可愛いメイド服とメイドカフェにやられて
翌日。うっかり前の会社に行きかけたが、なんとか、サナは羅那の会社にたどり着いた。
「危ない危ない……」
「何が危ないって……?」
「うわあ、美咲ちゃん!?」
突然、後ろから声をかけられて、びくっと驚いて。その先には美咲がいた。
「び、びっくりした……驚かさないでよ、美咲ちゃん……」
「ふふふ、さては、サナ……前の会社に行っちゃったんじゃないの?」
「ちちち、違うわよ! 行きかけただけ!!」
「……行きかけたんだ……やっぱり」
と、そんなやり取りをしていると。
「ぷっ……くくく」
それを偶然見ていた羅那と吉岡が笑いを押し殺していた。
「ちょ、ちょっと……!! 羅那くんっ!!!」
「ごめんごめん。サナが可愛くて、つい……」
「ついで笑わないでよ、もうっ!!」
むーっと怒るサナが可愛くて仕方ない。
「まあまあ……そうだ。君達にこれを着てもらいたくて。吉岡。例のものを」
「吉岡君?」
「はい、社長」
吉岡が差し出してきたのは、2つの紙袋。
「2つ?」
「今日は、美咲とサナに、これを着てもらいたくて。試作のコスチュームなんだ。実際に誰かが着たのを見て、それと着心地を確認してもらいたいんだ。いいかな? その代わり、今日の仕事はこれだけでいいよ」
サナと美咲は顔を見合わせつつ。
「そ、それなら、いっか……」
「ファイル整理よりも面白そうだしね!」
「じゃあ、これがサナので、こっちが美咲のね?」
羅那はさっそく、それぞれにそれぞれの紙袋を手渡した。
「「??????」」
サナと美咲は顔を見合わせ、ハテナを目いっぱい出していた。
「さあ、更衣室で着替えておいで?」
「は、はい……?」
そして、着替えたコスチュームもとい、制服とは…………。
「め、メイド服!?」
「あら、可愛いわね。着心地もいいわね。しかも……サイズがピッタリなのがびっくりだわ……」
美咲がそういうと。
「いや、私もびっくりしたけど……って、言われてみれば、サイズぴったりだ……」
ふわっふわの、可愛らしいメイド服。ところで、このメイド服の制服、いったいどこの制服なのだろうか?? 二人の疑問符が尽きない。
「……!!!」
一瞬、言葉を失う。
頬が熱くなるのを自覚する。髪をかき上げる振りをしつつ、深呼吸をした。
「しゃ、社長……これって」
「……そうだな。これは、想定外だ」
思ったよりも低い声が出てしまったが。
「え、えっと……似合わないかな?」
「似合ってるから、バッチリ!! ヤバいくらいに!!」
悲しげなサナの言葉に思わず、力説してしまい、しまったと思ったが……。
「それならいいよ」
にこっと微笑むメイド服サナに、1クラっとしていた。
その隣では、美咲に言い寄られて、ヤバい吉岡の姿も見えた。思わず羅那は、心の中で吉岡の無事を祈りつつ。
「そ、そういえば、なんで……メイド服? それにサイズぴったりだったんだけど……」
「ああ……そうだったね。それなら良かった。うん、まだ僕の計測眼は健在のようで安心したよ」
「えっ……なにそれ……?」
「そのメイド服は、今度、出店するメイドカフェの衣装にするつもりなんだ」
「それとこれとは別……え、メイドカフェ?」
「試しにやってみろって、まあ、父さんからの課題の一つだね」
ちょっとだけ、サナから視線を外しつつ、落ち着いた口調を維持している。
「あ、また翔さんの無茶ぶり……?」
そんなサナの言葉を、曖昧な笑顔で躱しつつ。
「えっと、羅那くん、それよりも……この服、とっても軽くていいよ。可愛いし」
「そう? その辺はちょっと、こだわったところだったんだ。着心地はどう?」
「すっごく良いよ! 妙にサラサラだし、バッチリ!!」
「内側にシルクを使ったのがよかったかな」
「えええ、シルクって高いんじゃないの!?」
「サナのはシルクだけどね……美咲、そっちの着心地はどう?」
「え? すっごく良いわよ! これ、シルクなの?」
「そっちはシルクのフェイクだね。けど……美咲の口ぶりを聞くと……そっちの方でも問題なさそうだね」
「それじゃあ、美咲のコスでいいっすか?」
「うん、それでよろしく、吉岡」
「了解っすー!!」
羅那の指示を受けて、吉岡はすぐさま、何処かに出かけて行ってしまった。
「で、羅那くん。私達、これからどうする訳? ヨシくんもいなくなっちゃったしーー」
むすっとした様子で美咲が言うと。
「この後はね……僕が君達を送って、実践してもらうよ。実際に働いてもらって、困ることがないか、チェックしてもらう」
「え、実践って……私達、メイドカフェのお仕事したことないよ?」
そうサナが指摘すると。
「大丈夫。軽い作業だけだしね。楽しいバイト研修だって思ってもらえれば。店はこっちで用意したから、ぜひ、楽しんで?」
そして、羅那の車で運ばれたのは、パステルカラーの可愛らしいメイドカフェ屋さん。
「おかえりなさいませ、ご主人様ーー!!」
そこに、一通り仕事を覚えたサナと美咲も加わって、ご主人様もとい……。
「……こ、これは……ヤバいっすね、社長!!」
「…………くっ」
一通り、仕事を終えた羅那と吉岡が、バイトをしているサナ達の回収も兼ねて、店にやってきていた。
吉岡は既にクラクラしているが、羅那は、何とか踏み留まった。
はっきりいって、二人は……可愛い。しかも、なんか、お店の人気スタッフになってる?
「羅那くんたちも来たんだ……えっと、ご主人様、メニューをお選びくださいませ♪」
可愛くウインクするサナに、羅那は直視できない。見たいけど、見たら終わりだ。
「………こほん。その、このオムライスで」
いつになく、動機が激しい。堪えろ、自分。耐えるんだ、自分!!
ちょっとだけ、じんわりと汗が滲むのは、気のせいではないだろう。
「かしこまりました! オムライスですね!! 少々お待ちくださいね♪」
「……あ、ああ」
返事が遅くなったのは、仕方ないことだと思う。
あのメイド服、ヤバい……。デザイナー部はなんてものを作ってくれたんだ。いいぞもっとやれ。いや違う。
変なことを思っているうちに、頼んだメニューがやってきた。
先に吉岡のパフェが届いて……美咲がおまじないをしている。
「あうっ……!!」
吉岡は昇天しそうになっていた。
それを見て、ちょっとだけ、羅那は戦慄する。
「ま、まさか……」
「お、お待たせしましたー! えっと、きゅるきゅる☆オムライス、ですっ。オムライスに書くのは、文字にしますか? それとも、絵にしますか?」
「え、なんでもいいのか? あ……いやその、参ったな……」
しばし、思案して……。
「えっと、お、おまかせでっ!!」
考えられずにサナにお任せした。
「じゃあ、ハートに……こうしますね!」
大きなハートを書いて、その中に『だいすき♡』と書いた。
「……!!!!」
ごくりと息を呑んだ。生きている。自分、まだ生きている。
そんな自分を褒め讃えたくなった。が、そんな彼に追い打ちがやってきた。
「それと……あーんのサービスもできますけど、します?」
「そ、それは結構ですっ!!」
「え、そうなんだ……」
これ以上、何かされたら、マジで気絶しそうである。羅那は良い判断……したのか?
「吉岡、生きているか?」
「な、なんとか……社長、俺達、ここで生き残れるんでしょうか?」
「……敵情視察も兼ねてたんだが……これは……悪くはない。むしろ……やるべきだな。行けるな、吉岡」
「お供しますっ!!」
二人は周りを見ないように、目の前にあるものを必死に食べていた。ちなみに羅那がチョイスしたのは、この街一番のカフェであった。その理由がとてもとても知れたように感じられる。
と、羅那の携帯が鳴る。
「はい、もしもし…………父さん? え……パーティー? やるの?」
その電話で羅那は冷静さを取り戻した。
「あれ、羅那くん。どうかしたの?」
「ああ、サナ。……仕事、終わった? サナに話があるんだ」
「は、話!?」
くすっと笑みを浮かべて、こう告げる。
「お披露目パーティーやるんだって。僕と君の」
「ふええええええっ!!?」
まさか、こんなところで、そんな知らせを聞くとは、驚きである。
そんなこんなで、羅那とサナは、お披露目パーティーの準備を始めるのであった。




