招かれたのはシャンデリアのあるオペラ劇場
「ねえ……羅那くん。ここって……もしかして……」
サナがそう口に出すと。
「うん、『夢の中』だよ。で、君達はサナの夢の中に囚われている。君達が希望するなら、すぐにでも現実の世界に戻せるけど……君達はそれを望まないみたいだね」
そうこの世界の真実を、羅那は告げた。
「まだ、最後の七不思議が残ってるわ!」
デジカメを手に舞華が言う。
「それに、僕達は七不思議を追ってここまで来たんです。せめて最後の七不思議を見るまでは、戻れません」
眼鏡を抑えながら、玲玖もそういう。
「ああ、そうだよ!! 俺達だって頑張ってここまで来たんだ! ハイそうですかって帰れねぇよ!」
ちょっぴり嫉妬交じりの言葉で蒼士が言う。
「私達にも最期を見届ける権利があると思います。お願いします。ここに居させてください」
一歩前に進み、音紗がぺこりと頭を下げる。
羅那は、ふうっと息を吐くと。
「それじゃあ、今後は僕とサナの指示に従うこと。従えないのなら、すぐに強制的に戻すからそのつもりでね」
「羅那くん、ありがとうっ!!」
と、羅那の胸にサナが飛び込んでくる。
「ちょ……もう。けど……なんだか僕らを呼んでるみたいだ。その前に僕も戦闘準備しとくか」
そっとサナを引き離すと、ぱちんと指を鳴らして、いつもの黒の戦闘服に変えた。その腰にはあの魔双剣が備わっている。目元は眼鏡ではなく、ミラーシェードを付けて。
「なんか、最強の羅那くんって感じだよ!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
と、とたんに、世界がぐるんと回転したと思ったら、暗転。
そして、サナ達と羅那とで、場所を強制的に変えされた。
――ビーーーっと、開幕を告げる舞台の音。
気づけば、そこはオペラ劇場だった。
「ら、羅那くん!?」
「動かないで。そこに結界を張ったから。サナ、それを維持してくれる? ……俺は俺で、こっちを対処するから」
サナ達がいる場所。そこはセレブ達が見下ろすロイヤル席だった。ご丁寧にオペラグラスなんかも置かれている。
「……これ、嫌味かな?」
思わず舞華がジト目で言う。
「せっかくだから、借りましょうか」
物怖じしない音紗がありがたく、そのオペラグラスを持って、舞台を見下ろす。
――カッという音と共に、ステージにライトが注がれる。
そこには、戦闘服に身を包んだ本物羅那と。
同じ背丈の学生服を着た偽りの羅那がいた。
「お前のことは何て呼べばいい? 偽物でいいか? それともイミテーション?」
「黙れ……そんなことを言えるのも今の内だ! 時計台にいる者達を取り込めば、僕だって最強になれるっ!!」
「無理だな」
その偽物の言葉に羅那は、静かに指摘する。
「俺が結界で守っているからな。出来ないだろ?」
「……っ!! くそっ!! なんで、そんなことするんだよっ!!」
そう二人が喋っている間に、ゆっくりと巨大なシャンデリアが天井から降りてきた。ぐらんぐらんと揺れている。
それと同時に、この場も何だか、ゆっくり揺れているようにも感じるのだが。
「僕達のいる場所は、揺れてないんですね?」
「たぶん、羅那くんの結界のお陰なんだと思う。ちょっと特殊みたいだし……どうやってるのかな? 私も力を込めて維持してるけど……」
そういって、玲玖の言葉にサナは答える。
「サナにもわからないことがあるのかよ?」
蒼士がそっと、サナの隣に寄り添う。
「実はね、私、最近、この世界に入ったばっかりなんだよね。んんーアークさんとか、カリスちゃんとかとお話しできたらわかったんだろうけど……ピアス忘れちゃったからな……ちょっと惜しいことしちゃったかな。けど、この舞台を見てれば何かわかるかも」
そのサナの言葉に、観客席の皆は舞台へと視線を移した。
(観客席に気配を感じる……誰もいないが、何かはいるんだな……)
羅那は静かに、偽物の様子を窺う。何かあれば、すぐに攻撃を重ねる準備はしている。
けれど……何故か躊躇われるのは、自分によく似ているから、だろうか。
それとも……。
天井のシャンデリアは、優雅に揺れている。この戦いを見届けるかのように、ぐらりぐらりと揺れながら。
「そ、それなら……下僕達よ。僕の声に従えっ!!」
「?」
どくんと、何かが波打つ。激しく蠢いた。いや『集まった』。
「あああああああっ!!!!」
最初に、赤い影が吸い込まれた。
次に、大きな鏡の影が吸い込まれた。
まだだ。
大きなグランドピアノ、それよりも大きいプール。そして、階段。
最後に大きな図書館が吸い込まれていく。
偽物の体が一瞬、大きく膨らんで、元の大きさに戻った。
いや違う。
ばさりと影で出来た翼が生まれた。
いくつもの影が赤と黒の影が、踊るように偽物を覆う。
偽物が嗤う。
「これで……僕は最強だ」
口元を覆いながら、偽物は余裕の笑みを見せてきた。
「なるほど。今までの異形をその身に宿らせたか」
かしゃんと慣れた手つきで魔双剣を引き抜き、羅那はどこか余裕のある所作で身構えて見せたのだった。




