美しい姫は華やかなステージで輝く
会場では、様々な女子社員が着飾っていた。
中には、おいおいと突っ込みたくなるほどの者もいたが、おおむね、普段よりも気合が入っていて、美しくなっていた。
「はあ……こんなんで勝てるのかしらねぇ」
サナの同僚、美咲は、ごく普通なドレスを纏って、パーティーのビュッフェを楽しんでいる。
「ん、これ美味しい……後でサナにも教えないと……それにしても、サナ遅いわね?」
「きっと怖気ついたのよ」
「ねえ……」
美咲の隣にその美貌を誇る、由紀と晴美が微笑んでいる。
「そうなのかなーただ、準備にかかってるだけかと思うんだけど……」
美味しいローストビーフを味わいながら、美咲は興味なさそうに見つめていた。
もうすぐ、パーティーのミスコンが始まってしまう。
と、そのときだった。
会場の入り口付近が、ちょっと騒がしくなってきたのは。気のせいだろうか。
「遅くなってごめん。連れてきたよ」
鳳凰のブローチを付けた羅那と、もう一人。
「えっ……」
「うそ……」
「ま、まさか……!?」
会場にざわめきが広がった。
かつんとヒールの音を立てて現れたのは、美しい女性。
いや、羅那が着飾ったサナだ。
とんでもない店で用意した、気品あふれる艶やかなドレス。
またとんでもない美容室でセットした、間違いないメイク。
それが、サナを本当に姫に見せていた。
いや、これが本来のサナの姿と言うべきか。
「お、遅くなりました……」
ぺこりと丁寧に頭を下げれば、男性社員達がざわめいて。
そんな様子を見ていた羅那は楽しげな笑みを浮かべていた。
もっとも、彼女に触れる男がいれば、羅那は容赦しないつもりであったが。
「見違えるほど綺麗になったわね、サナ?」
にまにまと嬉しそうに美咲が声をかけた。
「美咲ちゃんも綺麗にすればよかったのに……もったいないよ……」
「私はいいの。あんなにがっついていないし。あ、ここのローストビーフ美味しかったわよ? 後で食べたら?」
その言葉に、サナの紫色の瞳が輝いた。
「うん、食べるわ!」
その笑顔を見て、他の男達がノックアウトされているのに、サナは気づいていない。
「サナ……その恰好で、あんまり笑顔を振りまかないように」
羅那がすかさず、そう告げるものの。
「え? いつも通りなだけなのだけど……」
サナは気づいていないようだ。羅那はふうと、息を吐いて。
「笑う時は、僕だけに向けて。いいね?」
「えええっ!?」
その二人のやり取りをにまにまと、美咲は生暖かく見守っていたのだった。
ちなみに、ミスコンは……サナの優勝だったことも記しておく。
サナが大きなトロフィーと副賞を宅急便で送り届ける手続きを行っている間に、もう一人の客がそこに姿を現した。
「……えっ、まさか、なんで?」
その姿を見て、羅那の表情が強張る。そして、そそくさと隠れるように会場を後にした。
「な、なんで……なんで、父さんがここに……来てるんだ!?」
ダメだ、今はサナを見せてはいけない。しかも、あんなに着飾ったサナを見せるのは……いけない。
そのまま駆け出し、サナの元へと向かっていったのだった。
「おや、息子がここに来ていると聞いてきたのだが……いないようだな?」
そう告げて、羅那の父、翔は、その青い瞳を細めた。その瞳を細める仕草は、羅那にそっくりであった。
「こ、これはこれは、浅樹会長。どうしてここに?」
「息子がこのパーティーに参加していると聞いたのでね。ちょっと話をしたかったのだが、もういないようだ」
もう少しここにいても? と呟いて、ふと、ステージを見る。そこには特別ミスコンの文字が張られていた。
「ほう、ミスコン……面白いことをしていたようだな?」
この会社の社長に翔は尋ねた。
「ええ、パーティーなのだから盛り上がったらどうかと……た、確かその息子さんが提案してくれたと聞いていますよ」
「ほう……うちの息子が…………で、優勝したのは誰なのかな?」
「うちの社員の、柊サナですね。まさか、あれほど化けるとは……」
「柊、サナ…………親友の忘れ形見の名前が、なぜ、ここで……?」
不思議に思いながらも、翔は興味深そうに、また、その瞳を細めたのだった。
「えっと、その……羅那くん?」
サナをそのままタクシーに乗せて、羅那は続ける。
「今日はそのまま、帰って。ちょっと面倒な客が来てね……サナを見せたくない」
「見せたくないって……」
「後で話すよ。お願いします」
そういって、羅那はサナを乗せたタクシーを送り出す。少し離れたところで、見慣れたリムジンが見えた。それを見て、羅那は、はあっ……と、またため息をつく。
「バレないといいんだけど……何とか誤魔化すか……」
緊張した面持ちで、会場へと戻っていき……。
「おお、羅那。どこに行ってたんだ?」
「ちょっと急な仕事が入ったもので……それよりも、どうして、あなたがここにいるんですか?」
少々、棘のある声で、羅那は父に抗議する。
「お前がそのブローチをつけて、このパーティーに参加してると聞いてね」
「それだけですか? 僕はただ、取引先のパーティーに参加してただけですよ」
「ふうん……そうなのか?」
「それだけです。それにあなたも忙しいのではありませんか? 早く帰った方が良いのでは?」
その羅那の言葉に、父である翔は立ち上がる。
「まあいい。邪魔したな……そろそろ仕事に戻るとしよう。お前も忙しいはずだが、大丈夫か?」
「問題ありません」
その言葉を最後に、翔はあっという間に、パーティー会場を後にしたのだった。
「…………何とか、バレなかった……よな?」
見送った後、羅那は思わず、そう呟いたのだった。




