マイ・フィア・レディ?
そして、当日を迎えた。
指定された駅前に付くと、そこには愛車と共に立つ羅那の姿があった。
「え、えっと……羅那くん?」
「また早く来てくれたんだね。嬉しいよ」
「だ、だって、今日はパーティー当日だし……早めに来た方がいいかなって思って」
羅那が指摘した通り、サナは待ち合わせ時間よりも少し早めにここに来ていた。
「まだ時間に余裕があるけど、その分、念入りにできるか。うん、行こう」
そのままエスコートされて、助手席に座って……あれよあれよと、見知らぬブティックの近くで止まった。
店に入ると、そこは……一般人が入るのは難しい高級ブティックだった。
どちらかというと、気品高い、それも品質の良いものばかりが並べられているような。
「えっと……」
「まずはドレスを用意しようと思ってね。持っていないよね?」
「も、持ってないけど……こ、これは……高いんじゃ……」
慌てふためくサナに羅那はにこやかに告げる。
「サナは出さなくていいよ。これは僕の我儘から始まったことだし。ただ、僕の選んだドレスを着ていればいいだけ」
そういう羅那の胸には、あのペンダントと似た形の鳳凰のブローチをつけていた。
「お待ちしておりました、浅樹様」
そんな彼の元に、すぐさま店員がやってきた。もしかしたら、店長かもしれない。
「彼女に例のドレスを着せてみてくれないか? サイズを確かめてもらいたい」
「かしこまりました。さあ、お嬢様もこちらに……」
「ふええええ…………!!!」
店員に導かれて試着室へ入り、手際よくドレスを着せられた。白いシックなドレスで、胸元が広く作られているが、その上に薄いショールをかけられ、露出度はそれほど感じられなくなっている。スカート部分はふわりと、ひだのあるフレアスカートになっており、足元は程よい高さのヒールを持った細身の白のハイヒールを履かされていた。
「物凄くお似合いですよ……」
店員がほうっとため息交じりにそう言っていた。
「そ、そうですか……?」
ちなみに、今は、事前に言われていたので、鳳凰のペンダントは外してきている。首元が寂しく感じるのは気のせいだろうか?
店員に導かれるように、更衣室から店舗の方へと戻って来た。
「!!」
サナのドレス姿を見て、羅那は驚きつつも、とても満足げな笑みを返してきた。
「とても似合ってるよ。綺麗だ、サナ」
「えっと、その……ホントに似合ってます?」
「ああ……パーフェクト。マーヴェラスだよ」
「そ、それなら、いいんだけど……ちょっと首元が寂しいなって……」
そのサナの言葉に、羅那はくすっと笑って、ポケットから細長いケースを取り出した。
中に入っていたのは、シルバーのシンプルなデザインのネックレス。目立たぬようにではあるが、いくつか宝石もはめ込まれているようだ。青と金、そして、紫色に輝く宝石が美しい。それを、慣れた所作で、サナの首につけてやる。
「この宝石の色って……」
「僕の瞳の色とサナの瞳の色をモチーフにしたんだ。それにヘッドの裏を見てみて?」
「裏?」
宝石の付けられた飾り部分の裏には、なにやらイニシャルが刻まれている。
「僕のイニシャルと、君のイニシャル。それを刻んでる。いいでしょ?」
なにやら、勝ち誇ったような顔をしているが、サナはそれを聞いて、顔を真っ赤にさせていた。
「えっと、この格好で……行っちゃうの?」
「ここでの買い物は終わりだね。もう会計は済ませてあるから、安心して?」
「い、いつの間に……!!」
ふふっと笑い、羅那はサナを連れて、次の店へと向かった。
一体、次はどこへ向かわされるのだろうか。
「あっらぁーー!! 久しぶりね、羅那ちゃん~~!! それにあらあらまあまあ、素敵な原石ちゃんなこと。ふーん、羅那ちゃんの好みって、こういう子だったのねぇ~~☆」
次に到着したのは、カリスマ美容師がいる……美容室と聞いていた。
まさか、こんな……癖の強いカリスマ美容師だとは思わなかった。
「えっと、やっぱり……やらなきゃ……だめ?」
「もちろん。今日は完璧にするよ。サナは本当は美人さんなんだって、彼らに付きつけないとね」
「わ、私……その、美人さん……じゃないよぅ……」
その言葉に羅那はため息を零した。
「……自覚してないのが一番、立ち悪いなホント。サナ、君が思うよりも君は綺麗だよ。かなーり君が隠れるように地味にしているから気づかれないけれど、僕のような目ざとい者が見れば、君が美人だということはすぐにわかる」
それでも不安がいっぱいなサナに、羅那はくくっと笑って。
「大丈夫だよ。こういう外見だけど、彼女は本当に凄い腕をしてるから。安心して?」
「え、えええっ……!!」
「さあ、こちらよ。原石ちゃん。とっても美人にしてあげる。羅那ちゃん好みの素敵な美人さんにね☆」
オカマな美容師のウインクを受けて、サナはあはははと、引きつった笑いを見せたのだった。
そして、1時間半後。
「はあい、原石ちゃん。いかがかしらぁ~~!!」
「えっとその……別人みたいです……」
上品なナチュラルメイクは、サナの美貌を引き立てていた。少々まとまりなかった、長い髪は、オカマ美容師の凄腕により、豊かに綺麗に上品に整えられていた。上から下まで、完璧である。
びっくりするくらいに。
「もう入っていいかな……?」
ひょこっと、耐え切れず入ってきた羅那が、思わず息を呑む。
「どお~、羅那ちゃん。凄いでしょ?」
「あ、ああ……本当に……綺麗だ……」
羅那はサナの美しさに見惚れているようだ。
「うううう、なんだか、恥ずかしいよ」
「恥ずかしくないよ」
そっと、サナの顎を持ち上げ、羅那は優しげにその青い瞳を細める。
「本当に完璧だ……僕が思っていた以上に……本当に……」
思わず、サナの頬に触れようとして……。
「駄目よ、羅那ちゃんっ!! 完璧な美人さんをご所望なんでしょ? もう少し我慢なさいな!!」
カリスマ美容師に止められた。それがホッとしたような残念なような。
「そうだったね……今日は完璧な姫にするんだったよ」
思わず、笑みがこぼれる。誤魔化すための笑みだったが。
「そういえば、あなたは正装しないの? あれ着たら、原石ちゃんも惚れ直すんじゃない?」
「今日は取引先のパーティーだし、これで充分だよ」
言われてみれば、今日は少し控えめな色のスーツを着ているように見える。気を配っているのだろうか。いやそれよりも……。
「羅那くん。正装って……なに?」
「それはねぇ~~」
「ああああ、サナ!! もう行くよっ!!」
ニヤニヤするオカマ美容師に手を振られながら、羅那とサナは、完璧な状態で、パーティー会場へと向かったのであった。




