相変わらずな日常とその裏で
相変わらず、サナは黙々と渡される仕事をこなしていた。
「はい、柊さん」
「こっちもお願いね!」
「この発注、終わった?」
次々とやってくる仕事。それでも負けじとサナは終わらせていく。
女性社員からの嫌がらせは収まりつつあるが、仕事の割り振りは相変わらず、である。
気づけば、周囲の席は一つ、また一つと空いていく。
定時を過ぎ、フロアに残っているのは、サナと――美咲だけだった。
「……ねえ、サナ」
美咲が、心配そうに声をかける。
「今日はもう、ここまでにしたら? 全部、今日中に終わらせることないって」
「大丈夫だよ。これくらい、いつものことだし」
笑ってそう言うサナに、美咲は何も言えなくなる。
代わりに、ぎゅっと唇を噛んだ。
(……やっぱり、限界だよ)
その夜、美咲は一通のメッセージを送った。
宛先は――羅那。
『今日も、無茶な量でした。本人は平気って言ってますけど……正直、見てられません』
すると、すぐに既読がついた。
届いている。
その後にメッセージも送られて来た。
『いつもありがとう。けど、厳しいようならこっちに来てもいい』
そのメッセージを見て、美咲は小さくため息を零す。
恐らく、そのときはもうすぐ……。
次の日も相変わらず、サナはキャパオーバー気味の仕事をこなしていた。
美咲はため息をついて、携帯を操作する。それを上司に咎められたが、そんなことはもうどうでもいい。
「サナ……私、そろそろ帰るね」
その美咲の言葉を聞いて、今日も残業していたことをようやく自覚した。
「あ、美咲ちゃん、気を付けてね」
「うん、最近は送り迎えしてくれる人がいるからね。サナもさっさと帰るんだよ」
美咲の気遣ってくれる言葉が嬉しくて。
「そういえば……最近、羅那くんに会ってないかも」
そのことに気づいて、はぁ……とため息が零れてしまう。
「もう帰ろう……」
切りの良い所で止めて、サナも立ち上がる。少しだけ、だるい気がする。
エントランスを抜けて、ロビーから玄関を通り、会社の外へと向かうと。
「お疲れ様」
白いランボルギーニに背を預けて、羅那がそこに立っていた。
「ら、羅那くん……迎えにきてくれたんだ」
羅那の柔らかな声に、サナは少しだけ肩の力を抜く。
「うん。今日は、遅くまで働いてるみたいだったし……それに久しぶりに会いたかった」
そっと、羅那がサナの頬に触れる。そんな触れ合いもそこそこに、そのまま車の助手席へと促す。
助手席に座り、シートベルトを締める。
車が走り出してから、羅那が何気ない調子で言った。
「……今日は、どうだった?」
「大丈夫だよ。いつものことだし」
即答だった。
「そうか。なら、毎日迎えに行こうかな」
「えっ……!! い、いいよ。羅那くんも忙しいでしょ? 表のお仕事も、それに……裏のお仕事も」
「そっちはそうでもないんだ。今はね……」
サナを家まで送って、羅那は実家に戻って来る。
「ただいまー」
いつものように適当な声をかける。
「おう、帰ったか。で、サナはどうだった?」
そこに翔がやってきた。
「いつも通りだね」
「お前のことだから、さっさと連れ去ってくるかと思ってたんだがな」
にっと笑いながら、翔は羅那を見つめる。
「だが……分かってるだろうな? この状況はうちとしては好ましくない」
「分かってるよ。けど……もう少し様子を見たいんだ。ヤバくなったら攫ってくるつもりだけどね」
「まだそこまでは……か。いつ巫女が狙われるかわからないんだがな」
「そのときも、僕がなんとかするよ。それに、衛星からのトレースはずっと続けてる」
「それならいい。負担にならん程度に頼むぞ」
「ふふ、それ、僕に言う?」
互いに笑みを深めて、二人は少し遅い夕食を取るのであった。




