取引打ち切りとサナをスカウトして
三人は、そのまま社用車に乗り込んだ。
「あははは、見ました、社長? あの部長の顔!! 傑作でしたね!!」
「ああ、まさか、あそこでサナが啖呵を切るとは思ってなかったけどね。それよりも、サナ……お疲れ様」
「え、えっと……羅那、くん?」
吉岡と羅那の様子に、サナは追いついてこられない。
「いいタイミングで来れてよかったよ。丁度、プログラムができたから、納品に来たんだけど……ねえ」
隣の吉岡に羅那は声をかける。
「あれ、なんでしょうね? 嫌なもの全部盛り付けたら、あんな感じなんですかね? 久しぶりにムカつく上司ってやつを見ましたよ」
「えっと……もしかして……??」
「そう、助けに来たんだ。納品は二の次だね。少し前に美咲から、今日はヤバそうだからぜひ会社に向かってくださいって連絡が入って、こうして、迎えに来たって訳。それにしても……あの部長、本当にあのシステムプログラム使ってなかったんだね……はぁ……。そりゃ、平行線にもなるはずだよ」
思わずため息を零す羅那は続ける。
「……まあ、取引は即打ち切りかな」
「それでも十分、痛いですよね。あれ、かなり無茶ぶり……してたんですよね?」
吉岡の言葉に、羅那はちょっとイラっとしているようだ。
「人件費とか開発費も酷い値段になってたよ。まあ、あの値段でやってくれるところは、もうないと思うけど」
ふふっと笑う羅那がちょっぴり怖かった。
よほど、酷い仕打ちを受けたようだ。
「と、とにかく!! その、もう関わらないのなら、いいんじゃないかなー?」
サナがそう言うと。
「そうだね。サナがいるから忘れることにするよ」
「え、そっち!?」
思わず、そう呟くサナに吉岡はくすりと笑っていた。
「……というわけで、サナ。仕事先なくなったから、僕の会社に来ない?」
車で移動しながら、羅那がそう切り出してきた。
「社長、さっそくスカウトですか?」
吉岡の言葉に、羅那はそうだよと、即答した。
「彼女はかなり優秀だからね。あのマニュアル、君も見ただろ?」
「あれ、凄かったですよ! あれ見ながらなら、いろんなこと、全部できそうだと思いましたもん!!」
「え、そ、そうですか? 美咲ちゃんにも手伝ってもらって、作ったやつなんだけど」
「ああ、なるほどね。美咲も優秀だから。納得だよ。ああいうの、サナにまた作ってもらうのもいいかもね」
信号で止まりつつ、羅那はにこやかにそう告げる。
「えっ……でも、いいの? なんだか、羅那くんにばっかりおんぶにだっこって感じで、申し訳なくって……」
「それなら、研修員として入る?」
「研修員?」
羅那は続ける。
「研修期間は、お試し期間だし、サナもそれなら、気が楽でしょ? どうかな? あ、福利厚生は他の社員と一緒だよ」
「えええ、なんか、悪い気がするけど……ホントにいいの?」
「だって、サナ。無職になっちゃうよ?」
その羅那の指摘にうぐっとなってしまう。
「それに、美咲もうちに来てるんだ。彼女、かなり優秀だよ」
「…………ええええっ!? な、なんでっ!?」
「何でって、あれだけの有能な社員を放っておくなんて出来ないよ。あの税理士達を欺くぐらい、あの会社の裏帳簿書いてたんだよ。そりゃ、スカウトしないとって思うよ? それに、サナも来てくれるっていうなら、一緒の方が安心だよね?」
「そ、そこまで……って、ちょっと待って、裏帳簿!?」
サナはどうやら、美咲の仕事内容を把握していなかったようだ。
「えええ、あの会社、そんなヤバいことしてたんですか!? こっわーーー」
吉岡がぶるぶるっと震えて見せると。
「だから、言ったでしょ? あの会社はブラックだって」
羅那が言う。
「それに僕があのシステム組んだんだけど…………吉岡が担当しなくてよかったよ。マジであれ、辛いから」
「うわあ……社長が辛いっていうやつ、見たいようで怖いですーー」
「あれ、吉岡君もプログラム作れるの?」
「あ、携帯のアプリなら、バッチリですよ!!」
「そういうこと。今は営業の勉強しながら、他のプログラムの勉強もさせてるところだよ。それで、僕があの会社に行くっていったら」
「面白そうだったから、ついて来ちゃいました!!」
だそうだ。
「えっと、羅那くんの会社の人達、楽しそうだね?」
「まあね……僕が選んだ少数精鋭だからね」
「みんなは動物園だって、言いますね!」
「ふふ、そうかも……」
吉岡の言葉に、羅那は笑う。
「というわけで……」
ききっと、車を駐車場に止めて、サナに向き直る。
「ようこそ、サナ。僕のライジング・コーポに」
「大歓迎っすよっ!!」
羅那と吉岡に歓迎されて、ゆっくりと羅那の会社へとサナは足を踏み入れたのだった。研修員として。




