表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/62

夕方の公園とサナのおまじない

 会社の最寄り駅から少し歩いた場所にある、小さな公園。

 ブランコと滑り台、それに砂場があるだけの、どこにでもある場所だ。夕方のこの時間帯は、子供たちももう帰った後らしく、人影はほとんどなかった。


 サナはベンチに腰掛け、スマートフォンを覗きながら、ちらりと時計を見る。

「……やっぱり、遅くなるよね」

 そう呟いた直後だった。

 小さな足音が、砂利を踏みしめる音と一緒に近づいてくる。振り向くと、ランドセルを背負った男の子が、勢いよく公園に入ってきた。だが、数歩も進まないうちに、つまずいたように前のめりになり――。

「あっ」

 鈍い音と共に、男の子は地面に倒れ込んだ。

「だ、大丈夫!?」

 慌てて立ち上がり、サナは駆け寄る。男の子は膝を押さえ、唇をきゅっと噛みしめていた。血は出ていないが、擦りむいたのか、赤くなっている。

「……いたい」

 泣きそうな声に、胸がきゅっとなる。

 周囲を見回すが、公園には他に誰もいない。道路も、今は静かだった。


 ――少しだけなら。


 そう、自分に言い聞かせる。

 今はもういない父と母の顔が、一瞬よぎったが、今ここで放っておく方が、サナには出来なかった。


「大丈夫だよ。ちょっと、痛くないおまじない、かけようか」

 しゃがみ込み、男の子の膝にそっと手を伸ばす。触れた瞬間、サナの指先から、ほのかな温もりが滲み出した。

 僅かに光が漏れたのだが、夕焼け色に隠れて、気づかれることはなさそうだ。

 優しくて、暖かい温もりが、その傷の熱と腫れを抑え込み。

 気づけば、擦りむいた痕はもう、そこには何もなかった。ほんのりと感じた暖かさだけが残っている。

「……あれ?」

 男の子が目を瞬かせる。

「いたく、ない?」

「うん。もう大丈夫」

 サナはにこっと笑って、手を離した。

 男の子は恐る恐る立ち上がり、膝を曲げ伸ばしする。次第に、その顔がぱっと明るくなった。

「ほんとだ! すごい! お姉ちゃん、魔法使いさん?」

「ふふ、内緒だよ?」

 サナが人差し指を唇に当てると、男の子はこくんと頷いた。

「ありがとう、おねえちゃん!」

 そう言って、元気よく公園を飛び出していく。その背中を見送りながら、サナはほっと息をついた。


 ――使っちゃった。


 けれど、不思議と後悔はなかった。



 その時だった。

「……サナ?」

 聞き慣れた声に、肩がびくりと跳ねる。

 振り返ると、公園の入り口に、黒いコートを羽織った羅那が立っていた。仕事帰りらしく、少し疲れたような、それでいていつも通りの穏やかな表情だ。

「羅那くん。お疲れさま」

「さっき……あの男の子と話してなかった?」

 視線が、男の子が走り去った方向へ向く。

「うん、ちょっとね」

 サナは曖昧に笑う。

「私の目の前で転んじゃってたから、痛くないおまじない、かけてたの」

「……そう」

 羅那はそれ以上、何も聞かなかった。ただ、サナの様子を一瞬だけ、じっと見つめる。

「もう、大丈夫そうだった?」

「うん。元気に帰ったよ」

「それなら、よかった」

 それだけ言って、羅那はサナの隣に腰を下ろした。


 夕暮れの空が、少しずつ茜色に染まっていく。

 並んで座る二人の間に、穏やかな沈黙が落ちた。


 羅那は気づいていない。

 ――少なくとも、サナはそう思っていた。

 けれど、胸の奥に残る、微かな温もりは、まだ消えていなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ