魔導書の想い出とディー
きっと、こんな懐かしい夢を見たのは、父からのメールの所為だと思う。
ディーが実家に来たという、何気ない報告のメールの。
「いよいよ、魔導書を得る日を迎えたわね、羅那!」
「ああ、そうだね、ディー」
相変わらず、人との距離を取り続けていた。
けれど、一人だけ例外がいた。
サンディ・グレイシア。
どこか、サナに似ていたから、少しだけ心を許してしまった、ただ一人の例外。
それがディーだった。
「魔法を使うのに魔導書が必要なんて、ナンセンスよね。魔法自体は魔導書がなくても唱えられるのに」
「魔導書がないと、魔法が安定しない。暴走してしまう……だからこそ、魔導士は、魔導書を必要とする……そう学んでるよ。僕の父もそうだった」
羅那の父は、祖父の魔力と祖母の魔力を全て受け継いだと聞いた。
それは、自分にも当てはまる。
両親が魔導士である限り、その子はより強い魔力を持って生まれるのだ。
魔導書は、魔導士にとって力を制御するための『枷』であり、『支え』でもある。
それがなければ、羅那の魔力は簡単に暴走する。
だからこそ、魔導士にとって、魔導書は不可欠。
そして、その魔導書の力が強ければ強いほど、数多くの魔法を使うことができるし、強い力を発揮することができる。
このヨーロッパにある魔法学校では、数多くの魔導書が作られている。
作り方は知らないが、その中でも最高位として崇められるほど強い魔導書が一冊だけある。
――魔導書・マギ。
父はその複製書、マギ・プロトタイプを得ていた。
これでも、異例の事態であった。
プロトタイプでも、選ばれるのは、非常にまれな事。
ましてや、マギに選ばれた者は、未だ誰一人存在しない。
だからこそ、羅那は油断していた。
「では、ラナ・アサギ。魔導書の書庫に向かい、あなたの魔導書を得て来てください」
「わかりました」
「羅那、気を付けて」
心配するディーに、手を振って安心させるように微笑みかけてから、その書庫に入っていった。
地下にある魔導書の書庫。そこに世界の魔導書が全て置かれている。
魔導士がそこに入れば、自分の魔導書がどれなのかは、本能でわかるそうだ。
「まあ、父さんと同じ魔導書が得られれば、それでいいんだけどね……」
父から既に、その在り処は聞いていた。
書庫の最奥に、それはあるという。
実際、入ったばかりの書架には、なにも感じなかった。
奥の方から呼ばれている気がする。
「あ、これか……けど、プロトタイプって感じしないな。どちらかというと……オリジナル? まさかな」
求められるがままに自分の手を翳す。
後はこう唱えればいい。
「我が声に応えよ、我は魔導士……魔導書を求める者なり。我が名は、浅樹羅那……その名を刻み、我が盾となり剣となり、魔術を与えよ!」
どくんと物凄い魔力が注ぎ込まれる。そして、数多くの呪文も秘術も全て。
「えっ……!?」
禁じられた魔術が流れてきたことで気づいた。
これは、プロトタイプではない。
これはきっと……。
『我は魔導書・マギ。我を行使する者として汝を認めん。マイマスター浅樹羅那』
しまったと思った時には遅かった。
とてつもない量の魔力と魔術とが、羅那を襲い、結果……書庫で初めて気絶するという事態を招いたのだった。
「羅那、すごい、凄いわっ!!」
目覚めた時、すぐに抱き着いてきたのは、ディーだった。
「あのマギに認められるなんて、あなた何をしたの? 凄いじゃない!! 私は青の書を得たけれど……」
「元素の書……特に水と氷の書を得たのは、凄いことだよ」
思わず、自分はディーを慰める様な言葉を選んで、褒め讃える。
ディーは家族以外で、初めて自分を褒めてくれたから。
「あなたにそういわれると、なんだか誇らしく感じる……でも、羅那。あなたの方が凄いわ」
数々の実技をあっという間にパスしていた。それを見てディーが指摘してくれた。
「まあ、発現させるだけなら、誰だってできるよ」
「それでもよ! あなたのお父様も凄かったけど……あなたの方がもっと凄いわ。そうでしょう?」
「そんなに褒められても、何も出ないからね?」
「それでもいい。あなたの側にいられるのなら」
その言葉に、羅那はあまり気にせずにいた。
まさか、その言葉を真に受けた父が、ディーを自分の婚約者にするとは、思っていなかった。
目が覚めて、懐かしさに胸がいっぱいになる。
「ディーか。今は忙しいけれど、会いに行くのも悪くはないかもしれない」
くすりと笑って、いつものように会社へと向かう。
しかし、直ぐにいかなかったこと、そして、婚約解消をしなかったことを、羅那は後悔することになる。
今はまだ、なにも気づいてはいなかったが……。




