回転寿司後の腹ごなしなバトル
夜の林。湿った空気の中、3体の妖魔が木陰で談笑していた。
「ねえねえ、あそこの店にいる連中、さくっと喰っちゃおうよ!」
「でもよ、さっき強い魔力の気配があったぜ。気づかれたかもな」
「え~、全然見てなかったし~。ばれっこないってば~!」
妖魔たちはニヤリと笑い、視線を街道の先――回転寿司屋へと向けた。
「まあいいや。さくっと喰って、力つけて、魔王様をお迎えしよー!」
「おう、魔王様のためにな!」
「そしたら、魔王様に褒めてもらえるかな~? だったら、頑張っちゃうよ?」
その瞬間、静寂が落ちた。
林の奥から、低い声が響く。
「残念だけど――それは辞めてもらうよ」
眼鏡をかけたスーツ姿の青年が一歩、踏み出す。
羅那だ。その足元の落ち葉が、魔力の風でわずかに浮いた。
「あっ! 強い魔力のお兄さんだー! 食べたら褒めてもらえるかなー!」
無邪気な声。だが、次の瞬間には羅那が、口元に冷ややかな笑みを浮かべていた。
「『魔王様』か……けど、お前達はもう、その魔王様には会えないと思うけどね」
「はあ!? 何言ってんだよ、お前、人間じゃねぇか? 俺が先に――」
飛びかかろうとした妖魔の身体が、突如止まる。
空気に張り巡らされた光の糸――
「エレクトリック・ストリング」
ピンッ――。
弾けた音と同時に、妖魔の胴体が心臓の辺りで真っ二つに切れて、そのまま消滅していった。
「……まずは一体目」
その冷ややかな声に、残る二体が怯んだ。
「え……何、何なの?」
「えええ、もう終わっちゃったの? ばっかじゃない!?」
言葉が終わるより早く――銀光が走る。
木の上から、矢が閃き、もう一体の頭を貫いた。
矢は聖光を帯び、妖魔を灰に変えた。
「大丈夫、羅那くん? あと一体だね」
林の外から、澄んだ女性の声が届く。サナだ。白銀の弓を構えたサナが、静かに息を吐いた。
「腕が上がってきてるね。一撃で仕留めるなんて、流石だよ。その調子でいけば、もっと一緒に戦えるね」
「もう……褒めても何も出てこないからね?」
そこでようやく、羅那は柔らかな笑みを浮かべた。それを見て、残る1体の妖魔が、怯えたように後ずさる。
「お前を倒して、魔王様の元に戻ってやるわっ……!」
羅那はその声に反応し、ゆっくりと妖魔へと近づいていく。
「お前の言う『魔王』とは、どんな奴だ?」
羅那の放つプレッシャーに2人の妖魔達は焦りを見せるものの。
「あ、あんたに言うわけないでしょ!!」
妖魔が跳んだ。爪が風を裂き、羅那の胸を狙う。
だが――。
「隙を見せたのはどっちだ?」
瞬きの間に、羅那の魔剣がぴたりと、妖魔の胸の前で止まっている。
カルディトゥスの双刃が蒼白い光を放ち、妖魔の動きを封じる。
「サナ。残りは、目の前のこいつだけ……だよね?」
「う、うん。あいつで終わりだよ」
羅那が視線を戻す。女妖魔は、震えながらも笑った。
「ふ、ふふ……知ってても、あんたに言うもんですかっ!!」
妖魔の姿が、消えた。羅那の背後に回る――が、すでに遅い。
「俺の目の前で、術を使うつもりか? 無駄だったな」
カルディトゥスの刃が閃き、そのまま妖魔の胸を貫いた。がくりと力なく女妖魔は倒れ、消え去っていく。
青い光が林を照らし、すべてが静寂に包まれる。
かちんと、2本の魔双剣を鞘に納めて、ふうっと羅那は息をついた。
サナが駆け寄り、羅那へと声をかけてきた。
「……はあ。羅那くん、ほんとに容赦ないよね……」
「まあ、相手は妖魔だからね。情けは無用ってやつだよ」
「けど……あの妖魔達、魔王様がどうこうって言ってたね」
「災厄=魔王だったかな。それに、喋る妖魔がまた出てきたこと、父さんにも報告しないと……」
「また、翔さん、頭痛いことになりそうだね」
「ふふ、そうかも。けど、それだけだったから、そんなんでもないと思うよ。……さてと、戦い終わったし、さっさと帰ろうか」
羅那がそうサナに手を差し伸べて、そのまま羅那の車のある駐車場へと戻っていく。
夜風が二人の間を抜けていく。焼け残った木の匂いと、静寂だけが残った。
月影の下、二人の影が並んで、その場から立ち去ったのだった。




