光と影の輪舞曲(ロンド)
茜色から空が闇色へと染まる頃。
羅那はまた、黒い戦闘服とミラーシェードを付けて、この地に降り立っていた。
『若、そっちはどうですか?』
「ああ、終わったよ。確かあと1体だったな」
今回現れた妖魔の数は4体。そのうち、3体は既に羅那が退治している。
あと1体。どこにいる?
「はぁ……感知するのはあまり得意じゃないんだがな……」
羅那の場合、微量な魔力まで感知してしまうので、その精度が落ちてしまう。それだけではなく、その魔力量が正確に測れない。
場所は分かっても、それが目的の対象なのか、知ることができない。
というのも羅那の場合、人より魔力量が多く、その力を抑え込む、必要な時に放出するというのを重きに置いていたため、細かい調整が必要な魔法は全て後回しにしていた。
「それでも試して……」
と、そのときだった。狛犬部隊から連絡が届いたのは。
『若、見つけました!! D512に向かってます!!』
「了解。D512だな……ん? D512だと?」
確かその付近には、あの歩道橋があった。
サナと初めて会った、あの歩道橋が。
思わず、腕に付けていた時計を見た。一瞬だけ。それを見て、羅那は息を呑む。
「術式展開! 閃光跳躍アクセラレイヤー!!」
サナが帰宅する時間に合致する。もしかしたら、鉢合わせするかもしれない。
そんなことになれば、サナだってどうなるかわからない。
(間に合えっ!!)
魔力を余計に使って、スピードを上げながら、羅那は急いで歩道橋へと向かったのだった。
「ふんふんふーん♪」
羅那に聞きたいことはあった。
でも、聞けないのなら、仕事に邁進するだけ。
それに今日は、なんだか気分がいい。
会社でも一目置かれるようになったからだろうか。
「明日もこの調子で頑張るぞー!!」
サナはやる気でいっぱいだった。これから帰って、のんびりと過ごしたら、明日に備えて早めに寝るつもりだ。
「今日は羅那くんから、メッセージもらえると嬉しいな」
そう呟いて、歩道橋の近くに差し掛かった、そのときだった。
――ちゃり、ちゃり……。
爪を引っ掻く音が聞こえた。
どきんと何か、嫌なものを感じた。
すぐ近く。思わず、ゆっくりとその気配の方を見ると。
黒い影。それも熊みたいな大きさの、狼がそこにいた。
「ひうっ……」
思わず、息を呑んだ。
下手したら、殺される。
この……『妖魔』に。
思わず、目を瞑って、鞄を盾にした。
せめて、そんなに痛くありませんように……!!
――キイイイイン!!
狼の爪が何かによって遮られた。
「早く、逃げろ……!!」
低い声。
でも、その声はどこかで聞いたような……?
思わず、顔を上げる。
そこには、黒い服を着た青年が狼を抑え込んでいた。
(助けて、くれた……?)
「早くっ……!!」
もう一度、彼は告げる。
「は、はいっ!!」
救われたサナは、彼の言う通り、その場を後にする。
そんな彼の背が、狼よりも小さいはずなのにとても頼もしく見えて。
サナにはわかっていた。
彼が……羅那だということに。
「どうして、羅那くんが助けてくれたの? ううん、それも嬉しいけどなにより……」
――私、どうして、アレが『妖魔』だって、知ってたの?
わからない。
わからないことが多い。
でも今は、ちょっとだけ、嬉しい。
最近会えなかった、羅那に……会えたから。
サナが去った後、羅那はいつものように派手な魔法でもって、一気に妖魔を消滅させた。
「はぁ……あ、危なかった……」
サナが立ち去った道を思わず見てしまう。
もうサナは見えないのに。
けれど、護れた。今回も危ない所だったが護れた。
それが嬉しい。
「いつもより、低い声で言ったし、こんな格好だから……バレてないはず!」
羅那は知らない。
しっかりサナに、正体がバレていることに。
こうして、サナと退魔師としての羅那は、この夜に出会ったのだった。




