無人の駐車場に潜む影と
夜のタワーマンションの最上階。
そこで羅那は、スーツから黒い戦闘服へと着替えていた。
黒の革製のパンツに、ジャケット。
そして、ベルトで止めるゴツめなブーツ。
その腰には、ポーチと二本のショートソードが付けられていた。更に剣には鍔の部分に宝石のような物も嵌められている。
最後に目元を覆うミラーシェードを付ければ、準備万端だ。
椅子の上には、鳳凰のブローチを付けたスーツが残されている。
「鳳凰のブローチ、か……」
流石にそれを付けて戦いに赴くことはしない。
それは、重要な意味を持つ、大事な『証』でもあったから。
そう、先日渡した、あの鳳凰のペンダントのように。
「さて、行くか。確か……場所は無人の駐車場だったな」
耳にイヤホンを付けて、スイッチを入れる。
『若、聞こえますか! 準備が出来たら、すぐに駐車場に来てください』
「了解、すぐ向かう」
がらりと窓を開けて、ベランダへと向かう。
「車で行こうかとも思ったけど……こっちの方が早いか。術式展開……」
ぶんと、足元に幾重にも重なる魔法陣が展開する。
「……見えた。あそこか」
そのまま、ふわりと浮き上がると。
「閃光跳躍アクセラレイヤー!!」
ぎゅんと光のラインを描くように、羅那は目的地へとベランダから飛び立ったのだった。
かつんかつんと、ワザと足音を鳴らしながら、羅那は駐車場へと足を踏み入れる。
既に一度、現地で軽く、後援を務める狛犬部隊とは打ち合わせを済ませている。
「確か……ここに狼の妖魔が複数いると聞いてるけど」
周囲を警戒しつつ、奥へと進んだ、そのときだった。
『ウガアアアアアア!!』
二体の、熊ぐらいの大きさの狼が羅那に迫る。
「術式展開」
ぶんと、向かってくる狼へと向けて、両手を翳す。
「グラビティ」
『ギャウン!!』
一瞬で狼を抑えつけた。
「クリスタルランサー展開」
ぶんという音と共に現れたのは、ひし形のような形をした、白く輝く槍のようなクリスタル。そのうちの二つが狼へと向かって。
「撃ち貫け、ライトニング・レイザー!!」
白い光の閃光。それが二体の狼のコアを一瞬で貫き、滅ぼしてみせた。
「まだいるな?」
かちゃかちゃと、爪を鳴らして、今度は6体。
「これほどの数を揃えるなんて、珍しい」
キィンと腰から二本の剣を引き抜き、そして、駆けだす。
「我が剣に力を宿せ……エレメントスラッシュ!!」
両手に持った剣の刃に稲妻を纏わせ、そのまま、一気に6体を切り裂いていく。バリバリと轟音を鳴らしながら。
「これで……終わりじゃないか」
次に出てきたのは、3体。けれど、これで終わりなようだ。
かつんと二本の剣の刃を合わせて、羅那は容赦なく詠唱する。
「立ちふさがる影を切り裂け……デュアル・レゾナンス!!」
引き裂くように遠距離から放つのは、無属性ではあるものの、威力を極限まで高めた、斬撃と衝撃波を合わせたもの。
それが3体へと放たれ、その頭部を見事に切り裂いて見せる。
『若、やりましたよ! これで全部です』
「そう、よかった。すぐに終わって」
ぼろぼろと崩れ去る巨大な狼達が、全て消え去るのを見届けると。
羅那はその端末で、『任務完了』と入力して報告する。
剣を鞘に納めて、ぐっと、羅那はその体を伸ばした。
「さてっと、帰ったら何食べようかな」
そう呟く羅那の元に、屈強な男達が駆け寄って来る。
「後援、助かったよ。ありがとう、狛犬部隊のみんな」
「流石は若ですね! あんなに強い敵を短時間で消し去るなんて……やっぱ、会長の力を受け継ぐ最強の魔法剣士ですね」
「まだまだだよ。けど……いつかは、父さんよりも強くなりたいとは思うよ」
そう笑みを浮かべる羅那の顔に、少年のような笑顔を見せたのだった。
――剣を振るうのは、自分だけでいい。
守ると決めたものは、刃の届かない場所に置く。
それが、退魔師としての、浅樹羅那の流儀だった。




