで立ち、ゆったり泳ぐ魚たちを眺めていた。

「羅那くん……魚を見ないで、私ばっかり見てない?」

「えっ、そんなことないよ。ほら、あの魚も綺麗」

 そう言いつつ、視線はやっぱり、サナに向いている。

「……」

 じっと見つめると、サナははっきり言った。

「羅那くん、すっごいクマできてるし、ちょっと眠そう!」

「……嘘? 本当?」

 そのサナの指摘に、焦ったように目元を押さえる。

「鏡、見てないでしょ。顔、洗ってきた方がいいよ」

「……そ、そうだね」

 苦笑して、羅那は頷いた。

「ちょっと洗面所行ってくる。ここで待っててくれる?」

「うん。このベンチで待ってるね」

 足早に去っていく背中を見送りながら、サナは一人、水槽の前に腰を下ろした。


 ――楽しい。

 けれど、それ以上に胸の奥が、ほんの少しだけ、ざわついている。


 静かに揺れる水の中で、魚たちは何も知らない顔で泳いでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ