表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/84

ヴェルメリアとの邂逅

 深夜を迎える。

 家の中は静まり返り、外では風が低くうなっている。

 羅那は寝台の上で眠れぬ夜を過ごしていた。

 どうしても、眠れない。

 身体の内側で、冷たい糸がきしむように張り巡らされている感覚が、ずっと続いていたのだ。

 キィンと、頭の奥で、何かを感じた。ピリリとした何かを。

(……また、だ)

 自分の脈とは違う、異なる脈動……いや、これはサナの抱えていた、自分の奥底に封印した災厄の力に他ならない。

 そのたびに、心が一瞬だけ凍りつく。あのとき、カフェで見せたあの、凍り付くような無表情な様子を。

 そして……視界の端が僅かに暗く塗りつぶされる。

「……はぁ……」

 羅那は額を押さえ、深く息を吐く。

 熱があるわけじゃない。

 ただ、確かな体の感覚がズレていくような気配がした。


 と、次の拍動とともに、部屋の空気が一気に冷えた。

「外、か……?」

 思わず起き上がり、カーテンを開き、窓の外を見つめた。

 その奥から、呼ばれた気がしたからだ。


 ――羅那はそれを拒めなかった。


 いつの間にか服を着替え、靴に履き替え、外に出ていこうとする。

 そのいずれかも羅那の意志がそこにはない。

 記憶の断片が抜け落ちている――『誰か』に誘導されているようだった。

 玄関の扉が開く瞬間、世界がゆっくりと揺れた。

 夜の空気はひどく冷たく、息を吐くと白く散った。


 足は勝手に、街外れの小さな森へ向かっていた。

 月は薄曇りに隠れ、森は影だけで形作られている。

 木々が揺れ、その葉音だけが響いているように感じる。


 その先に……黒い水溜りのような闇が、じわりと広がっているのが見えた。

 羅那はそこで、ようやく足を止める。

 闇の縁から、誰かが立ち上がるように、ゆっくりと人影が浮かび上がった。

「……こんばんは、羅那様」

 囁きは甘く柔らかい。その声は女性の声だった。

 だが耳に触れた瞬間に、心を締め付ける冷たさが走った。


 羅那は振り返り、立ち去ろうとした。

 しかし身体が言うことを聞かない。

 足元の影が、羅那をしっかりと固定しているかのように。


 闇から現れたのは――美しい妖艶な女性だった。

 白磁のような肌、夜光を帯びた長い黒紫の髪、深い赤紫の瞳。

 衣のようにまとった黒い影が、風もないのに揺らめく。

 夜風が止み、森のすべてが一瞬だけ息を潜めた中で、彼女はゆっくりと優雅に歩み出る。


 ――ヴェルメリア。


 その名は知らないはずなのに、羅那の胸の奥に直接響いた。

「やっと……やっと、あなた様に触れられる」

 女は手を伸ばした。

 細くしなやかな指が、羅那の頬へ触れようとする。

 触れる前から、肌がひやりと震えた。

「サナの隣で、笑っていましたわね。でも、羅那様……もう、気づいてるはずではありませんか?」

 ヴェルメリアの唇が微かに笑う。

「――あなた様の中に、別の『音』が混じりだしていることを」

 胸の奥にずきりと痛みが走る。

 羅那は思わず胸を押さえた。

「……やめろっ……何を、言って……」

「嘘は、つきませんわ。だって私は――あなた様の『本来の姿』を見ているのですから」

「本来の……姿、だと……?」

 ヴェルメリアは一歩近づき、羅那の顔を覗き込む。

 赤紫の瞳が、羅那の瞳の奥と重なり、何かを引きずり出すように揺らす。

「羅那様、最近……自分でも変だと思っておりませんか?」

 羅那の背筋が凍る。

 カフェの時で見せた『無表情』が、脳裏にちらついた。

「ねえ羅那様。あなたは、もっと――『完全』になれるのです」

 囁きは甘い。

 だが、その奥底には底なしの欲望があった。

「サナは、まだ気づいていないけれど……あなた様はもう、あの子の隣にいるだけの存在ではありませんのよ」

 羅那の呼吸が乱れる。

 足が震え始める。

 影が、まるで抱きしめるように彼女の足元から伸びていく。

「来るな、やめろっ……」

 羅那の掠れた声が漏れる。

 その瞬間、ヴェルメリアがそっと羅那の顎を持ち上げた。

「怖がらないでくださいまし。これは『始まり』にしかすぎませんわ」

 ヴェルメリアの両目、見透かすような赤紫の瞳が、夜の中で妖しく輝く。

「あなた様は、私に呼ばれた。そして――応えてくださった。もう、目を逸らすことはできませんわね……羅那様」

 その言葉を最後に、羅那はそのまま崩れるように気を失い、ヴェルメリアはとても愛おしそうに羅那を抱きとめた。


「ようやく、あなた様にお会いできましたわ。私達を導いてくれる、我が『魔王』様……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ