銀髪になった社長といつもの日常?
そして、羅那が会社に復帰する日を迎えた。
「うっわ……本当に綺麗な銀髪っすね!」
吉岡が目を丸くし、素直な感嘆を漏らす。
「まあ、なんか交通事故に巻き込まれたんでしょ? 本当に大丈夫だったの?」
そう指摘するのは、美咲だ。その言葉に羅那は。
(……ええっ!? 父さん、どこまで情報操作してるんだよ)
羅那は内心でこめかみを押さえながら、表情は穏やかに微笑んだ。
「皆には心配かけちゃったみたいだね。髪色が変わった以外は特に問題はないよ。その、怪我も治ったし。安心して欲しい」
――本当は怪我なんてしていない。
ただ魔力の消耗で倒れただけだが、余計な波紋を立てる必要はないと判断した。
職場の空気は拍子抜けするほど温かかった。同情よりも気遣い、驚きよりも安堵。復帰を素直に喜んでくれる声ばかりで――
(……ありがとう、みんな)
胸の奥で、そっと静かに感謝が滲む。羅那の心の中で……。
だが……ただ一人、真実を知るサナだけは不安を残していた。
「サナ、まだ心配してるの?」
「美咲ちゃん……まあ、いろいろあったから、ね……」
サナの隣で美咲が苦笑いをする。
「まあね……羅那くん、なんていうか、秘密主義だし、なんでもかんでも背負い込むって感じだよね。スパダリはこうでないとって気概も感じるし。私から見たら、背負いすぎってのも感じるんだけどね」
「わ、わかる! 『軽い顔合わせ』とか言ってたのに、普通にフル稼働してるし……」
「長く休んでた分、気になる仕事が多いんでしょ。現に一か月も放置しちゃってたわけだし」
「そ、それはそうなんだけど……」
「まあ、サナが言って聞く相手ではないし、一歩引いたところで支えてあげればいいんじゃない?」
「うん……そうだね……」
美咲の言うこともわかる。支えればいいということも。でも……。
そんなサナの様子に、美咲が首を小さく傾ける。
「他にも心配なことあるの?」
その美咲の指摘に、サナは息を飲み、言葉をのみこんだ。
(……私の中にあった『災厄』を、羅那くんが引き取ったなんて……言えるはずない……)
胸の奥がきゅっと締まる。
守ってほしいわけじゃない。
ただ彼が苦しむ姿を、また見たくないだけなのに。
(言えないのって……こんなに苦しいんだ)
美咲が席を外した瞬間、サナは机の影でひっそりため息をついた。
「サナ? 待っててくれたんだね」
夜も深まる頃。ロビーに降りて来る者達も、もうまばらになっていた。
と、仕事を終えた羅那がロビーに現れる。それだけでなく、彼のことを待っていたサナもいた。
「だって、その……いろいろ心配だし……」
「災厄も消えたのに? もう平和そのものだよ」
軽い調子で笑ってみせる羅那に、サナはむっとした視線を向けた。
「私の災厄、持って行ったこと、まだ覚えてるから」
「まだ気にしてたのか。第七の災厄に比べたら、本当に小さなものだよ」
「それでも! 羅那くんの中に災厄があるって思うと怖いの! あれがまた羅那くんを苦しめたら――んむっ!?」
言葉を途中で、唐突に羅那がサナの唇を塞いだ。
柔らかく短い、けれど確かなキス。
幸い、周囲には誰もいない。
「大丈夫だよ。力を抑えるのは得意だからね……今回も同じだよ。だから、そんな顔をしなくていい」
「……んもう……」
サナは照れ隠しに視線を逸らし、頬を紅く染めていく。
「それよりさ、このあと行きたいカフェがあるんだ。付き合ってくれる?」
「なんか誤魔化してる……」
「はいはい、早く行こう? 美味しいって評判なんだから、ね?」
手をそっと取られ、サナは抵抗する間もなく引き寄せられる。
その温かさに、胸に絡んでいた不安も、少しずつ溶けていくように感じたのだった。




