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ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


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59/60

彼の優しさは私だけのものではなくて

 昼下がりのオフィスは、どこか穏やかな空気に包まれていた。

 午後の業務が一段落し、社員たちが談笑しながら移動する中、サナは書類を抱えて通路を歩いていた。


「ありがとうございます、社長」

「助かりましたー」

 そんな声が、少し先から聞こえてくる。

 視線を上げると、そこには社員たちに囲まれた羅那の姿があった。

 男女混じった輪の中心で、彼は落ち着いた様子で微笑み、いつもの穏やかな口調で応じている。

(……ああ)

 サナは、ほんの一瞬だけ足を止めた。


 以前なら、考えられなかった光景だ。

 人に囲まれることをどこか避けて、必要最低限のやり取りしかしなかった彼が、今は自然にそこにいる。

(そういえば……こういうの、できなかったんだったね……)

 あの時、羅那はサナに告白してくれた。


『化け物って呼ばれて……だから、人からは距離を取るようにしてた』


 そんな言葉を思い出していた。

 今はどうだろう? 力も安定して、もうセイバーなしでもコントロールできるようになっている。

 だからこそ、社員に囲まれても、余裕の笑みが出ている。


 ――それが嬉しい。


 なのに。


 その時だった。

「あっ……!」

 短い声とともに、女性社員の足がもつれる。

 重心を崩し、前につんのめる、その瞬間。

「危ない」

 羅那が、迷いなく一歩踏み出した。

 伸ばされた手が、彼女の手首を掴み、身体を引き寄せ、彼女の転倒を防ぐ。

 ほんの一瞬、距離が近づき、すぐに離れる。

「大丈夫? 怪我はない?」

「あ、はい……すみません、ありがとうございます」

 その一連の動きは、あまりにも自然で、洗練されていた。


 ――ずきり。


 胸が痛く感じた。ううん、痛みはないように感じる。

 ただ……黒い汚いどろどろとしたものが滲んだ、気がした。


「わ、わかってるよ。私の時とは……違うって……」

 ちょっとだけ見えた、女性社員がぽっと頬を染めたのを。

 あのときは、何かが変わった。全てが変わった。

 でも、今のは違う……はず。

「ら、羅那くんは……誰にでも、優しい……から……」

 思わず、壁に隠れてしまった。羅那に見えないように。

 ずるっと、立っていたはずの体が沈んでいく。


(知ってる。誰にでも優しいことは。私にもそれは向けられてたけど……)


『よかった……無事? 怪我はない?』

 そういって、抱き寄せてくれた、歩道橋の上。

 あの時の綺麗な笑顔が……頭から離れない。


 ――始まりだった、あの瞬間。


 それ(・・)とは違うのも、理解してた。

 さっきの親切も、あの時とはたぶん違う……ううん、一緒……だったかも。


「あ……これ、嫉妬、だ……」


 嫉妬している自分に、気づいてしまった。

 巫女として、穢れを遠ざけるべき身なのに。

 こんな感情を抱くなんて、と。

 それを払いのけるように、立ち上がったときに。


「あ、サナ……ここにいたんだ」

 羅那に見つかった。

 見られてなかったよね? さっきの顔。さっきの声……。

「あ、さ、さっきの……独り言、聞いてた?」

「えっ……何か言ってたの?」

 きょとんとする羅那の顔に、サナはホッとした。

 いつも通りの距離。

 いつも通りの声。

 それが、少しだけ、愛おしい。

「……さっき、助けてあげてたよね? 大丈夫だった?」

「ああ。ちょっとつまずいただけみたいだから。大丈夫だよ」


 それだけの会話。

 それ以上、何も言わない。

 サナは、そっと自分の胸に手を当てる。

 鼓動は、もう落ち着いていた。


 ――大丈夫。


 今まで、ちゃんと封じてこられた。

 これからも、きっと。

 羅那が隣にいる。

 それだけで、十分だ。


「サナ。そろそろ、行こっか」

「うん」


 二人並んで、また歩き出す。

 その背後で、誰にも気づかれないほど微かに……。

 サナの影が、ほんの少しだけ、揺れた気がした。



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