重くのしかかるその記憶は
ここまでは、とてもとても、順調だった。
いや、順調すぎたのかもしれない。
だからこそ、油断してたんだと思う。
父から貰った新しい魔導具と、それに真新しいグローブに野球ボール。
初めて、友達と呼べる彼から、キャッチボールをやろうと誘われていたから、嬉しくて仕方なかった。
――なのに。
目の前の光景が忘れられない。
どうして、こうなったのか……あまり覚えていない。
大丈夫、大丈夫って思ってた。のに……。
「……颯士」
目の前の大切な……親友になれるかもしれない友達だった。
――暴走。
幼い頃はよく、起こしていた。
幼い自分には過ぎた力。それは大人よりも強かった……らしい。
だからこそ、父に制御しきれない分を魔導具で抑えてもらっていた。
新しくしたばかりだったのに……。
楽しくキャッチボールしていたのに。
力が抑えられずに暴走してしまって、颯士を傷つけた。
近くに落ちている真新しいグローブには、自分の血か、それとも颯士の血か……どちらにせよ、赤く染まっていた。
区別なんて、できるはずもなかった。
「颯士……大丈夫?」
もう一度、声をかけた。もう回復魔法を覚えていたから、すぐにかけてあげようと思っていた。
が、それは……できなかった。
「ば、化け物ッ!!」
「!!!!」
幼い子供の心を抉るのに、充分だった。
自分では制御しきれない力。
過ぎた力。
両親は喜んでくれたが、その度に暴走して、誰かを傷つけるのが嫌だった。
そして、このことが……自分の心に深く、抜けない棘のように突き刺さっていて……。
――朝を迎えた。
泣いてはいないことに、ホッとした。
何度も見ていたから、慣れてたんだと思う。
「化け物、か……忘れかけてたんだけど」
思い出してしまった。まだ、手が震えている。
また、この力で誰かを傷つけてしまうのだろうか?
――嫌だ。
特に、サナは。彼女は絶対に傷つけたくない。
思わず、痛む胸を抑えた。
傷つけたくないけど、それ以上に……恐ろしい。
あのときの、颯士のように。
「嫌われたく、ない……」
普段なら、入ってくるはずのメイド達が今は控えてくれているようだ。
なら……自分で着替えよう。
そこで気づいた。
ここは、いつも使っているタワーマンションではなく。
「呼ばれて実家に……帰ってたんだっけ」
小さくため息をついて。
いつものスーツに着替えると、ベッドの横の寝台に乗っている鳳凰のブローチを、胸に付けた。
それが、少しだけ重く感じた。




