偽物と本物が織りなす輪舞曲
「お前さえ来なければ……サナは僕の物だったのにっ!!」
叫びながら、いくつもの影の槍を生み出し、羅那へと振らせていく。
「術式展開……クリスタルランサー展開!!」
術式を展開させながら、羅那は後退しつつ、その槍を全て躱して見せた。
「凍てつけ、コールドコフィン!!」
羅那がそう詠唱すると。
「凍てつけ、コールドコフィン!!」
負けじと偽物も同じ呪文を唱え、互いに体を凍てつかせる。
「なるほど……俺の真似をしようっていうのか」
「どうだ、驚いただろ? お前の術は僕も使えるんだ」
「嘘だな」
静かに羅那は否定する。
「俺の呪文を全て再現することは出来ない。いや……サナの深層を見て、知った魔術しか使えない。そうだろう?」
その羅那の指摘に偽物は嫌そうに口元を歪めた。
「うるさい、黙れよ!! どうせ、ここでお前は死ぬんだっ!!」
偽物も羅那と同じ形の影の剣を生み出し、それでもって、斬りつけてくる。
――がきんと、刃がぶつかる小気味いい音が響いた。
「一つ、お前に聞きたいことがある」
「僕に聞いて何になるってんだよ!!」
「サナのことが好きなのか?」
その羅那の言葉に偽物は、息を呑む。すぐには答えられなかったが。
「ああ、好きだよ!! 愛してる!! どこの誰よりも、一番はサナだ!!」
二人は言いあいながらも、激しく魔術を放っていく。どちらも、かすり傷程度で済ませていた。
「お、おい……なんだよ、アレ!! ……あいつ、あんなこと出来るのか……!?」
オペラグラスで見ていた蒼士が驚きの声を上げる。
「うーん、まだ本気じゃないけどね。凄い時は、人工衛星からばびーーっとすごいレーザー放つし」
「な、なにそれ……」
思わず、側にいた舞華が突っ込んだ。
「とにかく、サナのお相手は凄いってことね。でも……なら何で、こんな風に二人で踊っているのかしら?」
そんな音紗の言葉に答えられる者はいない。
「さあ……けど、これも見守ってたら、わかるんじゃないのか?」
タブレットで周囲の状況を観測しながら、玲玖はそう告げて。
「なんとなくは感じるよ。羅那くんが何かをしようとしてるって。だから……とにかく、私は羅那くんを応援してるよ!!」
両手の拳をぎゅっとしながら、サナは熱い応援な視線を本物羅那へと送ったのだった。
偽物だというのに、驚くほど自分に似ていた。
……いや、似ているどころか、自分そのものと言っていい。
そして、サナを見ていれば分かる。
僕がいない間、恐らくサナは彼に依存していたはずだ。 だからこそ、他の者達よりは安定している。
正直、あそこにいる四人も危なかった。
音紗が引っ張っていたから、何とかここまで堪えられた。
そこにサナが来て、かなり安定したのだと思う。
「少し……閉じ込めすぎたかな?」
「何がだよ!!」
ふっと口元が緩む。
「サナが可愛くて、仕方ないって話だよ」
「……それは同意する」
その偽物の言葉に、羅那はくくっと声を上げて笑った。
「なんだよ!! お前、さっきからそればっかりだな!! 僕を消すんじゃなかったんじゃないのか!!」
「最初はそのつもりだったよ。けど、お前とこうして、刃を交えていると……まあ、悪くないかなって」
「なっ……なんだよ、それっ!!」
キンっと、影の刃を強く跳ね返して、羅那は少し距離を取ったが……その刃の一つを鞘に納めた。
「お前、死にたいのか!!」
「わかってるはずだよ。君は俺を倒せない。何故なら、俺の方が上だから」
「くっ……」
「だから、君に提案だ。消えたくはないだろう? なら――俺の元に来ないか?」
鞘を納めた、自由になった手を差し伸べた。
「……えっ?」
「いや、違うな。『俺と一つ』にならないか? そんな闇を払ってさ」
「そ、そんなこと……出来るのかよ。お前にっ!!」
「できる」
羅那は言い切った。
「それに、闇を払えないなら、それを代わりに払うこともできる。どうする?」
その言葉に偽物は、その手を止めた。
「そうすれば、お前は俺の中で……サナと永遠になれるぞ」
くくっと笑みを浮かべて。
「……なら、やってみろよ! この僕の闇を払えるならさ!!」
「その言葉を待っていた」
ふわりと二本の魔双剣を宙に浮かべ、そして、詠唱する。
羅那の背後に、キィイインという音と共に、巨大な文字盤が現れ、そして。
「刻め、歪め、選び直せ。俺の時間は、俺が決める。――時針解放クロノス・ブレイク」
ギュウウウンと、逆回転していった。
「何を……する……?」
ふっと笑みを浮かべて羅那は告げる。
「逆回転して、引きはがす。いいだろ?」
羅那の言葉通り、時間が巻き戻るかのように。
ばりんばりんと、音を立てながら、偽物にまとわりついていた闇が次々と剥がされていく。
急に力が奪われて偽物は、がくんと膝をつく。
もう、偽物は先ほどの化け物ではなく、出会った時と同じ、学生服を着た小さな姿になっていた。
「僕を取り込んで、後悔したって知らないからな……」
「悪態ついてるつもりか」
と、二人はそっとその手を合わせる。二人の体の周りに暖かな光が漏れていく。
「……ホント、本物には敵わないや」
「偽物に負けたら、本物じゃないだろ? それに、俺は特別だからな」
そして、ふわりと一つになるように、偽物が半透明になると、そのまま、羅那の体に入るかのように消えてゆく。
「これで……一緒だな」
ひとつになった瞬間、金色の方の瞳が、一瞬、虹色に煌めいて。
ここは羅那の意識が届かない、深層のさらに奥。
「よう兄弟。まさか、お前も『自我を無くす』なんて、思わなかったよ」
「……ここ、何処?」
羅那の中に入った偽物は、まさか、先客がいるのに驚いていた。
「羅那の中の奥の奥、だな。ここまで来たら、もう俺達の声はアイツには届かない。で、お前の名前は?」
「……ないよ。誰もくれなかったし」
「あー、羅那も面倒くさがってたしな……仕方ない。俺が名付けてやろうか。うん、そうだ。お前は今日から『ダーク』だ!」
「……まあいいけど」
偽物……いや、ダークと名付けられた彼は少しだけ、嬉しそうに笑みを見せた。
「で、君は誰なの?」
ダークが尋ねると、羅那に面影が似ている青年は、にかっと笑って。
「俺はな……」
その言葉を聞いて、ダークは目を丸くさせたのだった。




